社会福祉法人〈フォーレスト八尾会〉が目指す、 “農福連携”で地域の人々が共生する未来 こここレポート vol.07
どの地域にも必ず存在する障害者福祉施設。
その役割は「障害のある人を支援するための施設」に留まらず、地域の人間関係や仕事、農業や伝統産業に関わることで、「地域全体をケアする活動体」としても注目を集める例が増えてきました。そのひとつが「農福連携」と呼ばれる事業形態であり、農業と福祉がお互いを支え合う試みです。〈こここ〉でも「農福連携プロジェクト」で全国各地の事例をご紹介してきました。
本記事では、ウェブマガジン〈doors TOYAMA〉と〈こここ〉の共同企画として、富山県富山市八尾町に拠点を置き、農福連携事業で全国的に注目されている社会福祉法人〈フォーレスト八尾会〉をご紹介します。農業を通じ、地域の伝統産業の復興を目指す福祉施設の思いとは。(こここ編集部)
*トップ写真提供:フォーレスト八尾会
「体が動かないだけでなぜ、仕事を辞めないといけないんだろう?」
毎年9月1~3日にかけて行われる富山県の伝統行事「おわら風の盆」。その舞台となる富山市八尾町に、伝統の桑栽培を復活させた障害者福祉施設がある。社会福祉法人〈フォーレスト八尾会〉が運営する、就労継続支援B型事業所〈おわらの里〉だ。さまざまな障害のある人が作業所に通い、働くことを通じて社会参画している。
おわらの里の生産活動は、観光土産品づくりを中心に始まった。併設の喫茶店では、作業所でつくったスイーツやお茶などを提供し、野菜や観光土産品の販売も行う。「自分たちでつくって自分たちで売る!」が合言葉だ。
2004年には八尾町伝統の桑栽培を復活させ、さまざまな桑商品を開発し、数々の賞を受賞している。やがて農業と福祉を合わせた「農福連携」の成功例として知られることとなり、現在、地域ブランディングを考えた場づくりを実践している。
おわらの里が地域性を大切にした、外に開く障害者施設へと成長した背景には、運営母体であるフォーレスト八尾会理事長の村上満さんの個人的な「問い」が出発点にあった。
村上さんは早稲田大学を卒業後、同大学のシステム科学研究所とビジネススクールに勤務していた。27歳で勤務先を辞めて富山にUターンしたのは、パーキンソン病を発症した父親の介護のため。家のことをなんとかしなければいけないという責任感があった。
「父が病気で体が動かなくなり始めた頃、景気が悪くなって、会社をクビになる、みたいなことになって。そのとき、体が動かないだけでなぜ、会社を辞めさせられるんだろう? と思いました。障害があっても適所に配置されれば仕事は続けられるのではないかと不思議に思ったんです」(村上さん)
そこで、「障害のある人でも自分らしく働ける場所が地域にとって必要なのでは」と考えた村上さんは、実家の敷地をいろいろな人が共生できる場所にすることを決めた。それまで福祉とはまったく関わりのなかった村上さんだったが、社会福祉士の国家試験を受けるために1年半、近隣の障害者支援施設で働いた。
「実習に行っていた福祉施設の職員さんに、山の中ではない地元の平地にあって、障害のある方が普通に家から働きに出るといった、自然に生活を営めるような場所をつくりたい、と熱く語っていました」(村上さん)
農福連携で桑栽培を復活させる!
