
“福祉”や“介護”を子どもと語りあう機会、どうつくる? 「幸せ本普及プロジェクト」活動レポート こここラボ(事例・プロジェクト一覧) vol.02
Sponsored by 厚生労働省補助事業 令和7年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)
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福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉では、課題解決に取り組む「こここラボ事業」の一環として、2023年度から厚生労働省とともに、「介護のしごと」の魅力にまつわる発信活動を行っています。
2024年度には、小学生向け冊子として『幸せに生きるって、どういうこと? 知っておきたい介護のしくみと仕事』(愛称:幸せ本)を制作。さらに次の2025年度は、冊子の普及プロジェクトを展開し、広報活動(ポストカードの配布など)や活用ツール(読書会の開催サポート用スライドなど)の作成を行いました。
本記事では、プロジェクトを改めて振り返り、活動や制作のプロセスで大事にしたことをご紹介します。
冊子『幸せに生きるって、どういうこと? 知っておきたい介護のしくみと仕事』
「令和6年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」の中で、2025年2月に発行された冊子。介護の仕事魅力発信ポータル〈知る。わかる。介護のしごと〉や〈こここ〉のWebサイトなどでダウンロードできるようになっているほか、一部紙版も配布されています。
・タイトル:『幸せに生きるって、どういうこと?──知っておきたい「介護」のしくみと仕事』
・B5版24ページ
・発行・制作/株式会社マガジンハウス こここ編集部
・監修/堀田聰子(認知症未来共創ハブ)、編集/佐々木将史、ライティング/廣畑七絵、イラスト:宮田篤、デザイン/岡村佳織・金森彩、印刷/誠晃印刷
対話型ストーリーと図解で、私たちの日常を取り巻くさまざまなバリアや、人権の考え方、人の安心を支える社会のしくみ、ケアの仕事などについて学べる一冊です。巻末には『「介護の誤解」をひも解くコラム』として、保護者や教員向けの文章も載せています。
「幸せ」をテーマにした冊子の企画編集(2024年7月〜2025年2月)
「介護のしごと」の魅力を伝える事業として、子ども・若者に向けた冊子をつくるとき、一つ考えられるのは、将来的な就労をイメージしやすい内容(施設や働き方の紹介など)に寄せる、という方法です。しかし、今回〈こここ〉ではあえてその方向をとらず、「そもそも介護とは何か?」「そうしたしくみがなぜ社会にあるのか?」をしっかり伝える構成にしました。
大きな理由は、メインの対象者が小学校高学年であったこと。学童期の子どもたちにとっての職業教育は、一歩間違うと「大人が願う労働者像」の押し付けになりかねません。そうではなく、一人ひとりが幸せな人生を歩んでいくための、豊かな選択肢の一つとして「介護」と出会ってほしい。そこで「社会保障」「基本的人権」「社会的障壁」などの視点をあえて絡ませながら、身近な暮らしと「介護」が接続する内容にしました。
もう一つ大事にしたのは、福祉=「人の幸せ」を、ごく身近なところから問い返すことでした。これには、冊子監修者の堀田聰子さん(認知症未来共創ハブ 代表)に、今あちこちで取り組まれている「マイクロハピネス」(※注)のワークショップ内容を教えていただいたことが、内容に大きく反映されています。
「幸せ」は幅広い定義のある概念で、かつ子どもにも身近な言葉です。ここに立ち止まることは、介護をはじめとする福祉制度を理解するうえでも、また将来子どもたちが安心して社会に出ていくうえでも、大きな支えになっていきます。そうした思いを、本編ラストの「自分らしい幸せの瞬間を考える」ワークで終える誌面構成に込めました。
※注:本人が大事にしていること、ちょっとした楽しみやこだわり、知恵に着目すること。「可能性指向研修」として、地域包括支援センターのデザインプロジェクトで展開が始まっている
制作後の課題から、2年目の普及プロジェクトへ(2025年6月〜8月)
こうして完成した『幸せ本』に対し、続く「令和7年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)」では、さらなる普及活動を行うことになりました。ここでのポイントは主に2点でした。
