福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

出だし補助付きメッセージメモ&マグネット〈スウィング〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

今回ご紹介するのは、イラストと言葉のチョイスにニンマリしてしまう、京都府にある生活介護事業所〈スウィング〉の「出だし補助付きメッセージメモ」と「マグネット」。楽しくてユーモアたっぷりのアイテムですが、誕生の理由や製作の過程には、揺るがない理念がありました。

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〈スウィング〉のアイテムは、大切にしたい思いや活動の“発信手段”

何かを伝えたいとき、それが重要であればあるほど、ストレートに切り出すのはちょっとドキドキします。そんなとき「出だし補助付きメッセージメモ」に思いを託してみませんか。

眩いほどに後光差す「ほとけさま。」はおっしゃいます。「みんないつかしぬから どうでもいいっちゃいいんだけど。」と――。

その言葉の真理と脱力。青い空にぽっかり浮かぶ白い雲。どうでもよくないことを伝える勇気がフツフツと湧いてくるかもしれません。

切実な胸の内を明かしたいときは「身も心も裸になって申し上げます♡」のメッセージメモで。ユーモラスな言葉のワンクッションがあるだけで、円滑なコミュニケーションにつながるかも?

さらに、言葉のチョイスにニヤリとしてしまう「マグネット」もご紹介。

「いわれてみれば、確かに赤身のマグロだ~」と誰もが納得するイラストの妙。プリンが今すぐ食べたくなる絶妙なコピー。そして、あの俳優さんの手。これって……商品化ギリギリセーフ……いや、ギリギリアウト?

あの俳優さんの手って、こんな感じなんだ⁉

今回ご紹介するイッピンを製作するのは、京都府・上賀茂に所在する生活介護事業所〈スウィング〉(※注)。モットーのひとつに「ギリギリアウトを狙う」を掲げ、障害のある人・ない人と共に、自由な仕事や表現活動のなかで、社会の常識の規定値を広げるための創造的実践を行う福祉施設です。

そんな〈スウィング〉の活動はいずれもユニーク。ブルーカラーの戦隊ヒーローがまち中でごみを拾う「ゴミコロリ」、絵や詩の自由な創作活動「オレたちひょうげん族」のほか、フリーペーパーの出版、ラジオ配信など、“セーフゾーンのちょっと外側”を狙った多岐にわたる自主発信を行っています。

※注:2024年1月1日より〈スウィング〉の運営法人は「NPO法人スウィング」より「株式会社NPO」に変更しています。

困り果てた部下に厳しい言葉を投げかけたいときは「もうわかってると思うが!!!!!」と歯をむき出すリアルな恐竜メモを。困り果てた上司に一言申し上げたいときは「ベロベロべ~」と発する謎の男メモで伝えてみませんか

非日常を日常に変えていく

2017年に販売開始された「出だし補助付きメッセージメモ」は、〈スウィング〉に所属するメンバーが描いたイラストに、同法人の代表・木ノ戸昌幸さんの言葉を添えて製作しています。

じつは2007年にはすでに商品化の構想があったものの、実際に形となったのは10年後のこと。

「10年前にこういった商品があっても、キャッチしてくれるお店やお客さんはいたと思うんです。でも〈スウィング〉自体に、こういったことをおもしろがれる土壌や文化が整っていなかったんです」(木ノ戸昌幸さん)

かつては西陣織の産業とコラボレーションするなど、社会に“受け入れられやすい”活動が中心だったという〈スウィング〉。一方で「どんな商品や活動があれば楽しいか?」というアイデアを常に持ち歩き、その発出のタイミングを見計らっていたといいます。

2008年にスタートした清掃活動「ゴミコロリ」も、開始当時は青いベストをつけての活動でしたが、4年後には満を持して全身ブルータイツの戦隊ヒーローが登場。コンビニ進出に始まり、京都市バス、市内の大型店舗と出没範囲を少しずつ広げ、一見違和感を覚えるものが、いつの間にか当たり前に感じられるような、人や社会への働きかけを実践してきました。

