
こここなイッピン
分身ロボット OriHime〈オリィ研究所〉
福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。
ケガや病気、障害、精神的な理由で外出が困難でも、自宅や病院にいながら社会とつながれる時代が訪れている⁉ 「孤独の解消」を目指して生まれた最先端ロボットとは?
行きたい場所に行き、会いたい人に会う。「孤独を解消」する“分身”ロボット
自分の“分身”がどこか違う場所にいて、誰かと会ったり、友人と一緒に過ごしたり、おしゃべりしたり。「そんな世界が訪れたらおもしろいだろうな」なんて、SFの漫画やアニメ、小説や映画などにふれて、未来に思いを馳せた経験はあるでしょうか。
まだまだ先のコト、と思いきや、すでに現実の世界で実装されています!
〈株式会社オリィ研究所〉が2010年に誕生させた遠隔操作で動く「OriHime(オリヒメ)」は、まさに自分の“分身”となるロボットです。
例えば、諸事情で学校に行けない子ども。病気やケガで療養している人。身体的理由で外出できない人。育児や介護で家を離れられない人。そうした人が自宅や病院にいながら、それぞれの行きたい場所に行き、会いたい人に会う。そんな分身ロボットの活用が始まっています。
分身ロボット「OriHime」、どんなことができる?
「OriHime」は自動で動いたり、言語学習を積み重ねてしゃべったりするAIロボットではありません。「パイロット」と呼ばれる操作者が遠隔で動かします。ロボットから発せられる言葉は、パイロットがリアルタイムで発する声。操作者がまるで“そこにいる”感覚をもたらすのが、この“分身”ロボットです。
不思議と目が合うように感じたり、頷きや手の動きなどの多彩な身体表現から、パイロット本人が目前にいて、会話を楽しんでいるような感覚を覚えるでしょう。
近年はウェブ通話で画面越しに会話をする機会が増えましたが、「画面に話しかけるのと、実体のあるモノに話すのとでは、人の認知の仕方が違うと言われています」と語るのは〈オリィ研究所〉の濱口敬子さん。
また、パイロットが言葉を発しない場合も、搭載された12種類のジェスチャーでリアクションを取ることができ、ノンバーバル(非言語)なコミュニケーションが可能なことも「OriHime」の大きな特徴です。
そんな「OriHime」の活用事例をいくつかご紹介します。
ケガや病気、精神的な理由で学校に行けない子どもが、「OriHime」を使いリアルタイムで授業に参加することができます。挙手して答えたり、意見したりすることも可能。もちろんクラスメイトとのコミュニケーションも楽しめます。
難病や重度障害などによって外出が困難な人も、「OriHime」を通じて仕事や活動に携わることができます。例えば、会社での就業、イベント時の受付業務、飲食店での接客、家庭教師や通訳など、さまざまなかたちで社会への参加が叶います。
ほかにも、入学式、卒業式、同窓会、冠婚葬祭、コンサート、演劇、美術館、故郷への帰省、お墓参り、旅行など、さまざまなシーンに「OriHime」を連れ出してもらい、一緒に過ごすという使い方も。
さらにユニークな活用事例としては、パイロットの遠隔出演による『星の王子さま』の朗読劇や、「山形ビエンナーレ2022」でのダンスパフォーマンスなど、「OriHime」が出演者となったイベントも実施されてきました。
小さな体ながら、大きな可能性を秘めた「OriHime」。障害などを理由に「諦めざるをえない」と思っていたことも、この分身ロボットを通じて叶えることができるかもしれません!
