福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

こここなイッピン

ピーナッツくん〈工房まる〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

今回のイッピンは、チャーミングな表情と、コロンとしたフォルムが愛らしい〈工房まる〉の「ピーナッツくん」。これまでに制作された数は1万個以上! そんなピーナッツくんを制作しているのは、たったひとりの工房のメンバーでした。

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用途はとにかく自由! 
20年以上愛され続ける陶器のオブジェ

食事時に笑顔を誘う箸置き。あるいはサボテンの鉢植えにさりげなく添えられたオブジェ。はたまたピンを接着して胸元を飾るブローチに。用途はとにかく自由! という〈工房まる〉の「ピーナッツくん」。20年以上前から福岡県福岡市の工房で制作されてきたロングセラー商品であり、“〈工房まる〉らしさ”の象徴ともいうべき商品です。

ピーナッツくんの発案者兼制作者は、〈工房まる〉の所属メンバーである太田宏介さん。力強い線と鮮やかな色彩で描く絵が人気のアーティストです。イラストや絵画作品に取り組むほか、陶器のカップ制作など、さまざまな創作活動を行っています。

そんな太田さんはピーナッツ好き。ある日、「こういうのをつくってみたら?」というスタッフのひと声から誕生したのがピーナッツくんでした。陶芸用の粘土をこね、造形し、割り箸で表情や体の模様を入れ込んで、焼きしめたら、完成。

黙々と、時には鼻歌を交えながら、その日最初につくったピーナッツくんのサイズを基準に、1日に50個以上をたったひとりで制作する太田さん。その風景は、制作し始めた約20年前と変わらないといいます。

にっこり笑うピーナッツくんですが、その表情はひとつひとつ微妙に異なります。まるで、それぞれに違った性格を持っているかのよう。3色展開、1袋2個入り。ランダムでパッケージされているので、オンラインで購入する場合はどの色が届くかお楽しみに!

太田さんの所属する〈工房まる〉は、1997年に無認可の福祉作業所として創設されました。施設名の「まる」は、手や指を使って人に思いを伝えられるサインの「まる」であり、あらゆる人をさまざまに受容するイメージの「まる」を指しています。

創設者であり、施設長の吉田修一さんが〈工房まる〉を立ち上げたきっかけは、大学で写真学科を専攻していた頃、撮影で訪れた特別支援学校で感じた違和感からでした。そこには障害のある人がたくさんいるにもかかわらず、吉田さんの日常ではほとんど出会う機会がないこと。障害のある人がつくった商品が「障害者を応援」という名目で売り買いされること。

障害の有無や、年齢や仕事の種別にかかわらず、さまざまな人の姿が社会の日常にある世の中にしたい。「障害のある人がつくったから」ではなく、デザインのよさやモノの価値そのものを理由に商品を流通させたい。そのような思いで立ち上がった〈工房まる〉のスローガンは、「my voice, my place, my life ― ひとりひとり、いろいろで、まる」。現在は、就労継続支援B型や生活介護事業を行い、絵画や陶芸などの創作活動を中心とした取り組みを行っています。

さて、今回のイッピンであるピーナッツくんは、着実に、ジワジワと、全国で人気を集めています。「販売したい」と、各地のカフェや雑貨店から問い合わせがあったり、とある飲食店からは「箸置きとして使いたい」と、数百個の注文を受けたことも。ピーナッツくんというキャラクターから〈工房まる〉を知る人も増えているのだとか。

近年は、ピーナッツくんをイラスト化したトートバッグや、Tシャツ、ノートやクッションなど幅広く商品を展開中。また、架空のレコード会社〈ピーナッツくんレコード〉を発足し、アーティストとのコラボレーションを企画するなど、ユニークな試みも始まっています。

これまでに工房を旅立った陶器のピーナッツくんは1万個以上。今後もさまざまに形態を変えて、全国行脚は続く予定です。あなたの街のお店でも、思いがけずピーナッツくんとの出会いがあるかもしれません。