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福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

NOZOMI PAPER®〈NOZOMI PAPER Factory〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

NOZOMI PAPER®︎は、牛乳パック、新聞紙、抽出済みのコーヒー豆などを再利用してつくられる、手漉きの再生紙。東日本大震災をきっかけにスタートした小さな手仕事は、さまざまな出会いやつながりを生み、大きな輪へと広がり始めています。

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福祉施設とデザインユニットの協働で生まれ、さまざまな出会いを育む、手漉きの再生紙

〈NOZOMI PAPER Factory〉の紙を用いた名刺を受けとったとき、その紙が放つあたたかみ、縁の“耳”のやわらかさ、活版印刷による文字の凹凸、それらの手触りのよさに、釘づけに。「この名刺、すてきですね」と会話が広がって、名刺を渡してくれた相手との出会いもしっかり記憶に刻まれて。

この名刺の紙、1枚1枚手作業で漉かれています。つまり、大きな紙を裁断したものではないということ。そこにかかった手間ひまに思いを馳せると、ますます愛おしい。ふっくらと厚みのある紙は、活版で刷られた文字も際立ちます。

宮城県南三陸町で生活介護サービス事業を行う〈のぞみ福祉作業所〉と、「福祉とあそぶ」をテーマに活動するデザインユニット〈HUMORABO(ユーモラボ)〉の協働によって生まれた「NOZOMI PAPER®︎」。

原料は、牛乳パック、新聞紙、抽出済みのコーヒー豆。それらは〈のぞみ福祉作業所〉のものづくりを応援する人から寄付されたもの。たくさんのつながり、人の思いのなかで集まった原料を、障害のあるメンバーがすべて手作業で、丁寧に手漉きし、再生紙にしています。

左から、牛乳パック100%の「MILK」、出がらしのコーヒー豆でMILKを染めた「COFFEE」、宮城県の地方紙・河北新報100%の「NEWS」。MILKやCOFFEEの原料となる牛乳パックは、震災時に〈のぞみ福祉作業所〉を訪れた支援者から今も継続的に送られてきます

震災をきっかけに生まれた紙漉きの仕事と、〈のぞみ福祉作業所〉と〈HUMORABO〉の出会い

漁業の町・南三陸に拠点を置く〈のぞみ福祉作業所〉。地域から依頼される漁業関連のさまざまな仕事を請け負っていました。ですが、2011年の東日本大震災による津波で施設が流されるという壊滅的な被害をうけます。

ボランティアや視察団が被災地を訪れるなかで、仮設の〈のぞみ福祉作業所〉にも多くの支援者が足を運びます。そんな折に〈世田谷ライオンズクラブ〉と出会い、同クラブから紙漉きの機械一式が寄贈されることに。さまざまな工程のなかで、誰もがなにかしらの作業に参加できる紙漉きという仕事に、スタッフもメンバーも魅力を感じます。ここから〈のぞみ福祉作業所〉の新しいものづくりがスタートしました。

一方の〈HUMORABO〉は、デザイナーの前川雄一さんと前川亜希子さんがそれぞれに、障害のある人のアートを社会に発信する〈エイブルアート・カンパニー〉のイベントやプロジェクトに参加していました。そのなかでふたりは、障害のある人の作品やものづくりに心打たれる出来事をさまざまに経験します。後に〈HUMORABO〉を結成し、福祉施設や関連するイベントのブランディングやディレクションを行うようになります。

震災直後、被災地にいる障害のある人の仕事の復興支援として「タイヨウ・プロジェクト」を発足した〈エイブルアート・カンパニー〉。雄一さんと亜希子さんもプロジェクトに参加することになり、雄一さんの担当施設が〈のぞみ福祉作業所〉でした。

今回イッピンの撮影用に、NOZOMI PAPER®︎で〈こここ〉の名刺をつくっていただきました!手触りのある手漉きの紙に印刷された活版の文字は、とても存在感があります

その頃、寄贈された紙漉き機と牛乳パックではがきをつくり、絵付けをして販売していた同施設。その商品をデザインの力でさらに魅力的なものにしてほしいというのが、雄一さんに託された依頼でした。

現地で施設のスタッフやメンバーと会話を交わし、活動を目にするなかで、彼ら・彼女らがつくったものへの思い入れやプライドを感じたという雄一さん。今ある商品に新しいデザインや表現を加えるよりも、それぞれの得意を活かした、施設としてのものづくりの在り方をデザインしたり、紙そのものの魅力を伝えるお手伝いをした方がいいのでは、と考えるように。また、復興支援が落ち着いた後も継続していけるようなものづくりにしたいと動き出します。

協働の第一弾として、メンバーが描いたモアイ像(南三陸町と友好関係を築いてきたチリが、震災復興のシンボルとして寄贈したもの)のイラストをモチーフにした「モアイくん」タオルをつくり、そこに漉き紙のタグを添えた商品づくりをスタート。販売は好調でした。

