福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

ノートブック&紙ふぶき〈メジロック〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

ロックや音楽フェスなどをイメージしたブランド〈メジロック〉。つくる人も、使う人も、「ワクワク」「ウキウキ」するようなユーモラスな商品を生み出しています。「問題」とされる行動も、発想を変えれば魅力につながる。それこそ“メジロックらしさ”だという同ブランドが手掛けたふたつのイッピンとは?

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「困りごと」も、その人の「魅力」に変える。表現活動のなかで生まれた、ユーモラスなアイデアグッズ

ちょっぴり目つきの悪い鳥たちがこちらをじーっと見つめるので、思わず手にしたノートブック。表紙のクラフト感。その線の迷いのなさや、じわじわと笑いを誘うイラストの秀逸さ。ペン先がスルスルと心地よく進みそうな厚めの用紙。「こういうシーンで使うのはどうか」と、使いみちをあれこれ考えたくなります

それにしても、まるでミシン目を切り離したかのような側面のギザギザ。そして、このクリーム色の厚い用紙……なんだか、既視感あり。

東京都・目白の〈豊島区立目白生活実習所・目白福祉作業所〉が立ち上げたブランド〈メジロック〉。こちらで制作されているノートブックの用紙は、なんと自治体から送付されてくる税金などを支払う「納付書」の余白部分!

豊島区役所から譲り受けた余白紙を、施設のメンバーがミシン目を切り離し、紙を重ねて綴じ合わせ、ノートブックにしています。

ノートブックの表と裏の厚紙は、施設内で手漉きした再生紙。メンバーが手掛けたイラストを、シルクスクリーンで手刷りしています。濃いグレー地にも映える蛍光色や明るい色のインクのチョイスにもセンスが光ります

ターゲットは、フェス好きの20代男性!? 

「福祉作業所」と「生活実習所」に通所する障害のあるメンバーが、自分の個性や得意を生かし、心地いい表現活動を行う〈メジロック〉。2015年、魅力的な商品づくり、メンバーの工賃UP、福祉施設と地域がつながる場づくり、障害のある人の社会参加の機会づくりを目指し、同ブランドが立ち上がりました。

名前の由来は「目白」+「ROCK(ロック)」。ユーモラスなのは名前だけではありません。同ブランドが手掛ける商品のターゲットは“フェス好きの20代男性”と、ちょっぴり異色の設定です。

施設がものづくりの改革などに取り組み始めた2014年頃は、全国各地でロック・フェスティバルが盛んに行われいていた時代。そんなタイミングもあって、福祉とは接点があまりなさそうな、ロック・ミュージックなどを好む若い男性をターゲットに定めることに。

ブランド名も〈メジロック〉に決定。外部のディレクター、コーディネーター、デザイナーを招き、今まで福祉の商品が届かなかった世代の目にも留まるような商品づくりがスタートしていきます。

「JOY」 楽しもうよ!/「LOVE」 愛してる?/「RESPECT」 礼儀正しく。/「HUMANITY」 人にやさしく。/「CARE」 仲間を大事に。/「BOND」 つながろうぜ! 〈メジロック〉ではこの6つのテーマを掲げ「それぞれが自分らしく、楽しさを見つける」をコンセプトに活動しています

メンバーのイラストと、デザイナーのアイデアをミックスし、黒を基調としたロック感あふれるアイテムがいくつも誕生。さまざまな展示会や販売会に出店し、好評を得てきました。

ところが、活動が広がりを見せるなかで、カラフルな作品を手掛けるメンバーが多いことに改めて気づき、少しずつデザインの方向性を転換。現在、ブラックでシャープなテイストだけでなく、色彩豊かな商品が多いのはそんな理由……というのは、ここだけのお話です。

メンバーやスタッフの行動や意識を変えてきた「アトリエ活動」とは?

