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【画像】本棚の前に立つ上野智美さん【画像】本棚の前に立つ上野智美さん

上野智美さん【編集者】 働くろう者を訪ねて|齋藤陽道 vol.19

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手話を第一言語とする「ろう者」はどんな仕事をしているのでしょうか。

連載「働くろう者を訪ねて」では、写真家であり、ろう者である齋藤陽道が、さまざまな人と出会いながらポートレート撮影とインタビューを重ねていきます。

最終的な目的は、働くろう者たちの肖像を1冊の本にすること。その人の存在感を伝える1枚の写真の力を信じて、「21世紀、こうして働くろう者がいた」という肖像を残していきます。(連載全体のステートメントはこちらのページから)

第19回は鳥取県米子市で編集者として働く、上野智美(うえのともみ)さんを訪ねました。

上野智美さん【編集者】

【画像】本棚の前に立つ上野智美さん

―お名前、年齢、ご職業は?

上野智美といいます。36歳、寅年生まれ。本の編集者でもあり、デザイナーでもあります。最近はプランナーもしています。

―出身地はどこですか。

愛知県名古屋市です。

―今まで通っていた学校はどこですか。

地元で小中を過ごし、名古屋市立工芸高等学校のインテリア科に通っていました。そして筑波技術短期大学(現在・筑波技術大学)のデザイン科へ行きました。

小さいころからものをつくることが好きで、小学低学年のときには「私は絵を描くのが好きだ!」とはっきりと意識していました。立体的なものは専門的なところで学ばなきゃできなさそうだったので、高校はインテリア科を選択したんです。

父が「こういう高校があるよ」と名古屋市立工芸高等学校を薦めてくれたんです。父もそこの機械科を卒業していたということが後からわかりまして、とてもびっくりしましたね。

―こどものときの夢は何でしたか。

小学校6年のときはイルカの調教師……でしたが、中学のときはスコットランドに行くことでした。特に何をしたいわけではなくただ行きたかったんです。高校のときは映画の大道具や小道具を作る人でした。

―これまでの職歴、経歴は?

筑波技術短期大学を出たあと、東京の大手出版社・学研に入社しました。東日本大震災がきっかけで夫の祖父母がいる鳥取へ引越しました。先に夫が引っ越しして、2年後に私も鳥取へ。今はここ、今井印刷株式会社に勤務しています。

―編集者になろうと思ったきっかけは?

気づいたらなっていました。前の会社では書籍や雑誌関連の編集だけでしたが、今井印刷では編集やデザインから広報やWebまでなんでもやらなければならなくて。

「小さな会社だからできるひとはどんどんやって」という雰囲気があったので、今は企画も編集もデザインもやり、外から仕事をもらってくることもあります。積極的に仕事を見つけて、自分から動いています。

入社面接では「デザインも編集もできます!やります!」とアピールしていました。

―デザインは筑波技術短期大学で学びましたか?

高校生のころから趣味で、パソコンのソフト・Illustrator、Photoshopをつかって絵を描いていました。大学で本格的にデザインを学びました。

きちんとしたセミナーのポスターよりも、楽しい、わくわくするようなイベントのポスターデザインのほうが得意です。

―社内でのコミュニケーションで工夫していることは?

全員Skypeに入り、そこで文字チャットでミーティングをしているので、情報保障の面での不便を感じたことはありません。

学研にいたころはMessengerを導入してもらうように頑張ってお願いしていました。「編集長や編集者は席にいないことが多い。全員揃うのを待つよりも、Messengerを利用すれば見たいときに見れる」という向こう側のメリットもアピールしたら導入してくれました。顧客との会話では、補聴器を付けて、口の形を読み取って話を聞いています。

―これまでに企画した中で、特に思い入れがあるものは?

この本『山陰クラフトビール ─こだわりのビールが地域を変える』です。企画を出してから出版できるまで、2〜3年かかりました。当時はクラフトビールの知名度も低くて、数も少なかった。山陰地方では4社だけだったかな。でもしばらくたったら新しいクラフトビール社が3社も出てきて、これは!と思ってより一層力を込めて企画をアピールしました。売れなかったら…というプレッシャーもありましたが、おかげさまで今年2022年7月に『山陰クラフトビール2』も出せました。

―クラフトビールが大好きなんですね。

いえ、実はもともとビールはあまり好きじゃなかったんです。苦くて。でもある日飲んだビールが甘くて美味しくてびっくりして。これはどこのビールなんだろう?!と気になって調べてみました。それがクラフトビールとの出会いでした。でもあの甘いビールの正体はいまだにわかっていません。どこのだろう。ふふふ。

この本は私自身がほしかった情報が載っています。甘いビールが好きな人もいる、苦いビールが好きな人もいる。ビールの味を数値化したグラフも載っているこの本を読めば、簡単に自分の好きなクラフトビールを見つけることができます。

―この仕事をするとき、心がけていることは?

私は企画、編集などをすることはできますが、読者の気持ちを惹くような文章を書くことは……。もっと上手い人がいます。ライターさんなどの専門家に依頼したほうがいい。いろんな人の力を借りたほうが良い本ができると思っています。『山陰クラフトビール』も良い縁があって、できました。

聞こえない当事者だからこそ、より深く顧客の気持ちに寄り添って企画をつくりあげることができている、という自信はあります。特に障害問題を組み込んでいる企画ですね。知的障害をもつ子の親とかなり深いところまで話し合って、作った本もあります。

―5年後の自分は、どうなっていると思いますか?

現実的には本の仕事はすごく減ってきています。でも本がなくなることは絶対にありません。本を作ることはとても好きなので、それを続けていきたいです。そのころにはこどもたちが小学6年生になっているので、慌ただしい日々になっているかも。ねえ、小6ですよ。どうなってるんだろう。ふふ

―好きなたべものは何ですか?

お寿司! 鳥取に来てからハマったのは炙りサワラ。東京で暮らしていたときは記念日とか大事なときに食べるイメージがあったんですが、今では日常的な食事になりましたね。手軽に美味しいお寿司が食べられるんですよ。三食お寿司でもいいぐらい大好き。赤ちゃんを抱っこしていても片手でパクッと食べられるのもいいですよね。

―最近幸せだと思ったことは何ですか?

こどもが通っていた保育園の卒園文集の、「好きな絵本」の項目に、私が編集を手がけた絵本のタイトルが載っていたのをみつけたとき!「好きな絵本」に! すっごく嬉しかったですね。我が子ではなく、他の子のページに、というのももう嬉しかった。こどもたちが好きって言ってくれる絵本を作れたんだ、と思うと、本当に。

動画インタビュー(手話)

インタビューの様子や、日常の様子をまとめたこの映像には、音声も字幕もテロップもありません。写真だけではどうしてもわからない、その人の手話の使い方に滲みでてくることばの特徴を感じてもらうためです。
たとえ手話がわからなくても、そのリズムに目をゆだねてみてください。じわりと浸透する何かが、きっとあります。「こういうふうに話す人なんだなあ」と知ってもらった上で、写真を見てもらうと、見え方がまた変わります。

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