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ジェンダーギャップとは? 調査指数から考える、「政治」「経済」「表現」での不均衡の連鎖
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日本のジェンダーギャップはG7最下位、東アジア・太平洋地域の中でワースト2
(2024/8/8:ジェンダーギャップ指数のデータを『Global Gender Gap Report 2024』のものに更新しています)
男女間の格差を指す言葉「ジェンダーギャップ」。社会や家庭の中での差を埋めることは、SDGsの5つ目の目標「ジェンダー平等を実現しよう」にも掲げられる、世界共通のテーマです。
しかし、2024年6月12日に発表された〈世界経済フォーラム(WEF)〉の調査『世界男女格差報告書(Global Gender Gap Report)』では、日本のジェンダーギャップ指数は146カ国中118位。G7(アメリカ、カナダ、イギリス、ドイツ、フランス、イタリア、日本)の中で最下位、東アジア・太平洋地域の中でもワースト2の結果でした。
ジェンダーのバランスが不均衡であることは、私たちの暮らしや将来にどのような影響を与えているのでしょうか? 「表現」領域を対象にした国内調査『ジェンダーバランス白書 2022』と合わせ、データを読み解きながら(※注)考えてみたいと思います。
※注:今回ご紹介するレポートでは「SOGI」(多様な性のあり方)としてではなく、社会的性別としての「ジェンダー」に焦点が当てられており、この結果にうまく反映されない、多様な性の問題があることにも注意が必要です。それでも、「ジェンダーバランスの偏り」が現状生んでいる課題に目を向けることは、社会に存在するさまざまな差別の是正やハラスメントの抑制につながると考えています。
「政治」「経済」に顕著な男女の不均衡
『世界男女格差報告書』の発表は、2022年で16回目。この中で、管理職の男女比率や、国会議員における割合、収入格差など各国の男女格差が「経済」「政治」「健康」「教育」の4分野14項目で評価され、「ジェンダーギャップ指数」として比較されています。また、貧富の差とジェンダーギャップの関係性や、地域ごとの指数の変遷などもまとめています。
スコアがなかなか伸びない日本ですが、分野ごとに評価を見ていくと、その偏りが見えてきます。
「健康」では世界58位。出生時や平均寿命でのジェンダーギャップは、比較的少ないとされています。また、「教育」は72位。識字率、就学率(初等・中等)の項目では、いずれも差がないことが示されました。
一方で、「経済」は世界120位。女性の労働参加率のいびつさや、管理職や上級職での女性の割合の低さなどを理由に、大きくスコアを下げています。
さらに、「政治」でも世界113位。国会議員、官僚、閣僚、いずれも多くのジェンダーギャップが見受けられるとされています。
ジェンダーギャップが広がるときに起きる問題はさまざまです。社会の中で女性の声が届きづらくなることは、さまざまな差別を生む可能性を高めます。抑圧的な関係性が、ハラスメントや暴力の被害を助長することも考えられるでしょう。雇用に対する格差が広がり、ひいては賃金や富の格差にもつながる点が、報告書でも指摘されています。
「表現」の現場にある不均衡の連鎖
『世界男女格差報告書』では日本の教育の不均衡はほぼないとされていますが、就学率などでは見えない不均衡があること、そのギャップが卒業後のキャリアに影響を与え、前述のような格差を生んでいることにもきちんと目を向ける必要があります。2022年8月に発表された〈表現の現場調査団〉による『ジェンダーバランス白書 2022』は、その一端を指摘した資料といえます。
〈表現の現場調査団〉とは、クリエイターや研究者など、「表現」活動にかかわるメンバーによる有志団体です。白書では、美術、演劇、映画、文芸、音楽、デザイン、建築、写真、漫画の9分野を対象に、日本国内における「教育機関」での指導者と学生や、主要な「アワード」の審査員と受賞者などの比率が報告されました。
これによると、教育機関の学長・理事長・理事会では、いずれも約9割を男性が占めていることがわかります。
さらに美術大学では、学生の7割以上が女性にもかかわらず、教授は8割以上が男性という結果も。音楽大学でも、やはり学生の7割以上が女性にもかかわらず、教授の6割以上を男性が占めていることが明らかになりました。
もちろん教育機関の中には、学校単位でみると指導者の男女比率に偏りのない施設もあります。しかしそういった施設であっても、その指導者の内訳を調査すると、講師など非常勤の女性指導者が多く含まれており、学長・教授・准教授などの指導者は男性に偏りが見られました。
また、主要なアワードの審査員のジェンダーバランスも偏っています。 2011年から2020年までの審査員は、平均して8割近くが男性です。
さらに、大賞受賞者も3分の2が男性です。学生の割合では女性が多数を占めても、大賞受賞者ではその比率が逆転していることがわかります。
このことから、「男性が指導をしやすく、男性が審査しやすく、男性が評価されやすい」という不均衡の連鎖構造が見えてきます。
こうした不均衡の広がりは、女性にとってはロールモデルとなる人との出会いが少なくなってしまうことや、不平等性への批評基軸を持たないままになることにもつながりかねません。調査に協力した〈社会調査⽀援機構チキラボ代表〉荻上チキさんも、『ジェンダーバランス白書 2022』内のコラムで「⾃由と創造を探求してきた表現分野たちが、実際には様々なバイアスに根深く囚われていることを明らかに」したと指摘しています。
