福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】シェアハウスに住む学生と介護施設を利用する高齢者がソファに並んで座って洗濯物を畳んでいる【写真】シェアハウスに住む学生と介護施設を利用する高齢者がソファに並んで座って洗濯物を畳んでいる

介護施設×学生シェアハウス「みそのっこ」が教えてくれる、「介護×場づくり」の可能性 “自分らしく生きる”を支えるしごと vol.06

Sponsored by 厚生労働省補助事業 令和5年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)

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「介護施設と学生シェアハウスを融合させた場所を、取材してみませんか?」

そんな相談がきたとき、正直イメージが湧かなかった。

「介護施設」と聞いて僕が頭に浮かんだのは、白い壁、消毒のにおい、テレビをぼーっと眺めるおじいさん、おばあさんたちの姿。今はもう亡くなった祖母が入っていた施設を訪れたときの、ちょっと寂しげな光景が記憶に残っていた。

介護施設のイメージが「寂しげ」なら、学生シェアハウスのイメージは「楽しげ」だった。僕のなかで対極のイメージを持つふたつが、まざりあう。そんなこと、本当に可能なんだろうか?

半信半疑で、取材を引き受けることにした。そのときの僕は、介護の、そして「介護のある場づくり」のイメージが、今回の取材を通して大きく変わることを、まだ知る由もなかった。

スーパー、田んぼ、大きな看板……。はじめて訪れた土地なのに、見慣れたような地方都市の風景が車窓のむこうで流れていく。運転手さんがときおり話す広島弁がなければ、ここが東広島市であることを忘れそうになる。

施設に向かうタクシーのなかに、僕はいた。「介護施設×学生向けシェアハウス」なんてユニークな場所が、このあたりに本当にあるんだろうか。

JR山陽本線の西条駅から、10分ほど走ったころ。田んぼや住宅が並ぶなか、その建物が目に飛び込んできた。

【写真】みそのっこの外観

「うわ〜!」と、おもわず声が漏れる。一見すると、おしゃれなモデルハウスだ。

ここが、介護施設と学生シェアハウスの複合施設「みそのっこ」。約2600平方メートルの敷地に、看護小規模多機能型居宅介護(※注)、認知症対応型グループホーム、学生シェアハウスが併設されている。

※注:「訪問介護」、「通い」「宿泊」の3つのサービスに「訪問看護」の機能を加え、看護と介護を一体的サービスを提供する場所。通称「看多機」。

おしゃれ!すごい!と、同行した編集者やフォトグラファーと騒いでいたら、「ようこそ〜!」と女性が出迎えてくれた。彼女が、「みそのっこ」を運営する株式会社ゆずの作田路帆(さくだ・ろほ)さん。「みそのっこ」では、主に看護部門の統括リーダーとして、現場職員の育成などを担っている。

【写真】インタビューに応えるさくだ・ろほ

東京からですよね〜。遠かったでしょう?

ほがらかに笑う作田さんと話すうちに、緊張もほぐれてくる。

お茶を一杯いただき、一息ついたところで、作田さんに施設を案内してもらうことにした。

みんなの集い場「庭とフレミング」

まず案内されたのは、みんなの集い場「庭とフレミング」。そこは、まるでカフェのような空間だった。

【写真】集いの場「庭とフレミング」

ここは、施設利用者のおじいさんやおばあさん、学生、地域の人や職員が集まる交流スペースだそう。イベントスペースの役割も持っていて、学生がカフェやバー、地域の子どもむけの塾を開いたりすることもあるらしい。

「庭とフレミング」は看多機やグループホームの導線になっていて、施設の利用者との会話が自然に生まれる

ちなみに「庭とフレミング」という名前は、「フレミング右手の法則」からきているらしい。中学校の理科で習う、アレのこと。ここでフレミングの右手をつくると、親指がグループホーム、人差し指が中庭と学生シェアハウス、中指が看多機をさすのだ。

右手でフレミングをつくり、人差し指のほうに目をやると、扉の向こうに中庭が。空間のところどころに、たおやかな葉をつけた植栽と、椅子やテーブルが置かれている。

取材は9月のとある日の朝早くに行われたため、利用者も少なく(通所利用の方はこれからやってくるらしい)、学生は夏休みで帰省していた。ふだんであればここでおしゃべりするおじいさんやおばあさんや学生の姿があるんだろう。

