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社会を変える“よいデザイン”とは? グッドデザイン賞「フォーカス・イシュー」の展示&トーク、東京ミッドタウンで開催中
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【バナー画像】はじめの一歩から ひろがるデザイン展 - グッドデザイン賞2024フォーカス・イシュー
会場:東京ミッドタウン・デザインハブ

6つの提言&受賞デザインが並ぶ、「はじめの一歩から ひろがるデザイン展」

2022年度大賞「まほうのだがしや チロル堂」、2023年度大賞「デイサービスセンター 52間の縁側」、2024年度大賞「遊具研究プロジェクト RESILIENCE PLAYGROUND」——。

赤い『G』のロゴが印象深いグッドデザイン賞では、毎年数千件の応募作から、上記をはじめさまざまな賞を、各分野の一線で活動するデザイナーたちが選んでいきます。受賞は例年1000件を超えており、身近なアイテムで見かけることも多いかもしれません。

そんな同賞には、この10年、審査と並行して展開してきた「フォーカス・イシュー」という取り組みがあります。その年の受賞デザイン全体を俯瞰しながら、特定のテーマに沿って“問い”を掘り下げ、次の社会に向けた課題や可能性を探るプロジェクトです。

2024年度のテーマ「はじめの一歩から ひろがるデザイン」に対し、2025年2月末、フォーカス・イシュー・チームの6名が最新の提言レポートを発表しました。それに合わせ、3月13日(木)から5月6日(火)まで、提言内容と受賞デザインが展示される「はじめの一歩から ひろがるデザイン展」が開催されています。

【写真】縦長の広い展示エリアに、2、3、4などの数字が割り振られた大きなパネルが並び、それぞれ手前に置かれた机の上に写真や作品が置かれている
「はじめの一歩から ひろがるデザイン展 - グッドデザイン賞2024フォーカス・イシュー -」展示風景

フォーカス・イシューテーマ「はじめの一歩から ひろがる」デザインとは

その時代ごとの“よいデザイン”を探し、毎年、100名近い委員によって審査されているグッドデザイン賞。熱量高い審査プロセスと並行して、同賞ではデザインがいま向き合うべき重要な“問い”を深めていく、「フォーカス・イシュー」というプロジェクトが行われています。

2024年10月、前年度フォーカス・イシューテーマ「勇気と有機のあるデザイン」を引き継ぐ形で、新たなテーマ「はじめの一歩から ひろがるデザイン」が発表されました。

2024年度フォーカス・イシューレポートより。「勇気と有機のあるデザイン」はそのまま2024年度グッドデザイン賞の応募テーマに、「はじめの一歩から ひろがるデザイン」は2025年度グッドデザイン賞(現在募集中)の応募テーマにもなっている

新テーマを設定したのは、2024年度フォーカス・イシュー・チームのメンバー。クリエイティブディレクターの齋藤精一さん、プロダクトデザイナーの倉本仁さん、建築家の永山祐子さん、共創パートナーの太田直樹さん、人類学者の中村寛さん、編集者の林亜季さんの6名です。

社会は漠然としたものではなく、生活の連続であり、連鎖である。そう捉えて、自らの視点や能力を少しづつ持ち出すことで、誰かが創る社会ではなく、自らも何らかの方法で参加・参画してみんなでデザインする社会に変わりつつあるし、そうなる必要がある。

審査委員長でもある齋藤さんがこう指摘するように、「生活者」としての個人の課題意識を背景にした、小さな「一歩」から広がっていくデザインは、高度に複雑化した現代社会を変える重要な力になるでしょう。

その可能性を、今回のフォーカス・イシュー・チームの6名はそれぞれ“「巻き込み力」と「巻き込まれ力」”や“小さな挑戦の連鎖”、“「アイデンティティ」を疑う”といったキーワードで指摘しながら、具体的な受賞デザインに重ねて掘り下げ、「フォーカス・イシューレポート」に提言をまとめました。