1点目のポイントは、Web上に掲載したPDF版のリーチ力をどう高めるか。手に取りやすさの観点ではどうしても印刷版のほうに強みがありますが、コストの観点から発行部数には限りがありました。シェアがしやすいというメリットのあるPDF版を、もっと手軽に使ってもらいたい、と感じていました。
2点目のポイントは、『幸せ本』をどう子どもたちに届け続けるか。実は発行後、内容についてはさまざまな方から好評をいただきました。ただそこには、「これは自分が読まないといけないと思った」など、大人自身の変化を感じさせる声も多く含まれていました。
制作を担ったメンバー自身の過去を振り返っても思いますが、今の多くの大人は、「社会保障」や「基本的人権」について何となくは知っていても、冊子が訴えるような「自分ごと」として考える機会はあまりなかったのかもしれません。まずは子どもの傍にいる方々に、『幸せ本』の意義をしっかりと伝える必要があるのでは、と考えていました。
これらの課題を受けて、2025年の夏に動き出したのが「幸せ本普及プロジェクト」を進めるワーキンググループです。活動の核には、PDF版を知ってもらうための「広報」と、冊子を子どもたちに手渡してくれるだろう仲間を増やすための「読書会開催」の、2点を据えました。
メンバーは、冊子の編集を担当した佐々木のほか、ラボ事業の窓口を務める及川・杉本と、〈こここ〉編集長の中田の4名。さらに当初から冊子の内容を高く評価くださり、アートワーカー/介護福祉士としてさまざまなワークショップの開催経験を持つ高橋恵子さんにも、プロジェクトのアドバイザリーをお願いしました。
ワーキンググループの活動(2025年9月〜2026年2月)
「広報」の活動としては、主に下記の3点を行いました。
① 『幸せ本』ポストカード作成
PDF版への誘導ツールとしてA5大のカードを制作。冊子の概要を伝えつつ、二次元コードから、スマホ/タブレットで単ページスクロールのPDFを見られるようにしました。
② 印刷版の増刷
PDF版の認知が広がるまでは、手に取れる印刷版自体も貴重な広報ツールです。前年度と同部数を増刷し、「ケアリングノベンバー2025」とのコラボ企画である「“わたしの暮らし”をノックすることば展 by マガジンハウス」で配布するなど、新たな認知拡大に務めました。在庫がなくなったため、現在は配布を終了しています。
③ 福祉施設や文化施設への献本
上記のポストカードや増刷した紙版冊子を、配架・閲覧してくれそうな施設などに献本しました。主な送付先は、これまで〈こここ〉でたずねたりプロジェクトをご一緒したりした福祉施設、美術館、博物館、市民センター、ギャラリー、カフェスペース、大学などです。
一方の「読書会開催」では、〈こここ〉だけが読書会を開く形では結局広がりに欠けるため、将来的に読書会そのものがあちこちで開かれていくことを目指し、以下の2点に取り組みました。
① 「大人向け読書会」の実施、および参加者の一般公募
編集部自身の手による読書会を、12月の日曜午後にオンラインで実施しました。冊子の内容を「自分ごととして考える」ための、大人向け読書会です。
11月頭に告知を開始し、10名の募集枠に対して、医療職や相談支援などの専門職の方から、教員、メディア関係者、会社員など、多様なバックグラウンドを持つ13名にご協力いただきました(欠席があったため、最終参加は10名)。
開催にあたっては、本番前のテストとして「プレ読書会」をワーキンググループ内で実施。このときは、「身近な人に伝えたい箇所」を対話テーマに含めて、本から受け取ったことをシェアしあいました。しかし、主語が一人称から離れやすくなる=自分ごとで語りづらくなっていく、と気づき、本番では「伝え方」の話題を一旦は除外する方向に変更しています(子どもたちへの手渡し方については、宿題としてご回答いただく設計にしました)。
また、『幸せ本』は一人ひとりの内面に関わっていく内容だからこそ、初対面の人がいる状況での「安心して語りあえる環境」づくりが重要になる、という気づきもプレ読書会で得られました。複雑にならない範囲で「対話のルール」を設定しつつ、安心を「みんなで」つくりあう姿勢が大切だと考えている、という意図を添える形に調整を行いました。
その後、実際に行った読書会では、冒頭の「あなたらしい『幸せ』の瞬間」のシェアタイムをふまえ、『幸せ本』で大切だと感じたり、気づいたりした箇所を語りあう、充実した90分を過ごすことができました。同時に、テーマ設計上は外していた「子どもへの伝え方」に対しても、世代を超えた語り合いの中でヒントが見え隠れするような時間が生まれていました。