日常で、感情が湧くデザイン

「じゃあ、施設のなかに入りましょうか」という作田さんの声で、我に帰った。いけない、空間が気持ち良すぎて、介護施設の取材に来たということをすっかり忘れていた。

建物1階の東側は、「看多機ホームみそのっこ」。医療への依存度が高い方や、退院直後で状態が不安定な方向けに、訪問看護、訪問介護、通い、宿泊などのサービスを提供している。

また、中庭にある階段から2階に上がると、そこは「グループホームみそのっこ」。東西ふたつのスペースで構成されたこの認知症対応型グループホームでは、18人が暮らしている(2023年9月現在)。

施設の扉を開けると、待っていたのは穏やかな日常だった。談笑する方、洗濯物たたむ方、窓辺でうとうとする方……。みなさん、思い思いにすごしている。

「看多機ホームみそのっこ」の様子
こちらは「グループホームみそのっこ」の様子。お昼どきということもあって、職員さんがつくるごはんのいいにおいが
テーブルでは、なにやら折り紙で工作をする姿が。もうすぐ、どなたかの誕生日パーティでもあるのだろうか

しかし、なんて気持ちがいい場所だろう。

この気持ち良さは、いったいなぜ? と思い、空間をぐるりと見渡してみて、気づいた。あちこちに大きな窓があり、外の景色が見えるのだ。道路に面した大きな窓の外に目をやると、稲穂たちが青空にむかってそよそよとゆれている。

景色がよく見えますね、というと、作田さんはその理由を教えてくれた。

気持ちがなるべく、外の世界に向くようにしてるんです。空や田んぼを見ると、季節を感じるでしょう? そういう「生きた風景」にふれてほしくて。それに、地域の方や学生の姿が見えたら、社会とのつながりも感じられますしね。

個室の窓からは、中庭が。ここから見る学生の日常の姿も、利用者にとって「生きた風景」になる

気持ちのよさは、大きな窓だけが理由じゃなさそうだ。施設のあちこちにアートや植物、個性的な調度類が置かれていて、歩いていると、ちょっとした美術館に来たような気持ちになってくる。

絵画は、東広島に住むアーティストが描きためたものらしい
施設の位置を示す看板も、テキスタイル作家とコラボしたもの

「みそのっこ」の日常に身を浸していたら、やすらぎ、たのしさ、なつかしさ……といった感情が湧いてきた。まさか介護施設で、こんな感情が動くなんて。

「感情が動く」は、株式会社ゆずが大事にしてきたことだ。「みそのっこ」をはじめ、株式会社ゆずが運営する多くの施設をデザイン・設計してきた杉本聡恵さんは、「感情が動くことこそが人生の幸せである」という考えのもと、時を重ねてきたもの、身体や心にやさしいもの、風や光など自然を感じられるものを施設に取り入れる「感情環境デザイン」を大切にしている。

……と、取材前に聞いていたが、なるほど「みそのっこ」にはあちこちに感情が動くスイッチがある。利用者たちも、職員たちも、表情が明るいような気がする。

【写真】ある利用者とたのしそうに立ち話をするさくださん

介護施設併設の学生シェアハウス

さて、続いては学生シェアハウス。中庭を挟んで、「看多機ホームみそのっこ」の向かい側に、その建物はあった。

「プライベート空間だからふだんは外の人は入れないんだけど、今は夏休みで学生もほとんどいないから、特別に」ということで、中に入らせてもらう。そのおもむきは、さながら「デザイナーズ物件」。洗練されており、それでいて安心感も感じるデザインだ。

個室は7部屋。1部屋は職員が住むため、入居者は6名の募集だったが、定員を大きく上回る応募があったという。

現在は、選考で選ばれた市内3大学の6人が暮らしている。介護福祉士や理学療法士を目指す学生もいるが、全員が福祉に関心があったわけではなく、 文学部、理数学部、工学部と、幅広いバックグラウンドの学生が集まったそうだ。

5.3畳の個室

福祉に関わりのない学生が集まる大きな理由は、ここに住みながらアルバイトができるから。

このシェアハウスは、原則週3日、隣接の介護施設でアルバイトをすることが入居条件になっている。月30時間以上働いた場合、3万円の家賃が無料になるのだ。

ちなみにバイト内容は、食事の配膳下膳、皿洗い、掃除、ゴミ捨て、就寝・起床支援など。専門的な介護はふくまれない。もちろん、働いた分だけバイト代は入ってくる。

介護施設というより、「にぎやかなコミュニティ」

多くの学生が帰省中だったが、ひとりだけ話を聞くことができた。広島大学文学部4年生の山下壱生(やました・いっせい)さんだ。

【写真】インタビューに応えるやましたさん

山下さんは引越し先とアルバイトを探していたとき、たまたま「みそのっこ」の情報を発見。シェアハウスに興味があったこともあって、2023年の4月の施設オープンと同時に入居を始めた。

