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写真家・齋藤陽道さんの人気連載が本に! 21世紀を生きる50人の肖像『働くろう者を訪ねて』
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ライフガードの方がこちらを見てたたずむ写真が掲載された、書籍の表紙
〈株式会社せかいはことば〉より発売

ろう者の仕事の多様さと可能性に触れる一冊

多様な職業に就いているろう者を、写真家の齋藤陽道さんが取材した書籍『働くろう者を訪ねて 21世紀を生きる 50人の肖像』が、2026年11月末ごろに出版されます。

本書は、手話を大切なことばとして生きる50組のろう者を、写真家であり、ろう者である齋藤さんともりやままなみさんが訪ねた〈こここ〉での連載を、一冊にまとめた書籍です。

掲載されているろう者の職業は、パン職人、キックボクサー、八百屋、政治家、カフェオーナー、ライフガード、ペストリー、薬剤師、大学教授など実にさまざま。今回の新刊は、齋藤さんが撮影した今を生きるろう者のポートレート集であり、ろう者の職業の多様さやどのように仕事の可能性を広げてきたのかを知ることができるインタビュー集でもあります。

インタビュー中のオフショットが17枚掲載された書籍の見開きページ

「働くろう者を訪ねて」とは

写真家の齋藤陽道さんは、写真のほかに、エッセイやマンガの執筆、作詞などでも活躍し、さまざまな方法で「手話のあるくらし」を伝える活動をしています。

「働くろう者を訪ねて」は、そんな齋藤さんがさまざまな仕事をするろう者を訪ね、ポートレート写真とインタビューで紹介してきた、〈こここ〉創刊以来の人気連載。そのきっかけは、齋藤さんが通っていたろう学校の先生による、「(ろう学校の生徒は)将来どんな仕事をやりたいかというイメージがない子が多い」という言葉でした。

将来のイメージを抱くことができないのは、いろんな仕事に就くろう者がいることを知る機会がないことが原因であり、そのために将来を夢見ることができないまま「周りに薦められた進路」を選ばざるを得ない状況が生まれていることを知ります。思い返すと齋藤さんも、高校生のときに自分がどんな仕事をしたいのかイメージすることができなかったそう。

一方で働きはじめて周りを見てみると、多様な職業に就いているろう者がいることに気がつきます。こうしたろう者の存在をかつての自分が知ることができたら、どれだけ仕事に対するイメージが広がっただろう、と感じたことが、連載を始めるきっかけになりました。

連載のきっかけについて書かれたページ。右側には手話で話している人の写真

記事では、その人の存在感を伝える写真を齋藤さんが撮影。パートナーのもりやまさんが、働くろう者たちの手話によって語られた言葉を、書記日本語に翻訳して執筆しています。その人の手話の使い方ににじみ出てくることばの特徴を感じてもらうために、記事の最後には、インタビューの様子や日常の様子をまとめた映像もついています。

2021年の開始以来、ろう学校やさまざまな団体から「『働くろう者を訪ねて』を紹介したい」「子どもたちに伝えたい」といった声が寄せられてきた本連載。取材対象者は、2026年9月に50組という一つの区切りを迎えました。「ろう者には、手話を自分のことばとして生きて、働ける道がたしかにあり、その可能性は無数にあるということを、より多くの人に届けたい」という思いから、これまで〈こここ〉に掲載したポートレートとインタビューを一冊にまとめたのが、今回の書籍です。

ポートレートとインタビューが掲載された『働くろう者を訪ねて』

これまで取材した50組のろう者を掲載した『働くろう者を訪ねて 21世紀を生きる 50人の肖像』は、齋藤さんともりやまさんが運営する〈せかいはことば〉から出版されます。書籍の編集を務めるのは、本書にも登場する、編集者として活躍するろう者・上野智美さんです。

もくじと齋藤さんの言葉に続いて、50組の働くろう者のポートレートがフルカラーで掲載されています。働く場所に仕事着で立ち、こちらをみつめる一人ひとりの肖像は、その人の背景や生きてきた道のりを見る人に想像させます。

