福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

靴型装具〈マイスター靴工房 KAJIYA〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

「歩く喜びをあなたに」をテーマに、歩行に問題を抱える人の可能性を広げられるような靴型装具の研究・製作・提供を行う〈マイスター靴工房 KAJIYA〉。装具としての機能面はもちろん、靴のデザイン性にも注力するその理由とは?

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「機能性」と「デザイン性」を両立させた、バリアフリーな靴

磨くほどに艶めきそうな高級感ただようレザーと、品のよいシルエット。まるで海外の老舗革靴ブランドが手がけたような姿の美しさに「こういったデザインブーツが欲しい!」と、目を輝かせる靴愛好家もいるのでは?

じつは、これらすべて「靴型装具(整形外科靴)」と呼ばれる靴。体の麻痺や障害によって足に歪みや変形がある人に向けて、医師の処方のもと採寸・型とりし、ひとつひとつ手作業で製作されるオーダーメイドの靴です。

靴型装具といえば、足首の固定や変形部分の矯正・カバーを目的とした分厚い素材が使われることもしばしば。それにより、どこか無骨さのあるものや、画一的なデザインのものをイメージする人が多いかもしれません。

ところが近年は、履く人の好みをさまざまに反映させた靴型装具もつくられ始めています。

その先駆ともいえる工房が、東京都東久留米市と、兵庫県神戸市に店舗を構える〈マイスター靴工房 KAJIYA〉。国内では珍しい「靴型装具」と「足底装具(インソール)」に力を入れる工房です。

1980年に埼玉県で創業し、現在は「ドイツ整形外科靴マイスター」と「義肢装具士」という2つの資格を有する世界初の医療技術者・中井要介さんが代表を務めています。

同社が掲げるビジョンは「歩く喜びをあなたに」。足に問題を抱える人の可能性を広げられるような靴の研究・提供を行っています。

その人らしさを尊ぶ靴づくり

装着することによって体の機能回復、機能低下の抑制、補完、痛みの軽減などを目的とする「靴型装具」。機能性が重視されることで、デザイン面は二の次、あるいは必要な要素として考慮されないこともあり、履くことに抵抗感を持つ人も多いといいます。

「靴は誰もが幼少期から履いてきたもの。それが障害によって好みのデザインの靴が履けなくなるというのは悲しいですよね。装具という意味では、確かに機能面が満たされればいいのかもしれないけれど、やっぱりそれだけじゃないと思うんです」(中井要介さん)

靴型装具には「機能的バリアフリー」と「心理的バリアフリー」という2つの側面があるという中井さん。〈KAJIYA〉では、医療靴先進国ドイツの技術をもって足に問題を抱える人の“歩く”を機能的にサポートしつつ、オーダー者の好みや趣味嗜好、何を求め、何を期待しているかを丁寧にヒアリングし、その人らしさを尊ぶ靴づくりを目指しています。

実際にオリジナルの靴を手にして「〈KAJIYA〉のことをもっと早く知りたかった!」という人、次の靴の製作を今か今かと楽しみにしている人、自分の足にフィットする理想的なデザイン靴を前に涙する人もいるといいます。

「靴」といっても、形やスタイル、素材、用途もさまざまで、オーダーする人の趣味嗜好も千差万別。イメージする靴の写真を持ってきてもらったり、その人のファッションや会話のなかからイメージし、提案することも

医療靴先進国ドイツでの学び

〈KAJIYA〉の現・代表である中井さんは、2005年からドイツに渡り、9年間の修行のなかで同国の職人最高職位である「ドイツ整形外科靴マイスター」を取得しました。

高校時代に「義肢装具士」という職業を知り、義手・義足・コルセットといった義肢装具を中心に学ぶ養成校へ。そのなかで整形外科靴という“靴”に特化した装具があること、当時の日本には医療靴先進国ドイツのマイスター資格を持つ日本人はおらず、つくれる人も少なく、未開拓な分野であることを知ります。

養成校で義肢装具士の資格を取得したあと、ドイツ式の整形外科靴制作を導入していた〈梶屋製作所〉(現〈マイスター靴工房KAJIYA〉)へ入社。靴づくりの基礎を学んで3年後、ドイツへ渡航します。

子ども用の整形外科靴。アニメや戦隊もののキャラクターが履く靴に寄せた型や、スニーカー型の靴型装具の制作も可能

現地の暮らしのなかで驚いたのは、ドイツ国民の靴や足への意識や向き合い方が日本とは大きく異なること。小さなまちにもマイスターが一定数おり、多くの人が行きつけの靴工房を持っていたといいます。

「健康寿命を伸ばすには歩くことが大切ということや、歩いて足が痛むのは靴に問題があるかのもしれないという認識が一般化されているんです」

9年後、ドイツで学んだノウハウや、現地に根づく「歩くことは、生きること」という学びを〈梶屋製作所〉へ持ち帰ります。それらの知識・技術・経験を生かした靴型装具を日本で展開するとともに、「外反母趾」や「偏平足」、小さなキズが大きな足の問題になりやすい「糖尿病」の患者に向けたインソールなどにも注力してきました。

〈KAJIYA〉のユーザーは、形やデザインを毎回変える人、お気に入りの形が決まっている人、形はそのままに色だけ変える人など、オシャレの楽しみ方も人それぞれ

足に意識を向けるだけで、もっと日常生活が楽になる人がたくさんいる

全国の整形外科靴に関心のある義肢装具士にも、同社で培った知識や技術を共有したいという〈KAJIYA〉。社会全体に靴や足の健康への意識が広がれば、「歩くと足が痛い」「外反母趾がつらい」といった身近な症状の改善や、将来的な足の問題を未然に防ぐことにもつながるといいます。

「足に意識を向けるだけで、もっと日常生活が楽になる人がたくさんいるはずです。〈KAJIYA〉は関東と関西に店舗がありますが、それだけではユーザーに届きにくい。ノウハウを持つ仲間を増やして、ドイツのように、どこにいても自分に合う靴にアクセスできるような社会を目指したいです」

整形外科靴とは、麻痺や障害がある人だけのものではなく、案外多くの人にとって身近なものといえるかもしれません。

トラッドでドレッシーなブーツ型、カジュアルなスニーカー型、好みのカラーを反映した短下肢装具など、ユーザーの要望に可能な限り応えたいという〈KAJIYA〉。パーツの色を自由に組み合わせられるカスタムシューズのオーダーも用意されている

オープンファクトリーも兼ねたインクルーシブデザインイベントを開催

2024年2月4日(日)、神戸市灘区にある〈KAJIYA 神戸支店〉にて、インクルーシブデザインカンパニー3社の合同イベント「Fashion for care ー着る喜び、履く喜びー」が開催されます。

参画するのは、障害の有無・セクシュアリティ・体型の違いに関わらず、ファッションを選んで楽しむセミオーダーファッションブランド〈SOLIT!〉。そして、機能性と心地よい使用感を併せ持つデンマーク発祥のカスタムメイド杖ブランド〈ヴィルヘルム・ハーツ・ジャパン〉

それぞれが、プロダクトが生まれた背景、製法、素材、そして自分らしさの表現を妥協しないエシカルな観点のモノづくりを行うカンパニーです。この3社が揃ってのイベントは、関西圏では初となります。

さらに会場となる〈KAJIYA 神戸支店〉では、整形外科靴の制作工程を見学できるオープンファクトリーも開催予定。実際のものづくりの現場を目にするチャンスです。

お近くの方、ご興味のある方、足や歩くことにちょっとした不安や違和感を感じている方など、この機会をお見逃しなく!