福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

アートハンカチ「Square world」〈ダブディビ・デザイン〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

クリスマスプレゼントやお年賀にも喜ばれそうな、ユニークなデザインと肌触りの良さが特徴のハンカチーフ。日本全国の障害のある人のアート作品を探し出し、ハンカチとして商品化する〈ダブディビ・デザイン〉のものづくりや思いをご紹介します。

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身近な日用品にアートの彩りを

目にするたびに胸がときめくような大胆な色! 構図! 水彩画のためか爽やかな印象を漂わせるこのハンカチのモチーフは「あじさい」。初夏の少し湿り気のある涼やかな空気が、このイラストからも放たれているような気がしてきます。

さて、こちらのモチーフは……空? 海? 新幹線にも見えるかも?

実は「ひこうき」。機体を真横から見た図か、それとも機内の窓から覗いた翼か。あなたにはどう見えますか?

さまざまなモチーフやカラーで展開されたアートハンカチ・シリーズ「Square world」。それらのイラストは、日本全国の障害のある人によって描かれたもの。ハンカチのデザインとして生きそうな作品を〈株式会社ダブディビ・デザイン〉が探して選りすぐり、原画そのまま、もしくは作品の魅力がより引き立つようなアレンジを加え、商品化しています。

つるんとした光沢と、しっとり滑らかな高級感のある肌ざわり。ちょっと特別な日にバッグやポケットに忍ばせたいイッピンです。

とある出会いから生まれた、障害のある人とのものづくり

この商品を手がける〈ダブディビ・デザイン〉は、千葉県と滋賀県を拠点に、福祉とビジネスをデザインでつなぐデザイン会社です。

ものづくりの原点は、代表の柊伸江(ひいらぎ のぶえ)さんが芸術大学のファッションデザイン学科で助手や研究員として働いていた際、地域の絵画教室に通う障害のある子どもが描いたイラストに出会ったこと。

「かわいくて、楽しくて、おもしろい!」と感じたその作品を、大学の学生たちと一緒にデザインアレンジし、タペストリー、バッグ、Tシャツなどにしていく活動を開始。やがて大手百貨店やアパレルブランドからも注目され、商品化にもつなげてきました。

それらの活動のなかで、就労支援施設の工賃問題をはじめ、さまざまな課題を目の当たりにしてきた柊さんは、大学退職を機に〈ダブディビ・デザイン〉を立ち上げます。

障害のある人のアート展に足を運んだり、福祉事業所へ声をかけたりしながら、さまざまな作家と作品に出会い、その原画をもとにした服、バッグ、傘などを制作してきました。

2018年には老舗ハンカチメーカー〈ブルーミング中西〉から声がかかり、商品企画に携わることに。老若男女問わず誰もが使い、小さく折りたため、自分用にも贈り物にも最適なハンカチーフの魅力や可能性を再発見した柊さん。これまでに30以上のアート作品が商品化され、つながりのある福祉施設は30以上にのぼるといいます。

デザイナーの視点だからからこそ生まれる1枚

1枚1枚広げるたび、イラストの魅力や絶妙な構図にすっかり引き込まれてしまう〈ダブディビ・デザイン〉のハンカチーフ。これらの原画はすべて、膨大な数の作品を目にしてきた柊さんによるセレクトです。

その作品がハンカチデザインとして魅力的かどうかが判断基準。普段からアート活動に積極的な人が時間をかけて描いた作品だけでなく、普段は絵を描かない人がたまたま筆を走らせた作品も含まれます。それはときに「本当にこの作品でいいんですか……?」と施設職員から何度も確認されることもあるのだとか。

デザイナーとしての視点で選ぶことが〈ダブディビ・デザイン〉ならではのユニークな商品を生み出しています。

ハンカチになることを前提に描かれていない作品を正方形にレイアウトし、折りたたんだときの見え方にも意識を向けながら、背景色、余白、枠、線などアレンジを加えるのも柊さんのお仕事。こちらの「かお」という商品の原画はわら半紙に描かれていたのだとか。背景色を鮮やかなピンクにすることで、よりハンカチとしての魅力が引き立っています

そして、原画の魅力を損なわないようにプリントし、製造を担うのは、1879年に創業し140余年ハンカチづくりに邁進してきた〈ブルーミング中西〉。

例えば「りんご」と題されたこちらのハンカチーフ、筆の運びや絵の具の盛り上がりもそのままプリントで再現されています。もはやひとつの絵画作品のよう……!

大胆な筆づかいで描かれた「りんご」。この色味や質感をプリントで表現するのは困難をきわめたそう

飾っても絵になるハンカチーフには、〈ダブディビ・デザイン〉の作品への向き合い方やデザイン力、〈ブルーミング中西〉のものづくりの技術や品質が、一切の妥協なく詰まっています。

そこには、丁寧につくられたお気に入りの服、雑貨、家具などが長く大切に扱われるように、これらを手にした人に長く愛用されるハンカチであってほしいという願いが込められています。

「流行に惑わされず、何年後に見ても新鮮さがある」

障害のある人たちのさまざまな表現活動を目にしてきた柊さん。それらのアートの魅力は「流行に惑わされず、何年後に見ても新鮮さがあり、かわいくて、笑顔になれること」だといいます。

そのような作品を高品質のハンカチとして再現し、障害のある人のアートの魅力をより身近に感じてもらいたいというのが〈ダブディビ・デザイン〉の思いです。

普段の暮らしに彩りを添え、ふと目に留まったときにウキウキするような喜びを生み出すハンカチーフ。自分用にはもちろん、クリスマスのプレゼントや、新年のお年賀などにも活用しそうです。