“切実に生きる”方法はみんな違う。生活から生まれた詩、応募作品発表! 〜次回テーマは「失敗」「目玉焼き」「2時間スペシャル」 ムラキングとみんなの詩(うた) vol.03
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この連載は、日常の切実な気持ちを言葉にしてきた妄想恋愛詩人ムラキングと、その活動に伴走する水越さんを、〈こここ〉編集部メンバーが訪ねていく連載「ポロリとひとこと」から続く企画です。記事の最後に、第3回内容も掲載しますので、ぜひふるってご参加ください!
第2回テーマに寄せられた4作品を紹介
妄想恋愛詩人・ムラキングと〈こここ〉編集部による連載「ムラキングとみんなの詩(うた)」。「生活から生まれた切実な詩」を読者のみなさんから募集して紹介する読者投稿型連載です。今回も、寄せられた作品を眺め味わいながら、その人が送っている日常の手触りや、誰かにとっての切実で大切なことを想像して、ラジオ番組のようにあれこれとおしゃべりしていきます。
第2回の募集テーマは「鍵」「やりっぱなし」「乾杯のあと」。今回も多数寄せていただいた作品のなかから、印象深かった4本をご紹介します。
登場人物紹介
- 妄想恋愛詩人ムラキング:1981年生まれ。高校生時代から詩を書きはじめ、即興で詩を書くのが得意。認定NPO法人クリエイティブサポートレッツの就労継続支援B型を利用している。
- 水越雅人:認定NPO法人クリエイティブサポートレッツのスタッフ。同い年のムラキングと出会って10年になる。
- 中田一会:こここ編集長
- 岩中可南子:こここ編集部メンバー
それぞれの暮らしのそばにある“丁寧”
1作目はたえもんさんの詩、タイトルは『定点観測 積み重ね生活日記』で、お題は『鍵』です。
定点観測 積み重ね生活日記
秋の朝
電気をつけようか付けまいか迷う
伸びをして布団から出た
布団をいつもより綺麗に揃えた
狭い急な階段を降りる
風呂場の電気を点ける
体を丁寧に洗った
髪を丁寧に乾かした
コードを丁寧にまとめた
ドアの鍵を閉め
ドアノブを引っ張った
鍵が閉まってるか確認
鳩が近づいても逃げなかった
流れる電車の中で宙に想いを馳せる
よっこいしょと玄関を登る
お土産を渡す
おにぎりを頬張る
一口目は大きい方がいい
二口目も大きい方がいい
三口目も大きい方がいい
なおさら
ギリギリ間に合った映画館
空港まで送る
靴をいつもより丁寧に揃えた
福をいつもより丁寧にハンガーにかけた
野菜を切る
塩をかける
お皿を丁寧に洗う
座椅子に座る
シャーペンをノックする
定点観測 積み重ねの日記
そのために今日も積み上げる
さよならカレー
また金曜日に会おう
「日記というタイトルの詩、ですね。この連載で大事にしている“生活から生まれた切実な言葉”がじっくりと並べられていますね。 まずは個々の感想からきいていきましょうか。ムラキングさん、どうですか?」
「『ドアの鍵を閉め』と書いてあったから、この家から出かけた人と、この家に残って留守番している人がいて、それぞれの行動が描かれているのかと思いました。たえもんさんからのコメントだと『ふるさとの祖母の一軒家で、こんな暮らしがしたい』と寄せられていましたよね。
僕はこれが気になっていて。もしかしたらこの詩の内容は、この人が幼少期におばあちゃんと暮らしていて、大人になったいま、それを懐かしんでいると捉えることもできるんじゃないかなって。この方、鍵っこだったのかなあ。僕、鍵っこに憧れていたんですよね」
「なるほど! 私は、この方が決めた生活のジンクスがつまっているのかなと読んでいました。
共感したのは『コードを丁寧にまとめた』の部分。私も、急いでいるときや荒れた気持ちのときって、ドライヤーのコードをそのまま適当にしちゃうんですよね。だからこの方は、誰も見ていないときにすら、コードを丁寧にまとめた自分を褒めたいんじゃないかなって。
