地域の居場所「だいかい文庫」、仕掛けた本当の狙いは? “関わりしろ”をデザインする医師・守本陽一さん デザインのまなざし|日本デザイン振興会 vol.09
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今回訪れた豊岡市は、兵庫県の北部に位置する、人口8万人弱の都市。野生のコウノトリの生息地として知られ、名湯「城崎温泉」などでも有名ですが、全国各地の市町村と同様に、高齢化や過疎化、人口減少という課題も抱えています。
中心地であるJR・豊岡駅前からまっすぐ伸びる商店街を10分ほど歩くと、一面ガラスで開放的な建物の中に、ずらりと並んだ本が見えてきます。ここは、「だいかい文庫」という名の私設図書館。希望する人は誰でも月々定額で本棚のオーナーになることができ、地域の人は無料で、そのオーナーたちが用意した本を借りられます。
だいかい文庫は、本を媒介として気兼ねなく入ることのできる空気を作り、まちの人たちの居場所となりながら、医療福祉の専門家に“困りごと”を相談する窓口にもなっている場所です。まちと人、まちとケアなど、さまざまな関係性を紡ぐ「シェア型図書館」として評価され、2022年にはグッドデザイン賞を受賞しています。
「福祉」と「デザイン」の交わるところをたずねる連載、『デザインのまなざし』。前回の「WHILL」に続き、9回目となる今回は、だいかい文庫を運営する〈一般社団法人ケアと暮らしの編集社〉代表理事で、同館長の守本陽一さんを訪ねました。守本さんは医師であり、現在は保健所と診療所に勤務されています。地域の人々の、病院の中だけでは解決できない課題を前に、「社会的処方」に取り組むなかでこの図書館を立ち上げました。
社会的処方:薬を処方することで患者の問題を解決するのではなく、「地域とのつながり」を処方することで問題を解決するというもの。
https://co-coco.jp/series/study/pluscare/
「個人が社会に合わせるのではなく、社会の側が個人に合わせるようなまちを作りたい」と守本さんは言います。目に見えないルールによって縛られ、生きづらさを抱えている人たちが、自然に生き生きと暮らせるようなまちづくりとは、そして、この図書館を通じて実現しようとしている社会の姿はどんなものか、お話を伺いました。
“何とかなる”まちの図書館「だいかい文庫」
―まず、守本さんが「だいかい文庫」をどういう場所として捉えているのか教えてください。
ほどよく人と関われるなかで、「あそこに行ったら何とかなる」と思ってもらえる場所かなと思っています。週に少なくとも4日は開いていて、ちょっとした困りごとがあったら気軽に相談できるし、ひとりで過ごすこともできる。しょっちゅう何かイベントもやっている、小さいけれど多機能のある場所。
そして、その中心にあるのが「一箱本棚オーナー」の仕組みです。一口2400円から毎月定額を出資してくれる人が、本棚の所有者となって自分のおすすめする本を置き、希望する方は交互にここの店番もできるシステムです。今、一箱本棚オーナーさんは90組くらいいます。
―そんなにたくさんいるんですね。オーナーは地元の人が中心ですか?
遠方の方も結構いて、京都や神戸など比較的近いところから、東京、北海道などさまざまです。一回も来店されたことのない方から申し込まれることもあります。
利用する方も地元の人が中心ですが、遠方からわざわざいらっしゃることもありますよ。1日の来店者がいま10〜30人ぐらいで、2020年12月のオープンから2年半で2500冊くらい、オーナーさんたちの本が貸し出されました。
―オーナーの方々の「本棚を持ちたい」という動機はどこにあるのでしょうか?
やはり、もともと本好きだった方が多いですね。本を通じて、誰かと繋がっている感覚が得られるのかなと感じています。本を借りた人から感想を書いたカードをもらうこともありますし、来店したときに他のお客さんが自分の本棚を見てくれていたり、店番をしているときに自分の棚から本を借りてくれたりすることもあります。
―それは嬉しいですよね。
自分の提供したものを受け取ってくれることが、一つの自己表現になっている方も多いんじゃないかなという気がします。たまたま来店した方が、だんだん常連さんになり、最終的に本棚オーナーになる場合もありますね。
―借りる側から「貸す側」に回る心の動きは、どういうものだと思われますか?
このコミュニティが好きという気持ちから、次第に「もっと関わりたい」という欲求が出てくる方もいますし、この場で具体的な役割を持ちたいと思う方もいます。若い学生さんで本棚オーナーになりたいという夢を持ってくれて、働いてから実際に棚を借りてくれた方もいました。
―いろんな立場の方に「もっと関わりたい」という気持ちを持ってもらうために、気をつけていることはありますか?
