福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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福祉の現場で明日から使えるクリエイティブ入門講座。「せせせクリエイティブキャンプ」DAY2 レポート せせせプロジェクト|こここラボ vol.04

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3つの講座を開講した、クリエイティブキャンプ DAY2

東京・世田谷区と、マガジンハウス〈こここ〉の共同事業としてスタートした、世田谷・福祉生まれのモノゴトを届ける、魅力発信プロジェクト〈せせせ〉。2022年の発足以降、区内の障害者施設でつくられたプロダクトを集めたECサイトの構築、施設職員に向けたセミナー&ワークショップ、マルシェイベントなどが実施されてきました。

3年目を迎えた今年は、福祉の現場で生まれたモノの魅力をもっと届けたい! 知ってほしい! ……でもどうすれば? という悩みを抱える方々に向け、「世田谷で福祉のものづくりを考える2日間」と題した「せせせクリエイティブキャンプ」を開催。

【画像】会場の様子。スクリーン横に講師と運営スタッフ
「DAY2 クリエイティブ講座」の会場となったのは、世田谷区三軒茶屋にある、暮らし×デザインの交流拠点〈生活工房〉

初日の2024年6月3日(月)に行われた「DAY1 フォーラム」では、全国の福祉施設と協働する4組のクリエイターをゲストに迎え、「ものづくりのゴールや目標設定」「商品の値決め、流通先の開拓」「広報や発信のポイント」「ヒット商品の誕生秘話」をお題にクロストークが繰り広げられました。そのレポートが公開されていますので、ぜひ以下リンクからご覧ください。

翌日の6月4日(火)には、区内の障害者施設に勤務する方々を対象とした「DAY2 クリエイティブ講座」が開講。

本講座の実施は、これまでの〈せせせ〉の活動のなかで、施設でつくられている自主生産品の魅力の届け方がわからないといった職員の声を多く耳にしてきたことに端を発します。そこで、モノの見え方を整えたり、ストーリーも含めて届けたり、愛着を持ってもらうための方法を学ぶ「広報」「撮影」「デザイン」の3講座が企画されました。

講師となったのは、マガジンハウス〈こここ〉編集長であり〈きてん企画室〉代表の中田一会さん、写真とデザインの会社〈ゆかい〉に所属する写真家・たださん、デザインチーム〈minna〉代表兼デザイナーの長谷川哲士さんの3名。

クリエイティブ講座の講師を務めた3名。左から、「広報入門講座」の講師を担当したマガジンハウス〈こここ〉編集長・中田一会さん、「撮影入門講座」を担当した写真家・たださん、「デザイン入門講座」を担当した〈minna〉代表・長谷川哲士さん

DAY1に引き続き、多くの福祉施設職員がそれぞれに感じている課題や悩みを携えて参加。午前中から夕方まで、休憩を挟みながらの長丁場となりましたが、多くの参加者が3講座すべて受講するなど、現場での必要性の強さを感じました。

本記事では、〈せせせ〉プロジェクトサイトの施設・商品紹介のライティングにも関わるライター・林貴代子が、3つの講座やワークショップの様子、語られた講師の言葉をご紹介していきます!

 

届けるってどういうこと? 「広報入門講座」

クリエイティブ講座の1講目は「広報入門講座」。講師を務めたのは、〈こここ〉編集長であり、“伝える”に特化した企画事務所〈きてん企画室〉代表も務める中田一会さんです。

本来の専門分野は「広報PR」という〈こここ〉編集長の中田一会さん。これまで、さまざまな企業や法人の広報PRやコミュニケーション活動の設計、ブランドのプロモーションや冊子制作、全国各地での広報に関する講師などを担当されています

本講座に置かれたテーマは「届けるってどういうこと?」。福祉施設のモノゴトを発信するにあたっての“そもそもの目的”を、座学「そもそも広報とは?」と、2つのワークショップ「届ける相手を考える」「届け方を考える」のなかでじっくり考えていきました。

そもそも「広報」とは?

