ニュース&トピックス

「翻訳できない わたしの言葉」展が東京都現代美術館で4月18日〜7月7日に開催
展覧会情報

  1. トップ
  2. ニュース&トピックス
  3. 「翻訳できない わたしの言葉」展が東京都現代美術館で4月18日〜7月7日に開催

【画像】展覧会タイトル

5人のアーティストの、それぞれの言葉を掘り下げる企画展

世界は言葉であふれています。国ごとの言語、地域ごとの方言、手話、身体を使った表現など、カテゴリーはさまざま。さらに、語彙の選び方、微妙なニュアンス、身振り手振りなど、話す相手や環境に応じて、言葉は形を変えていきます。

1日に、目や耳に入ってくる言葉の量は、あまりにも膨大です。でも、一つ一つをよく見ると、発した人の個性や人生が表れているのだと分かります。

〈東京都現代美術館〉で4月18日(木)から、グループ展「翻訳できない わたしの言葉」が開催されます。ユニ・ホン・シャープさん、マユンキキさん、南雲麻衣さん、新井英夫さん、金仁淑さん、計5人のアーティストの作品を紹介。一人ひとりの「わたしの言葉」や、そこから見えてくる個人のアイデンティティについて考えます。会期は7月7日(日)までです。

「わたしの言葉」を置き換えず、そのまま受け取る試み

本展のタイトル「翻訳できない わたしの言葉」には、次のような思いが込められています。

……複数の言葉を使い分ける人もいるでしょう。言葉にしなくても伝わる思いもあります。それらはすべて、個人の中にこれまで蓄積されてきた経験の総体から生まれる「わたしの言葉」です。……誰かのことを知ることは、その人の「わたしの言葉」を、別の言葉に置き換えることなくそのまま受けとろうとすることから始まるのではないでしょうか。(本展HPより)

参加アーティストの1人であるユニ・ホン・シャープさんは、「わたしの言葉」について、「発音」という視点から考えます。今回展示される映像作品「RÉPÈTE|リピート」(2019年)は、フランス語で「繰り返す」という意味。東京都生まれで、現在は日本とフランスの2拠点で活動するユニ・ホン・シャープさんは、フランス語を第一言語とする長女に「Je crée une œuvre(私は作品を作る)」というフランス語の発音を訂正してもらいます。母語以外の言葉に苦戦する様子を描いた本作は、たとえ発音が正しくなくても、本人にとって大切な「わたしの言葉」なのだと示しています。

【写真】部屋の中で、こちらへ向かって話している女の子。「Je crée une œuvre(私は作品を作る)」という字幕が表示されている
ユニ・ホン・シャープ《Répète | リピート》2019年

北海道出身・在住でアイヌであるマユンキキさんが展示するのは、2つの映像と彼女にとってのセーフスペースとなる空間です。写真家の金サジさんとの対話映像では、「第一言語になり得たかもしれない言葉を、改めて学ぶこと」について語り合います。アートトランスレーターの田村かのこさんと対話する映像は、「話す言語を自ら選択する意義」がテーマ。自分を作り上げてきたもの・人々・言葉を丁寧に提示します。

【写真】手鏡を見ながら、口に紅を引く女性
マユンキキ Photo by Hiroshi Ikeda

手話、からだの声、外国語に耳を澄ませる

本展は、音声言語や文字による言葉だけでなく、手話言語や身体表現にも焦点を当てています。

ダンサー・パフォーマーである南雲麻衣さんは、3歳半で失聴し、7歳で人工内耳適応手術を受けた経験を持ちます。もともとの母語は音声日本語でしたが、大学時代に日本手話と出会い、現在は第一言語に。本展では、言語の獲得や言葉との付き合い方を描いた、映像インスタレーションを展示します。音声言語と、手話言語のはざまで揺れ動きながら、「わたしの言葉」を選択する過程が紹介されています。

【写真】公園の遊具の間から顔をのぞかせる女性
南雲麻衣 Photo: 齋藤陽道

言葉になる前の「からだの声」にフォーカスするのは、体奏家・ダンスアーティストの新井英夫さん。障害や年齢によって、思い通りに言葉を発しづらかったり、体を動かしにくかったりする人たちに向けて、身体表現ワークショップを開催してきました。

今回展示するのは、鑑賞者の「参加型」作品。室内に流れる微かな音に耳を澄ませたり、体の細かな動きを意識したりする仕掛けが準備されています。自身のALS(筋萎縮性側索硬化症)と向き合う新井さんの「日記的即興ダンス映像」も、身体と言葉のつながりについて考えるきっかけを提供します。

【写真】男の子と笑顔で踊る男性
新井英夫 親子WSで輪になって即興ダンスセッション!! ©水都大阪2009

最後に紹介する参加アーティストの金仁淑さんは、滋賀県にあるブラジル人学校〈サンタナ学園〉を取り巻く日常や出会いを、映像インスタレーションに収めました。約80名の子どもたち、教師や支援者など、一人一人と丁寧に向き合って作られた「Eye to Eye」は、2023年恵比寿映像祭コミッション・プロジェクト特別賞受賞を受賞。言語や文化の違いを越え、互いに見つめあうことの意義を、観る側へ投げかけています。

【写真】暗い会場の中に展示された、子どもたちの写真
金仁淑《Eye to Eye》2023年 恵比寿映像祭2023コミッション・プロジェクト ©KIM Insook

感覚を研ぎ澄ませる鑑賞体験。アーティストと言葉を交わすチャンスも

本展では、会話の様子を映した映像作品が多く展示されます。映像の中の人の言葉に耳を澄ませ、時には目線を合わせて座ってみたり、移動してみたりと、身体感覚を研ぎ澄ませながら、言葉と向き合う構成になっています。

会期中は、トークイベントも開催予定。さらに、アーティスト本人が展示室に滞在する機会も設けます。本展を訪れた人とアーティストが、実際に言葉を交わし合う体験を創出します。

目の前の相手だけでなく、メディアやSNSなどでも、膨大な言葉が飛び交う毎日。「自分とは異なる誰かの「わたしの言葉」に耳を傾けながら、自分自身の「あなたの言葉」がいったいどんなものなのか、立ち止まって考えてみませんか。