「モアイくんの形に紙を漉いたり、活版で印刷したりと、タオルに同封する”タグ”に、のぞみさんの可能性をたくさんつめこみました。その際、スタッフやメンバーにはこんな話をしたんです。皆に大切にしてほしいのは、タオルではなく、この手漉きの”モアイタグ”の方だって。のぞみさんの紙づくりにこそ価値があるということを伝えたかったんです」(前川雄一さん)

メンバーが描いた言葉のメッセージカード。文字の形に漉く作業も、活版印刷も、すべて〈のぞみ福祉作業所〉のメンバーが行っています

協働の第二弾では、メンバーが描いたユーモラスな書体を活かした漉き紙のメッセージカードを制作。このようなものづくりのなかで、雄一さんは紙漉きのブランドの立ち上げを提案します。

メンバーそれぞれが、楽しく、自分らしくものづくりにかかわれること。それらをサポートしながら、メンバーの個性を見極め、活かすスタッフの役割。そんなビジョンを共有するなかで、スタッフやメンバーも雄一さんの熱意に後押しされ、2015年に「NOZOMI PAPER®︎」を手がけるブランド〈NOZOMI PAPER Factory〉が立ち上がりました。

お互いの存在が、さまざまな出会いを紡ぐ

「タイヨウ・プロジェクト」が終了した年、〈のぞみ福祉作業所〉からのオファーで〈HUMORABO〉は協働チームとして直接タッグを組むことに。そこから〈NOZOMI PAPER Factory〉のものづくりはさらに広がり、名刺用の紙、はがき、紙バッジなど、さまざまな手漉き紙商品を手がけていきます。

2017年には、障害のある人との魅力的な仕事・働き方をデザインする取り組みを表彰する「Good Job! Aword」に入選。南三陸から全国に活動が広がるなかで、さまざまなジャンルの人との出会いも増えていきました。

現在「NOZOMI PAPER®︎」のメイン商品でもある、コーヒー染めの「COFFEE」や、新聞紙を再利用した「NEWS」も、それらの出会いのなかから生まれた商品。

「以前、紙漉きの機械を開発し、紙漉きの師匠にあたる〈紙好き交流センター麦の会〉から、“混ぜ紙”や“染め紙”を教えてもらったんです。ちょうど同時期に、コーヒーのイベントに出るという活版印刷屋から珈琲の紙をつくれないか、という相談があって。それで、コーヒーの出がらしで紙を染められるんじゃないか? と。そしたら、イベントでその紙を見て感動したバリスタと、その後一緒にプロジェクトを立上げることになりました。僕らはいろんな人をのぞみさんに連れてくるけれど、のぞみさんと出会っていなかったら、僕らも出会えていない人がたくさんいる。お互いに刺激を与え合っている関係です」(前川雄一さん)

現在は〈NOZOMI PAPER Factory〉のメンバーが描いたアート作品の展示場としてもかかわりを持つ〈南三陸さんさん商店街〉のカフェ兼新聞屋でもある〈雑貨と珈琲の店 サタケ〉から、焙煎には向かない欠点豆や古新聞を譲り受け、紙漉きの原料や染料として使用しています。地域内でもさまざまに新しいつながりが生まれているようです。

紙のアップサイクルによる、企業とのコラボレーションもスタート

牛乳パックをカットする工程など、作業の一部を同じ法人内の別事業所に委託したり、同じ紙漉き機械を導入している東京の福祉施設と協働して、ブランドの商品を量産する仕組みを整えたりと、南三陸だけにとどまらないものづくりがスタートしています。

また、「仙台七夕まつり」の七夕飾りを解体し、再び漉き直して紙にする「TANABATA PAPERプロジェクト」。プロサッカーチーム〈ベガルタ仙台〉がコロナ禍でスタジアムを満席にできない際に企画した“チアペーパー”を漉き直し、印刷し、商品として循環させるプロジェクト。さらには老舗百貨店が顧客に送付した招待状を回収して漉き直し、プレゼント品にする企画など、紙のアップサイクルによる企業や団体との新しい仕事も生まれています。

私たちの日常に、紙製品は欠かせません。ですが、すぐに不要なものとして扱われるもののひとつ。そんな紙に新たな命を吹き込む「NOZOMI PAPER®︎」は、さまざまな可能性を秘めています。今後も〈NOZOMI PAPER Factory〉の活動から目が離せません

さて。「NOZOMI PAPER®︎」を実際に手にしてみたいという方には「NAME CARDお試しセット」がおすすめです。色味や手触りが確認できるように、MILK、COFFEE、NEWSの3種の紙が各10枚入り。お気に入りの紙が決まったら、ぜひ名刺やカードにして、誰かに渡してみてください。その時の会話から、あなたの出会いもさまざまに広がるかもしれません。