同施設には月に3回、〈メジロック〉の活動を支える大切な時間があります。それは、誰もが自由に、思う存分、表現活動に取り組める「アトリエ活動」。絵を描く人、手芸に取り組む人、造形作品をつくる人、昼寝をする人と、皆が自由に過ごすことができる時間です。

以前から余暇の時間などにアート作品を手掛けるメンバーもいましたが、基本的に福祉作業所は受注作業が活動の中心。なかには作業内容が合わず、仕事を休みがちな人もいたのだとか。

2016年頃から設けたアトリエ活動によって、多くのメンバーが表現活動に取り組み始めます。「なにを表現したらいいかわからない」という人には、外部のアドバイザーと職員が各々の個性や特性をもとに「こういった画材が合うのでは?」などと相談しながら、それぞれに見合った方法を見つけていきました。

ブランドを立ち上げた当初はこのギザギザを裁断し「メモ帳」として販売していましたが、「このギザギザも味なのでは?」と、思いきって残すことになりました

苦手だった受注作業の代わりに表現活動を仕事と捉え、日々アート制作に取り組むメンバーも出てくるようになります。現在は施設でもメンバーの得意を優先し、仕事の選択肢を広げています。

また、アトリエ活動がスタートするまでは「福祉作業所」と「生活実習所」の各メンバーが一緒に活動したり、交流を持つ機会はほぼなかったのだとか。アトリエ活動を同じ日に行い、共通活動とすることで、各事業所のメンバー同士に交流が生まれ、お互いの作品を見て刺激をうけ合う関係も築かれるようになりました。

さらにはスタッフにも変化が。メンバーの得意なこと、楽しんでいることはなにか。「問題」とされる行為も、視点を変えてみれば魅力や強みになるかもしれない。そんな思いでメンバーに接するスタッフが増えていきます。

そんななかで生まれたアイデア商品が、もうひとつのイッピン「紙ふぶき」です。

「問題」とされる行動を、「その人らしさ」「魅力」と捉える

落ちているゴミやホコリを拾い集めて、パーッと空中に舞い上げる人。際限なく紙を細かくちぎる人。施設にはそのような行動を好むメンバーがいます。

本人にとっては、ほかには変えられない楽しい行為であっても、それ以外の人にとっては「問題」と捉えられることが多く、実際にスタッフの間でも困りごとのひとつでした。

〈メジロック〉の立ち上げから関わっていた外部コーディネーターやデザイナーが、そのような話をスタッフから聞いたとき、「その困りごとを、ライブステージからバーン! と上がる紙ふぶきとリンクさせることで、フェスのような楽しさを演出するアイテムになるのでは?」と思いつきます。そんな発想の転換から生まれたのが「紙ふぶき」です。

現在、密かな定番商品として販売中。施設でも「成人を祝う会」などの祝い事のたびに紙ふぶきを舞わせて、その場を盛り上げているのだとか。

牛乳パックやコピー用紙を細かくちぎり、時間をかけて染め、乾かし、パックに詰めたりと、ひとつのパックをつくるのにもなかなかの手間がかかる「紙ふぶき」。独自に染めるからこそ出る色ムラが、この商品のアクセントになっています

活動を地域に広げ、新しい「ワクワク」を生み出す

地域との交流を大事にしたいという思いが当初からあった〈メジロック〉。近隣の保育園や、子どもの発達支援施設との合同アトリエ「めじろっち」を開催したり、図書館での読み聞かせ、紙漉きワークショップを開くなど、地域の子どもたちとの交流が生まれています。

また、近隣のカフェでの作品展示会、書道協会からのノベルティグッズの制作依頼、公衆トイレのアートラッピング依頼など、地域からもいろいろな声がかかるように。

さまざまなつながりが地域との間に生まれ、表現活動が認められることで、メンバーは自信と誇りを持ち、自らカフェを訪ねたりと、彼ら・彼女らが外に出る機会も増えているといいます。

メンバー、スタッフ、そしてメンバーの家族を含め、関わる人の行動や気持ちに“楽しい”変化を起こしてきた〈メジロック〉。そのような変化のなかで、今後どんな「ワクワク」「ウキウキ」や、楽しいアイデア、商品が生まれてくるのでしょうか?