ニュース&トピックス

コスパ・管理の時代を、変えるカギは「利他」にある!? 3人の子どもとの公園遊びから生まれた書籍『遊びと利他』
書籍・アーカイブ紹介

  1. トップ
  2. ニュース&トピックス
  3. コスパ・管理の時代を、変えるカギは「利他」にある!? 3人の子どもとの公園遊びから生まれた書籍『遊びと利他』

書影。帯に、コスパと管理から自由になるために、の言葉。
北村匡平さんの新著『遊びと利他』(集英社)

「コスパ」や「タイパ」が重視され、映画や動画を倍速視聴する、隙間時間があればSNSを見るといったように、情報を多く、効率よく取り入れることが重視される現代。かつて「余白」としてあった時間の多くが失われつつあるなかで、子どもの「遊び」も大きく変化しているのをご存じでしょうか。

書籍『遊びと利他』は、そうした「効率化」や、リスクを排除し「安定」を求める大人の思考が、人間を形成していく重要な要素である「遊具」や「公園」にまで浸透している、と問題提起する一冊です。

著者は映画学、メディア論、社会学を専門にする北村匡平さん。日本における映画と文化・社会の関係を考えてきた視点から、東京科学大学(旧東京工業大学)の「利他プロジェクト」との出会いを経て、未来を担う子どもたちにとっての豊かな「遊び場」について研究を進めてきました。

過度に管理された環境は、子どもたちの自由な発想や創造性を損ないます。そのような状況に抗うには、どうすればよいのか? 国内外、さまざまな遊びの空間や道具に着目してきた著者が、「利他」との関係性を掘り下げていきます。

階段やすべりだいが自然に埋め込まれた、赤い大きな遊具の前に立つ男性
3人の子どもを育てる保護者でもある著者・北村匡平さん(撮影/杉山慶伍)

「遊び」から「利他的な空間」を考察する一冊

書籍『遊びと利他』は、全七章に序章と終章を合わせて構成されています。第一章では「利他」という用語や本書のアプローチについて、第二章では日本における公園や遊具がどのように変化してきたのかを、自らも子どもを育てる保護者として公園を利用してきた視点を交えながら説明します。

第三章から第五章では、異なるタイプの遊び場のフィールドを具体的に紹介。老舗遊具メーカーが運営する福井県敦賀市の〈第二さみどり幼稚園〉、大型複合遊具が設置されている都市公園である東京都世田谷区の羽根木公園の一画にある〈羽根木プレーパーク〉、大阪府南河内郡河南町の自然の中で幼児保育を行う〈森と畑のようちえん いろは〉の3つを事例に、遊具・空間・子どもの関わりを捉えます。

【写真】いくつかの白い遊具が芝生に置かれ、多くの子どもたちが遊んでいる
〈第二さみどり幼稚園〉を運営するのは、「こここインタビュー」でもご紹介したジャクエツグループ。本書にも登場するトランポリン遊具「YURAGI」(写真左)を含む、「RESILIENCE PLAYGROUND」シリーズは2024年度のグッドデザイン大賞を受賞した

各地のフィールドワークを経て筆者が考えていくのは、人がモノに、そしてモノが人に影響を与え合う「利他的な」関係性が、子どもの自由な発想や創造性を育むのではないか、という問いです。そしてその力は、「関係を取り結ぶプロセス」のなかで、人の意図をこえて引き出されていくものであり、道具や場にルールが厳密に設けられるほど、その可能性を狭めてしまうことにも気づかされていきます。

そこで、第六章では遊学論と称して、どのような遊びの空間に利他が生まれていくのかを、モノの形状や空間の作り方、大人の関わり方などから考察します。さらに第七章では、学びや娯楽の空間に視点を変え、子どもの育つ場全体に通ずる問題を検討していきます。

“子供の本質は時代を隔てても変わらない。現代の子供でも場所を変えれば思い切り遊びはじめるし、心から楽しんで危険なことにも挑戦する。変わったのは大人の意識と社会の環境のほうである”

(p278「第六章 遊学論――空間を組み替える」より)

「利他プロジェクト」から始まった遊びをめぐる研究

本書は20202月に設立された、〈未来の人類研究センター〉に端を発しています。北村さんは、2021年4月から2023年3月まで所属していました。

利他とは、自分のためではなく、自分でないもののために行動すること。しかし、その行為が相手に喜ばれなかったり、「本当に嬉しいのだろうか」と疑ってしまったりして、利他的な行動の難しさに悩むこともあるかもしれません。

同じように悩んだ北村さんは、プロジェクトメンバーとの対話などを通じて、行為を取り巻く環境に視点を移していったことが本書の執筆に繋がったといいます。

“与え手と受け手、すなわち人から人へという「人間モデル」で利他を考えるのではなく、人を媒介するモノや、人の行為の文脈を作るスペースーーすなわち、利他の「空間モデル」に意識が向いていった”

(p330「あとがき」より)

国内外で4年に渡り、公園や幼稚園の園庭、冒険遊び場、森のようちえんなどを対象にフィールドワークを行ってきた北村さん。今後もフィールドを広げながら研究を続けていく予定で、2025年には、日本・海外それぞれの遊具にフォーカスした書籍や、遊具の歴史を紐解く本も出したいと意気込みを語ります。

書籍『遊びと利他』は、遊び場づくりや子どもの教育に関心のある人はもちろん、広く社会が抱えている問題にも踏み込んでおり、現代社会論としても学びのある一冊です。強まる管理社会のなかで、「利他的な」環境をいかに構築し、人の創造力を引き出すか。ぜひ、本書を通して考えませんか。