左側は森の中で豚に囲まれている百姓、右側では猫を抱いて古道具に囲まれて立っている古物商の夫婦の写真
左側は書架と書架の間に立つ手話言語学研究者の女性、右側は鹿の頭の剥製の前に立つジビエ料理カフェ経営者の写真

続いての一人ひとりのインタビューでは、子どもの頃の夢、今の仕事に就いたきっかけ、仕事で心がけていることなど、これまでの経歴が語られます。

最初からろう学校へ通っていた人、一般校へ通っていた人、一般校へ通ったあとにろう学校へ進んだ人、そこから専門学校や大学へ進学した人。手話を言葉とするろう者といっても、その選択肢はさまざまで、将来の夢を色々と思い描いていた人もいれば、まったく描くことができずにいた人、夢があったけれど諦めた人もいることがわかります。

例えば吉田茂樹さんは、ろう学校の高等部を卒業した後、飲食業に関わりがある専門学校への進学を希望しましたが、「ろう者に対する情報保障が整っていないから」という理由で断られてしまいます。他の進路に進んだあと、再び飲食関連の専門学校へアタックをしたのは10年後のことでした。

“ですが10年前と変わらず、どこも同じような理由で断られました。4校目でもうあとがないと感じて、思い切って、熱く伝えました。
「今、外国からやってきた生徒もいますね。彼らもコミュニケーションの壁があるにもかかわらず、生徒として学んでいる。ぼくと変わらないのでは?」と。
そしたら学校側からはじめての反応があって、「当校には日本語が堪能ではない外国人留学生も在籍しています。確かにそのとおりですね」とぼくの入学を認めてくれました。”

(p.106「移動型飲食店経営  吉田茂樹」福岡県福岡市)

そのほかにも、同じようにろう者であることを理由に学校への入学を断られながら、その熱意で入学許可を得た「ラーメン職人」、障害のある子どもたちに道を作ってあげるためにさまざまな仕事をしてきた「自由人」などが登場します。一人ひとりの歩みは、このように自らの、そしてろう者の働く可能性を広げてきた歴史でもあります。

また本書では、職場での試行錯誤についても語られます。ライフガードの横手奈都紀さんは、手話通訳派遣を依頼することで講習はわかりやすく受けることができたものの、現場ではメンバーとのコミュニケーションに苦労したと話します。それでも自ら積極的に話しかけ続けるうちに、メンバーから話しかけてもらえることも増え、「ライフガード同士はボディランゲージ、筆談、口話で」、「外国人のお客さんとはコミュニケーションボードと身振りで」コミュニケーションする、今のスタイルを確立していきました。

ライフガードのポートレートとインタビュー記事が掲載された書籍の見開き

それぞれの仕事におけるリアルなコミュニケーションの工夫も知ることができる『働くろう者を訪ねて』。一人ひとりに、5年後の自分、好きな食べもの、最近しあわせだと思ったことなども聞いていて、その人が今まさに生きていることを感じられるのも魅力です。

ろう者と一緒に働く聴者も、どのように共に働き、生きることができるのかをイメージしやすいのではないでしょうか。

11月21日のイベントで初売り。その後もオンラインで販売予定

本書は、〈せかいはことば〉のウェブサイトで予約販売を受け付けています。また、2026年11月21日(土)10:30〜15:30に〈久留米シティプラザ内 六角堂広場〉(福岡県久留米市)で開催される手話イベント「あつまれ!かいじゅうの森」で初売り予定。その後も書店やオンラインで販売されます。

9月から始まったオンラインショップでの予約販売には多数の申し込みがあり、ろう学校からも問い合わせがあるなど、発売前から反響を呼んでいる本書。

手話から書記日本語への翻訳を担当したもりやまさんは、ポートレートとインタビューの関連性についてこのように語ります。

“齋藤が撮るポートレートはまなざし、湿度、色、風の動き、撮影したあの瞬間が丸ごとかたちになっている。インタビューを読んだあと、またポートレートを見ると被写体の存在がより濃くなっていて、「ああ、ずっと昔から知っている」と心地よくなる。”

(p.237 あとがき)

ぜひ本書を手に取り、ポートレートを眺め、インタビューを読み、またポートレートを見ながら、一人ひとりの存在が立ち上がっていくのをじっくり味わってみてください。