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コスパ・管理の時代を、変えるカギは「利他」にある!? 3人の子どもとの公園遊びから生まれた書籍『遊びと利他』
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「コスパ」や「タイパ」が重視され、映画や動画を倍速視聴する、隙間時間があればSNSを見るといったように、情報を多く、効率よく取り入れることが重視される現代。かつて「余白」としてあった時間の多くが失われつつあるなかで、子どもの「遊び」も大きく変化しているのをご存じでしょうか。
書籍『遊びと利他』は、そうした「効率化」や、リスクを排除し「安定」を求める大人の思考が、人間を形成していく重要な要素である「遊具」や「公園」にまで浸透している、と問題提起する一冊です。
著者は映画学、メディア論、社会学を専門にする北村匡平さん。日本における映画と文化・社会の関係を考えてきた視点から、東京科学大学(旧東京工業大学)の「利他プロジェクト」との出会いを経て、未来を担う子どもたちにとっての豊かな「遊び場」について研究を進めてきました。
過度に管理された環境は、子どもたちの自由な発想や創造性を損ないます。そのような状況に抗うには、どうすればよいのか? 国内外、さまざまな遊びの空間や道具に着目してきた著者が、「利他」との関係性を掘り下げていきます。
「遊び」から「利他的な空間」を考察する一冊
書籍『遊びと利他』は、全七章に序章と終章を合わせて構成されています。第一章では「利他」という用語や本書のアプローチについて、第二章では日本における公園や遊具がどのように変化してきたのかを、自らも子どもを育てる保護者として公園を利用してきた視点を交えながら説明します。
第三章から第五章では、異なるタイプの遊び場のフィールドを具体的に紹介。老舗遊具メーカーが運営する福井県敦賀市の〈第二さみどり幼稚園〉、大型複合遊具が設置されている都市公園である東京都世田谷区の羽根木公園の一画にある〈羽根木プレーパーク〉、大阪府南河内郡河南町の自然の中で幼児保育を行う〈森と畑のようちえん いろは〉の3つを事例に、遊具・空間・子どもの関わりを捉えます。
各地のフィールドワークを経て筆者が考えていくのは、人がモノに、そしてモノが人に影響を与え合う「利他的な」関係性が、子どもの自由な発想や創造性を育むのではないか、という問いです。そしてその力は、「関係を取り結ぶプロセス」のなかで、人の意図をこえて引き出されていくものであり、道具や場にルールが厳密に設けられるほど、その可能性を狭めてしまうことにも気づかされていきます。
そこで、第六章では遊学論と称して、どのような遊びの空間に利他が生まれていくのかを、モノの形状や空間の作り方、大人の関わり方などから考察します。さらに第七章では、学びや娯楽の空間に視点を変え、子どもの育つ場全体に通ずる問題を検討していきます。
“子供の本質は時代を隔てても変わらない。現代の子供でも場所を変えれば思い切り遊びはじめるし、心から楽しんで危険なことにも挑戦する。変わったのは大人の意識と社会の環境のほうである”
(p278「第六章 遊学論――空間を組み替える」より)「利他プロジェクト」から始まった遊びをめぐる研究
本書は2020年2月に設立された、〈未来の人類研究センター〉に端を発しています。北村さんは、2021年4月から2023年3月まで所属していました。
利他とは、自分のためではなく、自分でないもののために行動すること。しかし、その行為が相手に喜ばれなかったり、「本当に嬉しいのだろうか」と疑ってしまったりして、利他的な行動の難しさに悩むこともあるかもしれません。
同じように悩んだ北村さんは、プロジェクトメンバーとの対話などを通じて、行為を取り巻く環境に視点を移していったことが本書の執筆に繋がったといいます。
“与え手と受け手、すなわち人から人へという「人間モデル」で利他を考えるのではなく、人を媒介するモノや、人の行為の文脈を作るスペースーーすなわち、利他の「空間モデル」に意識が向いていった”
(p330「あとがき」より)国内外で4年に渡り、公園や幼稚園の園庭、冒険遊び場、森のようちえんなどを対象にフィールドワークを行ってきた北村さん。今後もフィールドを広げながら研究を続けていく予定で、2025年には、日本・海外それぞれの遊具にフォーカスした書籍や、遊具の歴史を紐解く本も出したいと意気込みを語ります。
書籍『遊びと利他』は、遊び場づくりや子どもの教育に関心のある人はもちろん、広く社会が抱えている問題にも踏み込んでおり、現代社会論としても学びのある一冊です。強まる管理社会のなかで、「利他的な」環境をいかに構築し、人の創造力を引き出すか。ぜひ、本書を通して考えませんか。
infomation
書籍『遊びと利他』
著者:北村匡平
発売日:2024年11月15日
出版社:集英社
ページ数:336ページ
Webページ:集英社
目次:
序 章 21世紀の遊び場
第一章 利他論――なぜ利他が議論されているのか
第二章 公園論――安全な遊び場
第三章 遊びを工学する――第二さみどり幼稚園
第四章 遊びを創り出す――羽根木プレーパーク
第五章 森で遊びを生み出す――森と畑のようちえん いろは
第六章 遊学論――空間を組み替える
第七章 学びと娯楽の環境
終 章 利他的な場を創る
著者:北村匡平(きたむら きょうへい)
映画研究者/批評家。
東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授。1982年山口県生まれ。東京大学大学院学際情報学府修士課程修了、同大学博士課程単位取得満期退学。
日本学術振興会特別研究員(DC1)を経て、現職。専門は映像文化論、メディア論、表象文化論、社会学。
単著に『椎名林檎論――乱調の音楽』(文藝春秋)、『24フレームの映画学――映像表現を解体する』(晃洋書房)、『美と破壊の女優 京マチ子』(筑摩選書)など多数。
問い合わせ先:株式会社集英社 広報部
03-3230-6314(平日10-17時)