以下、いくつかいただいた感想から、一部内容をご紹介します。
・自分以外の方の意見を伺える機会が貴重だと感じた。若い参加者の方の「介護の問題をどうして自分たちが知っておく必要があるのだろう?と正直思うこともある」という素直な意見を伺えたことも大事な気づきになった
・「わたしは」を主語にして話すことの大切さと難しさを同時に感じた。とても充実した時間で、自分の介護においても、本人と一緒に私もあきらめていたことがあったと気づいた
・亡くなっていく人に対しての不安や恐怖や悲しみ、絶望などを感じている子ども、あるいは自分自身が病気や障害があったり、なんらかの困難さや環境とのギャップを感じたりしている子どもにとって、自分の状況について理解し、気持ちや考えを整理するきっかけになりそうな冊子だと感じた。そういう社会への信頼が土台にあってこそ、ケアや介護を仕事にしていきたいと思えるのかもしれない
② 読書会の「開催概要(案)」と「進行スライド」の無料公開
冊子の内容を「自分ごととして考える」大人向け読書会の、運営マニュアルとなる資料を公開しました。非営利目的での利用の範囲で、無料で自由に2次利用・改変していただけるようにしています。
・幸せ本読書会スライド(Googleスライド:スピーカーノートつき)
・幸せ本読書会スライド(PDF)
・読書会イベント告知文見本(Googleドキュメント)
内容は、実際の開催資料をベースに、編集部以外の方が使いやすいよう、全体的に改良を加えています。また、使い方のポイントについて別途記事を作成し、厚生労働省補助事業で行っている連載『ケアするしごと、はじめの一歩』に掲載しました。
次の世代にどう伝えていく?
『幸せ本』の最終的な目的は、書かれている内容を子どもたちに届けることです。今回のプロジェクトの施策では、この対象者に直接、福祉や介護のことを伝えることはできません。
それでも、読書会を通じて、冊子を子どもたちに手渡してくれそうな方々と全く新しい形で出会えたことは、大きな意味があると考えています。アンケートでは、今後『幸せ本』を活用していきたいかの問いに、71%が「とてもそう思う」、29%が「そう思う」と回答をしてくださいました。
また下記は、読書会内ではテーマにしなかった「子どもに伝える」方法について、終わったあとのアンケートで書いていただいた内容(一部)です。回答者のそれぞれにとって、リアリティのある広げ方をコメントでいただくことができました。
・職場で共有ができたら、いいなと思う。子どもたちにも伝えていきたい
・この本を読んだ感想をnoteに書いてみようと思う。友人、知人、お客さんにも配ってみたい!スライドが公開されたら、ぜひ活用して読書会も開きたい
・学校行事で親子で読む会・話す会ができたら良いのでは?と思った。また、仕事の中で、本をもとにしたワークショップもやってみたい
豊かな土壌から、豊かな緑が育つ社会を目指して
子どもの傍にいる大人、一人ひとりの意識が変わることは、社会にとってどのくらい重要なのでしょうか。
振り返ると、『幸せ本』自体のつくり方でも、普及プロジェクトの活動でも、あえて直接的ではない方法を〈こここ〉では選びました。「しごと」よりも社会全体の成り立ちや個人の暮らしに焦点を当てた内容にし、「子ども」ではなくその傍にいる人が冊子を手にするきっかけをつくっています。
それは一見遠回りに見えますが、願う未来をつくっていくときの「土を耕す」ような、大切なアプローチだと〈こここ〉では捉えています。
何か大きな変化を生み出したいと考えたとき、私たちはどうしても「目に見える」具体的なところにアプローチをしたくなります。もちろん、それはそれで必要なことです。
一方で、基盤となる人の価値観を変えたり、見過ごされがちな基本的人権を確認したり、新たな文化を醸成したり、といった「目に見えない」ところを育てる、土壌づくりのアプローチも、社会の中にもっと必要ではないかと考えています。そこが豊かでなければ、地面の上に生み出される葉や花も、すぐに枯れてしまうかもしれません。
土と緑の両方を育てていくのは、メディアとしての〈こここ〉の役割とも言えます。そして、「土も緑も重要である」こと自体を社会に発信し、ともに育てていく仲間をつくっていくことを、今後も続けていければと考えています。
『幸せ本』普及にご協力をお願いいたします!
『幸せ本』の内容を子どもたちに手渡していく仲間を募集しています。読書会については、資料を活用いただいて自由に開催ください。開発の話をしてほしい、などのご要望があれば、こここ編集部までお問い合わせください。
