福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

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こここなイッピン

ロウ引きファイルとペーパープロダクト〈tomoni art〉

福祉施設がつくるユニークなアイテムから、これからの働き方やものづくりを提案する商品まで、全国の福祉発プロダクトを編集部がセレクトして紹介する「こここなイッピン」。

ダイナミックな幾何学模様が描かれた紙製のファイルは、くたびれてもよみがえる!? 長く愛用できる商品や、アーティストの絵の力がみなぎる〈tomoni art〉のさまざまなプロダクトをご紹介します。

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「メンバーの絵の力」を最大限に引き出した〈tomoni art〉のペーパープロダクト

左から「幾何学黒」「幾何学赤」「幾何学緑」

躍動感を漂わせるダイナミックな幾何学模様。描いた人の呼吸までも感じられるような筆の運び、色の濃淡、かすれ。各色にあわせて縫われたステッチと、これ以外は考えられない! と思うほどにマッチした茶色のクラフト紙。

そんな力強い印象を放つ今回のイッピンは、紙をベースとした「ファイル」です。紙製? と思う方もいるでしょうか。もちろんただの紙ではありません。一枚一枚に丁寧にロウを滲み込ませ、防水・耐水の加工が施された堅固なつくりのロウ引きファイルです。

独特な肌ざわりのロウ引きファイル。白地に鮮やかなカラーリングのファイルも用意されています。ロウ引きファイルは高温に弱いため、夏場は少し注意が必要です。A4、A5、A6サイズで展開。左から「おたまじゃくし」「くも」

このイッピンの特徴は“よみがえる”こと。使い込むなかでシワが入り、それらが味わいとなって経年変化を楽しめますが、「ちょっとくたびれてきたな……」と思ったら、よみがえらせるタイミングです。

ファイルの表・間・裏にそれぞれトレーシングペーパーを敷き、低温のアイロンをじんわりあてるとロウが融けて新品同様のファイルに! 破けない限り、一生涯使えるかもしれません。

北海道札幌市にある〈社会福祉法人 ともに福祉会〉のメンバーが描く作品を、スタッフとともに商品化するアートグッズブランド〈tomoni art〉。ファイル以外にも、レターセット、ご祝儀袋、ブローチ、ステーショナリー、Tシャツなど、さまざまなアイテムを製作しています。

〈tomoni art〉の人気商品のひとつ「レターセット」。イラストは〈ともに福祉会〉の設立当初から所属するChieko Yokoyamaさんによるもの。Chiekoさんは絵のほか、手芸やお琴、生け花、書道なども好むのだとか

ファイルの幾何学模様や、レターセットの木の葉などを描いたのは、同施設に所属するChieko Yokoyamaさん。プロダクトで使用されている抽象的な絵柄のほか、繊細な草花のイラストも手がける、幅広い作風を持つアーティストです。

そして、頭の中にある映像やイメージをのびやかに描くYuji Abeさんと、独特の色彩感覚が評判のI.NORIKOさんの作品を採用した「ご祝儀袋」がこちら。こんなにもカラフルで、モチーフに惹き込まれるご祝儀袋、なかなかないのでは!? 手渡された人の驚きと笑顔が目に浮かぶようです。

Yuji Abeさん(左・中央)と、I.NORIKOさん(右)のイラストがプリントされたご祝儀袋。左から「花」「だるま」「ドレッシング」

「ともに働き、ともに支え、ともに歩む。」

就労移行支援事業と就労継続支援B型事業を行う〈ともに福祉会〉。企業で働く障害のある人が退職後に活動できる小規模作業所として2000年に設立。のちに社会福祉法人となりました。

スローガンは「ともに働き、ともに支え、ともに歩む。」。約50名のメンバーとスタッフが一緒になり、日々の活動を通して個々の可能性を広げ、働くことの喜びを感じながら、充実した毎日が送れるような支援を行っています。

2003年からはメンバーが自由にアートに取り組める創作活動を開始。月に1回絵画の講師を招いたり、そこで生まれた作品を魅力的なプロダクトにするべくデザイナーとタッグを組んだりと、外部との関わりも広げてきました。

現在、創作活動は週1回と頻度もアップ。参加する・しないはメンバーの自由です。個々の思いを尊重することが、日々の軽作業だけでなく、創作活動でも大切にされています。

ステッチ入りのハガキのアイデアをもとに、レターセットも誕生。紙はふんわりと温かみのある「モフル」用紙を採用。ステッチのカラーはイラストが一番生きる色をデザイナーがじっくり選び抜いています。左から「シャボン玉」「雲」「葉っぱ」「点と線」

創作活動から生まれた、メンバーとスタッフのよき関係性

メンバーの描く作品の魅力もさることながら、それらを生かすアイデアにも目を見張るものがある〈tomoni art〉のプロダクト。例えばロウ引きファイルのアイデアは、このようなやりとりから生まれました。

もともとは作品をプリントしたプラスチックファイルを製作する予定でした。しかしそれでは〈tomoni art〉らしい個性光るものにならないのではと工夫を重ねます。

ふとデザイナーから出た「紙にロウ引きしてはどうか?」という案と、スタッフが過去に見かけたステッチ入りのハガキのアイデアが採用され、現在の形に。

紙へのプリント出力、ロウを細かく削る作業、アイロンでのロウ引き、紙の裁断、縫製、封入、シール貼りといったすべての作業を、メンバーとスタッフ、そしてデザイナーが、施設内で一つひとつ手作業で行っています。

それらの商品づくりのなかで、できないと思いがちな作業もこなしていくメンバーの姿や、アート活動での「自分はどう表現したいか」をストレートに示すメンバーの力強さなどを目にし、スタッフは日々発見や気づきの連続だといいます。

また、言語によるやり取りの難しさを感じていたメンバーとも、表現を通じてコミュニケーションしやすくなったというスタッフ。創作活動からさまざまな好影響が生まれているようです。

ご縁をもたらすのは、エネルギーに満ちあふれた「メンバーの絵の力」

2013年、札幌市内にB型事業の「作業スペース ひろば棟」が新設され、1階には原画作品を定期的に入れ替えて展示するギャラリーがオープン。音楽会といった住民参加型のイベントも行われ、〈ともに福祉会〉の活動を地域に知ってもらう機会が増えていきました。

そのような交流が増えるなか、コンビニエンスストアチェーン〈ローソン〉が2022年にスタートさせた「アート・トイレ・プロジェクト」から声がかかり、現在、札幌市内の2店舗のトイレには、I.NORIKOさんとYuji Abeさんの描いたイラストの壁紙が採用されています。

また、日本障害者歯科学会のリーフレットやポスターにもYuji Abeさんのイラストが採用されたり、出展イベントへの参加のお誘いがあったりと、各方面でご縁が広がっています。

そのような機会をもたらしてくれるのは、ひとえにエネルギーに満ちあふれた「メンバーの絵の力」であるというスタッフ。その力強い絵の魅力を最大限に引き出したのが〈tomoni art〉の商品です。

原画を鑑賞できるギャラリー内には、ファイルやレターセットのほか、さまざまなプロダクトを販売するブースも用意されています。札幌駅からは車で30分弱。北海道旅行のご予定がある方は、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか?