福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】ケアするしごとてんと書かれた看板【写真】ケアするしごとてんと書かれた看板

ケアするしごとは、想像以上にひらかれている? ケアするしごと展2024レポート ケアするしごと、はじめの一歩 vol.01

Sponsored by 厚生労働省補助事業 令和6年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)

  1. トップ
  2. ケアするしごと、はじめの一歩
  3. ケアするしごとは、想像以上にひらかれている? ケアするしごと展2024レポート

先日、同行援護従業者の資格をとった。

同行援護従業者はガイドヘルパーとも呼ばれ、視覚障害のある方の外出に同行しサポートする役目を担う。

資格をとりにきている人の多くは40代以上で、70代の方もいた。研修会場でその光景を目の当たりにしたとき私は、「“やっぱり”若い人は少ないんだなぁ」と思った。「ケアするしごと」に対するイメージが、長いあいだ更新されないままでいる自分に気づく。

しかし今回、ある展覧会に足を運んで、そんな固定観念を取っ払うきっかけをもらった。

マガジンハウス『anan』『POPEYE』『こここ』編集部が、全国さまざまな介護・高齢者ケアに関わる仕事場(施設・事業所)と働く人を取材した記事を紹介する展覧会「ケアするしごと展2024 by マガジンハウス」だ。

ケアするしごと展では、記事を紹介するパネル展示や、福祉・介護をテーマにしたスペシャルブックレットの無償配布、トークイベントも開催された。

今回の記事では、“自分らしく生きる”を支えるしごとの魅力に触れて私が感じたことについて、イベント内容を紹介しながらレポートしていく。

【写真】展示風景。写真とテキスト、QRコードでケアするしごと現場の様子が展示されている
「ケアするしごと展(渋谷)」の様子

ふだんの暮らしに溶け込む「ケアする仕事場」

「ケアするしごと展」が開催されたのは、東京・渋谷と下北沢の2会場。私が訪れたのは下北沢の会場となっている「BONUS TRACK」だ。その敷地内にある「本屋B&B」では、こここがセレクトした福祉に関するブックフェアも行われていた。

【写真】本棚に、スウィングやハーモニーの書籍が置かれている
「こここブックフェア」では、編集部がセレクトした“福祉発プロダクト”と関連書籍を販売。今回取り扱うのはしょうぶ学園、スウィング、ハーモニーの3つの福祉施設

また11月23日・24日に開かれた「ケアリングマーケット」では、こここ編集部によるセレクトショップ「こここなイッピン市」もポップアップ出店していた。

私は、メロンの刺繍がされた靴下に一目惚れして購入した。大阪の障害福祉サービス事業所PALETTEのアーティスト・元さんがデザインしたものだ。デニムの裾からチラっとのぞくカラフルなメロンに、すこしだけ足どりが軽やかになる。

【写真】展示のそばで椅子に座り過ごす人や、前を通り過ぎる人
平日の昼下がり、腕を組んで散歩をする高齢のご夫婦らしき二人が、パネル展示の前で足を止める。またある時には、コーヒーを片手にじっくりと展示を読み込む若者の姿があった

飲食店や本屋の合間に点在する展示を見ながら歩いていると、「ケアするしごと」に対するこれまでとはちがったイメージが、ポツポツと浮かびあがってきた。それは「働く人の高齢化」でも「ケアするしごとの大変さ」でもなく、「ケアするしごとは、想像以上にひらかれている」ということだった。

たとえば、千葉県の多機能型デイサービス「52間の縁側」。

2023年にグッドデザイン賞を受賞した「52間の縁側」は、デイサービスでありながら、近所の子どもや大人が集える場、ひとり親の子どもたちの放課後の居場所でもある。お年寄り、子ども、外国人スタッフ、近所に住む人々など「身内もいれば外の人もいる中間的な場所」だ。

そして高齢者が集う場所なのに、ここには手すりがない。代表の石井英寿さんは、その理由を「不便だから得られる利益がある、不便であるほど人とのコミュニケーションが生まれる」と話す。それぞれの人がもつ特性に合わせた配慮に心を配っているはずの石井さんだからこそ、この言葉は説得力がある。

