福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】コーヒーとマフィンを楽しんでいる人がイラストで描かれている。それはカフェのロゴであり、その下にはテキストで「JOYEUX SERVi AVEC LE CQEUR」と書かれている【写真】コーヒーとマフィンを楽しんでいる人がイラストで描かれている。それはカフェのロゴであり、その下にはテキストで「JOYEUX SERVi AVEC LE CQEUR」と書かれている

フランス、ドイツ、オランダをたずねて見つけた「人の関わりを生み出す発明」たち。発明家 高橋鴻介さん こここレポート vol.09

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異なる背景をもつ人々をつなぐ「接点」を生み出すことを目指し、「発明家」として活動する高橋鴻介さん。点字と文字が一体になった書体『Braille Neue』、触覚コミュニケーションゲーム『LINKAGE』など、さまざまなものをつくってきました。

今回は、高橋さんがヨーロッパを訪ねた際に見つけた「人と人の接点を生み出している」場所やアクティビティを紹介いただきました。(こここ編集部 垣花つや子)

こんにちは、発明家の高橋鴻介です。今までになかった人の出会いを生みだす「接点の発明」をテーマに、新しい遊びやプロダクトをつくっています。

2023年の10月から11月にかけて、発明リサーチとしてヨーロッパを旅してきました。様々な国を巡る中で見つけたのは、今までなかった人の接点を生み出す、コミュニケーションの発明たち。

今回は各国の様子とともに、発明家の私が「発明だ!」と感じたスポットやアクティビティを3つ紹介します。

パリのメインストリートにあるCafe Joyeux(カフェ・ジョワイユ)

1カ国目はフランス。今年はパリ五輪ということもあり、訪れる人も多いのではないでしょうか。

さすが人権の国と言われるだけあって、異なる人がともに過ごすための工夫もさまざま。そんなフランスからは新しいつながりを生み出すカフェを紹介。

【写真】カフェの外装にロゴが描かれている。テキストで「JOYEUX SERVi AVEC LE CQEUR」と書かれている

Cafe Joyeuxは、ダウン症や自閉症、認知障害のあるスタッフが働いているカフェです。「Joyeux」は「喜び」を意味する言葉だそうで、それを象徴するようなニコニコ笑顔のキュートなアイコンが目印になっています。

中に入ってみると、とてもオープンで雰囲気の良い場所でした。天井も高く、椅子もたくさんあり、コーヒーも美味しいので、ついつい長居してしまいます。

【写真】カフェ内の様子。レジの前で立つスタッフ、陳列されたパンを眺める観光客がいる。内装は木材のような素材が多く使われている。

近所に住む人が、日々の生活の中で何度も訪れたくなるようなデザインになっていました。

ウエイターの皆さんが生き生きしていて、自然体なのも印象的。

オーダーのときはもちろんホスピタリティに溢れた対応をしてくれるのですが、席に座っていると、特に用事もなく、ふらりとウエイターさんが来て、ニコニコと笑顔を振りまいて戻っていったり、ハイタッチを求められたり。店員とお客さんという立場にとどまらず、より共に過ごしている感覚を感じられて、とても嬉しい気持ちになります。

その気持ちはウエイターの皆さんにとっても同じようで、サポートスタッフにお話を聞いてみると「離職率が低すぎて、新しい人が雇えないんだ」という幸せな悩みを共有してくれました。

Cafe Joyeuxのミッションは「都市と生活の中心において、職業的なインクルージョンを推進し、障害に対する見方を変えること」。

パリ内にいくつか店舗があるのですが、1番大きな店舗はなんとあの有名なシャンゼリゼ通りにあります。地元民も観光客も訪れるパリのメインストリートに、「当たり前のこと」としてこのカフェがあることが、訪れる人の「障害に対する当たり前」を更新していくのかもしれません。

・Cafe Joyeux(カフェ・ジョワイユ):ウェブサイトはこちら

ベルリンにあるシェアハウスRefugio Berlin

2カ国目はドイツ。今回訪れたベルリンは、隣人同士のコミュニケーションで問題を解決する意識が高い街だと感じました。

【写真】外にある譲りますコーナー。そこにテーブルや椅子、棚などが整列して置いてある

街中に「いらないもの譲りますコーナー」があったり、返却金(デポジット)が返ってくるワインボトルを困っている人に寄付する習慣があったりと、市民同士が助け合っていると想像できる情景を見つけました。

また同時にドイツは、ヨーロッパの中でも最も多くの難民を受け入れており、難民支援のための活動が多い国家でもあります。そんなドイツから、難民と市民の混ざり合いを生む施設を紹介します。

【写真】シェアハウスの入り口。オレンジ色の外装で、入り口には立て看板や旗が置いてある。そこには「カフェ・バー」という文字などが書かれている。
photo by: 「REFUGIO」ウェブサイ

Refugio Berlinは、ベルリンのノイケルン地区にある6階建てのシェアハウス。

1〜2階はカフェとイベントスペース、3階からは居住スペースと商業テナントが入っています。シリア、アフガニスタンなどの難民が共同で暮らす場所になっていて、難民をベルリナー(ベルリン市民)として、市民コミュニティに迎えいれるのがミッションです。

