ニュース&トピックス

「障害者」って誰のこと? “知ってるようでよくわからない”を解きほぐす『中学生の質問箱』シリーズ
書籍・アーカイブ紹介

  1. トップ
  2. ニュース&トピックス
  3. 「障害者」って誰のこと? “知ってるようでよくわからない”を解きほぐす『中学生の質問箱』シリーズ

『障害者ってだれのこと? 「わからない」からはじめよう』の表紙画像
〈平凡社〉から2022年7月に出版された『障害者ってだれのこと? 「わからない」からはじめよう』(荒井裕樹さん著)

「障害」について、根っこっから考えていく書籍『障害者ってだれのこと?』

「世の中、ふと考えればわからないことだらけ」。そんな合言葉を掲げ、知っているようでよくわからないテーマをやわらかく考えるシリーズ本『中学生の質問箱』から、新刊『障害者ってだれのこと?』が発売されました。

著者は障害のある人の文学やアートなど、「マイノリティの自己表現」を研究してきた荒井裕樹さん。中学生の素朴な疑問に答えながら、「障害」について一緒に考えていく内容になっています。2022年9月10日(土)には、同シリーズの著者・下地ローレンス吉孝さんとの対談も開催予定。

“知っているようでよくわからない”テーマを、やわらかく考えるシリーズ本

『中学生の質問箱』シリーズは、複雑な社会に在るさまざまなテーマや疑問を丁寧にひも解き、子どもと大人の「疑問に思う」「知る」「考える」を支えることを目的に制作されています。

スタートは2012年1月に出版された『在日朝鮮人ってどんなひと?』(徐京植さん著)。その後10年ほどをかけ、国、お金、戦争、宗教、平等、性、心の病気など、幅広いテーマの書籍を刊行してきました。

これまでの『中学生の質問箱』シリーズ本を並べたイメージ写真
『中学生の質問箱』シリーズの一部。今年で創刊10年目を迎えます

「中学生」と銘打たれていますが、その内容は大人でも読み応えあり。軽やかで読み進めやすい文面ながらも、テーマに対する丁寧な解説や、鋭い問い返しがなされています。

学生から社会人まで世代を問わず読まれており、特に学校図書館や公共図書館から強い支持を得ているとのこと。「このテーマについて学びたい」といった際の入門書にはうってつけかもしれません。

「障害」や「差別」を、みんなで一緒にモヤモヤと考える一冊

新刊『障害者ってだれのこと?』は、シリーズ18冊目。タイトルの通り「障害者とはだれのことか」や「障害とはなんなのか」といった疑問に向き合い、“私”(著者)と“あなた”(読者)で議論を重ねていきます。

時代による「障害者」の定義や、「障害」の社会的イメージの変遷などをたどりながら、互いの問いや感想を交えていくさまは、中学校の授業風景を覗いているかのよう。

障害と深く絡み合う「差別」についても話は及び、それを生み出す構造、多様性の捉え方、あらゆる人がより豊かに暮らせる社会への問い、その仕組みづくりの提案などが対話形式で語られます。

『障害者ってだれのこと? 「わからない」からはじめよう』の、帯なしの表紙画像
サブタイトル「『わからない』からはじめよう」の「から」には、“理由”と“出発点”の両方の意味が込められています

一方で、この本には、障害の「種類」や「どんな支援が望ましいのか」など、具体的な福祉施策に関するような解説は書かれていません。さらに「なにがアウトで、なにがセーフか」といった記述もありません。

その意図について、著者の荒井さんは以下のように記しています。

「障害とはなにか」とか、「障害者とはだれのことか」とかいった疑問は、むしろ「簡単にわかってしまう」ことや、「簡単にわかろうとする」ことの方が問題なのではないか、とも思うのです。なにかのことを、だれかのことを、「わかったつもり」になって、それ以上考えたり悩んだりしなくなってしまうことは、じつはとても怖いことなのではないでしょうか。(「おわりに」から引用)

むしろ障害という概念に対し、「読む前よりもわからなくなっている」状態を目指したという本著。疑問に対する明確な答えはありませんが、わからないことへの向き合い方や、多様な人と「同じ方向を見る」ための考え方、障害のある人が経験しているかもしれないことへ想像を働かせるヒントなどが散りばめられています。

著者・荒井裕樹さんが登壇! オンライントークイベント開催決定

著者の荒井さんは、障害者文化論や日本近代文学を専門とする研究者です。これまでに『障害者差別を問いなおす』(ちくま新書)や、『どうして、もっと怒らないの?』(現代書館)などのさまざまな著書を上梓してきました。

2021年5月に発行した『まとまらない言葉を生きる』(柏書房)は、第15回「(池田晶子記念)わたくし、つまりNobody賞」を受賞。その内容は〈こここ〉でも〈上町しぜんの国保育園〉園長・青山誠さんとの対談でご紹介しています。

『障害者ってだれのこと?』の出版に関連し、そんな荒井さんが登壇するオンラインでのトークイベントの開催が2022年9月10日(土)に決定しました。対談相手は、同シリーズの『「ハーフ」ってなんだろう?』の著者・下地ローレンス吉孝さん。

トークテーマは「これ、どう言ったらいいの? ~差別と言葉と語り方」。荒井さんや下地さんがある差別を指摘するとき、問題意識をぴったり表現する言葉が思い浮かばなかったり、広く知られている表現でも自分の問題意識と少しずれている感覚があったりしたことから、言葉の使い方・語り方のモヤモヤについて語り合います。

オンライントークイベント「これ、どう言ったらいいの? ~差別と言葉と語り方」のチラシ画像

「障害」や「差別」を自分には関係ないことだと思ったり、考えることを避けてしまったりする方もいるかもしれません。ですが、例えばコロナ禍で私たちに突きつけられた命や暮らしに対する不安や恐怖、絶望といった感覚は、障害のある人が日常的に感じていたものに近いのではないでしょうか。

荒井さんは本著のなかでそう指摘し、「障害者への差別問題について、自分だけは傷つかない外野席から眺めていられる人なんていないと思う」と述べています。

この本を通じて「よくわからないこと」に向き合ってみた先には、これまでとは少し違った視界が広がっているかもしれません。