※記事はこちら。
居場所ってなんだろう? 人が自然と集まる場所を目指す『52間の縁側』をたずねて」こここ

また、介護施設と学生シェアハウスの複合施設「みそのっこ」も同様だ。

ここには、施設利用者、学生、地域の人や職員が集まる交流スペースがある。シェアハウスに住む学生はこう話す。

(介護施設のイメージが)明るい印象に変わりましたね。こんなに毎日にぎやかなんだ!ってびっくりしました。よく、おじいちゃんおばあちゃんとごはんを食べながら一緒におしゃべりしますし、たまに恋バナなんかもするんですよ。

介護は、誰もが関わる可能性のあることなのに、当事者になるまでなかなか情報に触れる機会がない。だからなんとなく、「私と介護の距離は遠い」と感じてしまう。

でもこうして、ケアする仕事場がふだんの暮らしに溶け込んでいたらどうだろう? 想像してみると、自分とは関係ないはずだった介護が、すこし身近に感じられる。

※記事はこちら。
介護施設×学生シェアハウス『みそのっこ』が教えてくれる、『介護×場づくり』の可能性」こここ

異なる背景をもつ人が集まれる場だからこそ生まれるもの

目をひかれたのが、訪問看護師である尾山直子さんの展示だ。訪問看護師でありながら、写真家でもある尾山さん。多くの人を看取ってきた尾山さんは死について「早いか遅いかわからないけれど、いつか順番が来るもの。これまで出会ってきた患者さんたちに受け止め方を教えてもらった」という。

※記事はこちら。
暮らしのなかで閉じる命をつないでいく 写真家/訪問看護師 尾山直子さん」こここ

教員である立川麗佳さんのキャリアも、とても興味深かった。立川さんは介護・福祉に特化したスキルシェアサービスを活用し、ボランティアとして様々な介護施設を訪れ、手伝いをしている。「利用者さんが何を望んでいるのかを理解し、自立した生活を続けられるようにサポートしていくことも介護なんだと知った。“援助ではなく支援”。これは教育の現場でも同じことがいえると思う」と話す。

※記事はこちら。
介護の現場3 自分の強みを活かしながら介護に関わるキーパーソンの働き方に密着!」anan

これらの展示を見て、私は以前取材した小学校の校長先生の話を思い出した。その方は「同質集団からの解放」をテーマに、異学年の児童が一緒に学べる時間を作ったそうだ。すると子どもたちは、同質集団内で生まれた序列や競争から解放され、イキイキと学びを楽しみ始めたという。

ケアするしごとの現場にも共通する部分があるのかもと、ふと考える。写真家や教員、役者、子ども、学生、地域の人、外国人。異なる背景をもつ人たちが集まれる場だからこそ生まれるコミュニケーションやアイデアがあるのかもしれない。

トークイベント「介護の職場訪問イベント『ケアするしごとツアー』を企画した『KAIGO LEADERS』に聞いてみる」

11月6日、「渋谷サクラステージ」で「介護の職場訪問イベント『ケアするしごとツアー』を企画した『KAIGO LEADERS』に聞いてみる」と題したトークイベントも開催された。話をしたのは、秋本可愛さん(KAIGO LEADERS発起人/株式会社Blanket)。聞き手は、こここ統括プロデューサーの及川卓也さんが務めた。

「ケアするしごとツアー」は、2024年12月〜2025年1月までに計4回開催される、全国の介護・福祉現場を訪れるツアーだ。秋本さんは「介護を取り巻く環境は、だんだんと変化している」とし、「ケアするしごとツアー」で巡る全国4カ所を紹介してくれた。訪問するのは東京・千葉・神奈川・栃木のユニークな取り組みをしている介護・福祉事業所だ。

イベントのなかで、印象的なお話があった。

秋本さんが、介護の仕事を「おもしろい」と思えるようになったきっかけについての話だ。そのきっかけとは、「ケアするしごとツアー」でも訪れる「あおいけあ」代表・加藤忠相さんから言われた、ある言葉だったそう。

私は、利用者さんのお世話をするのが介護の仕事だと考えていました。でも加藤さんから、「認知症や要介護状態になっても、できることはたくさんある。いま介護職に求められているのは、利用者さんが地域で活躍できる環境をつくることだよ」と言われて、衝撃を受けたんです。それまでの自分を反省したし、それから「介護には、利用者さんが地域社会とつながり、活躍できる環境をつくることもふくまれる」と思えるようになって、介護の仕事がおもしろくなりました。

