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自由になるための“ルール”のあり方を考える。日常を創造的にデザイン『ルール?本』出版
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『ルール?本 創造的に生きるためのデザイン』(菅俊一・田中みゆき・水野祐/フィルムアート社)

ルールをつくり、使い、見直し、更新する。この社会で自由に生きるためのルール本

駐車する場所、買い物のしかた、取扱いに関する注意事項、ごみの分別……日常を送るうえで、「ルール」を全く考えずには生活できません。

そんな「ルール」を使い方次第で、人を縛るものにも、自由を与えるものにもなると捉え、つくり方や生かし方を今一度考えてみるデザイン書『ルール?本 創造的に生きるためのデザイン』が2024年5月に〈フィルムアート社〉より発刊されました。さまざまなルールの在り方や考え方を紹介しながら、一人ひとりが自分なりのやり方でルールを「つくる」「使う」「見直す」「更新する」ことで、主体的に、そして創造的に生きていくヒントを提供することを目指した一冊です。

ルールについて考えることや、その視点をさまざまに持つことは、一人ひとりが自分らしく生きるために欠かすことができないと捉える本書。「ルール」にまつわる使い方や創造性の解説をした入門編と、「ルール」にまつわる具体的な事例を紹介する実践編の2部構成を軸に、〈こここ〉で連載「生き方は、ひとつじゃないぜ。|スウィングからの贈る言葉」を執筆する木ノ戸昌幸さんや〈せんだいメディアテーク〉開館20周年記念誌『つくる〈公共〉50のコンセプト』に携わった政治哲学者の宇野重規(うの しげき)さんなど7名による寄稿コラム、さらに共著者である法律家の水野祐さん・コグニティブデザイナーの菅俊一さん・キュレーターの田中みゆきさんの3名による座談会なども掲載されています。

【画像】書影

人気展覧会「ルール?展」をつくる過程で悩んだこと、学んだこと、考えるべきだったと気づいたことをたっぷり収録

本書は、共著者の3名がディレクターを務めた展覧会「ルール?展」を経て、思考を書籍としてアップデートしながらまとめたものです。「ルール?展」で展示した内容だけでなく、展覧会をつくる過程で悩み考えたこと、開催中に起こったさまざまな反応から学んだこと、終わった後にさらに考えるべきだったと気づいたことも多く含まれています。

展覧会「ルール?展」は、〈21_21 DESIGN SIGHT〉ギャラリー1&2(東京都港区)にて2021年に開催。オンライン予約の取れない展覧会として話題となり、TikTokやInstagramでも人気を博した展示で、結果として入場や観賞に関する「ルール」をどう更新していくべきかを含め、広く「ルール」について考える内容となりました。

展覧会の開始直後より出版が検討されていた本書は、その記録としてはもちろん、展示では含めきれなかった要素や事例も積極的に盛り込んだ書籍として編み直していこう、という方針で制作されています。

来場客数が我々が当初していた予想をはるかに超えて多くなって、その混雑からさまざまな問題が起きてしまったときに、解決策として我々が出せるものが、どうしても明文化という手段での「押さえつけるルール」の方向に行ってしまったという感覚はあります。あのときもたくさん議論していて、もうちょっと自発性とか創発性みたいなものを生むようなルールを考えられないかということをいつも言っていたけど、結局「~することができる」ということよりも「~してはいけない」ということが多くなってしまった

水野 祐さん(『ルール?本』p.292-293)

現代においてデザインの意味は多義的になり、ルールをつくったり、使ったり、見直したり、更新したりすることも、デザインの範疇に含まれるのではないか。そんな問いをもとに、ルールをめぐる思考と実践を引き継ぎながらじっくり制作を進めたと出版元の〈フィルムアート社〉は言います。

掘り下げて言語化を行うのに向いている“書籍”のフォーマットを充分に生かし、展覧会に行った人はもちろん、行っていなくても楽しめるように「入門編」「実践編」に分けて章立てされた本書。ルールの「そもそも」のところがていねいに分解され、わかりやすくまとめられた一冊に仕上がっています。

【画像】p198〜199の見開き。「あなたでなければ、誰が?」という展示が紹介されている。2021年 ダニエル・ヴェッツェル(リミニ・プロトコル) 田中み) 小林恵吾(NoRA)✕植村温萩原俊矢✕N sketch Inc.
展覧会での様子も、書籍の「第Ⅱ部:実践編」の中で紹介されていきます

