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最新のゲーミング環境から、宿泊ルームまで。〈TSURUMIこどもホスピス〉に10代が自由に楽しめる新エリア
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新たに誕生した「Teen Clubhouse」には、最新設備に加え、各部屋や廊下に著名なクリエイター陣によるアートワークが多数散りばめられている(写真:TSURUMIこどもホスピス)

中高生が“あたりまえ”の時間を取り戻すための「Teen Clubhouse」

ゲームにマンガ、カラオケ、お泊まり会……友達と何気なく遊んだりしゃべったり、またひとりでゆっくり過ごしたりする時間は、中高生たちにとっての大切な日常の一コマです。

しかし中には、重い病気があることによって、そんな“あたりまえ”の時間をほとんど経験できない10代の子どももいます。治療や入院生活による制約があるだけでなく、病気がよくなった後も環境になじめずにひとりで思い悩み、他者との関わりを極端に避けるようになったり、時に自ら命を絶ったりしてしまう痛ましいケースもあります。

生命を脅かす病気の子どもを7年近く支えてきた〈TSURUMIこどもホスピス〉(大阪市鶴見区)は、そうした課題に向き合うべく、施設内に「Teen Clubhouse」をオープンしました。最新のゲーミング機器や映像・音響機器、宿泊できる設備などを、病気のある10代の若者がひとり〜多人数で、自由に使えるようになっています。

新施設の1つ、「Game Club」(写真:TSURUMIこどもホスピス)

日本初のコミュニティ型子ども向けホスピス〈TSURUMIこどもホスピス〉

〈TSURUMIこどもホスピス〉は、難病を抱える子どもとその家族が過ごすための場所です。2016年4月の誕生以来、企業や個人の寄付によって運営されてきました。

これまでの登録数は、およそ150世帯。看護師や保育士など専門スタッフがいる環境下で、命を脅かされた状態(LTC:Life-threatening condition)にある子どもたちの遊びや学び、家族との憩いの時間をつくっています。

一方で、対象は18歳まで(※注)にもかかわらず、現在の利用は就学前の子どもや小学生が中心。10代の子どもたちに対してまだ多くはアプローチできていない点に、課題を感じていました。

そこで〈TSURUMIこどもホスピス〉は、中高生に向けたホスピスの紹介や、「Mocktail Night」などの企画を通じて魅力を発信する傍ら、2021年から施設の一部改装を計画。さまざまなクリエイターやアーティストの協力のもと生まれたのが、今回の10代向け専用エリア「Teen Clubhouse」です。

(※注:2023年4月より、対象が20歳以下に変更される予定)

施設内の内観図より(写真:以下、編集部撮影)

クラブと宿泊、2つのエリアからなる「Teen Clubhouse」

新たに誕生した「Teen Clubhouse」は、大きく2つのエリアに分かれています。

1つは「Karaoke」「Game」「Arts and Crafts」の3部屋からなる、クラブエリア。店舗でも使われるカラオケ機器から、シートに座って本格的なレーシングゲームをできるマシン、手軽にDJ体験のできるパソコン設備まで、10代の子どもたちが思わず触れてみたくなるものが取り揃えられました。

友人や家族を呼んで一緒に遊ぶ、通信機能を使って離れた友達と楽しむ、ひとりでじっくり熱中する……個々のニーズやその時の気持ちにあわせて、自由に使えるようになっています。

YouTubeなどでの、ゲーム実況配信なども可能。車椅子の高さなどに応じて、机はボタンで上下できるようになっている
「Arts and Crafts Club」の一角にある、プラモデルやアート制作ができるデスク

もう1つは、施設の2階端にできた宿泊エリアです。ゆっくりと自分の時間を過ごせる「My Room」、複数人でのお泊まり会もできる「Our Room」にはそれぞれセレクトされた家具や小物が並び、冷蔵庫や電子レンジなどのある「Yum Yum Room」には大きなソファーも設えられています。

また、カーテンで隔てられた「Lounge」には、壁一面に人気マンガの棚が、反対側には白い壁とプロジェクターがあり、映画やゲームなどもゆったりと楽しめるようになっています。

