

ケアの現場へ小旅行?ケアするしごとツアーレポート ケアするしごと、はじめの一歩 vol.05
Sponsored by 厚生労働省補助事業 令和6年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)
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生きていくうえでケアに関わりのない人はいない。けれど専門的な知識や経験があるからこそ、できること、支えられること、見える世界があるように思います。
そんな世界の一端にふれられる「ケアするしごとツアー」を介護に関心を持つ方々が集まるコミュニティ「KAIGO LEADERS」と「こここラボ」が共催し、開催しました。
ツアーの訪問先は東京・千葉・神奈川・栃木のユニークな取り組みをしている4つの介護・福祉事業所。
今回の記事では、2024年12月から2025年1月に行われた全4回のツアーの様子と、参加者からのコメントをお届けします。
「ありのまま、その人らしく居られる場所」を目指す「52間の縁側」(千葉県八千代市)
はじめにたずねたのは千葉県八千代市にある「52間の縁側」。
窓が大きくて、横に長い建物。学校のプール3個分くらいの長さの縁側。子どもの頃、近所にこんな遊び場があったら通いたくなるような景色が広がっています。

この場所は、千葉県習志野市で、宅幼老所を運営してきた有限会社オールフォアワンの事業所のひとつ。高齢者が日中通ってくるデイサービスでありながら、近所の子どもたちから大人までさまざまな人が「ありのまま、その人らしく居られる場所」を目指し、2022年にオープンしました。
集合時間に、ツアーの参加者が合流し、自己紹介を終えると、カフェスペースに移動。コミュニティマネージャーの鈴木有希さんから、有限会社オールフォアワンのこれまでの取り組みについて共有後、次のようなアナウンスがありました。
鈴木さん:今日の限られた時間で皆さんができることって、この場で過ごしている人と関わることだと思います。積極的に関わってみてください。ただ広いスペースではないので一度に全員が入るのではなく分散して入ってもらえるとありがたいです。敷地内で焚き火も、ヤギの散歩もできますし、見学に来た方がこの風景の一部になることも強みだと思っているので、佇みながら、いろんなことを体験いただければ。



それぞれ自由に過ごした後は、再び集合し、代表の石井英寿さん、52間の縁側の建築設計を務めた山﨑健太郎さんと質疑応答の時間。
石井さん:介護って相関関係で、正解ってない。だからこそ思考停止にならず、敷地の外に出ようとする人がいたら、「なんでこういう行動するのか」その背景にあるものを考えることが大事だと思っています。
山崎さん:石井さんのビジョンを聞いていると、介護の話をしているのだけれど、共同体とかこれからどうやって生きていけばいいのかの話をしているように聞こえてくるんです。おたがいに助け合った方がいいとか、自分たちが思うように生きていけばいいとか。それはもっと多くの人に必要な哲学でもあるんだと思います。

おふたりの話を聞いた後は、参加者それぞれがなにを受け取ったのか感想を共有する時間を経て、ケアするしごとツアー「52間の縁側」編を終えました。
ツアー参加者のコメント
「子どもから大人まで、さまざまな人がいることで、多様な関わりが生まれる、それがいい」という話が興味深かったです。高齢者だけとか似たような属性の人だけがいるのではなく、子どもとかヤギとか見学者とかがいることで、自然に会話がはじまったり、人との関わりが生まれたり、直接関わらなくても眺めていたり、それがすごいと思いました。どうすれば「52間の縁側」のような場をつくれるのか、そのまま同じことはできないと思うので、もっと勉強してみたくなりました。(鈴木颯斗さん/大学生)
「自分らしく生き、一人の価値のある人間として存在したい」を支える「あおいけあ」(神奈川県藤沢市)
続いてたずねたのは、神奈川県藤沢市にある「あおいけあ」。
小田急江ノ島線の最寄り駅から、住宅街を通り抜け、10分ほど歩くと到着。屋根の低い建物がいくつかあり、事前に調べていなければ、ここが介護施設であることに気づかないだろう風景がありました。