座学の冒頭で、〈日本パブリックリレーションズ協会〉が定義する「広報(Public Relations)」を引用しながら、広報PRとは「公共・公衆の関係性を築くこと」「信頼関係を気づいていくための思考・行動」であると解説した中田さん。

広報PRの“魂”として紹介された〈日本パブリックリレーションズ協会〉による「広報(Public Relations)」の定義

広報PRは、時代と共に活動内容やアプローチが変わり、今や工夫次第では誰もが参入できる分野になったといいます。

誰にでもできるようになったからこそ難しい。そこで私はシンプルな考え方として、広報活動は、発信する人と、受け取る人の「キャッチボール」だとお伝えしています。

キャッチボールで一番大切なのは「狙って投げること」。何を、いつ、誰に、どうやって投げるのか。さまざまなキャッチボールの実行・計画が広報活動だと考えてもらえればわかりやすいと思います。

さらにそのコツとして「相手をよく見てボールを投げること」、受け取った人のリアクション、感想、要望、応援、共感、クレームといった「反応を受け止めること」も広報活動である、と語りました。

それらの定義や本質を学んだあとは、実際の行動に移すための2つのワークショップへ。

〈ワーク1〉「ステークホルダー図」で届ける相手を考える

ワークショップ1つ目は「誰に届けるか」を探る「ステークホルダー(関係者)図」の制作。モノゴトを届けたい相手を考える前に、まずは法人や事業所に関係する“身近な人”を洗い出し、その距離感を図式化する試みを行いました。

ステークホルダー図は、大阪府にある認定NPO法人〈D×P〉で理事・ディレクターとして活動する入谷佐知さんが「日本ファンドレイジング協会資料 ステークホルダーピラミッド」を出典として、法人活動への寄付者や応援者との関係分析図をつくり、施策づくりに活用したことで生まれた考え方だといいます。今回見本として提示されたのは、中田さんの会社〈きてん企画室〉のステークホルダー図

参加者の手元の図には、施設利用者、その保護者、実習生、地域ボランティア、見学者、出店時のお客さんなど、さまざまな距離感の人々との関係性が記されました。

続いてはその図に、これまで情報が届いていなかった人、届ける余地のある人などを探し出し、実際にどんなアクションが起こせそうかをメモ。ここでチェックされた人たちこそが、今重点的にモノゴトを届けるべき相手だと中田さんはいいます。

【画像】受講者がワークシートを書いている様子

よほどの大事業でない限り、広域の人に届けるのは難しいもの。だからこそ、ステークホルダー図によって、事業は誰に支えられ、応援されているかを明確化し、情報を届けるべき相手は誰なのかを洗い出すことが大切、と述べました。

〈ワーク2〉「キャッチボールシート」で届け方を考える

「誰に届けるか」が明確になったら、「何を、どうやって届けるか」を探る2つ目のワークショップへ。

本ワークでは「キャッチボールシート」を使い、「①自分たち“らしさ”」「②届いてほしい相手」「③反応・効果」「④届ける手段」を明文化する時間を設けました。

これらの設計をたてることで、“そもそもの目的”が明確になり、万が一失敗や変更せざるを得ない状況が起こっても、なんのために、誰に、どうしたいのか、という目的が揺らぐことなく、改善もしやすくなるといいます

実際に手を動かした参加者からは、課題ややるべきことが具体的になった、届けたい相手が明確になった、などの声が。

そもそも広報とは? そもそも誰に? そもそも何をどうやって? という、たくさんの“そもそも”を考える時間となった「広報入門講座」。最後に、福祉関係者は広報活動が上手な場合が多いのでは、と語る中田さん。「利用者一人ひとりに対して、あの手この手で支援する手法は、もしかしたら広報活動に近いのではと感じています」という言葉で締めくくりました。

【画像】講師の話を聞いている受講者

スマホ+身近なもので撮る「撮影入門講座」

続いての講座は、写真家・たださんによる「撮影入門講座」。本格的な撮影機材がなくても、事業所や自宅にある身近なものを代用して、撮影スタジオ同様の環境をつくり、スマートフォンで撮影するという、すぐにでも実践できる内容です。

〈せせせ〉のプロジェクトサイトに掲載されている福祉発プロダクトの多くは、たださんが撮影。その際にも意識していたという「モノを見たことない人にどう見えるか?」という視点の共有を目指したい、と語りました