セミダブルサイズの3つのベッドが連続してつながっている「Our Room」
部屋にあるLEDつきの鏡では、メイクなども楽しめる
おしゃれなシェアハウスの一室のような「Yum Yum Room」内、壁際に置かれているカトラリー

エリアの一部はすでに2022年末から活用がスタートしており、新たな空間に驚く声も集まってきています。高校への入学直後、悪性リンパ腫の治療に伴う9カ月の入院を経験していた17歳の長井優太さんは、導入された設備のクオリティの高さに「見た瞬間、唖然としました」と話してくれました。

ホスピスでは1年くらい前からダーツをしに来たり、イベントに参加したりしていましたが、どちらかといえば自然を感じられる場所のイメージが強かったんです。今回できた部屋には本格的なゲームマシンがあったり、壁にネオンもあったり、今までとのギャップに最初すごくびっくりしました。

学校の友達ともゲームで通信したいし、ホスピスで会った友達とカラオケもしてみたい。まだ使ったことがない部屋もあるので、これからたくさん利用していきたいです。

「Game Club」の壁にあるネオンサインは、アーティストのborutanext5さんによるもの

若者の孤独を、たくさんの大人がほぐしていく場所に

友達を呼んでわいわい過ごすこともできれば、自分ひとりで新しいことにもチャレンジできる「Teen Clubhouse」の開設。その目的の1つが、これまで接点の少なかったLTCの中高生たちにまず〈TSURUMIこどもホスピス〉の存在を知ってもらい、「ここに行きたい!」と感じてもらうことです。

では、なぜここまで、本格的な設備を揃える必要があるのか。背景にある課題について、ホスピス設立に尽力した医師の原純一さんは、日本における若者の自殺の多さ(10代の死因で1位)に触れながら説明します。

病気の有無を問わず、この世代はさまざまな問題を抱えていますが、重い病気になった子どもたちは、さらにその困難さが増します。自分の置かれた状況は簡単に人に共有できるものではありませんし、病気がよくなってからも進学や就職など、将来への不安がさまざまに重なる。親に本心を伝えることも、友達に相談することもできないうちに、どんどん孤立してしまう若者は少なくないんです。

だからこそ私たちは、10代の子どもたちが「自分から訪れたくなる」空間をここにつくりたい、と考えました。実際、ずっと不登校だった中学生がここで一度ゲームをした後、「また来たい」と言ってくれたりしています。そういう出会いの輪の広がりが、若者の孤独を解消していくきっかけになるはずです。

そして、この「Teen Clubhouse」を通じて、「自分を気にかけている大人がこんなにいるんだ」と知ってもらう機会になればと思っています。

「Teen Clubhouse」の廊下には、イラストレーターのユニット「STOMACHACHE.」さんの作品がカッティングシートで大きく描かれている(写真:TSURUMIこどもホスピス)

また、設計の中核を担ったクリエイターユニット「岩沢兄弟」のいわさわたかしさんも、ティーンが本気で楽しめる空間にするために「大人が本気で集い、考えてきた」と話します。

企画の相談を受けたときから、“それっぽいもの”で誤魔化さないことを意識して、時間をかけてつくりあげました。同時に、一人ひとりが実際どう使うかは自由なので、「ここで遊んだあと、こうやって……」などと細かな体験ストーリーをこちら側で用意しないことも心掛けています。

「やってみたい」ができる場ではあるけど、何もせず、だらだらと過ごしたっていい。同じ空間にいながら、みんながバラバラなことをしたっていいんです。いろんな楽しみ方が混在しつつ、それを多様な大人が支えられる場所にしていくことが、今後は重要だと思っています。

ここに行けば何かおもしろいものがある、何か楽しいことがある——さまざまな可能性が詰まった空間を目指す「Teen Clubhouse」は、まだスタートしたばかりです。「実際に利用してくれる人の声を聞きながら、より楽しい場所にどうすればできるかを考えていきたい」と、今回の取材中、ホスピスのスタッフさんたちは何度も話されていました。

そんな思いを少しでも早く実現させるためにも、10代の子どもたちからたくさんの問い合わせが来ることが、今〈TSURUMIこどもホスピス〉の新たな願いになっています。