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大阪ミナミの街に「若者」のセーフティネットを。〈D×P〉ユースセンター開所から1年、未来につなぐクラウドファンディング
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週に2日、16:00〜22:00に開かれるユースセンター(撮影:こここ編集部)

9カ月で約4000人が訪問。週2オープンの場が「支援」につながる

立体看板がいくつも立ち並び、たくさんの観光客が行き交う大阪“ミナミ”の繁華街、道頓堀。賑やかな通りから少しだけ離れたとあるビルの中に、もうすぐ開所1年を迎える、10代〜20代のためのスペースが広がっています。

安心できる場所で、ゆっくり過ごす。温かいごはんを食べる。大人にちょっとした相談に乗ってもらう——。ここに通うユース世代の多くは、子どもであれば本来、「当たり前」にあっていいはずものを、さまざまな理由で得づらい状況に置かれてきました。

そんな若者の現状をよく知る〈認定NPO法人D×P〉が、新たなセーフティネットとして、2023年6月末にオープンさせたのがこの「ユースセンター」。ソファやクッション、漫画、ゲーム、食事などの提供を通してユース世代がゆっくり過ごせる空間をつくりながら、行政や福祉・医療の専門家と連携し、その悩みに寄り添っています。

2023年度(2023年6月27日〜2024年3月31日)のユースセンター利用者数は764人(延べ3991人)

場が開かれているのは週2回、16:00〜22:00。1日平均50名以上が訪れるなか、若者たちからは開所日以外にもさまざまな相談が寄せられ、具体的な「支援」につながるケースも増えています。

一方で本事業には、現時点で行政からの支援は入っておらず、寄付を中心とする〈D×P〉の運営予算の中でまかなってきました。ニーズが高まるこの事業をより安定させ、また未来に継続させるために、2024年7月1日までCAMPFIREでクラウドファンディングが行われています。

ユース世代の声に耳を傾けてきた〈認定NPO法人D×P〉

「ユース世代に、セーフティネットと機会提供を」。ミッションにそう掲げる〈D×P〉は、大阪を拠点に十数年間、若者の支援を行ってきた団体です。

周囲から見えづらい困難を抱えていても、公的なサポートを得づらいユース世代の声に耳を傾け、LINEを使ったオンライン相談の「ユキサキチャット」、食糧や現金給付の「ユキサキ支援パック」などの事業を生み出してきました。

「ユキサキ支援パック」の配送現場。アレルギーや生活状況などを踏まえ、スタッフが一箱ずつ手で詰めて、若者に食糧を支援している(撮影:進士三紗)

昨年〈こここ〉では、創業期から団体を支える入谷佐知さん(ディレクター/COO)にインタビュー。2億円近い〈D×P〉の経常収益(2022年度)の9割以上が「寄付」であった背景を伺いながら、ユース世代の声に向き合い続ける難しさと重要性を教えていただきました。

そんな〈D×P〉では、2022年夏から「街中アウトリーチ事業」として道頓堀のグリコ看板の下(通称:グリ下)付近にテントを出し、月数回のフリーカフェを開催してきました。お菓子や飲み物、生理用品などを無料配布しながら、訪れる10代〜20代と関係性を築いていき、必要に応じてさまざまな相談にも乗る取り組みです。

この活動を続けるなかで、〈D×P〉はこれまで以上に「繁華街に来る若者の新しいセーフティネットが必要だ」と感じてきたといいます。そこで2023年6月末、テントの拠点をグリ下から徒歩5分のビル内に移転。「ユースセンター」をオープンさせ、若者がより集まりやすく、また支援に手をのばしやすい環境づくりを始めました。

D×P「活動報告書2022-23」より

安全と信頼関係を大切にしてきた「ユースセンター」

開所から1年。今回、入谷さんの案内で訪れたユースセンターは、口コミで利用者が増え続けるなか、大きく3つの機能を担う場所になっていました。

1つは、食事や休息などを通じて、ユース世代が「エネルギーをためられる」空間としての機能。そのためセンター内では、希望する若者たちに食事、ドリンク、衣類などを無償で提供しています。

同時に、フロアを階段状にし好きな場所を選んでくつろげるようにしながら、マンガや家庭用ゲーム機など娯楽のアイテムもさまざまに用意。一人でゆったり寝転んだり、友だちと過ごしたりできるよう工夫がされています。

マンガがシリーズごとにずらりと並ぶ本棚。横にはギターも置かれていた(撮影:こここ編集部)
入口からは見えない、階段下のスペースに入ってみた〈こここ〉の編集部メンバー。2つのモニターの前に、ゲーム機がいくつも置かれている(撮影:こここ編集部)
地元の企業や団体から提供を受けている新品の服は、誰でも持ち帰ることができる(撮影:こここ編集部)
街を歩く若者にとって「電源」は貴重なライフライン。コンセントのある場所はいつも人が集まるという(撮影:こここ編集部)