そんなユーモアを大切にする活動のなかで、メンバーたちにも変化が。作品の自由度が増し、表現の幅が広がったといいます。それを機に、少し特異な言葉を添えた「出だし補助付きメッセージメモ」の製作にも踏み切ることになりました。

「ベロベロベ~」の絵を描いたメンバーのnacoさんは真面目なお人柄。だからこそ、このようなテイストのメモ帳をつくりたいと申し出る際は緊張した(⁉)という木ノ戸さん。nacoさんは笑ってOKを出してくれたのだとか

「非日常を日常に変えていく土壌づくりのなかで、ようやく商品化できたのが2017年だったんです。セーフゾーンを広げていくアクションを社会にまで拡散させるには、まずは〈スウィング〉という足元から醸成しないと。そういう理念をもって今も活動しています」

マグネットに込めた「お楽しみ」と「問い」

年に3回ほど展覧会を主催する〈スウィング〉。その際の新作グッズとして誕生した「マグネット」は、沖縄土産「ハブの卵」に着想を得て製作されたもの。購入者も、もらう側も、開けるまで何が入っているかわからないというおもしろさを再現しています。

中身の見えないパッケージに包まれたマグネット。裏面に小さく商品名は書かれていますが、どんなアイテムが入っているかは開けてのお楽しみ、というコンセプト

さらにこの商品には、木ノ戸さんが抱く社会への鋭い風刺も込められています。

「近年は手づくり品こそ価値が高いというような傾向がありますけど、本当にそうかな?と思っていて。それで、この大量生産品にも見える手づくりのマグネットをつくったんです。そして、手づくり品が好きという人に見せたい。『この大量生産みたいな手づくりはどうなんだ⁉』って。そんな世の中の矛盾をついた、僕らのひとつのチャレンジなんです」

大量生産・大量消費の恩恵を受けながらも、手づくり品に肯定のまなざしが向けられがちな風潮への痛烈な問い。このゆるくてユーモラスなマグネット、侮れません。

「かえったらごろりんする。」が口癖のメンバー・Haruka Andoさんが描いたイラストと文字もマグネットに。商品に込められたは思いは強いけれど、このゆるさと安らぎ、たまりません

〈スウィング〉が優先するもの

フフフと笑みを誘い、緊張がとけるような楽しさがある〈スウィング〉の商品たち。一方で、同法人の活動のなかでの商品づくりは、そこまで優先するものではないといいます。

「僕らの商品は収益を上げるのが目的ではなく、〈スウィング〉の活動や思いの“発信手段”なんです。商品を売ることに気を取られすぎると、大事にしたいことが見えなくなる可能性があるなと思っているんです。……とはいえ、発信して誰かに活動や思いを届けるには、売れないとダメなんですけどね(笑)」

一番大切なものはなにか。自分たちの足元だけでなく、社会全体に向けてそう問い続け、さまざまな活動に落とし込んでいく〈スウィング〉。ユーモアたっぷりだけれど、一本の筋が通っていて、かっこいい。

〈スウィング〉の活動や作品に出会える! 東京・渋谷での展覧会

そんな〈スウィング〉が参加する展覧会『共棲の間合い -「確かさ」と共に生きるには-』が、2024年2月10日(土)~5月12日(日)の期間、〈東京都渋谷公園通りギャラリー〉にて開催されます。

清掃活動「ゴミコロリ」の初期から現在までの記録写真や、「オレたちひょうげん族」から生まれた絵や詩の数々など、独自の発信を続ける同施設の世界観に触れられる内容となっています。

会期中には〈スウィング〉メンバーによる似顔絵ワークショップ、木ノ戸さんと〈やまなみ工房〉代表の山下完和さんの対談など、さまざまな関連企画も実施されます。同施設のファンの方、活動が気になるという方は、ぜひチェックしてみてください。