この空間に対する関わりしろをたくさん作っておいて、その人にとって「どの関わり方がいいんだろう」とよく観察しながらおすすめしていくことですかね。そのために、図書館としての貸し出しだけでなく、本やコーヒーなどの販売もしています。それから悩みを抱えた方の話をゆっくり聞く機会として、医療福祉の専門家を相談員にした「居場所の相談所」という取り組みを毎週一回行っていたりもします。
また今年始めた「だいかい大学」は、病気や障害の有無は関係なく、誰でも講師・生徒になれるという取り組みです。悩みの相談に来た方と話をしているうちに、「この人は趣味のことを話すときすごく楽しそうだな」と思って、だいかい大学に登壇してもらうこともありました。
そうした活動をいくつも仕掛けていくなかで、最近は、店番の人たちで近所のごはん屋さんリストを自発的に作ってくれたり、自ら「だいかい文庫で何かやりたい」と言ってくれたりする人も増えてきたんです。
コミュニケーションを目的としない、ほどよい「距離感」の設計
―本を媒介にして、地域に「リンクワーカー」としての役割を担う人を増やそうとしているんですね。こうした場を作ったきっかけはどういうものだったのですか?
リンクワーカー:「地域とのつながり」を処方することで問題を解決しようとする「社会的処方」を機能させるために、人と地域やコミュニティをつなぐ人のこと。
そもそもの始まりは、医学生のときに地域の課題と資源を見つけようと、10人くらいの医療系学生と一緒に、豊岡で地域診断を始めたことです。そこで見つけた課題解決のために、医療教室を開催したところ、参加者がたった1人しか来ませんでした。
―確かに「医療教室」と聞くと、参加するハードルが高いイメージはあります。
その挫折体験があって、「来てもらうのではなく、まちに出ていこう」という考えから、自分も含めた医療従事者で「YATAI CAFE」という活動を始めました。小さな屋台をひいて市内を歩き、コーヒーやお茶をふるまいながら、気軽に健康の話をするんです。
人と人をつなぐきっかけができる、医療者にとっても地域と関わる学びの場になる、などさまざまな役割が達成できた取り組みで、今も続けています。ただ、無料で行う月一回の活動なので、広がりにも限界はありました。より地域に根ざした形で、ケアとの接点を継続的に作ろうと考えたのが、だいかい文庫を始めたきっかけです。
―地域とケアの接点として、本を題材に選んだのはなぜですか?
僕自身が好きだったというのもありますが、本って孤独な人の味方なんじゃないかと思っていたんです。例えば本屋さんに行ったら、お店の人と話すこともできるけど、話さないこともできる。お客さん同士でも、なんとなく「この人、こういう本を読むんだな」みたいに、会話しなくてもわかり合える部分があるじゃないですか。
繋がっていないんだけど、繋がっているような感覚がある。本は距離感がほどよいんです。
―図書館を構えるエリアとして、駅から続くメインストリート沿いを選んだ理由はありますか?
入ってきやすいからですね。外から見えやすくオープンな感じにしたかったので、まちのみんながよく歩いている場所にしました。
―中に入ってみると、本は多いですが、圧迫感はなく開放的に感じます。
空き店舗を改装する際に、通り側を全面ガラス扉にしました。本棚も含め、リノベーションの工程はワークショップ形式にして、まちの方に手伝ってもらっています。
個人的には、今座っている、テーブルをコの字に並べた場所も気に入っています。座った人同士で話しもできるけど、話さずにひとりで本を読んでいても違和感がない。こういった距離感の設計は大事だなと思っています。
―居心地のよさを保つために、こうした空間の設計以外にも大事にしていることはありますか?
