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発達障害の割合は? “増加”とされる背景と、診断や支援の考え方
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【アイキャッチ画像】こここトピックス。発達障害のある人は本当に増えている?

身近に“増える”発達障害。どんな障害?

学校や職場、あるいはSNSなどで、「発達障害」という言葉を目にする機会が増えてきました。発達障害は、生まれつきの脳内の情報処理や制御機能の偏りによって、生活に困難が起きる状態を指します。

日本の法律で、障害は「身体障害」「知的障害」「精神障害」の3つに分類されており、発達障害は主に「精神障害」の一部として扱われています。2004年に「発達障害者支援法」が制定され、2010年に「障害者自立支援法」の対象となることが明記されるなど、この十数年でようやく支援制度が考えられはじめた障害といえます。

【画像】3つの円で、ASD、ADHD、LDの特性を示す。ASDはミュニケーションの困難 パターン化した興味や強いこだわり 感覚の偏りなど。ADHDは、集中しづらい(注意散漫) じっとしていられない(多動) 考えるより先に動く(衝動)など。LDは、読み書きが困難(読字障害/書字障害) 数の概念の取得や、 計算が難しい(算数障害)など
2013年にアメリカ精神医学会の定める診断基準が改訂され(DSM-5)、現在の分類になった発達障害。診断がしやすくなったことで、診断数が増えてきているとも指摘される

発達障害は、かつての自閉症や広汎性発達障害、アスペルガー症候群などの名称をまとめた「ASD」(自閉症スペクトラム症)や、「ADHD」(注意欠如・多動性障害)、「LD」(学習障害)に分かれます。人により困難の過多が違い、複数の特性をあわせもつ場合もあります。またASDとADHDについては、知的障害が重なっていることもあります。

低年齢で診断されることも多い障害ですが、成人後にわかる「大人の発達障害」も最近では注目されています。また、発達障害のあることに気づかないまま社会活動を行うことで二次的な困難が発生していることもあります。

そもそも一人ひとりの脳は異なるなかで、明確な診断基準があるわけではなく、外見からもわかりづらいのが発達障害です。得意なことと苦手なこととの差が非常に大きいことにより、社会生活に支障が出やすくなりますが、実際の困りごとはそれぞれに異なり、実態の把握が難しいとも言われます。

発達障害に手帳はなく、「精神障害者保健福祉手帳」「療育手帳」で対応

障害があることを示すものの一つに、「障害者手帳」があります。社会生活に困難がある人に向け、自立した日常生活と社会参加を助けるための制度で、医療費の助成や公共料金の割引、減税などのさまざまな支援を受けることができます

障害者手帳は、身体の機能障害がある方のための「身体障害者手帳」、精神障害があることを認定する「精神障害者保健福祉手帳」、知的障害がある方に交付される「療育手帳」の3種類があり、現状、発達障害には専用の障害者手帳はありません。

根拠 身体障害者福祉法
(1949年)
精神保健及び精神障害者福祉に関する法律
(1950年)
療育手帳制度について (1973年厚生事務次官通知)
交付主体 ・都道府県知事
・指定都市の市長
・中核市の市長
・都道府県知事
・指定都市の市長
・都道府県知事
・指定都市の市長
・児童相談所を設置する中核市の市長
障害分類 ・聴覚・平衡機能障害
・音声・言語・そしゃく障害
・肢体不自由(上肢不自由、下肢不自由、体幹機能障害、脳原性運動機能障害)
・心臓機能障害
・じん臓機能障害
・呼吸器機能障害
・ぼうこう・直腸機能障害
・小腸機能障害
・HIV免疫機能障害
・肝臓機能障害
・統合失調症
・気分(感情)障害
・非定型精神病
・てんかん
・中毒精神病
・器質性精神障害(高次脳機能障害を含む)
発達障害
・その他の精神疾患
・知的障害
所持者数 4,910,098人
(2021年度 福祉行政報告例)
1,263,460人
(2021年度 衛生行政報告例)
1,213,063人
(2021年度 福祉行政報告例)
  身体障害者手帳 精神障害者保健福祉手帳 療育手帳

『障害者手帳について』(厚生労働省)より作成

ただし発達障害のある人は、その困難に合わせて「精神障害者保健福祉手帳」、また知的障害のある場合は「療育手帳」の取得が可能です。2022年の『療育手帳その他関連諸施策の実態等に関する調査研究』(厚生労働省)によると、精神障害者保健福祉手帳と療育手帳の両方が交付されるケースも見受けられます。

ただし、療育手帳は法律に基づいて作られた制度ではなく、各地方自治体によって設けられている制度です。そのため、交付の条件を含む対応もローカルルールによってしまう状況にあります。

