福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

「福祉とものづくり、場、ことば」を振り返って。〈こここ〉5周年記念展レポート こここイベント|こここ編集部 vol.18

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2026年5月30日(土)から6月7日(日)まで、栃木県益子町の〈starnet〉にて、〈こここ〉創刊5周年を記念した企画展「福祉とものづくり、場、ことば」を開催しました。

本展では、〈こここ〉がこれまで取材で訪れてきた全国の福祉施設による作品やプロダクトを紹介。木工や陶芸、刺繍、織り、染めなどから、雑貨や食品まで、福祉の現場から生まれた多彩なアイテムが会場に並びました。

福祉やアートに関わる方々をはじめ、〈こここ〉読者の方、益子在住の方など、さまざまな方に足を運んでいただいた今回の企画。この記事では、オープニングトークや交流会、ギャラリーツアーを含む会期中の様子とともに、開催の背景や会場づくりの工夫、生まれた対話などを振り返ります。

【画像】展覧会のポスターが掲示されている看板
【画像】展覧会場の様子

5周年で企画展を開催した理由

〈こここ〉は2021年4月の創刊以来、「福祉をたずねるクリエイティブマガジン」として、全国各地のさまざまな福祉の現場を訪れてきました。

5周年という節目を迎えるにあたり、これまで取材を通じて出会ってきた福祉のものづくりを、実際の作品やプロダクトとともに紹介できないだろうか。読者だけでなく、これまで〈こここ〉に触れたことのない人たちとも出会う機会をつくれないだろうか。そんな思いから、今回初めて展示という形の企画に挑戦することになりました。

【画像】中庭から会場を眺めた様子

会場となったのは、1998年から栃木県益子町で、手しごとのものづくりやライフスタイルを発信している〈starnet〉。〈こここ〉を立ち上げたプロデューサー・及川卓也さんが2024年から共同経営者として携わっているご縁もあり、今回共催で実施する運びとなりました。

本展に込めた思いは、会場入口に掲示したステートメントにも記しました。少し長くなりますが、その全文を掲載します。

福祉とものづくり、場、ことば

 この会場にたどりつくまで、あなたはどんなことを感じましたか。長く電車に揺られ、まちを眺めて歩き、最後にちょっと急勾配の坂を登り、息切れを感じた人もいるかもしれません。車から降りて草木の匂いが混ざる風にほっとした人も、ほのかな違和感を抱いた人もいるかもしれません。坂の下の池は眺めましたか。水面の輝きはどうでしたか。木々の色は覚えていますか。足の裏はどんな感覚でしたか。通りすぎる人はどんな表情でしたか。匂いは、温度は、音は、光は、記憶に残っていますか。

 いまを生きる「わたし」にとって、一つひとつの物事はそのときにしか存在しないかけがえのないものであり、その感じ方は他の誰とも同じではありません。何を望み、記憶し、求めるかは個人によって異なるもの。異なっていて当然であり、その異なりは尊重されるべきものです。同時に、それは周囲の環境や人から影響を受け、形成されたものでもあります。望むかどうかに関わらず社会の中に生まれたわたしたちは、個として尊重される権利を持ちながらも、他者と折り合いをつけながら生きる存在です。その過程でさまざまな葛藤を抱き、問いを持ち、知恵に出会い、工夫を重ね、それらがときに創造性となって生活を彩ります。

 人間が人間として生きるそんな景色は、忙しい世の中では見過ごされがちです。ウェブマガジン〈こここ〉は“福祉” の現場から、こうした景色の豊かさ、そして重要性を学んできました。本展は、その経験の一部を「ものとことば」を通してひらく試みです。

 〈こここ〉は、2021 年4 月、「個と個で一緒にできること」を合言葉にマガジンハウスが創刊したウェブマガジンです。「福祉をたずねるクリエイティブマガジン」として、社会福祉にまつわる現場、知見、人、そしてひとの幸福(=福祉)に関わる物事をたずね、インターネット上の記事というかたちで公開してきました。その数は5 年間で1,000 記事を超え、さまざまな読者に出会ってきました。高齢者のケア、障害のある人の支援、困窮状態にある人や幼い子どもたちのサポートなど、制度的な枠組みで想起されがちな“福祉” には、その直接的な対象者でなくても、誰しもに関わる大切なことが詰まっています。