運営を続けていくうえで、「コミュニケーション」や「居場所」そのものを目的にしないことかなと思います。例えばコミュニケーションを主目的にすると、結局それをするために来る人しか、場にいなくなるじゃないですか。コミュニケーションを特に求めてない人は来られなくなるし、だんだんしんどくなる人も出てきます。
だいかい文庫で生まれてほしいのは、ごく自然に、「気づいたらコミュニケーションしている」「気づいたら居場所ができている」くらいの関係性。だからあくまで、「図書館」という形を保ち続けることが大事だと思っています。
―緩やかに繋がり続けることを大切にされているんですね。
はい。中には、オーナーを辞められる方もいらっしゃいますが、辞めた後にも遊びに来てくれたりしています。関わり方がちょっと変わるだけだと思っているんです。
地域での取り組みを続けていくためには、「場を閉じない」というスタンスが必要です。そういった意味で、スタッフにもここだけでなく、外部のいろいろな場所に顔を出してほしいと伝えています。
場と関わりしろのデザインを、医師として
―お話を聞いていて、どうすれば活動が長く持続していくかを、すごく意識されているように感じました。月額の一箱本棚オーナー制度も、それを支える仕組みとして欠かせないものですね。
福祉や医療の取り組みでは、運営する側もお金をいただくことに抵抗感を持つ方が多いのですが、持続可能なエコシステムを作ることは必要です。今だいかい文庫に常駐しているスタッフは看護師資格を持っていますが、その給与は一箱本棚オーナーさんからの定期的な収入から支払っています。専門職による「居場所の相談所」なども、この売上で毎週開催できています。
―あらゆることをとても論理的に設計されている印象があります。
「こういう仕掛けをすると、こういうことが生まれるんじゃないか」というような仕組みを考えるのが好きなんです。
例えばこの建物の外側にある棚には「本のわらしべ長者」という名前のコーナーを設けていて、並べてある本を持ち帰る代わりに、自分のおすすめ本を置いていってもらえるようにしています。そういう仕掛けによって、中に入ってこない人でも関わってくれるかもと思って。誰かにとっての関わりしろになるものを、いくつもデザインしている感じです。
―ご自身のされていることが「デザイン」であるという自覚があるんですね。
そうですね。普段からデザインという言葉を使うことも多いです。またこの春まで、京都芸術大学大学院の「学際デザイン研究領域」という、社会人大学院の修士課程に在学していました。実はそこでの学びを通じて、「あれ?『デザイン思考』って既にやっていたことなんだ!」と気づいたんです。
医療教室に誰も参加してくれないことを機に、そもそも関心を持ってもらうための、入口のところをちゃんと設計しないといけないと思った。それでYATAI CAFEを小さく始めて、まちの方々の反応を見ながら、興味を持ってもらうきっかけを少しずつ増やして……という一連の行動が、まさに大学院で教わったことそのものだったなって。
ーユーザーを観察しニーズを把握して、仮説を立てて試しに実施してみて、その結果をまた次に反映させてという、いわゆるデザイン思考の、プロセス通りのことをしていたんですね。
そうなんです。もちろん体系的に学んだことで、洗練された部分はあるのですが。
ただ、うまい仕掛けを考えることはもちろん必要なんですけど、想定したように実際は動いていかないのも、やっぱり世の常なんですね。だからこそ、人の内側から湧き上がってくる内発性をどうやって育てていけるかが、より大事になるんです。自分の中に「こういうことをやりたいな」とか「誰かと話すのは楽しい」という気持ちが生まれる、そのきっかけになる最初の一押しとして、場や関わりしろをデザインできればと思っています。
―医師として働いてこられた方が、そういった視点を持たれていたことにも驚いています。少し前に保健所に移られたともお聞きしましたが、そこにも何か狙いがあるのでしょうか?
居場所づくりや地域づくりに関わる課題は、病院の中では解決できないと気づき、保健所で働かせてもらうことにしました。もちろんだいかい文庫の運営を通じて、人が変わる瞬間は見られるのですが、地域全体が変わっていく構図まではあまり見えてこない。でも、行政側からだと変えられるんじゃないかと思ったんです。
仕事の内容としては、地域全体の医療システムを考えたり、社会福祉協議会さんや病院と一緒に地域の課題を見つけながら解決したりするような、よりマスへのアプローチをしています。管内の町が社会的処方をやりたいと言ってくれた場合、僕はアドバイザーとしてチームメンバーに入ります。すでに養父市では、社会的処方推進室が市役所の中にでき、コミュニティナースの採用やポジティヴヘルス(「健康」を本人主導で管理する能力として捉える考え方)の活用のほか、リンクワーカー養成講座や地域づくり、プロジェクトづくりの支援講座も実施しています。先進的な事例として、他の自治体から注目されつつあります。
―個人と、個人を取り巻く環境の、両面に守本さんは働きかけようとしているんですね。
自分ひとりの力では、すべての地域にだいかい文庫を設置することはできないし、本に親しみがある人“以外”の場所も必要です。それには自分で作るより、こういう場所を新たに作ろうとしている人の伴走をした方がいいなと。行政での仕事を通じて、アウトプットしたい人を増やそうと思っているんです。
コモンズの“管理人”を増やすために
―地域で志を持つ人は、豊岡に限らず全国にいると思うのですが、アドバイスはありますか?