【画像】療育手帳を保有している発達障害児者への精神障害者保健福祉手帳の交付状況を示す帯グラフ。37.3%が交付していると回答
『令和4年度 障害者総合福祉推進事業 療育手帳その他関連諸施策の実態等に関する調査研究』より

発達障害のある人は、どのくらい増えているのか

内閣府が発行する『障害者白書』によると、精神障害者の数も、知的障害者の数も年を追うごとに増加しています(下図)。ではそれらに含まれる、発達障害のある人の人数はどうなのでしょうか。

厚生労働省の『平成28年 生活のしづらさなどに関する調査(全国在宅障害児・者等実態調査)』では、医師から発達障害だと診断を受けた人は国内に約48.1万人(うち、障害者手帳の所持者は76.5%)と推計されました。2000年代の後半以降、「大人の発達障害」という言葉が広まるのに伴い、成人後の診断も増えていると言われます。

【画像】年齢階層別障害者数の推移(精神障害者・外来)を示す棒グラフ。2002年は223.9万人、2017年は389.1万人、2020年は算出方法も変わり586.1万人
『令和5年版障害者白書 参考資料』より
【画像】年齢階層別障害者数の推移(知的障害児・者(在宅))を示す棒グラフ。1995年は29.7万人。2016年は96.2万人
『令和5年版障害者白書 参考資料』より

一方で学校教育の現場を見ても、少子化が進むなか、障害の種別ごとの学級を編制し児童一人ひとりに応じた教育を実施する「特別支援学級」在籍の生徒数は、2010年度の14.5万人から、2020年度には30.2万人と倍増しています。

大部分の授業を通常の学級で受けながら、一部の時間で障害に応じた教育を実施する「通級」による指導を受けている児童数も、2010年度の6.1万人から2019年度に13.4万人(※注)と、この間大幅に増加。内訳を見ても、発達障害に関連するものが大きく増えていることがわかります。

※注:2017年度より国立・私立を含む調査となり、高等学校での通級指導も開始された。細かな傾向については、下記グラフを参照

『令和3年10月5日 通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査有識者会議 参考資料』より作成

また、2022年に文部科学省によって行われた『通常の学級に在籍する特別な教育的支援を必要とする児童生徒に関する調査結果』では、知的障害がないものの「学習面又は行動面で著しい困難を示す」小中学生が8.8%いる、という報告がなされ、話題を呼びました。前回2012年の推計は6.5%であり、数字上は3割以上の増加をしていることになります。

ただし、ここで「支援の必要な」児童として捉えられているのは、回答者である「担任等」が指導の難しさを感じた数です。増えている背後には、発達障害の認識の広がりや、多様性を大切にしようとする価値観の変化なども影響していると考えられます。

教育現場で、より個人に合わせた学びをサポートできる環境が整っていけば、数字の表れ方、支援の捉え方も変わってくるかもしれません。

社会の中の障壁で困難が生まれる

ここまで複数の数字を見てきましたが、発達障害についてはさまざまな切り口から全体数や割合の推測がなされているものの、明確に「これだけいる」ということが難しい障害といえます。

脳の働きの違いによってできてくる差異をもとに診断されますが、それが実生活の中で困難として現れるかどうかは、周囲の環境に大きく依存します。2016年に改正された「発達障害者支援法」でも、発達障害のある人を「発達障害によって日常生活または社会生活に制限を受ける」から「発達障害および社会的障壁によって日常生活または社会生活に制限を受ける」という表現で定義し直しています。障壁は個人の側ではなく、事物、制度、慣行、観念、その他さまざまな「社会」の側に生じると考える、社会モデルの考え方で改正されたといえます。

また、発達障害を考える際の重要な概念に「スペクトラム(連続体)」があります。集団の中で、さまざまな特性の表れ方が連続的に分布していることを意味しており、これは「場面によって、誰もが障害の当事者になり得る」ことを示します。

〈こここ〉では、そうした一人ひとり異なる特性と支援の捉え方として、グレーゾーンではなく「虹色」を提案する明星大学教授・星山麻木さんにもお話を伺いました。

脳の多様性については、近年注目される「ニューロダイバーシティ」という考え方も大事にしたい視点のひとつです。これは「neuro(神経)」と「diversity(多様性)」を組み合わせた言葉で、脳の状態が多様であることを表すとともに、社会の中でその多様性をより尊重していこうという文脈が含まれます。

自分の感覚を「それが正しい方法だ」として相手に押し付けるのではなく、まずは相手にとって見えている景色が、自分と異なることに思いを馳せてみる。統計的に“増えている”裏側で、それが表す社会の変化に目を向けることは、〈こここ〉のテーマでもある「個と個で一緒にできること」を考えるための、一つの大きなきっかけになるかもしれません。