1〜2階のスペースでは毎週のように無料のバリスタ講習、英語レッスンなどが行われているそうで、話を聞いてみると、イベントのテーマの選び方に工夫を感じました。

【写真】ふたりの人物がバリスタ講習を受けている。
photo by: 「REFUGIO」ウェブサイト

例えば、バリスタ講習であれば、「役割と居場所をつくる」ことが意識されています。

難民がバリスタというスキルを得ることで、働く場所を探しやすくなり、それによって役割と居場所を得られることを目指しています。バリスタ講習を受けた人が、実際に1Fのカフェで働いていることもあるそうです。

英語レッスンであれば「友達をつくる」ことが意識されています。難民はもちろんのこと、ドイツ語に加えて英語を学びたいという人はベルリンにも多いそうで、同じ目的を共有することで、上手く喋れないことも楽しさに変わり、仲良くなりやすいといいます。

このように、難民が役割と居場所、友達を得て、社会につながっていく機会を生み出している素晴らしい場所です。

1Fのカフェは、スタッフさんがとってもフレンドリーで、コーヒーが本当に美味しいです。のんびりと時間を過ごすのにもいい場所なので、ベルリンを訪問する際は、ぜひ訪れてみてください。

・Refugio Berlin:ウェブサイトはこちら

インクルーシブな体育教育のためのスポーツMultiform

3カ国目のオランダでは、ちょうどオランダ最大のデザインイベント「Dutch Design Week」が開催されていて、そこを訪れました。

【写真】展示を眺める人々
photo by: 「Dutch Design Week」ウェブサイト

ダッチデザインは扱う領域がとても広く、デザインウィークに展示されていた作品はプロダクトだけでなく、プロジェクトやアクティビティが多いことも特徴。そんな中で発見した、インクルーシブなスポーツのプロジェクトを紹介します。

【写真】白線で3つのエリアが区切られている。その中で青、白、水色のユニフォームを着た人たちが、遊んでいる
photo by:「Studio Fonatna」ウェブサイト

Multiformは、インクルーシブな体育教育のためのスポーツ。単一の「ユニフォーム」ではなく、変化する「マルチフォーム」を着用して行います。

基本的には3チームで競うハンドボールのようなスポーツなのですが、ホイッスルが鳴ったらユニフォームを変形させて、他のチームの人として戦わなければいけません。

味方だと思ってる人が敵になったり、急に味方が多くなったり、少なくなったり。ルールに振り回されながらも、最多得点を目指します。

【写真】ユニフォームを変形させている人々
photo by:「Studio Fonatna」ウェブサイト

このプロジェクトの背景にあるのは、女の子、障害のある子、バイカルチャーの背景を持つ子、LGBTQIA+の子は、体育の授業において排除されやすいという問題です。

このスポーツの中で、参加者はマジョリティまたはマイノリティであるとはどういうことなのかを実体験します。Multiformは様々な他者の視点をいったりきたりしながら、その中で協調するための戦略を考えるスポーツになっています。

このプロジェクトで面白いのは、「体育」という多くの子が経験するアクティビティに焦点をおいていること。このプログラムが広がっていくことで、子どもの頃からマジョリティの視点、マイノリティの視点といった、様々な視点からものごとを想像する力が育まれていくのではないでしょうか。

・Multiform:ウェブサイト(英語)はこちら

「楽しい」「面白い」が最初のインターフェースになること

これらの事例をみて、私が感じたことが2つあります。1つ目は、全ての体験が「ポップ・ファースト」だったこと。

社会的意義はもちろんですが、まずは美味しいコーヒーや、楽しいスポーツなど、直感的な喜びのあるポップな体験が入口となって、異なる人同士のつながりや、自分と異なる人への想像力を生み出しています。

「嬉しい」「楽しい」「面白い」といったことが最初のインターフェースになることで、より多くの人がその取り組みに参加したくなり、結果として社会を変える大きなムーブメントに変わっていく。そんな気運をひしひしと感じました。

2つ目は、「お互いが対等に関われる環境づくり」への視点があること。「誰かを助ける」「支援する」という行為は重要ですが、構造的に上下関係を生んだり、役割を固定化してしまうこともあります。お互いが自然なまま、共に楽しめるポイントを発見することで、より対等な関係を生み出す環境づくりへのヒントを得られるのではないかと思いました。

そういった意味で、Cafe Joyeuxのハイタッチや、Refugio Berlinの英語レッスンのように、お互いがお互いのままの状態で関わっていくための工夫はとても大事なポイントだなと感じました。

今回紹介できたのは、多々ある面白い取り組みのほんの一部です。

ぜひみなさんもヨーロッパに滞在される際は、これらのスポットを訪問して、コミュニケーションの楽しさを味わいにいってみてください。

筆者は今年の5月から1年間、オランダに滞在する予定です。ヨーロッパ全域で、コミュニケーションにまつわる面白いプロジェクトをリサーチする予定なので、もし情報があったら教えていただけますと幸いです。


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連載:こここレポート