タイトルの『積み重ね生活』にもあるように、生活のなかに、誰のものでもない自分だけの達成感を並べているようにも感じました。水越さんはいかがでしたか?」
「この詩、『丁寧』が6回も登場するんですよ。それが面白いなあって。『丁寧に』って意識するとき、逆をいえば普段はそうではないってことじゃないですか。
読みながら、お皿を一つひとつを見つめて、スポンジの泡立ちもいちいち確認するような情景が浮かんできましたね。『丁寧に』とつぶやきながら、この瞬間に集中して、自分の意識に刻もうとしている姿が興味深いですね。あと、前向きな詩のはずなのに、なぜかさみしさも感じるのはなんでだろう」
「私は、洗濯するときに、ばらばらになった靴下を隣同士に干せたときかなあ。そうすると、取り込むときに一緒にまとめられて便利なんです。丁寧ってほんのり手間だけど、そうすると未来の自分にちょっといいことが起きるんですよね」
「僕は洗濯するとき必ず角ハンガーにタオルだけ干すんですよ。そこに靴下でも混ざろうもんなら、違和感がすごくて落ち着かない。岩中さんの話を聞いて、最初これも丁寧かなって思いましたけど、もしかして『こだわり』かもしれないですね」
「そうかも。こだわりと丁寧って違うのかもしれませんね。発見だ」
「ああ、眼鏡を洗うときのほうが丁寧に近いですね。眼鏡がないと生きていけないから、自分の体より丁寧に洗っている気がします」
思い出は多面的、心の見方は複数
つづいては、ぽえの進 祐親さんの作品です。お題は『乾杯の後』です。
人生のなり行きは, 自分の心が発端
だからさあ . . . って
ボクは、愚痴が多くて
自意識が つよい
そりゃ 親はすこし 変わり者
けれども
ああだ こうだって
もんくを言った
自己顕示欲 が
おのずと、不満を招いたんだなあ
自分自身に
すべては 父と母の乾杯の後
ボクは しゅるるぅ と
小さな 拘りの 隕石
地球に 激突して
めり込んだ
一つの 生き物だったんだろう
いま 作業所で
やっと
地面へ はい上がって
あたらしい 心で
はぁ、なるほどねえ
へぇー っと
景色を 眺めている
「いい書き出しですね! 心が発端だけど、人生はなり行きなのかあ。詩の前半と後半で、見えている景色が違うのも面白いですね」
「この詩って、この方の半生が題材になっているんですかね。人の心はうつり変わるし、こんなふうに、心の見方も複数あっていいんじゃないかな。それにともなって思い出も、いろんな視点のものが自分のなかに点在している、そんな多面的なものなのかもしれない。なので、この詩の多彩な心象風景については『だよね』と同意しつつ、この心や思い出の捉え方を味わい深く感じました」
「視点があっちこっちに移動する感じも、それはそれでリアルですよね」
「それにこの言葉づかいがいいですよね。『だからさあ…って』とか『はぁ、なるほどねえ へぇー』とか。そのひとりごとを言っている感じと、視点の行き来の幅広さが楽しいし、『父と母が乾杯したあと隕石が激突』?! すごい表現ですよね」
「そうそう、生命の誕生の話をしているのかなって」
「僕は一貫してそっちの話をしているんだと思いました。この詩、だいぶセクシャルじゃないですか?」
「そうきたか! さっき水越さんが人間の多面性について触れましたが、このおしゃべりも、人によって抱く感想がまったく違いますねぇ。 作中『作業所』が登場しますが、これは福祉施設的な場所なんでしょうかね」
「ですかねえ。『はい上がって』という言葉が伴っていることもあって、この人にとって作業所は『社会』や『家の外』なのかなあ、という印象を受けますね。そうか、この人は、そこで『へぇー』ってしているんだな」
「確かに。『いますよー』くらいの感じなんですかね」
いつか合う鍵を未来で見つけられたら
3作目は、まるぽっけさんの作品です。
私は空っぽ。
私の心には小さい頃からどうしても開けられない扉が一つだけある。
何の鍵も合わない。
私は空っぽ。
この鍵は誰が持っているの?
どこにあるの?
この扉が開いた時
その先には何か知らないものがたくさん溢れ出て来る気がするのになあ。
「鍵を『人に預けるもの』、『自分で開けられないもの』と解釈して作品を寄せてくれました」
「なんだか寓話みたいですね」
「鍵が見つからない現状を打破できるようなことが、この先にあるはず。でもこの方は、悲観したり、もがいて苦しんでいたりするのかといえば、そうでもなさそうで。あっけらかんと、ぽかんとしている印象を受けました」
「前向きですよね。私自身は『私』との付き合いも長くなってきて、自分にまだなにかが眠っているかも、とは思えなくなりつつあります。自分が積み重ねてきた経験やつながりを“貯金”とするならば、残りの人生はそれをどうやりくりして凌ごうというフェーズに入ってるというか……。だから自分に対して『未発掘の可能性があると思うんだよ! まだ鍵は合わないけど! そのうちきっと合うと思うんだけど!』という構え方が、瑞々しくてとってもうらやましいです」
「僕はここから先の人生が全部決まってたらいいのになって思いますし、最近、ああ、やりきったかも……と感じる瞬間が増えてきました。
僕は詩を書くとき、お客さんとの会話をもとにしながら書く『来世占い』スタイルをとっています。そんな僕が、昔よりも今の自分が一番いいと語るお客さんへ、どんな詩が書けるだろうと考えたりします。まるぽっけさんの詩からも、自分はもっとよくなっていくはずだという未来観と、そこにこめられた期待を感じました」
日常を祈りでつなぎとめて保っていくこと
最後は、あべこべかえるさんの作品。お題は『鍵』です。
コインロッカーで つい選んでしまう番号がある
高校時代 何度も目にした出席番号
「17番」の鍵をかけると 教室の喧騒が聞こえる気がするから
冬には行かないことにしている場所がある
ある寒い日 友人が消えた雪の国
そこに行かない限りは 彼を覚えていられる気がするから
欲張りなわたしの生活は祈りに満ちている
誰かを 何かを 忘れないための祈り
名前のなかったものが 名前のあるものになり
意味のなかった行いが 意味のある行いになる
それは不確かだけど なんとなく確かで
今日をこえ もう少し先まで歩いていけるように
密やかな祈りを織り込んでいく
「この方は『忘れないため』に、『祈り』を基準にして、選択をする場面が多いんですね。そして、コメントがとても印象的だったので併せて紹介します」
「祈り」という言葉が適切だったのかどうか、わかりません。「おまじない」や「願掛け」、「拠り所」…と言ったほうが、クセがなくて良かったのかもしれないです。ですが、自分の中では、祈るという言葉が一番しっくりきてしまって…。忘れたくないことと(間接的に)関わる存在や行為は、一方的に捧げるでもなく、自己完結でもなく、「何かと同期する」ような感覚だったので、この言葉を選んでみました。
「僕も、誕生日の数字を選びがちですね。ちょっと違うかもしれませんが、おみくじとかでどんな結果が出ても、自分の数字を選んだ結果だから、まあ受け入れるかって納得できるというか」
「私はあんまり数字にこだわりはないほうだと思っていたんですが、そういえば駐輪場のコインパーキングの番号とか『ああ、この番号の歳に、私にはこういうことがあったな』って覚えておくなあ。意外と無意識に、数字に自分の人生の出来事を紐づけていたりするものなのかもしれませんね。17という数字を頼りに、青春時代に戻れてしまうだなんて、なんて素敵なノスタルジーなんでしょう」
「淡々とした日常を、願掛けでつなぎとめて保っていく、というのはすごくわかるというか。といっても自分自身には、ラッキーカラーやラッキーナンバーみたいなジンクスはないんですけど……。そこに『祈り』という考え方を結びつけることで、先に進もうとしているのかなって。
ちなみに、この『欲張りなわたしの生活』という表現が気になったんですけど、みなさんどう思いましたか?」
「もしかしたら、高校の教室の喧騒や大切な友人、誰かや何かを忘れたくないと思っていることを欲張りだと感じているんじゃないかな? 先程のまるぽっけさんの詩は現在から未来を向いていましたが、あべこべがえるさんの詩は逆ですね。現在から過去を向いている気がする」
「そうですね、過去に生きているというか」
「僕はこの詩に描かれている『忘れてしまうこととの付き合い方』について、よく考えます。僕自身、姿が思い描けていても、名称が咄嗟に出てこないことも増えてきました。そもそも、あの出来事が何月何日で、番号は何番で、ってきちんとひとつにまとめて覚えていないんですよ。この方はそこがとても綺麗に整理がついていて、その個人差も面白かったです」
