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助産所の風景を通じて問われる「待つこと」とは。映画『1%の風景』11月11日よりポレポレ東中野ほか全国順次公開
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ドキュメンタリー映画『1%の風景』が11月11日より公開 ©2023 SUNSET FILMS

妊婦と助産師。命が生まれようとする“その時” を共に待つ日々をみつめた、ドキュメンタリー映画

「私ね、待つことが好きなの。」
「待って、待って、待って……待った結果が“命”だからね。いい仕事でしょ?」

〈つむぎ助産所〉(東京都練馬区)を営む助産師である渡辺さんは、ご自身のお仕事についてそう語ります。
これから母となる女性のお腹に触れ、顔を会わせ、何気ない会話を交わし、そばで寄り添う。妊婦と助産師は、そのようなささやかな日々の時間を積み重ね、信頼関係を築き、命が生まれようとする「その時」を一緒に待つのです。

助産所〈つむぎ助産所〉を営む助産師の渡辺愛さん ©2023 SUNSET FILMS

現在では、その存在すらあまり知られる事のない助産所。その助産所や自宅での出産を選択した4人の女性と、彼女たちをサポートする助産師の日々をみつめたドキュメンタリー映画『1%の風景』が、11月11日(土)より〈ポレポレ東中野〉(東京都中野区)ほか全国で順次公開されます。

映画『1%の風景』予告編/2023.11.11公開

命を産む「1%の風景」の中にある安心感と心強さと、私たちへの問いかけ

助産所とは、助産師が責任者として管理する医療法で定められた施設のことで、医師が常駐しておらず医療行為ができないため、分娩を取り扱う場合は、嘱託医や嘱託医療機関の確保をしています。9床以下と病院に比べて小規模で、一般住宅のような建物が多いため、妊婦にとってくつろぎやすい雰囲気です。
また、妊娠期から出産時までだけでなく、産後のケアや育児相談など、助産師が継続してサポートするのも特徴の一つです。

一方、現在の日本では99%のお産が、病院やクリニックといった医療施設で行われています。さらに近年では、高齢出産の増加や、出産日を事前に設定する計画分娩の普及によって、助産所でのお産件数はより減少傾向にあり、助産所自体も存続が難しくなっています。

助産所で生まれた赤ちゃん。病院ではコロナ禍で立ち会いが制限されることが多い中、家族に見守られて出産するシーンが登場します ©2023 SUNSET FILMS

そのような状況の中で、助産所や自宅での出産という「1%の選択」をした4人の女性と、彼女たちをサポートする助産師の日々に焦点を当て、4年間見つめ続けた作品が本作です。
監督は、今回が初のドキュメンタリー作品となる吉田夕日(よしだ ゆうひ)さん。第一子を病院で、そして第二子を助産所で出産した経験をきっかけに、助産師の仕事とその世界をもっと知りたいと制作を決意されたそうです。

『1%の風景』で監督・撮影・編集をつとめた吉田夕日さん ©2023 SUNSET FILMS

「いつでも頼れる助産師がそばにいてくれる安心感と心強さは、産後の不安や育児の悩みを抱える私たち家族に精神的、身体的な安定をもたらしてくれました。」
監督はそのように語ります。

この映画で描かれるのは、4人の女性の出産とそのサポートの日々です。「1%の風景」の中には、助産師が家族にもたらしてくれる安心感と心強さと共に、「待つこと」や「自分で決めること」そして「ケアとは?」といった、私たちの営みの根底にある本質的な問いが内包されています。

助産師が問いかける「待てなくなってしまった」私たち

「今、予定日って言われちゃっているからどうしても気になるんですけど、昔だったら赤ちゃんが産まれる時が、生まれる日よね。」

〈みづき助産院〉(東京都北区)を営む神谷整子さんは、出産の「予定日」という考え方について、このように語ります。

〈みづき助産院〉で生まれた赤ちゃんを抱き抱える家族 ©2023 SUNSET FILMS

冒頭の渡辺さんの言葉や、神谷さんのこの言葉。そして妊婦と助産師の、命が生まれようとする「その時」を共に待つ長い時間。本来はコントロールが難しい「命」の誕生に願いを込め、信じて身を委ねるような行為が「待つ」という事ではなかっただろうか、と感じるかもしれません。

「体が治るのを待つとか。子どもが生まれるのを待つとか。そういうのはなくなっちゃうのかね……」

渡辺さんが語るこの言葉からは「待てなくなってしまった」社会と私たちの姿が同時に浮かび上がってくるようです。

命を産み、育てようとする女性のそばに「居る」ということの大切さ

本作で多くの時間をかけてカメラが捉え続けているのは、妊婦に寄り添い続ける助産師の姿です。
お産への不安が日々続くなかで、そばに居て、話を聞いて、お腹や身体をさすり、妊婦の身体や心を理解しようと努める様子は、どれだけ妊婦に安心感と心強さをもたらしてくれることでしょう。本作は命を産み、育てる女性のそばに寄り添う人が居ることの大切さについても、想像させてくれます。

妊婦に寄り添い体調を気遣いながら話しかける助産師たち ©2023 SUNSET FILMS

「その人と一緒にいるときの時間、例えば“夕日が綺麗だな〜”とか。しゃべらなくても、そばにいる時間が好きなの。時間を共有させてもらうような感じかな。」

渡辺さんが話すこの言葉は、寄り添うことが「時間を共有すること」でもあるという気づきを私たちに与えてくれます。

「人が人を産むんだから、人が亡くなっていくんだから、だれか(そばに)いるといいんじゃないかなと思うんだけどね。」

とも渡辺さんは語ります。

命が産まれるとき、喪われるとき、あなたは一体どのようにしたいでしょうか?誰にそばにいて欲しいですか?渡辺さん言葉は、そのまま私たち自身への深い問いかけにもつながっている事に、気づくかもしれません。

自分自身で「決めた」女性たちの姿から問われているもの

さらに本作を通じて映し出されるのは、自分自身で「決めた」4人の女性たちの姿です。

助産所で産むことをご自身で決断された平塚克子さん ©2023 SUNSET FILMS

「自分の意志で決めてお産しているから、その時点で満足度が高いですね。」

〈みづき助産院〉で次女を出産した平塚克子さんがそう語るように、命がけの行為だからこそ、自分自身で決断し、納得したうえでお産をしたい。んな「自分で産む」という意志を持った女性たちの姿が描かれています。

そしてその選択の「先」に映し出されているのは、助産師による24時間体制の献身的なサポートの日々です。

身体の健康を優先して手作りされた豊富なおかずと温かなご飯、その美味しそうなこと ©2023 SUNSET FILMS

助産所での日々を知る、少子化社会の今だからこそ、産み方を選択できる事の大切さを、改めて感じられるかもしれません。

長男は病院で、長女・次女は助産所で、次男・三男は自宅で出産した山本宗子さん ©2023 SUNSET FILMS

本作を通じて、失われつつある命の風景を知ること。それは、私たちが忘れてしまい、今、手放そうとしている「待つということ」そして「人が人をケアするということ」について、より深い気づきと問いの入り口となるかもしれません。
どんなに社会が移り変わろうとも、命を産み、育てる女性のそばに、寄り添う誰かがいて欲しい。そんな願いが込められたドキュメンタリー映画です。
ぜひ、劇場で本作をご覧ください。