「守る」だけでなく「使う」ものとしてのルール

本書第Ⅰ部の「入門編」では、展覧会の展示の前段にあるような「そもそもルールはなぜ必要なのか」そして「なぜ今ルールを見直すことがだいじなのか」という展覧会の「出発点」でもあるようなところに、ディレクター3名が改めて立ち返ります。そして、ルールの道具性や、それをつくったり、更新したりする創造性について考えています。

【画像】p64〜65の見開き。ルールと創造性、と題されたコラムページ
第Ⅰ部の「入門編」より、ルールを「創造的に使う」ことについて解説したページ

「人を殺してはいけない」「差別をしてはいけない」……ルールはつい「守るもの」として考えられがちですが、本書では私たちの生活を心地よく、豊かにするために「使うもの」としての側面を主張します。また、ルールをつくることは物事の枠や外縁を生み出したり、線を引いたりする行為であると同時に、そうして枠や線を可視化することで「はみ出せる」ようになる点にも触れながら話が展開されます。

そして、ルールをつくり、使い、見直し、また新しいルールをつくっていくことを繰り返すことを通して、創造性を育てていけるのではないかと問いかけてきます。

【画像】p24〜25の見開き。ルール曼荼羅として、ルールを更新する、つくる、見直す、使うの4軸でルールにまつわる言葉のイメージが整理されている
第Ⅰ部の「入門編」冒頭で示された、『ルール?本』で扱うルールのサイクルを表す図

たとえばルールをつくるときに検討するべき事項としては、「1. 対象:誰に向けてのルールなのか(そこに含まれていない人がいないか)」「2. 有効範囲:どんな時に、どんな場所ではたらくのか」「3. 制約条件:何を守る、制限するのか」「4. 遵守条件:守ってもらうためのコストと破られるリスクのバランスを考える」「5. 既存のルールの例外を考える」、そして「その前提にあるもの」としての社会構造に分けて説明されています。

そこでは2024年4月から一般の事業者にも義務付けられた合理的配慮について触れられたり、「言語」というルールの前提を問い直すものとして、近年の公共施設で日本語を母国語としない人たちに向け「やさしい日本語」での情報提供が行われていることなども紹介されたりしています。

収録されている実践は、44事例!

また第Ⅱ部の「実践編」では、実際に「ルール?展」にて行われていた、一人ひとりが異なったルールを持ちながら展示を鑑賞する《観賞のルール》という仕掛けや、〈スウィング〉による京都市営バスの路線・系統についてずば抜けた記憶力を持つメンバーと職員による乗換案内《京都人力交通案内「アナタの行き先、教えます。」》など、展覧会をベースに44の実践が紹介されています。

さらに、展覧会では紹介していない16事例も追加収録。スペインの伝説的レストラン「エル・ブリ(elBulli)」の料理をめぐる一冊『エル・ブリの一日―アイデア、創作メソッド、創造性の秘密』に綴られている新メニュー開発のルールや、子どもたちの参加によって設えや遊び方が変化する《「コロガル公園」シリーズ》、ヨタヨタと歩き周りの人の働き掛けを誘発する《弱いロボット》、著作権法とは別にボトムアップのルールとしてつくられた《クリエイティブ・コモンズ》などさまざまな領域の実践が紹介されました。

事例の紹介が増えても、すべてのルールを網羅できているわけではありませんが、実践の種類が増えることで、展覧会以上に幅広い分野でのルールに触れられるようになっています。

【画像】p304〜305の見開き。資料2、法的視点からの考察&データで見る社会
『ルール?本』の巻末には、事例についてのも法的視点からの解説も掲載

そして本書には、展覧会の実施にまつわる実践が詰まった、著者3名による鼎談も収録されています。展示のディレクターたちが、原稿を書いていて改めて何を思ったのか、また具体的な展示内容や展示方法についての振り返りもあり、展覧会の中で必要となったルールや、そのつくりかた・更新のしかたを知ることができます。

読者の皆さんが、日々の生活の中でルールを創造的に使っている実践例に気づいたり、そこからルールを能動的に扱っていくためのヒントとしていただくことができたら、と願ってやみません。

〈フィルムアート社〉編集担当者

ルールに気づいたり知ったりすることは、問題をどのように解決しようとしてきたのかを知ることです。そして、ルールに宿る知恵や工夫、考えの視点は、一人ひとりの創造的な生き方にきっと繋がるはず。自分を縛るためのものではなく、社会で自由に生きるための「ルール」を考えに、本書を読んでみるのはいかがでしょう。