 〈こここ〉が伝えたいことは非常にシンプルです。“社会” に関係のない人がいないように、“福祉” に関係のない人もいないということ。そして、この世界に生きる“わたしたち” みんなに関わることが“福祉” であるということ。

 本展は〈こここ〉の5 周年を記念し、これまでに取材してきたなかでも、障害福祉におけるものづくりに焦点を当てました。作品やプロダクトを展示・販売し、取材時の写真やテキストも本のかたちで紹介しています。

 障害のある人がものをつくる環境はさまざまで、仕事や余暇、あるいはケアの一環として創作活動が行われています。そして作品やプロダクトは、つくり手の感情や興味関心、造形的な指向性はもちろん、スタッフやメンバーとの関係性、身体の状況、周囲の自然、過ごす空間、日々の習慣なども含む「場」から生まれています。そうした背景を一つひとつひも解いていくと、個性豊かな人の姿が見えたり、関係性が感じられたり、遠く離れた時間や場所につながったり、思わぬ物語に出会えたりします。真摯、真剣、ユーモラス、チャーミング、美麗、端正、素朴、軽快、重厚……あなたは、どんな感想を抱くでしょうか。

 一人ひとりの違いに思いを馳せ、その背景を知り、そこから自分ごととして“福祉” をとらえ直すことは、「みんなと一緒じゃなきゃ」という息苦しさや、極端な効率主義、能力主義、自己責任という名の重圧などから、「わたし」をたすけてくれるかもしれません。個と個で一緒にできることは何か。わたしたち一人ひとりはどのように異なっていて、そしてどのように共にいることができるのか。そんな問いを抱えながら本展を準備しました。一つひとつの「もの」をたずねながら、「ことば」に触れ、そしてあなた自身の福祉(=幸福)を見つめる小さな旅を楽しんでいただけたら幸いです。

こここ編集部

【写真】
額装された作品は〈アートセンタHANA〉に所属する作家・前田考美さんの季節の植物を描いた絵画
【写真】
〈やまなみ工房〉からは、刺繍作品や陶器の作品などが出展
【写真】
〈クラフト工房LaMano〉の「藍と草木の型染鯉のぼり」とその生地のアップサイクルから生まれた商品の展示

「ものづくり」「場」「ことば」をめぐる展示を通して伝えたかったこと

本展では、〈こここ〉がこれまで取材してきた全国の福祉施設のなかから、10箇所の事業所——〈Good Job!センター香芝〉〈クラフト工房La Mano〉〈ココ・ファーム・ワイナリー〉〈しょうぶ学園)〈空と海〉〈多夢多夢舎 中山工房〉〈たんぽぽの家アートセンターHANA〉〈ムジナの庭〉〈やまなみ工房〉〈Lanka〉——による作品やプロダクトをご紹介しました。

作品やプロダクトの展示で「もの」が持つ魅力や力強さを伝えるのはもちろんのこと、その背景にある「場」についても、本展では多くの方に知ってもらいたいと考えました。「場」というのは、地理的な場所だけでなく、人が過ごす空間、そこにいる人と人との関係性、長い時間かけて育まれてきた活動と、そうした環境も含むものとして捉えています。

そこで編集部では、『場のことば本』という48ページの冊子を制作し、会場内閲覧用として設置しました。冊子には、出展した10施設(9法人)の取材記事から印象的な「ことば」を抜粋したほか、編集部メンバーが訪問を振り返って考えたことや、施設の雰囲気が伝わる写真などを掲載しています。

〈こここ〉がこれまで大切にしてきたのは、「何がつくられているか」だけではなく、「どのような場所で、どのような人たちによって生み出されているか」という視点です。会場では、作品を見たあとにじっくり冊子を読み込む人や、冊子を片手に展示を見て回る人も多く見られ、私たちが取材を通じて出会った「もの」と「ことば」を行き来してもらいながら、それが生まれた場に思いを巡らせる時間が生まれていたように感じます。

【写真】椅子の上に置かれた閲覧用冊子
【画像】閲覧用冊子を人が開いて眺めている様子

また、会期中には編集部によるギャラリーツアーも実施し、取材を通して知った制作背景やエピソードを話す機会も設けました。

例えば、会場に入ってすぐ目を引く〈空と海〉の大きな刺繍作品について。この作品には、長く垂れ下がった糸が幾重にも重なっています。一見すると大胆な表現のようにも見えますが、その始まりは、一人の利用者さんによる小さな工夫でした。