ちなみに、ここに住むまで介護との接点はなく、介護施設のイメージは「ベッドがばーっと並んでいて、 少ない人数で事務的に作業をしていく場所」というもの。そんなイメージは、「みそのっこ」に住んでがらりと変わった。

明るい印象に変わりましたね。こんなに毎日にぎやかなんだ!ってびっくりしました。よく、おじいちゃんおばあちゃんとごはんを食べながら一緒におしゃべりしますし、たまに恋バナなんかもするんですよ(笑)。

そう顔をほころばせながら語る表情からは、ここでの暮らしを楽しんでいることが伝わってくる。

仲良しだという利用者の土居さんと、おしゃべりしながら洗濯物をたたむ

そして、山下さんはこうも付け加えた。

「みそのっこ」は介護施設っていうより、コミュニティだな、と思います。

「にぎやかさ」、そして「コミュニティ」。山下さんの言葉にふれ、僕が「みそのっこ」に訪れてから感じていた、それまでの介護施設のイメージとのズレが腑に落ちた。

そうか、「みそのっこ」は「にぎやかなコミュニティ」なのか。

たしかに施設を歩いていると、いろんな音が聞こえてきた。掃除機の音、洗濯物をたたむ音、山下さんとおじいさん、おばあさんがおしゃべりする声、子どもが駆けまわる音、笑い声。

年齢も性格も、身体や頭のはたらきも、立場もちがう人たちが集まって、自由にすごす。そんな音があちこちから聞こえてくる。だからか、ここでは心地の良いにぎやかさを感じるのだ。

進路については「就活中なのでまだわからないですが…」と前置きしつつ、「福祉業界にも興味を持つようになった」という。「介護に関わる仕事は、直接世の中の役に立ってる実感が持てるなと、ここに住んで感じたんです」

ふだんの「みそのっこ」は、もっとにぎやからしい。

たとえばある日、「庭とフレミング」で学生がバーを開いた。すると、楽しそうな雰囲気を察知して、利用者とその家族が訪れ、わいわいと飲み会がはじまった。

またあるときは、中庭がライブ会場になった。近隣大学のジャズサークルが、ここでライブを開いたのだ。

作田さんにそのときの動画を見せてもらった。中庭での演奏を、1階の窓を開け、2階のテラスに椅子を出し、そこで暮らすおじいちゃんおばあちゃんたちや若者たちが聞いている。手をたたいたり、身体を揺らしたりと、なんとも楽しそうだ。

【写真】スマートフォンの画面に、中庭でのライブの様子が写っている

地域の人々によるマルシェの会場になることもある。そこで思わぬ出来事があったと、作田さんが教えてくれた。

若い人たちが出店してる姿を見たら、おじいちゃんおばあちゃんたちが「自分たちもやらなくちゃいけない!」って、大騒ぎになって。急遽パンケーキを焼いて、利用者さん同士で振る舞っていました(笑)。

「介護の遠さ」への違和感

どうしたら、こんな「にぎやかなコミュニティ」がつくりだせるんだろう?

そう思っていると、「どうも〜!」と、男性が入ってきた。開襟シャツに、左耳にはピアス。彼が、株式会社ゆずの代表、川原奨二さん。「みそのっこ」の発起人だ。

【写真】インタビューに応えるかわはらさん

さっそく疑問をぶつけてみる。そもそもなぜ、介護施設と学生向けシェアハウスを融合させようと思ったのか。

根っこには、「介護の遠さ」への違和感があったという。

僕はね、介護が人々から遠いのが課題だと思ってるんです。身近に介護がないから、みんながネガティブなイメージを持ってしまうんですよね。

介護と人々を近づけたい。その思いで、川原さんは、介護施設と宿泊施設を併設させた「尾道のおばあちゃんとわたくしホテル」など、介護と人々を近づける場をつくってきた

数年前、東広島市で施設を立ち上げる計画が持ち上がった。あらたに施設をつくるときは、「その土地で、なんかおもしろいことできんかな」と考えるという川原さん。目をつけたのは、学生の多さだった。

