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認知症世界とアートをどうつなげる? オープン・レクチャーで東京都美術館〈Creative Ageing ずっとび〉を知ろう
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認知症世界とアートの出会い。Creative Ageing ずっとびの取り組みから。2023年11月23日13:30〜17:00。東京都美術館 講堂、参加費無料、手話通訳、文字表示支援あり
主催:東京都美術館×東京藝術大学 とびらプロジェクト

超高齢社会に、美術館ができることはなにか。地域みんなで考える「とびらプロジェクト オープン・レクチャー」

日本は2007年に、人口の21%が65歳以上を占める「超高齢社会」へと突入しました。2022年10月時点の高齢化率は29.0%、今後もさらに上昇を続けると予測され、2070年には38.7%に達する試算も出ています(『令和5年版高齢社会白書』より)。核家族化が進み、単身や夫婦のみなどの世帯も増えるなかで、このシニアの孤独や孤立が社会課題として顕在化しつつあります。

そうした課題を、地域の文化拠点である美術館がアートを介したコミュニケーションでほぐすことはできないか。市民や地域の医療機関・福祉団体を巻き込みながら活動の幅を広げる、美術館発の取り組みが、東京都台東区で進んでいます。それが2021年4月に〈東京都美術館〉で始まった、シニアを対象としたプロジェクト〈Creative Ageing ずっとび(以下、ずっとび)〉です。

〈ずっとび〉は美術館を拠点にアートを介してコミュニティを育む活動を行う〈とびらプロジェクト〉と連動しており、およそ2年半に渡ってアクティブシニアや、認知症のある方とその家族への取り組みを行ってきました。今回、その成果や可能性を共有する場として、「とびらプロジェクト オープン・レクチャーvol.14」を2023年11月23日(木・祝)に〈東京都美術館〉講堂で開催します。

タイトルは「認知症世界とアートの出会い ― Creative Ageing ずっとびの取り組みから」。レクチャーでは、〈ずっとび〉の連携先のひとつであり、鑑賞会を協働で実施した〈台東区立台東病院〉からの事例報告のほか、『認知症世界の歩き方』の著者である筧裕介さんの講演やクロストークも行われる予定です。

市民がアート・コミュニケータとして活動する〈とびらプロジェクト〉

オープン・レクチャーを主催する〈とびらプロジェクト〉は、2012年に〈東京都美術館〉がリニューアルオープンしたことをきっかけに、隣接する〈東京藝術大学〉と市民とが連携し始まったソーシャル・デザイン・プロジェクトです。市民から広く集まったアート・コミュニケータ(愛称:とびラー)が学芸員や大学教員、専門家とともに、アートを介して「人と人」「人と作品」「人と場所」をつなげる活動に取り組んできました。

3年の任期があるとびラーは、現在132名。会社員、学生、フリーランサー、専業主婦やアクティブシニアなど、18歳から70代までのさまざまなバックグラウンドをもつ人々で構成されています。

とびラーの活動を説明するイメージイラスト
コミュニティづくりの基礎や鑑賞などにまつわる実践講座のほか、とびラー同士が自発的に開催するミーティング「とびラボ」、任期を終えたあとの活動の方法を考える「これからゼミ」など、いくつもの学びと実践が行われている(〈とびらプロジェクト〉公式サイトより)

とびラーの活動の基本は、アートを介したコミュニティづくりであり、相手に関心を持って「きく」ことを大切にしています。具体的な活動としては、鑑賞プログラムやワークショップの企画と実践に加えて、上野に集まる9つの文化施設が連携する〈Museum Start あいうえの〉(子どもとその保護者を対象にミュージアムデビューを応援するラーニングプロジェクト)があり、子どもたちの活動の伴走役としても活躍してきました。

また、全国の美術館や文化施設にもアートを介してコミュニティを育む活動が広がっており、地域を越えて活発に情報交換ができるようなネットワークづくりも進められています。

地域の機関や市民と協働してきたシニア向け新事業〈ずっとび〉

そうしたとびラーとも協働し、美術館をより多くの人にとっての「アートの入口」とすべく今力を入れるのが、3年目となる〈ずっとび〉です。このプロジェクト名には、シニアの方をはじめ、多くの人にとって「ずっと」「とび」(〈東京都美術館〉の愛称)が身近な場所であることを目指すと同時に、「ずっと」「美術館」や「美術」が暮らしの中にある社会をつくっていきたい、との願いがこめられています。

〈ずっとび〉では、とびラーが高齢の方々の言葉に耳を傾け、気持ちに寄り添おうとすることで、誰もが安心して過ごし、アートを楽しめる場づくりを模索。また同世代・異世代との新しい出会いのなかから、ケアを「する」「される」という関係を超えたコミュニケーションも大切にしてきました。

シニアや10代の鑑賞者が資料を囲んで語り合う
〈ずっとび〉と〈あいうえの〉が連携して企画した、シニアとティーンズの異世代交流プログラム「みる旅:タイムワープいとをかし―1200年の時をかける2日間―」(撮影:中島佑輔)

具体的には、「アクティブシニア向けのプログラム」と「認知症のある方やその家族を対象とした鑑賞会」の2つを軸にしています。

これまでの活動として、前者では、美術館で作品を鑑賞することを「旅」に見立て、15〜18歳のティーンズと混合グループで作品の感想や対話を重ねる異世代交流プログラム「みる旅」を2021年と2022年に2回実施。

後者では、2021年に自宅からZOOMをつないで、気軽に作品を鑑賞しながら対話する「おうちでゴッホ展」を開催しました。またコロナ禍が収束しつつあった2022年には、台東区の病院、地域包括支援センター、社会福祉協議会と連携し、〈東京都美術館〉で初めての認知症カフェ(オレンジカフェ)の開催も行っています。

またプログラム実施にあたっては、事前準備として〈とびらプロジェクト〉の講座の一環で看護師を講師に招き、認知症に関する知識や当事者とのコミュニケーションについてとびラーが学ぶ機会を設けるなど、プロジェクトの内と外でさまざまな人々や地域の機関がかかわりながら、超高齢社会に伴う社会課題に美術館がどう対応することができるのか探ってきました。

〈ずっとび〉のこれまでの活動をまとめたタイムライン(『Creative Ageing ずっとび 2021.4→2023.3 活動報告書』より)

それぞれの報告やトークから「アートの可能性」を見出す、2023年11月のオープン・レクチャー

11月23日に行われる、〈とびらプロジェクト〉14回目のオープン・レクチャーのテーマは「認知症のある方との関わり」。〈ずっとび〉を事例としながら、世代を超えて美術館で育まれるつながりに注目して、議論を深めます。

今回のレクチャーでは、〈とびらプロジェクト〉および〈ずっとび〉の活動内容や趣旨、これまでの事例についてプロジェクト担当者からの紹介があります。

それをふまえ、〈ずっとび〉の連携機関である〈台東区立台東病院〉から、作業療法士の秋山友理恵さんが、同病院の地域医療拠点としての活動を紹介。〈ずっとび〉との協働をどう捉えてきたか、医療従事者の立場から語ります。

「とびらプロジェクト オープン・レクチャーvol.14」のチラシ

また、『認知症世界の歩き方』(ライツ社)の著者である筧裕介さんが登場。講演のあと、最後に登壇者全員でのクロストークを実施する予定です。

多彩な事例紹介やトークから、誰もが楽しめる文化施設のあり方、認知症当事者や周囲の方々との新しい関係づくり、そこでのアート・コミュニケータの役割など、考えを深められる時間となりそうです。

どなたでも、無料で参加できるこの機会。ぜひ興味のある方は、足を運んでみてはいかがでしょうか。