福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【画像】3本並んだジュースのボトル。左からミックスジュース、はみかんジュース、ポメロジュース

こここなイッピン

天水さんのジュース〈天水福祉事業会〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

有明海のあたたかな潮風をうけ、良質な水資源のなかで育った柑橘100%ジュース。ひとつひとつ手作業で皮をむき、丁寧に搾られたジュースは、みかんをギュッと凝縮したような濃厚でリッチな味わいのイッピンです。

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搾る前の手間ひまから生まれる、濃厚100%ストレートジュース

2021年にパッケージをリニューアル。生活介護施設〈天水生命学園〉に入所するメンバーが日々の活動として行なっている貼り絵が採用されました

いつものみかんジュースを飲むつもりでグラスを口に運んだなら、その濃密な甘さにきっと驚くことでしょう。

トクトクトクと重たい音をたてて注がれる様子に、濃厚な味わいを想像した人がいるかもしれません。でも、そのイメージを凌駕していくスイートさ。果肉がとろとろとろんと口の中でたゆたって……これはみかんジュースの新次元かも!?

熊本県玉名市の南西部、みかんの一大産地として知られる天水町(てんすいまち)。ここで収穫された葉みかんの、外皮ひとつひとつを手作業でむき、搾ったまんまのジュースが、この「はみかんジュース」です。

ちなみに「葉みかん」とは、お正月の鏡餅に乗せたり、お供えなどに用いられる、3~4センチほどの、小さな、小さな、みかんのこと。

これを手でむくのだから、本当に大変です。グラス一杯に何個の葉みかんが使われていることか……。でも「はみかんジュース」の味わいは、この手間ひまがあってこそ。皮がついたまま搾っては、こうはいかないのです。

栽培、皮むき、ラベル貼り、得意な仕事で関わるジュースづくり

今回のイッピンを手掛けているのは、熊本県玉名市にある〈天水福祉事業会〉。1953年に保育園を開設して以降、子ども、障害のある人、高齢者に向けた福祉事業をさまざまに展開してきた社会福祉法人です。

「はみかんジュース」づくりは、同法人の就労支援施設〈第二天水学園〉に所属する障害のあるメンバーの仕事として行なわれています。みかんの栽培、収穫、選果、皮むき、ラベル貼り、包装と、その仕事内容はさまざま。各メンバーのできること、自身の得意なことで作業に関わっています。

商品は「はみかんジュース」だけではありません。弓削瓢柑(ユゲヒョウカン)と呼ばれる大きくて細長い柑橘でつくる「ポメロジュース」、温州とスイートスプリングという2品種からなる「ミックスジュース」を展開。地元では「天水さんのジュース」として親しまれています。

いずれも施設内の果樹園で栽培した果実のみを使い、大きさも、皮の厚みもさまざまな柑橘を手でむき、工場で搾汁しています。

工場からの要望で始まった作業が、思いがけない結果に!

「農福連携」をテーマとする〈天水福祉事業会〉では、創設当初から米や野菜づくりなど、農業への取り組みを大切にしてきました。

柑橘栽培も40年以上前から行なわれている主要産業。主に生食用みかんとして出荷していますが、売れ残りや規格外品を棄てずに活用しようと、ジュース加工に取り組み始めたのが2014年。

搾汁工場に相談したところ、弓削瓢柑やスイートスプリングなど、外皮が厚くてかたい柑橘はそのまま搾ることができないため、皮をむいた状態で納品してほしい、という工場からの要望を受け入れることになりました。

すべての柑橘の皮をメンバーやスタッフ総出でむき、果肉部分だけを搾汁したジュースのその味は、果実のスッキリとした味わいが際立つ、思いがけないおいしさに仕上がってきました。

なかでも、糖度14~15度という甘さを誇るも、その小ぶりさと種の多さで生食が敬遠されてきた葉みかんからは、従来のみかんジュースとは一線を画した濃厚なジュースが完成。試飲会をするたびに大勢のファンを獲得する人気商品となりました。

一般的なみかんジュースに感じるえぐみをこのジュースに感じないのは、外皮と一緒に搾汁しないから

また、施設内で「ポメロ」と呼んでいた弓削瓢柑をジュースにすると、甘・酸・苦の調和がとれた和のグレープフルーツジュースともいうべき味わいに。そのまま飲めば、爽やかなテイストと余韻が心地よく、白ワインや甘酒などと混ぜてもおいしいと、ファンからさまざまな飲み方の報告が寄せられるのだとか。

軽い酸味とやわらかい甘みがバランスよく、もっともみかんジュースらしい味わいがする「ミックスジュース」は、子どもに大人気。

そんな「天水さんのジュース」のおいしさは、やはりメンバーの力があってこそ。大量生産では叶わないこの手間ひまが、濃厚でリッチな味わいをつくりあげているのです。

そのような施設の理念やものづくりに共感する雑貨店やカフェから、ジュースの展示販売依頼が舞い込むようになった〈天水福祉事業会〉。それらの機会や出会いを大切にしながら、ジュースづくりの背景、施設やメンバーのこと、そして天水町という地域の魅力を県内外に発信しています。

右の「ポメロジュース」は、熊本市内のバーからカクテル用ジュースとして引き合いが。ドレッシングの材料など料理との相性もいいと愛用する料理家もいるのだとか。左のフレッシュ感たっぷりの「ミックスジュース」は、なんといってもそのままゴクゴク飲むのが一番おいしい!

さまざまな垣根を越え、共生し、つないでいく、地域の拠り所

敷地内に、保育・障害・高齢と、多分野の施設が壁も柵もなく隣りあって建てられている〈天水福祉事業会〉。子どもも、障害のある人も、高齢者も、日常的に顔を合わせ、挨拶をし、催事などを一緒に楽しむ動線が設けられているのが、同施設の大きな特徴です。

例えば、保育園の中には『つなぐ研究所』という総合相談所が設けられ、児童・障害・高齢の相談窓口の一本化を目指しています。

また、就労支援事業の一環で行なう米づくりでは、田植えや稲刈りといった作業を高齢者や子どもも一緒に行なうことも。皆で農業の大変さを分かち合い、先人の知恵を共有し、収穫したものを皆でいただく。そんな日本古来の伝統や文化を継承し、つないでいくことも、同施設の理念だといいます。

さらには耕作放棄地の問題に取り組んだり、敷地内に祀られている「若宮天子宮」の神事やお祭りなどを通じて、地域住民との交流を活発に行い、町全体の強いつながりを育んできました。

〈天水福祉事業会〉が大切にしている言葉に「共生」と「つなぐ」があります。年齢、性別、障害の有無といった垣根を越え、誰もが一緒になってモノゴトを行い、 日々のなかで交わり、つながること。そのような思いを基軸に、福祉を柱とした事業を展開しながら、地方創生の一翼を先駆的に担い、地域の拠り所になることを目指しています。

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オリジナルのギフトボックスもオプションで対応しているので、贈り物にもおすすめです

ところで、「天水さんのジュース」は年間2000本程しか製造できないため、しばらく売り切れが続いていましたが、1月以降、順を追って搾りたてのみかんジュースが再販されます。さらに、これまでの3種類に加え「うんしゅうみかんジュース」が仲間入り!

それぞれ個性際立つジュースを飲み比べて、お気に入りの一本を見つけてみては?