まず最初に行われた座学で、このように参加者に語りかけたたださん。

「いい写真を撮りたい」と仰る方が多いんですね。でも、そもそも“いい写真”ってなんだ? ということから考えていきたいと思います。広報で使う写真は、商品に興味を持ってもらったり、形や大きさの判断につながる「機能」が大切。美しい、人目を惹くといった「感性」に訴えかける写真や、みんながいい!と思う写真である必要はないんです。

モノを見たことがない人にどう見えるか。これは何をするもので、どんな形で、どんなふうに使うか。徹底的に写真を見る人の立場になって考え、言葉の説明がなくてもわかる写真であることこそが、広報や宣材における“いい写真”だといいます。

それらを大前提としたうえで、プラスアルファの魅力を伝えるテクニックとしての「背景」「構図」「光」という、ブツ撮りで意識したい3つのポイントがレクチャーされました。

【図】ブツ撮りの大事なポイントとして「背景」「構図」「光」それぞれのコツが説明されている
会場に撮影セットを用意し、被写体がどのように写るかをレクチャーするたださん。今回用いた機材は、スマートフォン、スマホ用三脚、背景に敷く大判紙、その紙を掛けるハンガーラック、投光器とその光を和らげるトレーシングペーパー、レフ板の代わりとなるA4の白い用紙のみ。投光器の代用品として、デスクライトや懐中電灯を使ってもOKと説明

自主生産品を実際に撮ってみる「撮影ワークショップ」

ブツ撮りテクニックを学んだあとは、実際に参加者が撮影に臨むワークショップへ。

別の部屋には、太陽光を光源とするセット、投光器を光源とするセットと、2つの撮影環境を用意。参加者が持参した施設の自主生産品を、それぞれが所持するスマホを用いて、実際に撮影してもらいました。

投光器を用いた撮影の様子。背景となる大判紙を壁に貼り、光の角度は商品に対して45度に設定。投光器と商品の間にはトレーシングペーパーをはさみ、光と影が和らぐように調整しました

壁、ホワイトボード、移動式テーブル、紙、ハンガーラックなど、身近なものがアイデア次第で撮影機材となることを身を持って体験した参加者。三脚の扱いなどに苦戦しながらも、自然光やライトの角度、光源をひとつにすること、商品の置き方など、ワークショップのなかでさまざまな理解や手ごたえが感じられた様子。

最後には、参加者それぞれが撮影した写真への講評タイムが設けられ、たださんからは商品がさらに魅力的に見えるためのアドバイスやコツが伝えられました。

【画像】受講生が撮影した写真をスクリーンに投影しながら講評する講師
ワークショップで参加者が撮影した写真。左写真は正面から自然光を当て、右写真は右側から投光器を当てました。陰影によって立体感が際立ち、商品の形がわかりやすいのは右写真だが、キャラクターのかわいさや魅力が伝わりやすいのは、カラッとした明るさのある左写真ではないか、と講評したたださん。ケースバイケースで見え方などを選択することも必要と語りました

プライベートで撮影するスナップ写真とは大きく異なる、商品のブツ撮り。そこでは何に気をつけるべきか、どのような違いがあるか、必要な機材はなにか、さまざまな学びにつながった「撮影入門講座」となりました。

「施設にあるもので撮影セットは再現できるので、ぜひ職員の皆さんに共有しながら実践していただけたら」と結びました。

想いを可視化する「デザイン入門講座」

最後の講座は、〈株式会社minna(ミンナ)〉の代表兼デザイナーの長谷川哲士さんを講師に迎えた「デザイン入門講座」です。

グラフィックやプロダクト、空間などのジャンルを横断して体験をデザインすることを得意とする長谷川さん。以前「こここなイッピン」でご紹介したアクリルのアクセサリー〈NEWSED〉は〈minna〉がデザインを担当しています

デザインと聞くと「自分には関係ないかも?」と思う施設職員さんが多いかもしれません。ですが、自主生産品やそのパッケージ、施設パンフレットのほか、関係者へのお便り、地域の掲示板などに掲出するボランティア募集のチラシなど、いずれもデザインに関わるものといえます。