叶えたいのは「人の孤独を解消する」こと
「OriHime」を開発したのは、〈オリィ研究所〉の代表を務める吉藤健太郎=オリィさん。小学5年生から中学2年生にかけての約3年半の不登校経験が、分身ロボットを開発するきっかけとなりました。
「(友人と同じ空間で)テレビを見たり、人が近くにいたりしてくれるだけで不安が解消されたかもしれないし、少なくとも忘れられていないと安心感が得られたかもしれない。(中略)離れていても、そばにいる感覚をお互いが持つことはできないだろうか?」
(『「孤独」は消せる。』吉藤健太郎著/サンマーク出版 から抜粋)
自宅に引きこもり、強い孤独感に苛まれる日々のなかで、このような思いを巡らせて形にしたのが「OriHime」。この分身ロボットで叶えたいのは「人の孤独を解消する」ことだといいます。
人は、人との出会いやコミュニケーションの機会が失われるにつれ、社会とのつながりも薄れ、自身の役割を感じにくくなり、孤独におちいってしまうことが多々あります。
「人は、誰かに必要とされたい。必要としてくれる人がいて、必要とする人がいる限り、人は生きていける。(『「孤独」は消せる。』から抜粋)」
辛い経験のなかで吉藤さん自身が実感した思いと、開発の最中で出会った障害のある人々との関わりのなかで、“体”を移動させるのではなく、行きたいところに行けて、会いたい人に会えるという“心”を運ぶ手段こそが、孤独の解消に大きく寄与するという答えに辿り着きました。
スポーツや海外にも広がる、「OriHime」の可能性
コンテストでの受賞や公演を機に、国内外の企業が「OriHime」の可能性に注目し、さまざまなパートナー事業へと発展している〈オリィ研究所〉。製薬会社〈バイオジェン・ジャパン株式会社〉とは、「OriHime」を使ったスポーツ大会というユニークな取り組みを展開しています。
難病や障害で体を自由に動かせない人にとって、チームスポーツは参加が難しいもの。そうした人たちが遠隔操作でプレーし、チームで協⼒しながら作戦を練り、熱戦を繰り広げていく体験は、参加者たちにとって新たな世界や視野の広がりにもつながるようだと、〈オリィ研究所〉の青木唯香さんはいいます。
「プレーのなかでチームの役に立てていることを実感し、自信につなげていく参加者もたくさんいます。大会には特別支援学校の生徒さんも多くいるのですが、その後、OriHimeを使った弊社の就労体験に参加される流れも生まれています」(青木さん)
東京・日本橋には〈オリィ研究所〉が運営し、「OriHime」のパイロットが中心となって接客を行う〈分身ロボットカフェ DAWN ver.β〉があります。その海外初店舗となる〈Bunshin Robot Cafe Øens Madhus〉が2025年4月から約半年間、デンマーク国オーフス市にオープンし、現地にて話題を呼びました。
「OriHime」のパイロットとして参加した人からは「OriHimeを介したコミュニケーションならソーシャルバッテリーの消費も穏やかで、仕事後に友人と飲みに行くことができるようになり、人と話す機会も増えた」「障害の特性によるコミュニケーションの困難があったが、OriHimeに搭載されているリアクションパターンから、自身の会話時のリアクションの取り方、オン・オフの仕方などが感覚的にわかるようになった」といった声が寄せられたと言います。
「海外でも、移動が困難な方や精神的にハードルがある方などが、社会に参加するツールとして使いたいというご要望が多く、求められているのは日本と大きく変わらない印象です。海外からの引き合いは非常に多くて、徐々に話を進めている段階です」(濱口さん)
AIとの対立ではなく、共存する存在に
近年はさまざまな対話型生成AIサービスが普及し、コミュニケーションを取るという点においてはAIでも補えるようになりました。そうした時代に、あくまで“人”との対話を貫く「OriHime」は、どのような役割を担っていくでしょうか。
「AIロボットは今後より発展し便利なものになっていくと思います。ですが、そこにOriHimeを対立させていくことはありません。パイロットの意思、気持ち、考えを音声に載せる“分身”というコンセプトは今後も変わらないからです。高等専門学校で自然言語処理を研究した吉藤は、『人は人でしか癒せない』という答えに辿り着きました。共感して欲しい、話を聞いて欲しい、という欲求はある程度AIで補えたとしても、人とのコミュニケーションからはまったく違う価値が生まれると思っています」(濱口さん)
「孤独の解消」を目指して開発された「OriHime」は、今や障害の有無を超えてさまざまな場所やシーンで使われるようになりました。もしかすると、障害や身体的な理由で宇宙飛行士への夢を諦めていた人が、「OriHime」を使って宇宙に飛び立ち活躍する、ということも近い将来に起こり得るかもしれません。分身ロボットをどう使うかは、あなた次第!
利用にあたっては、購入からレンタルまで幅広く対応しており、気軽に取り入れることが可能です。まずは日本橋にある〈分身ロボットカフェ DAWN ver.β〉を訪れ、「OriHime」やパイロットとの会話を楽しんでみるのもおすすめです。
Information
分身ロボット OriHime(第8世代)
サイズ:高さ23cm、幅約17cm(腕を畳んだ状態)、奥行き約11cm
重量:780グラム
価格:公式サイトをご確認ください
販売:株式会社オリィ研究所
製造:株式会社オリィ研究所
リンク:OriHime公式サイト