だいかい文庫のような場を作りたい人でいうと、図書館や公務員などの公的な機関の方と、医療や福祉関係者のようなケア寄りの方が多いと感じています。実はそれぞれ、気をつけないといけないポイントが違うんです。
公的機関の方は、ケア的なマインドを持つことが必要です。「気にかける」癖をつけるというか。例えば、平日の昼間に30代の方が来ていた場合、単に休みの日である場合もあれば、職を失って困っている人の可能性もある。相手の背景を想像しながら、どう関わろうかと常に模索する姿勢が求められます。逆にケアワーカーの人は、最初から必要以上に支援をしすぎてしまうきらいがあるので、どうやってその気持ちをおさえるかが大事だと思っています。支援しすぎると、支援される側との関係性が固定化された、病院のような場になってしまいます。
それからもう一つ。自分はあくまでも図書館という場所の“管理人”であって、“オーナー”ではない、という感覚も大事です。みんなが「やりたい」と言うことをできるようにしてあげて、誰かと誰かの間に問題が起きていたら解決する。場をコモンズ(共有地)として見る意識が必要だと思っています。
―でも、問題が起きたとき、管理人としての介入の仕方って難しいですよね。オーナーだったら、出ていってくださいとはっきり言うこともできますが。
そうですね。正直僕も、オーナー感を出してしまうときはありますから(笑)。ただ逆に、淡々と管理人業務をこなすだけの人も困ります。実際、「私がやることはここまでです」って決めちゃう人がいるんです。
けれど、コミュニティを円滑にしていこうと考えだしたら、管理人としての仕事ってたくさんあるはずじゃないですか。「あの人は〇〇が好きって言ってたから、この人を紹介してみよう」とか「最近〇〇さんが過ごしにくそうなのは、あの人と喧嘩したからだって言ってるけど、そろそろ仲直りできるんじゃないか」とか。では、みんなにいろんなことをしたくなる、その思いは何で生まれてくるかっていうと、市民性なんだと僕は思います。
市民性って、「まちがこうなるといいな」「人がこうなるといいな」というちょっとしたおせっかい心みたいなもので、本来、誰でも持っているもの。だけど今は、職業や肩書きによってそれが抑圧されていることが多いのだと思います。自分の役割はここまでだから、この範囲の仕事だけをやればいいや……というような。そういった日々の抑圧を、地域の中で、気づきによって解き放っていく仕掛けが必要なんです。
―特定の管理人の資質や能力に依存せず、場をうまく運営していくにはどうしたらいいでしょうか?
管理してくれる人を増やすことじゃないですかね。「私も管理人なんだ」と思ってくれている人を場に増やすんです。
「共有スペースに私物を置かないように気をつけようね」と注意してくれたり、「あの人入りにくそうにしていたから声をかけてみよう」と行動したりするマインドを持った人がコミュニティに増えれば、自分だけで管理しなくてよくなります。
―市民性を持った、いい意味のおせっかい心のある人を増やすということですよね。そういった当事者意識はどうやって醸成されるものなんでしょうか?
その場所にいる人たち自身に「ケアされたことがある」という経験が大事かなと思います。自分が何か言ったときに対応してくれた感覚とか、必要なときに伴走してくれるという信頼感があるからこそ、また別の誰かをケアできるんじゃないでしょうか。
“勝手にウェルビーイングになっていく”まちを目指して
―守本さんは、そうした社会を実現するために、だいかい文庫で場づくりを実践しながら、行政の中でシステムの側も変えようとしているんですよね。その根底にある思いはどういうものですか?
やっぱり、個人が社会の方に合わせている今って、まだ社会として未熟じゃないですか。「社会が個人の事情に合わせてよ」っていう気持ちがあるんだと思います。障害学で言う『社会モデル』のように、環境次第でその人の障害が無くなるって考え方のほうが、僕は好きですし。
もちろん社会もずいぶん変わって、いろんなサービスができ、みんなが享受しやすくなってきました。なら次は、これまでと同じように“さらにサービスをたくさん作っていく社会”を目指すのでなく、だいかい文庫のように新たに人を繋ぐ場所、つながりを生み出す場所がどんどん生まれて、“勝手にウェルビーイングになっていくまち”を作っていくステージだと思っているんです。サービスとサービスの狭間はいつまでたっても生まれますしね。
―医療の専門家だからこそ、公衆衛生的な発想をされているのかなとずっと感じていました。いい方向に自走していく仕組みを、どう社会に埋め込むかという。
まさに。しかも年々、その思いは強くなっていますね。本来こういう新しい取り組みって、自然発生的に広がっていく仕掛けがシステムに組み込まれていなければいけない。それが現状ないなら、誰かがデザインしなくてはいけないと考えています。
―その実現に向けて、改めてデザインの持つ役割は何だと思いますか?