その方は玉留めをすることが難しく、糸が抜けないように刺繍糸を長く残していたそうです。一般的な刺繍の作法から考えれば「直したほうがよい」とされるかもしれません。しかし施設のスタッフは、そのやり方を修正したり、余った糸を切ったりするのではなく、そのまま受け止めることで、長く残された糸は作品の大きな特徴となり、独自の魅力を生み出しました。施設では、その作品をあえて裏側を表にして展示しています。

【画像】
〈空と海〉メンバー井形皓子さんによる大きな刺し子の作品

こうした話を紹介すると、「そんな背景があるんですね、面白い!」「自分が務めている施設だったら、直しちゃったり、糸がもったいなくて切っちゃうかも。いいですね、そんな環境」など、作品そのものだけでなく、活動の姿勢やスタッフのまなざしなど、ものづくりのプロセス自体に興味を持っていただくこともありました。

また、〈Good Job!センター香芝〉の「NEW TRADITIONAL」プロジェクトから生まれた木工プロダクトは、その表面の加工が特徴的で、ツアー参加者の方には実際に触れてもらいながら作品を楽しみました。

伝統工芸の職人と障害のある人たちが協働して生まれたこのシリーズでは、木の表面を河原で拾った石で叩いたり、植物性の素材で磨いたりする工程によって独特の風合いが生み出されています。

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NEW TRADITIONALの「たたいて みがいて つくる木の仕事シリーズ」のプレート(撮影:こここ編集部)

障害のある人による表現というと、一人の作家による創作活動を思い浮かべることもあるかもしれません。実際には、そうした作品だけではなく、多様な人が関わりながら作品や商品をつくる現場もあります。工程を分けることで仕事が生まれたり、異なる専門性を持つ人同士が協働したりすることで、新たな表現や価値が立ち上がることもあります。

今回の展示を通して、そうした福祉のものづくりの多様さに触れていただくことも、目的のひとつでした。

【画像】作品を前に人が話をしながら鑑賞している様子

オープニングトーク「わたしが“福祉”と出会って気づいた100のこと」&交流会

展示初日の5月30日(土)には、オープニングイベントとしてトーク「わたしが“福祉”と出会って気づいた100のこと」&交流会を開催しました。

〈こここ〉はこれまで、全国各地の福祉の現場の取材を通して、多くの人や実践に出会ってきました。そのなかで編集部メンバーそれぞれが抱いてきた問いや発見、驚きや学びがあります。今回のトークでは、そうした一つひとつの「気づき」に改めて目を向けてみようと考えました。

まず編集長の中田一会さんから、〈こここ〉という媒体がどのような思いで立ち上がり、これまでどのような取材や発信を続けてきたのかを紹介。その後、編集部メンバー7人が順番に登壇し、取材を通して出会った人々や現場を振り返りながら、「福祉と出会って気づいたこと」をそれぞれの言葉で語りました。

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こここ編集長 中田一会さん
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こここプロデューサー/starnet共同代表 及川卓也さん
【画像】トークイベントの参加者を含む全体の様子

テーマにある「100」という数字は、正確に100個の気づきを数えるためのものではありません。5年間の活動のなかで積み重なってきた無数の発見や学びを持ち寄り、参加者のみなさんと共有したいという思いを込めています。そこで今回は、読者のみなさんからも事前に「福祉と出会って気づいたこと」を募集しました。

実際に寄せられた言葉には、「将来や過去の心配やしがらみにとらわれず、今この瞬間をあるがまま生きている方々がいるという事を知った」「変化は対応すべきこと、対処すべきことではなくて、自分やその人が向き合う契機、どうしたいか希望や想いを考える契機だということ」など、それぞれの経験から生まれた気づきが綴られていました。集まった言葉については、以下の記事でご紹介していますので、ぜひご覧ください。

トーク終了後には交流会も開催し、展示を見た感想を語り合ったり、それぞれの活動について情報交換したりと、会場のあちこちでたくさんの会話が生まれました。

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〈ココ・ファーム・ワイナリー〉には、初日のオープニングイベントに出店のほか、starnetカフェでも会期中ワインの提供をいただきました

作品やプロダクトを入り口に、福祉と出会う──。展示会場でうまれたさまざまな反応

会期中、会場にはさまざまな方が足を運んでくださいました。福祉やアートに関わる方、〈こここ〉を読んでくださっている方、遠方からお越しいただいた方のほか、〈starnet〉の常連のお客さんや益子で活動する陶芸家の方など、地域の方々にも多くご来場いただきました。

