福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

コムギコシリーズ〈アトリエ福花〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

「フッカー」と呼ばれる〈アトリエ福花〉で働く人々の得意をかけ合わせてつくられる「コムギコシリーズ」や、その時々の状況やメンバーによって変化していく〈アトリエ福花〉の柔軟な制作プロセスやアイデアをご紹介。

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得意×得意のチームワークで完成させる、“小麦粉袋”のアップサイクル・プロダクト

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東京都渋谷区の極西「笹塚」というまちで、子どもも安心して食べられる良質素材のパンや焼き菓子を手がける就労継続支援A型事業所(注)〈渋谷まる福〉(母体:NPO法人 ホープワールドワイド・ジャパン)。日々使う小麦粉はなかなかの量で、同時に出る“小麦粉袋”もなかなかの枚数です。

そんな小麦粉袋をアップサイクルしたアイテムを制作するのが、〈渋谷まる福〉の2階に設置され、母体を同じくする〈アトリエ福花〉。「ヌウ・ツクル・ツナグ」をテーマに、ミシンを使ったものづくり、手芸、アート活動などを行う就労継続支援B型事業所です。

注)障害や難病などにより現時点で一般就労が困難な人を対象とした、一般就労への移行に向けた支援やサポートを行う“雇用型”の事業所。

毎日捨てられていく小麦粉袋を見て、「アトリエ福花で使えるかも⁉」と閃いたのは統括マネージャーの石塚浩子さん。スタッフとメンバーのアイデア、着眼点、感性、技が合わされば、小麦粉袋もこんなにすてきなイッピンに

今回は「コムギコシリーズ」とネーミングされたイッピンをご紹介。独特な色調で描かれた反復模様、デフォルメされたモチーフ、アルファベットらしきもの、ポンポンとスタンプされたドット。大胆かつエネルギッシュなペイントがなんとも印象的!

ペイントの上からはニスが塗られ、バッグの強度も補完。ペットボトルなどの多少重たいモノが入っても、ある程度は大丈夫。数十キロという小麦粉の重さに耐えうる袋はそう簡単には破れません。

筆やスポンジに絵の具をとり、紙に打ちつけて描く「ポンポン」柄のワインバッグ。ニスを塗った小麦粉袋の表面は、パリパリとした張りのある質感

フッカーのチームワークが生む「コムギコシリーズ」

「コムギコシリーズ」のペイントを担当するのは、同じ柄を繰り返し描くのが好きで、「パターン・メーカー」の異名を持つアビィさん。スタッフのサポートのもと4色程カラーを選び、スピーディーかつダイナミックに、図形や文字などを描いていきます。

その前後の作業においては、フッカー(メンバーやスタッフなど、アトリエ福花で働くすべての人の愛称)たちが各々の得意なことで携わり、作業を分担しながらチームワークで進めていきます。

1階のパン工房からせっせと小麦粉袋を運び出す人、袋を解体する人、内側の残粉を丁寧に拭きとる人、アイロンでプレスする人。そうして広げられた大きなキャンバスにアビィさんが中心となって絵を描き、「コムギコの生地」ができあがります。

その生地にニスを塗り、裁断し、丁寧に折って、ミシンで縫製。ハトメという金具やタグ、パッケージの帯をつけるなど、各工程をさまざまなフッカーが担い、「コムギコシリーズ」が完成。

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バッグ、ミニポーチ、ワインバッグのほか、和綴じノート、しおり、ブックカバー、カードケースなどが展開されている「コムギコシリーズ」。和綴じノートの糸には工事現場などで使われる蛍光色ワイヤーが用いられるなど、細部にユニークさやこだわりが宿ります

メンバーの“歩調”を合わせ、バランスをとり、変化していく

2016年、アート活動や手芸といった自主生産品づくりを行うB型事業所として開設された〈アトリエ福花〉。「コムギコシリーズ」のほか、スタート当時から活動を下支えしてきた「ミシン布コラージュ」が、〈アトリエ福花〉のものづくりの二本柱となっています。

「ミシン布コラージュ」とは、細かくカットした布片をメンバーが自由に並べ、縦横無尽にミシンを走らせた生地をベースにしたプロダクト。ミシンを初めて扱うメンバーの練習として、また縫製が苦手な人でも参加しやすいものづくりとして生まれました。この布をベースとしたエプロン、コースター、さまざまなグッズが制作されています(写真提供:アトリエ福花)

それらの制作のなかでは、メンバーたちが心地よく作業でき、やりがいを覚えるような、スタッフ側のさまざまな工夫とサポートが設けられています。

例えば、作業速度は人によってさまざま。スピード感をもってどんどん進めていくメンバーもいれば、ゆっくりと時間をかけたいメンバーもいます。

「メンバーたちの歩調を合わせながらバランスをとっていくことも必要だと思っていて。バッグの紐を編む、値札をつけるなど、なるべく『仕事をとっておく』ことも大事にしています」(統括マネージャー・石塚浩子さん)

和綴じノートは、罫線のない厚手の白紙ノート。メモ書きはもちろん、スクラップブック、お絵描き帳などにもおすすめ。オリジナルのしおりがセットに

また、さまざまなメンバーがいるなかでは、誰かと自分を比較してしまうことは間々あること。過去にはこんな出来事もあったといいます。

「ミシン布コラージュは誰でも参加しやすい作業として始めたんですが、イメージや思いを形にするのが得意な人の作品を見て『私はうまくできない』と自信を失う人もいて。けれども、きれいにつくられたものだけが“いい商品・作品”ではないんですよね。無造作であっても、その作品ならではの味わいがある。その辺りの作業バランスをとるのは難しくもあり、工夫のしがいもあります」

作業を積み重ねて得意を広げてきたメンバーには、その得意をさらに生かすものづくりにシフトしてもらうことも。「コムギコシリーズ」「ミシン布コラージュ」以外のオリジナル作品など、メンバーの名を冠したものづくりも積極的に行われています。

「来年は〈アトリエ福花〉を立ち上げて10年目。振り返ってみれば、その時々のフッカーに合わせて、モノも、作業プロセスも、流動的に変化してきました。私たちのものづくりには『こういったものをつくるべき』といった確固たるものはなくて。年月、ものごと、メンバーさんによっていろんなことが変わるのが〈アトリエ福花〉の特徴といえるかもしれません」

変化を受け入れることへの動じなさ、寛容さ。石塚さんが発する言葉には、そのような力が宿っているように感じます。

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この春、〈アトリエ福花〉に出会えるイベント情報

さて、2025年春、東京都内各所に〈アトリエ福花〉が出没します! 4月16日(水)~4月22日(火)には、〈アトリエ福花〉が開設2年目から参加してきたシブヤフォントのPOP UPイベント「みんなのスタイル」が新宿高島屋にてオープン。

そして、5月17日(土)は、東急プラザ原宿・ハラカド内にあるシブヤフォントラボにて、フッカーによるイラスト実演販売「おやつの時間」が開催されます。詳細は〈アトリエ福花〉のSNSをご覧ください。

今回のイッピン「コムギコシリーズ」に加え、〈アトリエ福花〉で制作されているユニークなアイテムを手に取ってみたい方は、上記イベントのほか、笹塚にある施設でも常時展示販売されています。〈渋谷まる福〉のパンや焼き菓子とあわせて、ぜひチェックしてみてください。