【写真】マイクをもちケアするしごとツアーについて語るあきもとさん

テクノロジーを活用したケアや、国内外から注目を集めるマニュアルのない認知症ケアなど、介護・福祉事業所のユニークな取り組みを紹介する秋本さんの話を聞いていると、他でもない秋本さんご自身がいちばんワクワクしているのだな、ということが伝わってくる。そしてそのワクワクは、聞いている側にも伝播する。

介護に対し、仄暗いイメージを持っている方にこそ、ぜひ参加してほしいツアーだと思った。

※「ケアするしごとツアー」について、くわしくはこちら

トークイベント「『世界いち気持ちいい介護』を目指す『でぃぐにてぃ』に聞いてみる」

11月23日には、下北沢のBONUS TRACKからほど近い「仁慈保幼園Piazza(ピアッツァ)」にて、トークイベント「『世界いち気持ちいい介護』を目指す『でぃぐにてぃ』に聞いてみる」が開催された。

イベントでは、訪問介護の事業に取り組む「株式会社でぃぐにてぃ」代表の吉田真一さんと、採用担当の有吉凜さんが登壇。聞き手は、こここ編集長の中田一会さんと、編集部の垣花つや子さんが務めた。

【写真】トークイベントの様子。登壇者4名の真ん中にモニターが置かれている
イベント当日、でぃぐにてぃのメンバーが応援に駆けつけていた。推し活さながらのうちわを片手に吉田さんと有吉さんを見守る姿に、職場の雰囲気のよさが伝わる

話のなかでまず驚いたのが、でぃぐにてぃで働く社員の平均年齢が26歳であることだった。その理由について有吉さんは、「2040年には介護人材が57万人不足する(※)と予測されていて、その時に中核となって活躍できる人材を育てるために新卒採用に力を入れている」と話す。「ケアするしごとには若い人が少ない」という従来のイメージを、いきなり覆してくれた。

※厚生労働省「第9期介護保険事業計画に基づく介護職員の必要数について」を参照

でぃぐにてぃが目指すのは、一人ひとりの望む生き方を尊重し、その実現を支えること。代表の吉田さんは「そのためには、介護サービスを提供する側の職員もイキイキと働けることが大切」だという。

でぃぐにてぃでは入社後最大3カ月間、先輩職員が訪問に同行し、利用者とより良い関係性をつくれるようサポートする。また、事務処理のデジタル化も推進。職員の負担を軽減し、ケアに充てられる時間を増やしている。

利用者と職員双方に無理のない「気持ちのよい介護」を目指すでぃぐにてぃの取り組みには、「人手不足」や「働き手の高齢化」に悩む介護やケアに関わる方にとって、大きなヒントがありそうだ。

私の知っている「介護」を超えた、「ケアするしごと」

「ケアするしごと展」の入り口にあった展示では、「ケアするしごと」をこう表現していた。

一人ひとりが持つ、異なる心身、環境、歴史、調子をよ〜く観察し、知恵と工夫を総動員してケアをする人々は、さながら研究者のようであり、職人のようでもあり、ときには芸術家のようでもあります。

「介護」や「高齢者ケア」は、生きるため(食事や入浴、排泄)の介助をする仕事だと思われがちで、研究者・職人・芸術家といった表現がしっくりくる人は少ないかもしれない。けれど、一つひとつの仕事場、一人ひとりの働き手のまなざしに触れると、私の知っている「介護」や「高齢者ケア」のイメージを超えた、「ケアするしごと」が見えてくる。

たとえばそれは、お風呂がきらいな人に、入浴を楽しんでもらう方法を考えること。認知症のある人たちと演劇のワークショップをひらくこと。コミュニケーションが生まれるようにわざと手すりのない設計の施設をつくること。閉ざされがちな環境を、地域にひらいていくこと。

これって、誰かを“お世話する”仕事じゃない。一人ひとりの「自分らしく生きたい」を叶えるために奔走する人たちの頭の中は、すごくクリエイティブだ。展示とトークイベントを堪能した私は、そんなことを考えながら帰路についた。