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自分にとって最も親密で“確かなもの”を問う「共棲の間合い」展〈東京都渋谷公園通りギャラリー〉で2月10日〜5月12日まで開催
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「共棲の間合い -『確かさ』と共に生きるには-」との題字と、出展作家や作品の写真が載っているメインビジュアル画像

作家にとって最も親密で“確かなもの”に分け入ってみる展覧会

2020年の開館以降、美術教育の有無を問わず、独自の発想や表現方法で制作を行う作家やそのアート作品などを、さまざまな角度から紹介している〈東京都渋谷公園通りギャラリー〉。

これまでに、“かたち”をキーワードに国内外で活躍の場を広げる10名の作家を紹介した「アール・ブリュット2022巡回展」、8名の作家が思いおもいの形態で“語り”を表現した「語りの複数性」、おかんアート約1000点が集結した「Museum of Mom’s Art ニッポン国おかんアート村」など、話題を集める展覧会を開催してきました。

そして、2024年2月10日(土)~5月12日(日)の期間、「共棲きょうせいの間合い -『確かさ』と共に生きるには-」と題した展覧会が開催されます。

ガラス張りになっている施設正面の写真
施設外観。〈渋谷公園通りギャラリー〉は渋谷区立勤労福祉会館の1Fにあります(撮影:中村晃)

本展で紹介されるのは、身近な家族との関係に迫るパフォーマンス、ある食料品に対する愛着、近隣地域のゴミ拾い、日常の出来事から生まれた詩、現代の住居や生活様式を問い直す試みなど、「住む」「暮らす」「生活する」「共に行う」ことを起点に表現する作家たちの作品や活動です。

表現方法は作家ごとに大きく異なるものの、「生活と芸術の境界を揺るがし、問いかけるもの」という作品や活動における共通性があります。

そして、それらの表現のあり方は鑑賞者にとって驚きや困惑の対象となったり、異様に感じられたり、はたまた笑いや安らぎを覚えるものであるかもしれません。一方、作家にとっては最も親密で、“確かなもの”であり、それらと作用し合いながら暮らしている――つまり「共棲」しているものだといいます。

本展ではそのような作品や活動にフォーカスし、さらには鑑賞者にとっての“確かなもの”を反芻する機会となることを目指しています。

3名と1組の出展作家と、その見どころは?

「共棲の間合い」展に参加するアーティストは3名1組。各作家と、作品の見どころをご紹介します。

いくつものフランスパンを顔に巻いた男性が電車内を歩き、その姿に乗客が驚きの視線を向けている写真
折元立身《パフォーマンス:パン人間電車の旅》1992年 作家蔵 提供:アートママファウンデーション

顔にパンを巻きつけてまち中に繰り出すパフォーマンス「パン人間」や、自身の母の介護を作品とした「アート・ママ」シリーズなど、40年以上にわたって国内外で活動を繰り広げている現代美術家・折元立身さん。

生活と芸術の境界を揺るがしながら、コミュニケーションのあり方を愛とユーモアを交えて問いかける作風は、国際的に高い評価を得ています。

本展では、代表作「パン人間」「アート・ママ」作品のほか、ニューヨーク時代のオブジェ、本邦初公開の新作オブジェを並べて展示。日常生活にあふれる身近な事象を作品に取り入れてきた折元さんの作品の真髄に触れます。

赤いダウンジャケット、黒いズボンを着用した酒井美穂子さんが、手に「サッポロ一番しょうゆ味」の袋をもって原っぱを歩く写真
酒井美穂子《酒井美穂子・本人》2015年 提供:やまなみ工房

滋賀県甲賀市の〈やまなみ工房〉に所属する酒井美穂子さんは、朝起きて、夜眠りに就くまで、即席麺「サッポロ一番しょうゆ味」を片ときも離さないといいます。食べるわけでもなく、ただ手に握り、ビニールのすれる音や手触りを確かめ、眺めるその行為を28年以上続けてきました。

本展では、実際に酒井さんが手に握ってきた膨大な数の即席麵で壁一面を覆うという過去最大規模のインスタレーションを展開。その“無意味のようなもの”に見える行為や、そこから生まれた作品に、鑑賞者は何を思うでしょうか。

ゴミ袋やトングを手にした、全身ブルーの戦隊ヒーロー服をまとった3人の人物が並んでいる。記念写真のような一枚
スウィング 2022年 撮影:Narita Mai

2006年より京都府・賀茂川で活動を開始した福祉施設〈スウィング〉。障害のある人・ない人とともに、既存の仕事観や芸術観にとらわれない自由な仕事や表現活動を基軸とした事業を行っています。

全身ブルーの戦隊ヒーローによる清掃活動「ゴミコロリ」、絵や詩の自由な創作活動「オレたちひょうげん族」のほか、フリーペーパー出版、ラジオ配信など、モットーとする“ギリギリアウト”を狙った多岐にわたる自主発信、社会の常識の規定値を広げるための創造的実践を行っています。

本展では、「ゴミコロリ」の初期から現在までの記録写真や、渋谷での実施風景映像、創作活動から生まれた絵の数々、大きく刷りだした詩作を読むブースなど、独自の発信を続ける〈スウィング〉の世界観に触れることができます。

切妻屋根の白い手づくり家を背負い、陸橋を歩いていく村上慧さんの後ろ姿の写真
村上慧《2018年8月30日石川県金沢市》2018年 作家蔵 撮影:TAMURA Can

2014年より、自作の「家」を背負って国内外を移動する「移住を生活する」プロジェクトを行い、既存の住居や生活様式を問い直す試みを続ける現代美術作家・村上慧さん。

近年は千葉県に土地を購入して小屋をつくり、落ち葉の発酵熱や気化熱の冷房効果を利用するなど、電気を使わない冷暖房空間の開発プロジェクトに取り組んでいます。

本展では、村上さんが続けてきた「住むことのパターン」を探る試みとして、落ち葉の発酵熱を活用したインスタレーション作品を展示。実際に落ち葉から生じる熱を会場で体感できます。

出展作家のパフォーマンスから対談まで! 関連イベント続々開催

会期中には「共棲の間合い」展をより深く楽しむための関連イベントも多数企画されています。

展覧会初日の2月10日(土)には、折元立身さんの代表的パフォーマンス「パン人間」を実施。3月2日(土)には、〈スウィング〉代表の木ノ戸昌幸さんと〈やまなみ工房〉施設長の山下完和さんによる対談も実現。4月4日(木)には、村上慧さんと土の研究者である藤井一至さんによる対談も行われます。

さらに、本展の担当学芸員による作品解説、〈スウィング〉のメンバーによる似顔絵ワークショップ、耳の聞こえない鑑賞案内人・小笠原新也さんをファシリテーターに迎えた筆談による鑑賞会も。

入館やイベントへの参加は無料です。出展作家に出会う機会あり、本展のテーマ「共棲と間合い」をひも解く対談や解説あり、ぜひご都合を合わせて出かけてみてはいかがでしょうか。