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“生きる”を支える表現活動にスポットを当てた「日曜の制作学」展が〈鞆の津ミュージアム〉(広島県)にて12月30日まで開催中
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有名・無名を問わず、つくり手の「日曜」にまつわる表現を集めた企画展

障害の有無、芸術教育の有無、そして有名・無名を問わず、さまざまな創作や表現のあり方を実験的に企画して紹介する、広島県福山市の〈鞆の津ミュージアム〉。2023年8月20日(日)~12月30日(土)の期間、「日曜の制作学」と題した企画展が開催されています。

休日、休憩時間や合間、就寝前のひと時など、何にもとらわれない自分だけの時間――つまり、社会的役割から解き放たれた時間を「日曜」と捉えた本展。それらの時間に、つくり手が夢中になって取り組んだ表現や創作物の数々を展示・紹介しています。

忙しい世の中を「楽しく生き延びる」ための遊びや休息を問う

休日や空いた時間を利用して、趣味の活動やDIYに没頭したり、日曜画家になってみたり、なにか特定のものをひたすら追求したり。多くの人が大小さまざまな「なにかをやってみた」という経験を持っているのでは?

そのような活動のなかで生まれた表現や創作物について、〈鞆の津ミュージアム〉は以下のように考察します。

私たち庶民という「無名」のつくり手が暮らしの中で生み出すそれらの小さな表現はプライベートなものであるがゆえ、他の誰かに知られる機会は多くありません。そもそも、広く発表することが念頭におかれていないものも少なくないでしょう。ほかならぬ自分自身の喜びにもっぱら仕える表現は、つくり手それぞれの人生を刻み込んだまま、あちこちで無数に眠っているというわけです。
(中略)
それらは、つくり手が自らの社会的役割から解き放たれる放課後や休日や合間や暇を費やして夢中となったこと、すなわち、文字通り〈日曜〉における創造の賜物。であると同時に、それなしでは得られないごく個人的な快楽と幸福を作者自身にもたらすという意味では、(他人のことはいざ知らず)心の底から安らげる時間としての〈日曜〉をつくることでもあるといえるのかもしれません。

(【本展のコンセプト】より)

このような仮説を立てた本展では、職業的な作家ではない8名の「日曜」にまつわるさまざまな表現を展示。私たちの生を密かに支える「日曜」の制作にふれ、なにかと忙しい世の中で、「わずかでも楽しく生き延びていくため」の遊びや休息を問うものとして企画されています。

熱量ほとばしる無名のつくり手や、あの放送作家の作品まで!

ヒマワリ、キク、ケイトウ、ホウズキなどの花畑に子猫が3匹佇む、関サト子さんの作品
関サト子さん(1930~2017年)の作品。幼少期より好きだった絵画の制作を60歳頃から趣味として開始。植物や日用品が主なモチーフとなっており、決まって子猫たちの姿も描きこまれている

本展で取り上げる出展者8名は、1930~1991年生まれと世代も幅広く、熱中するものも、取り組むタイミングもさまざま。

必ず子猫を登場させる、緻密な描写の絵画作品を描いた関サト子さん。折込チラシなどを切り抜き、圧倒的なコラージュ作品を手掛ける嶋暎子さん。アニメキャラクターをあしらった手編みセーターを続々と制作し、ライブハウスに出演する子どもや孫の記録を現在も撮り続ける奥村隆子さん。

家事や家族の世話といった社会的役割のなかに合間を見つけ、創作に勤しんできた3人。そのほとばしるような作品の熱量に、どんなものを感じとれるでしょうか。

住宅の広告チラシをコラージュし、巨大な都市のように構成した嶋暎子さんの作品
嶋暎子さん(1942年~)の作品。折込チラシなどを切り抜いた巨大なコラージュ作品の制作を続ける。主なグループ展として『Museum of Momʼ s Art ニッポン国おかんアート村』(東京渋谷公園通りギャラリー・2022年)。撮影:松尾 宇人 画像提供:東京都渋谷公園通りギャラリー

また、生前に膨大な数の創作物を手がけた堀江日出男さんと堀尾聡さんの作品も展示。

堀江さんは、建築現場の親方と弟子らしき対話をつぶやきながら幾何学的な建造物などを無数に描き、制作を開始した2020年から逝去する2023年の短期間に何百枚もの作品を完成させました。

少年期に筋ジストロフィーを発症した堀尾さんは8歳頃から独学で切り絵を開始。その表現は全国版学習雑誌に掲載されるなど話題となり、1980年に逝去するまで多くの作品を生み出しています。

左右対称の怪物のような切り絵を並べた堀尾聡さんの作品
堀尾聡さん(1961~1980年)の作品。8歳頃から独学で切り絵を始め、全国版学習雑誌に掲載されるなど話題に。母校に寄贈した作品のひとつが発見され、本展出品のきかっけとなった

そして、休日や仕事の合間に全国250店舗以上を訪ね歩いたデパート愛好家で放送作家の寺坂直毅さんや、「おともだち」と呼ばれるさまざまなキャラクターを創作し、持ち歩いては空想の交遊を楽しむ市田誠さんと、現在も日曜の制作に勤しむつくり手の作品も並びます。

さらに、自身で手掛けるのではなく、明治~昭和初期頃に制作された無名の庶民による創作物を集めて販売する〈コレノナ〉(東京都国立市)の商品も展示。

8名の出展者の“生きることを支える表現活動”から見えてくるのは、安らぎ、快楽、喜びなどに限らないかもしれません。それぞれの人生が刻み込まれた表現を、ぜひ会場で感じてみてください。

数の子ミュージックメイト×田口史人さん、寺坂直毅さんのトークイベントも

2023年11月11日(土)には関連イベントも開催!

一般市民による歌、演奏、しゃべり声などの生活記録を収めた音源を蒐集し「身内音楽」と名づけて発信する数の子ミュージックメイトと、あらゆるレコード事情をその社会背景とともに話す「レコード寄席」を全国各地で行う田口史人さんのトークイベント「日曜の音楽家たち」を開催。プライベートな営みや、親密圏で生まれる音に刻まれた、無名の人たちの創造力について対話します。

日曜の音楽家たちのチラシ

また、本展の出展者でもある寺坂直毅さんによるトークイベント「生きのびるための趣味」も開催が決定。

全国のデパート巡り、NHK「紅白歌合戦」の番組研究、舞台装置をミニチュアで再現するなど、人生のさまざまな局面で趣味に救われてきたという寺坂さん。生を支える趣味という営みについて語ります。開催日時の詳細は、同館の公式サイトやSNSをご確認ください。

※「生きのびるための趣味」は11月18日(土)16:00〜18:00の開催が決定しました。会場は〈鞆の津ミュージアム〉館内、定員20名程度、料金1,000円(要予約)、ご参加希望の方は「info@abtm.jp」宛にメールか電話084-970-5380までお申し込みください。(2023年10月28日編集部追記)

デパートの内部構造を図に起こした寺坂直毅さんの作品
寺坂直毅さん(1980年~)の作品。〈サザウスタウン〉と名づけた理想のデパート設計図の創作を小学生の頃から継続的に行っているという寺坂さんの作品

休日・趣味・DIY・庶民・素人・無名性・セルフケアなどにも考えを巡らせたくなる本展。あなたの「日曜」の制作も触発されるかもしれません。