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社会的養護の子どもが、諦めずにスマホを使えるように。『スマホ里親』がクラウドファンディングを実施中
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社会的養護の子どもにスマートフォンを届けよう

家族や友人と連絡をとったり、出かける際に乗り換え検索をしたり。はたまたスケジュールを管理したり、写真を撮ったり。スマートフォンは日常生活に溶け込み、多くの人にとって欠かせないツールになりました。

内閣府の調査では、今や10〜17歳の98.5%がインターネットを利用し、うち89.5%が「自分専用のスマートフォンを使用している」という結果も出ています。(『令和4年度 青少年のインターネット利用環境実態調査』より)

子どもたちにとっても、今や必要不可欠なスマートフォン。だからこそ、さまざまな事情で「保持したくてもできない」子どもは、日常生活で大きなハンデを抱えていると言えます。

〈NPO法人スマホ里親ドットネット〉(千葉市)は、そうした困難を抱えやすい、社会的養護の子どもがスマートフォンを持てる環境づくりを目指す団体です。その資金を集めるため、2023年7月31日(月)までクラウドファンディングを実行中。すでに目標300万円を達成していますが、一人でも多くの子どもにスマートフォンを届けようと、さらなる寄付を募っています。

【写真】高校生2人にスマホを手渡すシーン

社会福祉法人や企業が連携して立ち上げたNPO〈スマサト〉

〈スマホ里親ドットネット〉(略称:スマサト)は、社会的養護の子どもたちがスマートフォンを所持することができるよう支援するNPO法人。2019年に設立され、〈社会福祉法人みねやま福祉会 てらす峰夢〉の施設長・櫛田啓さんをはじめ、〈サイボウズ株式会社〉の代表取締役社長・青野慶久さん、以前〈こここ〉でもインタビューした〈株式会社シルバーウッド 〉の代表取締役・下河原忠道さんや、〈医療法人社団オレンジ〉の理事長・紅谷浩之さんらが理事に名を連ねています。

そのきっかけは、今の理事メンバーたちが社会課題について討議する場で、「児童養護施設の高校生は、他の高校生に比べてスマートフォンの所持率がかなり低いのではないか」と話題になったこと。そこで独自に調べてみると、高校生全体の98%がスマートフォンを持っているのに対し、児童養護施設で暮らす子どもの所持率は69.3%で、約3割が持っていないことがわかりました。

【画像】高校生のスマホ所持率を円グラフでも再現
首都圏の児童養護施設131施設を対象に調査し、85施設から有効な回答を得た「児童養護施設に入所している高校生のスマートフォン等の所持に関する調査結果」(スマホ里親ドットネット、2019年2月)より

社会的養護の子どもの多くは、保護者の経済状況、または虐待やネグレクトなどの理由により親と暮らせない事情を抱えています。

日々のコミュニケーションや遊び、就活などもスマートフォンなしには難しい現状において、生まれ育った環境や経済的な理由だけで端末を持てないことは、子どもの権利条約にある『表現の自由についての権利(第13条第1項)』『休み・遊ぶ権利、参加する権利(第31条)』の侵害ではないか。子どもたちの状況をこう捉えた〈スマサト〉は、設立以降、社会的養護の子どもが費用を負担せずにスマートフォンを持てる環境を整えてきました。

子どもも施設職員も、安心して使える環境づくりを重視

仕組みはシンプル。寄付者や企業から寄付を集め、〈スマサト〉が通信会社と契約したスマートフォンを無償で​​貸与します。対象となるのは、中学校1年生から満22歳までの、児童養護施設・自立援助ホーム・里親家庭などで暮らす社会的養護の子どもたちです。

【画像】スマホ里親、子ども、通信会社をスマサトがつないでいる
〈スマサト〉の仕組み。基本的に学校卒業時にスマホは返却するが、必要があれば買取も可能

また、単に無償でスマートフォンを提供するのではなく、子どもが端末を所持することに躊躇する施設職員や里親の悩みにも寄り添います。

年齢に応じたフィルタリングを搭載するほか、子ども向けにスマートフォンの使い方講座を実施するなど、リテラシーの向上にも取り組んできました。運用のサポートをすることで、子どもの生活を預かる施設職員や里親を応援することにも繋がっています。

【画像】イベントバナー。テーマは「子ども若者支援とスマホについて考える」
子ども・若者の支援とスマホについて考える機会も提供。直近では2023年7月25日(火)に、〈ちば子ども若者ネットワーク〉の勉強会に〈スマサト〉の藤堂智典さんが登壇します(オンライン/会場のハイブリッド開催)

スマホ所持のために部活や遊びを諦めていた子どもの声

社会的養護施設では、定員に応じて国から「措置費」が支給され、職員の人件費や子どもの生活費に使われています。2022年10月には厚生労働省が、措置費からスマートフォンの端末代や通信料を支出しても良いとする文書を示しましたが、費用の増額には至らず、捻出が難しい施設がほとんどです。

そのため、すでに児童養護施設でスマートフォンを所持している高校生の87%も、子ども本人がアルバイトをして毎月の利用料を支払うなどの状況に置かれています。中には、スマートフォンを所持するために、本来やりたい活動を諦めている子どももいるといいます。

そうしたなか、〈スマサト〉は理事をはじめとする寄付者の支援によって、これまでおよそ45人にスマートフォンの貸与を行ってきました。受け取った子どもや大人からはこのような声が届いています。

「高校入学後、吹奏楽部に入りました。コロナでみんなと練習できなかった時に、スマホがあったおかげで、動画を見ながら練習できました」(児童養護施設 17歳 男子)

「スマホを持っていないことによって、クラスで浮いてしまうという事態を避けられて、私はとても安心しました」(ファミリーホーム 16歳 女子)

担当の子どもが学校に行けなくなってしまった時に、スマホがあったおかげで、同級生たちから『学校来なよ』とLINEで誘ってもらえて、登校できるようになりました(児童養護施設職員)

「里親です。初めて子どもを受け入れることになりました。スマホをどう使わせるべきか、とても悩みます。不安です。一緒に考えてくれる存在がいることをとても心強く感じます」(里親)

100人の子どもにスマートフォンを届けよう

うれしい声が届く一方、〈スマサト〉の現在の資金状況では、今スマートフォンを貸与している子ども(およそ35人)にそのまま貸し続けた場合、約1年ほどで資金が底をつく想定です。また、現在も新たな社会的養護施設から貸与についての相談も、随時舞い込んでいます。

そこで今回、社会的養護の子どもに貸与するスマートフォン100台分の寄付を目指し、〈スマサト〉はクラウドファンディングを実施しました。7月4日、プロジェクト期間の半数の日程で早くも目標300万円を達成しましたが、より一人でも多くの子どもにスマートフォンを届けるべく、今も募集を続けています。

社会的養護にある子どもが、社会インフラとして当たり前になったスマートフォンの所有を諦めずに、勉学や部活、遊びに思いっきり時間を使えるように。また、子どもたちの間にある情報の格差が、少しでも無くなるように。取り組みが気になった方はぜひサイトを訪れ、支援を検討してみてください。