本講座の前半はデザインの基礎やエッセンスを学ぶレクチャー、後半は参加者が持参した商品・パンフレット・チラシなどを長谷川さんに講評してもらいながら、課題に感じてきたことに対するアクションを皆で考える時間を設けました。

デザインの基本となる「7つのポイント」

レクチャーの冒頭で長谷川さんは、デザインについて以下のように説明しました。

デザインとは「見た目を整えて、おしゃれで良い感じにすること」ではありません。「想いを可視化すること」です。

この「想い」とは、例えば「施設が伝えたいこと」「施設のウリ」と捉えてもいいという長谷川さん。なんのためにつくったのか。なにを伝えたいのか。それらを可視化するのがデザインだといいます。

そして「想いの可視化」であることを前提として、デザインの基本となる以下7つのポイントが説明されました。

①「伝えたい想い」を明確に
②情報の整頓「強弱をつける」「揃える」
③写真・画像の扱い方「比率は変えない」「揃える」
④イメージに合う「書体」を選ぶ
⑤イメージに合う「色」を使う
⑥イメージに合う「形」を使う
⑦イメージに合う「素材」を使う

これら7つのポイントにおいても、なにより重要なのは①だという長谷川さん。②以降はあくまでテクニックとして捉え、①の想いを明確にすることからスタートしなければ、多くの人に届くデザインにはならない、と述べました。

【画像】レクチャーする講師

ファシリテーターを務める中田さんからも、福祉の現場で日常的につくられているチラシや商品パッケージなども、「すてきかどうか」を基準とするのではなく、「伝えたいことが伝わるか」に目を向けるのが大事、という話が。それらの理解やインプットが本講座の目的であると語りました。

デザインの本質に触れたあとは、参加者が持参した商品・パンフレット・チラシなどをもとに、どうやったら「想いの可視化」につなげられるかを考える講評タイムへ。

次なるアクションが明確になった講評タイム

講評会では、持参したものの「商品名」「対象(ターゲット)」「こだわったポイント」「抱えている課題、悩み」をシートに記入し、商品と共にテーブルに並べ、皆で講評して回るというスタイルをとりました。

【画像】机に並べられたデザイン物を眺める講師
【画像】施設が作ったリーフレットを手に取る講師
参加者の持参品を一つひとつ手に取って、ターゲット、こだわり、課題や悩みなどを参加者に確認しながら講評していく長谷川さん
講評の対象となった「自家製ポップコーン」。ターゲットは近隣住民、課題は商品の認知不足や、パッケージから施設のイメージが湧きづらいこと、という参加者。長谷川さんからは「一粒一粒に蜜を絡めている」という製造工程のアピールポイントや、「世田谷生まれ」「世田谷ポップコーン」といった地元感を表すコピーをパッケージに加えることで、商品の魅力や施設の取り組みが伝わり、ターゲットとなる近隣住民の地元愛も刺激されるのでは、というアドバイスが

各施設の持参品を一つひとつ見て回った長谷川さん。評価したいポイントを述べつつ、商品の名づけ方法、打ち出したい情報の強弱、商品規格に自由度を持たせる思考、情報や見せ方の統一など、それぞれの商品に対して、丁寧にアドバイスや改善イメージを伝えていきました。それらのコメントから、次にすべきアクションを具体的に思い描くことができ、パッと目を輝かせる参加者も。

「デザインとは、想いを可視化することである」。そう冒頭で語った長谷川さんの言葉が、今回の講評のなかでより実感として得られる時間となりました。

3つの入門講座を終えて

3講座を開講した「せせせクリエイティブキャンプ」2日目。「広報」「撮影」「デザイン」とそれぞれカテゴリーは違えど、いずれも共通するテーマが据えられていました。それは「“そもそも”を見直す」ということ。

情報を届けたい人とは? なぜ、どうやって届けるのか? いい写真ってなんだろう? デザインするってどういうことだろう? これらが明確になって初めてクリエイティブが生きるということを、徹底的に伝え、考える3講座となりました。

本講座に参加した皆さんだけでなく、本レポートでなにかヒントを得たという方も、ぜひ福祉の現場での実践に役立ててみてください!


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