やはり「一歩目を押してあげる」のがデザインなんじゃないでしょうか。僕も最終的には、内側から湧き上がってくる自己表現、つまりアートが重要だと思っているんですけど、アートを生み出すためのデザインが必要なんじゃないかなと。
自己表現をすることは美しいと思うし、している最中はみんな生き生きしていると思うんです。それは人によってはしゃべることかもしれないし、コツコツとルーティンワークをすることかもしれないけど、そういう行動が今いろんなものによって阻害されている。それを解き放てるよう、社会の側が個人に合わせる橋渡しをしたり、迷っている人のために入口でドアを開けるきっかけづくりをしたりすることが、デザインの役割なのかなと思います。
―最後に、理想とするまちづくりのために、今後だいかい文庫をどうやって機能させていきたいか教えてください。
行政や医療機関といった支援する側と、まちをつなぐ接点になるようにしたいです。こういった中間領域からこそ新しいものが生まれていくので、そのための場所であることが大事だと考えています。
今、豊岡でも100年続いていて惜しまれながら閉館した映画館を再生したり、コワーキングスペースを作る人が現れたりと、新しい動きが起きはじめています。
この場所も、一般の人には「普通の図書館じゃないか」と思って気軽に利用してもらいたいんです。でも一方で、そうしたまちづくりに携わる人たちには、何らかの気づきを与える存在であり続けたいと思っています。
取材を振り返って
豊岡市に住む一市民であり、行政の担当者であり、医療関係者であるという、さまざまな属性を持ちながら、その中間領域に常に身を置いている守本さん。第一印象は、これほどまでにデザインに自覚的な医師の方がいるのか、ということでした。
デザインというツールを、人の心を軽くしたり、抑圧から解放して市民性を回復させたりすることに用いるという発想は、まさに処方のようだと感じます。しかしこれは、決して「専門家」だけのものではなく、あらゆる人にとって参考になる考え方なのではないでしょうか。
そして、お話を通じて感じたのは、現場に居続けることへの強い思いと、常に自らが当事者であろうとする意識です。最後に聞かせてくれた、今も週に1回続けている臨床医としてのお話が心に残っています。
「このおばあちゃんやおじいちゃんは、何で社会と繋がれていないんだろうとか、この若い子がワクチンを打たなかったのは何でなんだろうなとか。ひたすら課題感しかないんです、医療の分野って。でも僕は、それを現場で見続けていることってすごい大事なんじゃないかなと思うんです」
自分のまちやコミュニティを、今より居心地のよい環境にするためには、まずは自分自身が、それぞれの現場において“コモンズの管理人”であるという、おせっかいな当事者意識からはじまるのかもしれません。
Information
本と暮らしのあるところ だいかい文庫
まちに暮らす人が一箱本棚オーナーとなり、まちに暮らす人に読んでほしい本を並べているシェア型の図書館です。最新情報は公式ウェブサイトにて。
Information
『デザインのまなざし』のこぼれ話
グッドデザイン賞事務局の公式noteで、『デザインのまなざし』vol.9のこぼれ話を公開しています。
Profile
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守本陽一
一般社団法人ケアと暮らしの編集社 代表理事
1993年、神奈川県生まれ、兵庫県出身。医師。修士(芸術)。自治医科大学在学時から医療者が屋台を引いて街中を練り歩くYATAI CAFEや地域診断といったケアとまちづくりに関する活動を兵庫県但馬地域で行う。総合診療医として働く傍ら、2020年11月に、一般社団法人ケアと暮らしの編集社を設立。社会的処方の拠点として、商店街の空き店舗を改修し、本と暮らしのあるところだいかい文庫をオープンし、運営している。また、医療・介護・福祉・デザイン・アートとまちづくりを掛け合わせた「ケアとまちづくり未来会議」の開催など、まちづくりとケアの橋渡し活動を行う。現在は、保健所で、医療政策および重層的支援体制整備事業、在宅医療介護連携、総合事業、認知症政策、社会的処方モデル事業等の市町村支援に従事。まちづくり功労者国土交通大臣表彰。グッドデザイン賞審査員賞受賞。共著に「ケアとまちづくり、ときどきアート(中外医学社)」「社会的処方(学芸出版社)」など。
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