「頭のなかにある情報としては整理されているけど、気持ちの整理はついてなさそうですよね」
「うんうん。あと『名前のなかったものが~』の箇所を見て考えたことなんですけど。僕は思い出は、あとから意味がどんどん追加されていって、見方が変わっていくようなものでもあると思っていて。思い出を語るとき、相手によってはやや意味合いをズラしたり、自分のなかで微調整したりするときってあるじゃないですか。
だから、もしかしたらはっきり断定されている強い記憶よりも、ぼんやり覚えている記憶にこそ、大事なことが隠れているのかもなって気づかせてもらいました」
切実に生きていく方法ってみんな違う
「今回もたくさんの作品に囲まれた時間でしたが、みなさんどうでしたか?」
「祈りとして過去に向き合う、丁寧にすることで暮らしと向き合う、それぞれが全然違うアプローチで、生活を生きるための切実さを表現してくださったんだなと思います」
「次回もどんな作品が送られてくるのか、楽しみですね」
「次のお題も決まりましたし、これからさっそくムラキングと次回募集に向けたチラシを作りたいと思います!」
「よろしくお願いします!」
どなたでも大歓迎。あなたの詩をお待ちしています!
寄せられた作品を遠くから見たり、近づいてみたり、並べてみたり、自分に引き寄せて考えてみたり。散歩のように詩の世界を練り歩きながら、あらためてその多彩さに魅せられた第2回『ムラキングとみんなの詩』。
上で取り上げた詩のほかにも、肩の力が抜けきった宴のあとの一コマを描いた詩や、システムのセキュリティになぞらえながら「わたし」を思い出そうとしている詩、幻想的な世界で不器用な自分を静かに見つめる詩などがありました。
テキストデータでも、手書き文字でも、イラストでも。あなたが間違いなくそうだと思えるものならば、それは間違いなくあなたの「詩」です。次はどんな“切実さ”に出会えるのか、連載メンバー一同、とても楽しみにしております。今回〈こここ〉上でご紹介した作品の作者にはささやかですが記念品をお届けします。
みなさま、ぜひふるってご応募ください。
第3回募集内容(〆切:4月5日)
テーマ
- あなたの生活から生まれた切実な言葉を詩として届けてください
- 第2回の募集テーマ「失敗」「目玉焼き」「2時間スペシャル」のうち、好きなものをひとつ選んでください。複数テーマをつかう作品もOKです。
形式
- あなたが「詩」だと考える表現であればどんな形式でもOK
- テキストデータにした文章でもいいですし、紙に書いた文字を写真やスキャナなどの画像にするような形でもOK
締め切り
締め切り:2024年4月5日(金)24:00まで
応募方法
メールの件名に「みんなの詩作品応募」と記入し、〈こここ〉編集部メールアドレス(co-coco@magazine.co.jp)まで以下の内容をお送りください。
- 作品(詩) ※メール本文に記入しても、画像などを添付してもOK(添付ファイルサイズは5MB以下)
- 選んだテーマ
- ペンネーム
- 作品についてひとことコメント
発表/記念品
- 応募いただいた作品のうち数点を〈こここ〉の記事上で掲載します(2024年春頃を予定)
- 掲載作品の作者には、記念品を贈呈します
※作品が掲載される場合、作品を応募いただいたメールアドレス宛に、記念品の発送先について編集部からご連絡します
注意点
- 応募された作品がすべて掲載されるわけではありません
- 未発表の作品、ご自身が考えて書かれた作品に限ります
- 掲載作品については作品・ペンネームのほか、応募時のひとことコメントも掲載される場合があります
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Profile
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- ライター:遠藤ジョバンニ
-
1991年生まれ、ライター・エッセイスト。大学卒業後、社会福祉法人で支援員として勤務。その後、編集プロダクションのライター・業界新聞記者(農業)・企業広報職を経てフリーランスへ。好きな言葉は「いい塩梅」、最近気になっているテーマは「農福連携」。埼玉県在住。知的障害のある弟とともに育った「きょうだい児」でもある。