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東日本大震災以降の社会や公共を考える。〈せんだいメディアテーク〉開館20周年記念誌『つくる〈公共〉50のコンセプト』が刊行
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書影

開館20周年記念誌『つくる〈公共〉50のコンセプト』が発刊

2023年2月、〈せんだいメディアテーク〉(宮城県仙台市)は開館20周年を記念して、『つくる〈公共〉50のコンセプト』を発刊しました。本書では、東日本大震災を経て現在にいたる運営のなかで浮かび上がってきた、社会や公共について考えるためのキーワードを、市民活動の実践者、アーティスト、研究者など50人が読み解き、50のコンセプトにまとめています。

〈せんだいメディアテーク〉の問いかけに実践者が答える

せんだいメディアテーク
地下2階、地上7階+屋上階からなり、ライブラリーやギャラリー、スタジオがある〈せんだいメディアテーク〉

2001年の開館以降、〈せんだいメディアテーク〉は図書館として、時には美術や映像の制作・発表の拠点として、また時には市民の表現活動を応援する生涯学習のための施設として、ジャンルや形式に捉われない数々の事業に取り組んできました。

開館から20年。その間、社会の情報化は進んだ一方で、東日本大震災を発端とする一連の出来事などを通して、「社会基盤の脆さや科学技術の不確かさ」が浮き彫りになったと本書の「はじめに」で語られています。

そうした背景から、価値観をかたちづくる「言葉」について、情報としてではなく生活や創造の現場に呼び戻す必要があると考え、本書の制作を構想。〈せんだいメディアテーク〉が投げかけたテーマや問いかけに対して、市民活動の実践者やアーティスト、研究者などそれぞれの現場を持つ方が、経験や専門性に基づいて応答した50の考え=コンセプトがまとめられています。

3つの章からなる50のコンセプトを紹介

『つくる〈公共〉50のコンセプト』は、第1章から第3章まで分かれています。

第1章は「なじみの言葉をとらえなおす」。公共文化施設でよく使われる10の言葉を取り上げ、改めてその意味を問い、理解や実効性について検証します。

例えば、「市民」という言葉は、ルソーが生きた時代では「古代の都市国家の構成員」を指すものとして使われ、「自学的に政治社会を構成する一員として意識を持ったもの」を指していました。しかし、いつしか「単に都市に暮らす住民」と混同されるようになったと、執筆者の宇野重規(うの しげき)さん(政治学、東京大学)は指摘します。

そうした社会的な変化も踏まえながら、現代において市民は「特定の地域に基礎を置きつつ、しかしその地域の住民だけでなく、関係する世界の各都市、各地域とのネットワークに支えられ、地域に関わる全ての人々による参加によって、自治の実現を目指す人々」と、宇野さんは定義づけています。

他にも第1章では「コミュニティ」「アート」「デザイン」「余暇」など身近な言葉を取り上げ、歴史や学問的な知見を用いながら、現代に即した定義や意味合いを紹介しています。

第2章は「経験を言葉にする」。この章では、〈せんだいメディアテーク〉での営みやその周辺における文化的な実践から見出された35の考えが語られています。

本を開いたイメージ

瀬尾夏美さん(アーティスト、〈一般社団法人NOOK〉)が記した「メディエイター」では、東日本大震災を経験し、「自身がメディアにならなくちゃ」と思ったところから、「自分自身がメディアであることを自覚し、その役割を全うしようと試みる人のこと」をメディエイターと呼ぶようになった経緯や葛藤が綴られています。筆者の経験から生まれる言葉の解釈は、手触り感があります。

他にも、鷲田清一さん(〈せんだいメディアテーク〉館長)による「わかりやすいはわかりにくい」、小野和子さん(民族採訪者)による「『聞く』こと」などが収録されており、どれも読み応えたっぷりです。

そして第3章「これからの社会に問いかける」では、すでにある社会的な徴候を5つの言葉から問題提起します。

例えば、超高齢化社会の日本において避けることはできない「老いていくこと」。西川勝さん(臨床哲学プレイヤー)は、浦島太郎の物語を例に取り上げ、老いに対する一般の捉え方や、65歳になった西川さん自身が老いの入口にたったことで気づいた「ていねいに老いていく」ことの大切さについて綴っています。

暮らしの土台になる〈公共〉について考える

〈せんだいメディアテーク〉は、本書で〈公共〉をテーマにしたことについて、「あとがき」でこのように語っています。

「〈公共〉という言葉の『人々が共通の関心事について語り合う空間、場』という本来の意味に立ち、人々の自由闊達(かったつ)な議論や活動がなされる、市井(しせい)ならではの地に足のついた空間や場の可能性について、みなさんとともに考えたかった」

ここまで紹介したように、掲載されている言葉はどれも、これからの「社会」や「公共」を考える上でヒントとなるものです。50のコンセプトはそれぞれ独立しているため、書籍のどのページからも読むことができます。気になる方はぜひご一読ください。