2005年、八尾町は富山市と市町村合併する。蚕都として歩んできた歴史がある八尾には、「おわら風の盆」という全国に知られた地域行事があり、養蚕・蚕種業で繁栄したまちの誇りがある。合併には複雑な心境を抱く住民もいた。
おわらも蚕都も、古くから八尾町民のアイデンティティだ。そのことが、きっと地域の子どもたちが大きくなったときの励みになるはず、と村上さんたちは、蚕の餌である桑栽培を復活させることを思いついた。
フォーレスト八尾会は、戦後途絶えていた桑栽培を市町村合併の前年に開始。ちょうど1997年の開所時から高齢者農家の転作田を借り受けており、障害のある人が農業に携わることが可能だった。
「もともと養蚕業で栄え、卵を輸出して八尾町は莫大な財をなしています。合併しても八尾町独自の存在意義を残したかったんです。フォーレスト八尾会なりに越中八尾の誇りを考えた結果が桑栽培なんです」(村上さん)
この取り組みはのちに全国的な「農福連携」の先進事例となるが、フォーレスト八尾会では、地域性を大切にしていきたい思いから始まった自然な取り組みだった。
無農薬・無化学肥料で育てた自然栽培の桑の葉はお茶にするほか、八尾産の米粉のシフォンケーキやせんべい、クッキーに素材として使用。健康に、環境に、観光にいいもので、「八尾らしさ」があること。それが商品開発のぶれないテーマである。
フォーレスト八尾会のこれから
フォーレスト八尾会はおわらの里の開所から27年目を迎え、新しいスタッフも活躍している。法人事業部長の杉山久美子さんは、おわらの里開設メンバーの島滝しず子さんの娘さんだ。母親の背中を見て育ち、自身も同じ職場で働き始めた。
杉山さんは、SNSなどを駆使し、SDGsなどに積極的な企業と横のつながりによる協働を提案。地元のスーパー〈アルビス〉や、食材のセレクトショップ〈黒崎屋〉、サッカーチーム〈カターレ富山〉とコラボレーションすることで、地域内でのおわらの里の役割や価値を再確認した。
また幼なじみの城越義智さんが他業種から入職して施設長となり、新しい取り組みにチャレンジするようになった。彼らの企画する新しいアイデアは全国的にも注目され、昨年は、農林水産省が地域の活性化や所得向上に取り組んでいる優良事例を選定する「ディスカバー農山漁村(むら)の宝」第10回のビジネス・イノベーション部門で優秀賞に選定された。
受賞理由は、八尾町の原点である養蚕業に着目し、桑のリブランディングを行い、売り上げなど具体的な成果を上げたこと。ハウス栽培の無農薬マイクロリーフ・エディブルフラワーが高級レストランなどで使用されたことで、就労支援事業の利用者の平均月額工賃が上がったこと、SDGsをテーマに、オーガニック・地産地消を推進するマーケットの開催などにより、地域活性化に寄与していることなど。
1997年から始まった桑栽培が、利用者やスタッフの「日々の当たり前」のこととして定着し、成果を上げていることを評価されたのだ。
杉山さんは事業を引き継ぎながら、同じ内容のものを同じように続けていては、衰退を招いてしまう、と感じた。「事業の継続とは、常に変化していくこと」を実感したという。
「時代が変わってきているのに、同じことを続けるのは誰だってしんどい。じゃあ、私たちなりのどんな理想のかたちにもっていきたいか、どうやったらこの事業を楽しめるかをみんなで考え始めたんです。そこであらためて、法人理念の大切さに気づきました。“地域・協働・創造”、まさにそのとおり!」(杉山さん)
利用者は大半が10年以上通っている人たちだ。農福連携の理念よりも、まずはスタッフも利用者も「やって楽しい」が目標。「スタッフが楽しんでやっていると、利用者も楽しんで参加してくれますよ」と杉山さん。
ビジネスだけが先走りすると利用者が置いていかれる。日々、ともに模索しながら時代に合わせたものづくりを行うことを目指す。
「みんなのウェルビーイングに、私たちができることをやるだけ」という杉山さんに、これから挑戦していきたいことは? と聞いてみた。
「まち・ひと・もの、経済面も含めての持続できる仕組みづくりをしたいです」(杉山さん)
おわら、桑、和紙など八尾町には独自の伝統文化がある。フォーレスト八尾会が始まるときに「おわらも蚕都も、古くから八尾町民のアイデンティティだ」と村上さんたちが考えたことが、そのとおり継承されている。
現在、理事長の村上さんはおわらの里に始まったフォーレスト八尾会の活動のほか、富山国際大学子ども育成学部で教鞭をとっている。
「ものづくりを行っていますが、あくまでも“者づくり”であり、それはまちづくりにつながるものと思っております。それこそが、教育に身を置いているものとしてのミッションではないかなと。そんな思いで、“者づくり”、そしてプロダクトとしての“モノづくり”の研究をしていると思っています」(杉山さん)
フォーレスト八尾会は、地域の福祉施設として独自の存在価値が認められてきた。村上さんや杉山さんたちの次の目標は、事業所を持続可能にすること。時代に合わせてあり方が変化したとしても、まちづくりをする農福連携の福祉施設であること、その根幹は変わらない。
Information
社会福祉法人 フォーレスト八尾会
住所:富山県富山市八尾町黒田53-3(就労継続支援B型事業所 おわらの里)
営業時間:9:00~16:00
定休日:土・日曜・祝日、年末年始、GW、お盆
web:フォーレスト八尾会
Information
doors TOYAMA
富山県の魅力発信ポータルサイト『doors TOYAMA』でも、〈フォーレスト八尾会〉が運営する〈おわらの里〉の取り組みについて配信中。こちらもご覧ください。
web:doors TOYAMA
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