さらに、構造的な偏りがハラスメントに結びついていることは、前年度発表された『表現の現場ハラスメント白書 2021』と合わせて読み取ることができます。こちらの白書では、「女は結婚すると作品がだめになる」と男性教員がコメントするなどといったアカデミックハラスメントの存在が明らかに。また、裸婦をモチーフにした女子学生の作品に「あなたの裸はこういう姿なの?」と男性教員が尋ねたり、「もっと自身の容姿をうまく使って男性を動かして大きな作品を作ったらいい」と男性教員が女子学生に提言したりと、起きたセクシャルハラスメントについても記述がなされています。
これらはあくまで、「表現」分野におけるジェンダーの不均衡を扱ったデータです。しかし、ジェンダーギャップ指数のスコアが低い日本においては、同じような現象がさまざまな分野でも起きている可能性があります。一人ひとりが、自らの足もとで「構造的格差はないだろうか」と想像してみることが重要になるでしょう。
ジェンダー・ギャップを埋めるための制度や仕組み
ここまで見てきたようなジェンダーギャップの解消には、いくつかの考え方があります。
1つは「ジェンダーパリティ(Gender Parity)」。直訳すると「ジェンダーの公正」を意味するこの言葉は、人数の割合や金額の差を明らかにしつつ、改善に向けたわかりやすい数値目標を設定して変化を促す方法です。
一方で、「ジェンダーイクオリティ(Gender Equality)」は、数値だけでなく、価値観の変容や社会的な行動の変化を含めた「ジェンダーの平等」を目指す言葉です。
日本でも、前者の具体的な制度として、2022年4月1日に「女性活躍推進法」が施行されています。この法令は、常時雇用する労働者が101人以上の事業主を対象に、女性が個性と能力を発揮していけるための「行動計画の策定・届出」と「情報公表」を義務付けているものです。
公表しなくてはいけないのは、労働者・管理職・直近の新規採用者それぞれの男女比率、平均勤続年数の男女比率、平均残業時間数など。もちろん、大きな枠組みの比率だけをジェンダーパリティにするだけでなく、同じ雇用条件の人同士で賃金比較をするなどして、本当の意味で平等になっているかにも目を向ける必要があります。
また、ジェンダーパリティの実現を目指し、海外では「クオータ制」が導入されている事例もあります。
クオータ制とは、議員や企業役員などの構成メンバーに偏りが多いとされる領域において、特定の属性をもつ人に一定のポジションを割り当てる制度です。日本では実施されていませんが、世界では120か国以上が導入を進めています。
「政治」の領域で議題にされることが特に多く、2000年よりフランス(注)と韓国では女性の国会議員に対して法律で「候補者クオータ制」を定めた結果、それぞれの国での女性の国会議員の割合が12年間で約2.5倍になっています。他にも、スウェーデン・ノルウェー・ドイツなどで導入されている「政党による自発的クオータ制」という自主的なクオータ制や、ルワンダでの、「議席割当制」として憲法であらゆる意思決定機関の構成員を少なくとも30%を女性とするよう定めているクオータ制もあります。
(注)フランスでは「クオータ制」ではなく、同内容の施行内容を法律上「パリテ」という用語で説明されている
割り当てられるのは女性だけではなく、人種や宗教など、社会的に不利とされるさまざまなマイノリティの立場にある人々です。たとえば、ノルウェーで導入されている「パパ・クオータ制度」は男性のための制度で、育休期間のうち6週間は男性しか取得できないようになっています。
男女二元論を超えた公平な社会へ
〈表現の現場調査団〉による『ジェンダーバランス白書 2022』には、調査側で勝手に一人ひとりの性を公にしたり、憶測で判断したりしてしまうこと自体が「SOGIハラスメント」につながってしまうことも考慮し、できる範囲での調査を行ったとつづられています。ジェンダーでの調査を進めると、トランスジェンダーやXジェンダー、ノンバイナリーの⼈の困難を明らかにするためのデータが得られづらく、どうしてもシスジェンダー(出生時の性と性自認が同じ人)が中心の男女二元論になりがちな点は、データを読み解く側も注意が必要でしょう。
それでも、上智大学・出口教授のいう「労なくして得ることのできる優位性としてのマジョリティ性」を考えるときに、今回紹介したようなデータを参照してみることは大きなきっかけになるかもしれません。たとえば、実績の乏しさから女性の能力を判断し「評価がないから仕方ないだろう」と考えてしまう前に、そもそも実績を残す機会が与えられなかったり、教育や評価の場面で構造的な不均衡があったりしないだろうかと想像できると、対処すべき物事も明確になるのではないでしょうか。
そうした気づきが、結果的に今いる組織やチームなど、一人ひとりの生きる環境を変えていくことにつながるはずです。
Information
ジェンダー・ギャップを考える
- 『Global Gender Gap Report(世界男女格差報告書)』(2024年6月発表 / 世界経済フォーラム(WEF))
https://weforum.org/publications/global-gender-gap-report-2024/ - 『ジェンダーバランス白書 2022』(2022年8月発表 / 表現の現場調査団)
https://www.hyogen-genba.com/ - 『表現の現場ハラスメント白書 2021』(2021年3月発表 / 表現の現場調査団)
https://www.hyogen-genba.com/surveys - 女性活躍推進法
https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000091025.html - 政治分野における女性の参画拡大のためのポジティブ・アクションについて(2012年4月発表 / 内閣府 男女共同参画局
https://www.gender.go.jp/policy/positive_act/pdf/positive_action_016.pdf
Information
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