そうやって安全な場所をつくったうえでの、ユースセンター2つ目の機能は、「これからについて一緒に考えてくれる人とつながれる」場になることです。

これまで、さまざまな事情で大人に頼ることができなかった若者たちに、困りごとの相談をしてもらうのは簡単ではありません。それでもスタッフは、訪れるユース世代と同じ時間を過ごしながら、少しずつ会話の糸口をつかみ、互いの信頼関係を深めていきます。

コミュニケーションのきっかけになりそうなボードゲームや、興味を広げてくれそうな実用書も並ぶ(撮影:こここ編集部)
OD(オーバードーズ:薬の過剰摂取)や未成年飲酒について、寄せられた相談に回答しているホワイトボード。〈D×P〉では、そうした行為に及ばざるを得ない背景にまずは目を向け、一人ひとりを受け止めることから始めている(撮影:こここ編集部)
〈D×P〉のスタッフだけでなく、外部の専門家にもユースセンターの中で相談できる。写真はトイレの内ドアに貼られていた、〈スマルナステーション〉による助産師訪問の案内(撮影:こここ編集部)

こうした環境設計と関係づくりの上に、ユースセンター3つ目の機能、「自分の意見が尊重され、主体的に活動ができる」場が育まれていきます。

ここに通うユース世代の中には、それまで周囲の大人から自身の状態や気持ちを尊重される経験を積むことが難しかった若者も少なくありません。だからこそ、ユースセンターに来て、自分の意見が大切に扱われる経験を重ねることに大きな意義があります。

例えばスタッフがつくっているご飯も、「食べない」選択ができる。苦手な食べ物があればその食材を抜くこともできるし、だれかの手作りしたものに抵抗があるならレトルト食品を食べることもできます。他にも新しく買うクッションを選んだり、ほしい備品があれば言ったり……ほんの小さなことでも、自分の気持ちが尊重され、それがリアクションされる経験を得られるような場になっています。

まだ1年弱の活動ですが、〈D×P〉はそうした積み重ねが若者の選択肢を広げるうえで非常に重要だと、強く認識するようになりました。

未来につなげる2000万円のクラウドファンディング

2023年度のユースセンターでの相談件数293件の内訳(2023年6月27日〜2024年3月31日)

多くの若者が利用するに従って、ユースセンターから福祉的、あるいは医療的な支援につながるケースが多数生まれてきました。金銭面における「給付支援」、あるいは妊娠や暴力などに伴う、関係機関への「同行支援」などの件数も増加しています。

当然〈D×P〉の負担は重くなり続けています。ユースセンターの家賃に加え、スタッフの人件費、物品購入や給付に必要なお金。同行支援した若者の診療費を〈D×P〉が支払うケースもあります。

現在開催中のクラウドファンディングは、その運営資金を募る活動です。外からは成果が見えづらい面もあるこの事業を何とか継続させつつ、繁華街の中に若者の新しいセーフティネットを構築することを目指しています。

ユースセンター事業は、オンラインをベースにしたユキサキチャットを利用するユース世代とは、また異なる方に届いていると感じます。街の口コミで訪れてくれた若者の中には、過去さまざまな理由で、「誰かに相談しよう」という考え自体を持つことができなかった人も少なくないんですね。そんな彼らと時間をかけて関係性を築きながら、もし困っていることがあれば、頼ってもらえるような場をつくっていこうとしています。スタッフの新規採用をはじめ、運営体制をより充実させて、ユース世代の可能性を少しでも広げられたらと考えています。(入谷さん)

振り返ると、私たちの日々の困りごとも、すべてが「◯◯してほしい」と人に伝えられる言葉になっているわけではありません。まだ自分でもはっきりしていない問題が、“ちょっとした悩み”として口から出るのは、どんな場面でしょうか。その時、どんな人が傍にいてくれたら言いやすいでしょうか。

〈D×P〉のユースセンターでは、社会から見過ごされやすい立場にある10代〜20代の、本当の声や気持ちを引き出そうとさまざまな工夫を重ねてきました。ユースセンターが中継地となって、若者がさまざまな社会資源とつながるケースもいくつも生まれています。

それを前に進める、今回のクラウドファンディングは目標2000万円。7月1日(月)まで受け付けていますので、詳細が気になる方はぜひInformation欄にあるサイトをのぞいてみてください。

(撮影:こここ編集部)