人口約19万人の東広島市には、4大学があり、学生だけでも一万人以上いる。だからこそ、学生と介護施設をかけ合わせたら「おもろい」んじゃないか。川原さんはそう考えた。

苦学生もたくさんおるって聞いてたんで、学生に介護の仕事をしてもらう代わりに、タダで住める場所をつくったら、学生も楽になるだろうって。利用者さんも若者と交流できるし、うちの従業員も助かるし。三方よしだと思ったんですよ。

「あたりまえの、ごちゃまぜ」をつくる

そうして、介護施設と学生シェアハウスの複合施設「みそのっこ」は2023年4月のオープン。それから半年ほどで、「にぎやかなコミュニティ」が生まれはじめている。

そんな場が生まれる背景には、さぞかしつよい意図や工夫があるんじゃないか……。そうたずねると、「うーん」と一瞬間をおいてから、川原さんは答えた。「意図してつくる、じゃないんですよね」。

なんか、普通に、お年寄りの隣に若者がおったりとか、隣に赤ちゃんがおったりとか、スタッフがおったりとか。意図しない、「あたりまえの、ごちゃまぜ」っていうのが、すごい大事じゃないかと思うんですよ。

あたりまえの、ごちゃまぜ。
それはつまり、こういうことだ。

川原さんたち、場の運営者が、上から若者や利用者に役割を与えることはしない。じっさいに、学生がやるカフェやコンサートも、地域の人が出店するマルシェも、「こちらからやってくれと声をかけることはない」という。(なにしろ、株式会社ゆずの理念は「いつまでも、どこまでもフリースタイル」なのだ。)

それでも、おもしろいことが生まれる。若者がカフェを開き、音楽を奏で、利用者がパンケーキを焼きだす。人の可能性が、「自分らしさ」が、つぎつぎにひらかれていく。

でも、いったいどうして?

思い出したのは、美学者の伊藤亜紗さんが宅老所や特別養護老人ホームを運営する「よりあい」代表・村瀨孝生さんとの往復書簡『ぼけと利他』(ミシマ社)のなかで書いていた、ある話だ。

伊藤さんは、人間と動植物が共生するなかでおたがいを変化させ合う「共進化」(たとえば、オオカミは人間と暮らすなかで警戒心の低い「イヌ」になり、人間も他の個体と共生する社交力を身につけていった)の例をあげながら、介護施設のようなケアの場でも、一種の「共進化」が起きているのではないか、と仮説を投げかける。

ケアされる側のように思える高齢者が、実はモノや人のいろいろな可能性を引き出している。たとえば、湯飲みを持ちながら「モシモシ」と言うおばあさんは、湯飲みから電話の可能性を引き出しているように見えるーーというのだ。

「みそのっこ」で起きていることも、「共進化」なのかもしれない。

おなじ場所に、異なる存在の居場所をつくる。「みそのっこ」の場合は、若者と高齢者の。ただ、その境界はあいまいにして、両者が自然とまざるようにする(たとえば「庭とフレミング」や中庭は、それぞれを橋渡しする縁側のような空間になっている)。

そして、一人ひとりがなるべく自由にふるまえるように、場をととのえる。

そうすると、“他者やモノの可能性を引き出す力”を、若者も高齢者も存分に発揮して、それぞれの「自分らしさ」を引き出すようになるーー。

もしかすると、そんな「共進化」をうながすのが、「あたりまえの、ごちゃまぜ」という場づくりの思想であり、実践なんじゃないだろうか。

「介護のある場づくり」は、みんなの居場所づくりになりうる

「みそのっこ」を訪れる前、僕は介護施設に対して「高齢者をケアする場所で、ちょっと寂しげな場所」という印象を持っていた。川原さんの言葉を借りれば、介護は遠いものだった。

しかし、取材を終えたあと、「みそのっこ」の景色に親しみを覚えている自分がいた。「このにぎやかなコミュニティにまざれたら、楽しそうだな」という気持ちが湧いてきたのだ。

介護がある場は、かならずしも高齢者をケアするためだけの場所じゃない。異なる存在の「あたりまえの、ごちゃまぜ」が生まれることで、関わる人々の誰もが、自分らしく生きるための居場所になりうる。僕や、あなたの居場所にだってなりうる。

「介護がある場づくり」は、僕ら自身の居場所づくり、でもあるのかもしれない。そう、「みそのっこ」のにぎやかさが教えてくれた。


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連載:“自分らしく生きる”を支えるしごと