どのような反応があるか、編集部としても楽しみにしていたところ、私たちの想像以上に多くの方が、作品やプロダクトを長い時間をかけてじっくりと眺めていました。地元で民芸のお店を営む方が、作品から「すごいエネルギーを感じる」と感想を話してくれたのも印象的でした。

また、福祉事業所で働く方、ご家族に障害のある方がいる方の来場も多くありました。展示方法やキャプション、作品の見せ方を熱心に見て回る方もいれば、「自分たちの活動の参考にしたい」と話してくれる方もいました。さまざまな現場で実践をする人たちが交流する場にもなっていたように感じます。

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〈空と海〉のメンバーさんがつくる「須郷人形」
【画像】
〈多夢多夢舎 中山工房〉によるtam tam dotの人気商品。米袋をアップサイクルしたポーチ

本展で展示した作品やプロダクトは、一部を除いて購入できるようにしていました。そこには、ただ作品を鑑賞するだけでなく、自宅で使ったり飾ったりしながら、日々の暮らしのなかで楽しんでもらいたいという思いも込めています。

会場では、お気に入りの作品やについて楽しそうに話しながら選ぶ人や、いくつもの商品を手に取って購入してくださる人の姿が見られました。展示を通して、福祉を特別なものとしてではなく、自分たちの暮らしや社会と地続きのものとして感じてもらえたのなら、とてもうれしく思います。

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手前から、〈空と海〉〈しょうぶ学園〉〈多夢多夢舎 中山工房〉の商品などがずらりと並ぶ
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NPO法人Lankaのつくる〈kiitos〉からはビーン・トゥ・バーのチョコレートのほか、お菓子の詰め合わせやカカオニブなども出品
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一つひとつ大きさや表情も異なる、〈やまなみ工房〉の山際正己さんがつくる《正己地蔵》

展示をつくりながら考えたこと

〈こここ〉はウェブマガジンとして5年間、主にインターネットの記事を通して福祉の現場や福祉につながる考え方などを発信してきました。今回の展示を振り返って改めて感じるのは、記事を書くことと展示をつくることは、私たちにとってそれほど遠い営みではなかったということです。

とはいえ、これまでイベントの企画運営にも携わってきた編集部ですが、展覧会をいちから企画するのは初めての試みでした。展示プランを考えたり、キャプションや冊子をつくったり、検品したり、設営や販売方法で頭を悩ませたり……。試行錯誤しながら取り組んだため、至らない点もたくさんありましたが、皆さまのサポートのおかげもあり、無事に展示を開催することができました。

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こここ編集部メンバー

また、今回、展示の準備期間から会期中にかけて、編集部メンバーは益子に滞在して、合宿しながら展示をつくりました。自然に囲まれた益子で、ゆったりと流れる時間の中で過ごす時間は、〈こここ〉にとっての5年間を見つめ直す機会にもなりました。

人が日々を過ごす環境のなかで、どれほどの影響を受けながら生きているのか。展示で伝えたかったことを、ほんのひと時ではありますが自分たち自身も実感する時間になりました。

本展にご協力くださった出展施設のみなさま、会場をともにつくってくださったみなさま、ご来場くださったみなさま、そして日頃から〈こここ〉を読んでくださるみなさまに、心より感謝申し上げます。

「個と個で一緒にできることは何か」。創刊以来掲げてきたこの問いを、これからもさまざまな人たちと共に考え続けていきたいと思います。

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コンセプトを深く汲み取っていただき、印象的なメインビジュアルをつくってくださった吉勝制作所の吉田勝信さんには、ビジュアルのデザインのみならず、私たちが手づくりでキャプションや会場サインをつくる際に活用できる、デザインの設計も考えていただきました(撮影:こここ編集部)
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インストーラーの玉置真さんには、繊細な作品を安心して鑑賞できる環境を整えたり、大きな作品を天井の梁から吊るしたりなど、ダイナミックな空間をつくっていただきました(撮影:こここ編集部)
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展示用台のペンキ塗りをする及川さん(撮影:こここ編集部)
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会場になったstarnet ZONEの入り口。緑に囲まれ、とても気持ち良い環境でした

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連載:こここイベント|こここ編集部