この場所には、株式会社あおいけあが運営する、複数の施設(グループホーム/小規模多機能型居宅介護)があります。あおいけあは「認知症になっても住み慣れた環境のもと、穏やかに年を重ねたい」「命ある限り自分らしく生き、一人の価値のある人間として存在したい」そんな願いを実現できる福祉サービスを提供しています。
介護のしごとのイメージって?/あおいけあ代表 加藤忠相さん
加藤さん:「高齢者の面倒を見る」ことが介護のしごとだと思っている方もいるかもしれません。介護保険法第二条2項をみてみると「要介護状態等の軽減又は悪化の防止に資するよう行われるとともに、医療との連携に十分配慮して行われなければならない」 と書かれています。介護事業として、我々がお金をもらうには、ここで過ごすおじいちゃんおばあちゃんたちに元気になってもらうとか、維持してもらうサービスを提供する必要があるんです。
4項には、「第一項の保険給付の内容及び水準は、被保険者が要介護状態となった場合においても、可能な限り、その居宅において、その有する能力に応じ自立した日常生活を営むことができるように配慮されなければならない」とあります。なので利用者がお茶を飲みたいときに、入れてあげるのではなくて、どうしたら本人が自分でお茶を入れられるのか考えて、その環境をつくるのが仕事なんです。

その後、加藤さんの案内で、グループホームをのぞく3つの建物と、あおいけあがオーナーを務める賃貸住宅「ノビシロハウス」を見学し、「あおいけあ」のツアーを終えました。


ツアー参加者のコメント
建物内にあった駄菓子屋の話が印象に残っています。昔駄菓子屋をやっていたおばあちゃんがいたから、駄菓子屋をやりはじめて、その方が亡くなったら、やめたという。システムとか既にあるものにご利用者さんを当てはめるんじゃなくて、一人ひとりのやりたいことを見つけていく姿勢がすごく響きました。(中村有沙さん/フリーランス)
テクノロジーを活用し、ケアの質をあげる「サンタフェガーデンヒルズ」(東京都大田区)
第3回でたずねたのは、東京都大田区にある「サンタフェガーデンヒルズ」。
最寄り駅から20分ほど歩き、到着すると、マンションのような大きな建物が。これまで訪れた、2つの場所と比較すると、また違う雰囲気を感じます。

この場所は、介護福祉事業を手がけている社会福祉法人善光会が運営する複合福祉施設。地上10階建ての中に、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、障害者支援施設、デイサービス、通所リハビリテーションなどが入っています。特徴は、テクノロジー活用に積極的な点です。
テクノロジーをどう活用している?/善光会のサンタフェ総合研究室 田部井 達也さん
田部井さん:業務分析を大事にしています。現場の職員がどういうところに悩んでいるのか、問題があるのか。業務にかかる時間だったり、それに対する負担の大きさ(身体的・精神的)などを見える化をして、課題を明確にしたうえで、テクノロジーがどう活用できるのか検討しています。
前提として、ケアの質をあげること、利用者の満足度を落とさないことを目指しており、そのためには利用者への「直接介助(利用者の身体に触れる等、直接的にケアを行う業務)」にかける時間を充実させることが大事だと思っています。ですので、それ以外の部分の業務をシステム化し、効率化できるようにしているんです。

その後、実際にテクノロジーがどのように活用されているのか見学へ。途中、特別養護老人ホームでフロアリーダーとして働く方にもお話を伺い、インカムやタブレットをはじめとする機器がどう活用されているのか教えていただきました。

ツアー参加者のコメント
正直、テクノロジーの導入って本当に大丈夫なのか、介護のしごとをテクノロジーに任せていいのかと疑っている部分もあって。でもテクノロジーを導入する理由が、利用者との関わりの部分に職員が時間を割けるようにすることで、ただ効率化するのではない目的意識がすばらしいと思いました。
ツアーが終わった後、働いてみたいと思って、派遣スタッフを募集していないか問い合わせもしました。(青木琢真さん/介護職)
「誰もが関わり合い孤立しない街づくり」を目指す「えんがお」(栃木県大田原市)
最終回でたずねたのは、栃木県大田原市にある「一般社団法人えんがお」です。
集合場所付近に車を停めると、ちいさな商店のような建物が近くにありました。看板には「ごちゃまぜ」「おもしろ」「まちづくり」と書かれており、その中からボールをもった子どもたちが外に出かける様子も。