【写真】遊具のミニチュアのモデルが置かれ、周囲に開発風景の写真やプロセスの図が散りばめられている
〈こここ〉でも取材をしていた、重度障害のある子どもたちも一緒に遊べる遊具シリーズ「RESILIENCE PLAYGROUND(レジリエンス プレイグラウンド)」。〈ジャクエツ〉のデザイナー田嶋宏行さんをはじめ、関わった一人ひとりの熱量が遊具開発に結びついたプロジェクトとして、複数の提言の中で事例として紹介されている
【写真】5と書かれた大きなパネルの手前に、新聞などのアイテムが置かれた机がある
高齢者の生きがいとビジネスの両立を目指す〈株式会社うきはの宝〉の「ばあちゃん新聞、ばあちゃん飯」(グッドデザイン・ベスト100)。個人の内発的な創造力に着目したプロジェクトの好例だと、中村寛さんが指摘する

現在、東京ミッドタウンで開催中の「はじめの一歩から ひろがるデザイン展 – グッドデザイン賞2024フォーカス・イシュー -」は、その提言内容を展示として再構成したもの。6名それぞれが考える「はじめの一歩から ひろがるデザイン」の意味や可能性と、実際に参照した最新のデザイン事例が展示されています。

変化するグッドデザインと、求められる具体的なアクション

【画像】1950年代から2010年代までの歴史を、グッドデザイン賞の受賞数や経済成長率のグラフで示しながら、社会や経済、人の心情の動きを重ねた図
グッドデザイン賞のあゆみ

フォーカス・イシューの始まりは2015年。さまざまな分野でデザインへの注目が高まるなか、「次の社会に向けた課題や可能性の発見」もグッドデザイン賞の重要な役割と捉え、その年の受賞対象を俯瞰しながら新たな提言を行う取り組みとしてスタートしています。

当初は「地域社会」「震災復興」「教育」など、領域ごとに分けられたテーマを、2020年からは「まなざしを生むデザイン」(原田祐馬さん:2021年度)や「半径5mの人を思うデザイン」(ライラ・カセムさん:2022年度)など、フォーカス・イシュー・ディレクターがそれぞれ設定したテーマを掘り下げ、8年間で50以上の提言を集めました

そして2023年度からは審査委員長・副委員長を含む6名が、その年のグッドデザイン賞の審査を経て共通テーマを設ける形に変更。それぞれの提言を1つのレポートにまとめながら、今後の「具体的なアクション」を提案していくことになりました。

【写真】今日から踏み出せる はじめの一歩、と書かれたボードに、手書きでコメントが記された紙が多数貼り付けられている

今回のレポートや展示を見ると、その「具体的なアクション」は、私たち一人ひとりにも委ねられていることが伝わってきます。フォーカス・イシューレポートの最後には「今日から踏み出せる はじめの一歩」のチェックシートが添えられ、展示にも同様の内容を参加者みんなで考えるコーナーがあります。

また期間中は、誰でも参加可能なトークイベントも複数開催。4月24日(木)にはフォーカス・イシュー・リサーチャーである太田直樹さん、「まほうのだがしや チロル堂」共同代表の坂本大祐さん、「IKEBUKURO LIVING LOOP」を主催する青木純さんと飯石藍さんを招いた「地域とデザイン ー 小さな挑戦からひろがる未来」が、4月28日(月)にはフォーカス・イシュー・リサーチャーの中村寛さんと、哲学事業「newQ」を運営する瀬尾浩二郎さんによる「デザインと人類学/哲学──人文学との行き来から見えてくるものとは?」が予定されています。

多様な視点が交差する場で、どんな「一歩」が語られ、広がることになるのか──関心のある方は、ぜひこの機会に会場まで足を運んでみてください。

“うねり”の先に見える、デザインの役割

なおグッドデザイン賞については、福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉でも、「福祉とデザインが交わるところ」をたずねる連載『デザインのまなざし』を4年間続けてきました。社会のさまざまな課題をときほぐすヒントがあるのではと、過去の受賞デザインを幅広くたずねた記事数は、現在14にのぼります。

「受賞作の背景にある“うねり”をより精緻に分析し、そこから社会はどの方向に向かうべきなのかを提案する」。これは現在のフォーカス・イシューの役割を示す言葉ですが、『デザインのまなざし』の訪問先を改めて振り返ると、そこにもまた一つの“うねり”が見えてくるようにも感じます。展示とあわせて、こちらもぜひご一読ください。