この場所は、えんがおが運営する拠点のひとつ。えんがおは、多世代交流サロンやグループホーム、地域食堂、子ども園、障害者施設など9つの施設を運営し、子どもや高齢者、障害のある人など、誰もが関わり合い孤立しない街づくりを目指して活動しています。
問題が大きくなる前にできること/えんがお代表 濱野将行さん
濱野さん:現状の制度だと、たとえば高齢のおばあちゃんが毎日ひとりぼっちでいるだけでは福祉サービスが提供されづらい状況にあります。介護が必要になってはじめて専門職が携わりはじめる。精神障害のある方も、症状や状況が悪化して、「問題行動」と呼ばれてしまうことを起こして、専門職がフォローしはじめることが多い。問題が大きくなる前に、もうちょっとできることがあるんじゃないか。どうすれば日常で予防できるかというところに力を入れています。

その後、複数ある拠点を、えんがおに通う小学6年生のもっくんと濱野さんに案内いただきました。
もっくん:ここは「地域に必要な食堂」だと僕は思ってるんですけど。週に何回か、えんがおで過ごすおばあちゃんたちが料理を作って、おもてなしする「おばあちゃん食堂」をひらいていたりします。


もっくん:ここはもともと駐車場だったらしいんですけど使われなくなっていて。じゃあえんがおで遊び場として使わせてもらおうとお願いして、地域の子どもたちとか学生とかがバスケとかサッカーとかして、どんどん関わりが生まれてきました。でも遊んでいるとたまにテンションがあがりすぎちゃって、「子どもの声がうるさい」って感じで苦情がきて。時と場合によっては、ボール遊びと大きな声は出しちゃダメっていうふうになりました(笑)。でもここで遊ぶと子どもたちの交友関係とかが生まれて、いいところです。
濱野さん:苦情をいただいたときに、子どもたちとスタッフと話をして、落とし所を決めました。こういったときの唯一の正解ってなくて。苦情を伝えてくれた人に、こちらのスタンスを伝えてみるのがいいかもしれないし、ここでは遊ばない判断をすることもときには必要かもしれない。特に地域に密着してやっていくってことは、正解がわからないことばっかりなんです。
後半には、濱野さんから徒歩圏内に拠点を集約させている理由や事業をはじめたきっかけなどお話があり、ツアーを終えました。
ツアー参加者のコメント
誰がスタッフで誰が利用者か本当にわからなくて衝撃を受けました。わたし集合時間よりすこし前に着いて、拠点のなかで待ってたら、ドッチボールに向かう方々が何人かいて。「一緒に行く」って誘ってもらって気づいたら一緒にドッチボールしていました。その間、誰が利用者で、スタッフなのか、わからず一緒にたのしんでいて、それがおもしろかったです。(石塚史華さん/行政職員)
それぞれの日常を垣間見て
実際に現地をたずねて過ごしてみることで伝わってくるものが多くありました。その場所までの道のりにあったお店や景色、ツアー先が運営する建物の大きさ、過ごす人の声の大きさ、漂ってくるご飯のにおい、すれ違う人とのちょっとした挨拶。
たくさんのものを受け取ったのですが、限られた時間でその場所をわかった気になるのは避けたいきもちも芽生えています。滞在したのは1日、それもたった数時間。今回たずねたどの場所も、ある人にとっての日常です。わたしの暮らしに、これまでの積み重ねがあり、日々変化があるように、訪問先にもそれが存在します。
そう考えると、ケアするしごとは、誰かの日常や暮らしを支えるしごとであり、自分はどう生きたいのか問われるしごとなのかもしれない。ますます興味をもった筆者は、ツアー期間中に、ガイドヘルパーの資格をとり、移動支援のしごとをはじめていました。



各訪問先についてさらに知りたくなったら
・自分らしく生きるってなんだろう? 一人ひとりの人生に向き合う介護事業所「あおいけあ」をたずねて / リンクはこちら
・居場所ってなんだろう? 人が自然と集まる場所を目指す「52間の縁側」をたずねて / リンクはこちら
・最新テクノロジーを導入しているサンタフェガーデンヒルズに、本田望結さんが潜入! / リンクはこちら
・「一般社団法人えんがお」ウェブサイト / リンクはこちら
Information
共催:KAIGO LEADERS(株式会社Blanket)、こここラボ(株式会社マガジンハウス)
※「ケアするしごとツアー」は、厚生労働省補助事業 令和6年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)(実施主体:マガジンハウス)にて実施しています。
ケアするしごとツアー案内ページ(今年度は実施終了) / リンクはこちら