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医療から、アート、まちづくりまで。国内外の実践者11名が集まる「社会的処方Expo」が開催
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2023年3月5日(日)に開催される「社会的処方Expo」は、2月21日(火)まで先行予約チケットを販売中。以降は、通常価格にて販売されます

社会的孤立の問題をともに考える、「社会的処方Expo」

ライフスタイルが多様化するなか、地域につながりを持たない人がさまざまな困難を一人で抱えてしまう、「社会的孤立」の問題が認識されるようになってきました。

内閣府が2020年に実施した、60歳以上を対象とする『高齢者の生活と意識に関する国際比較調査』によれば、同居の家族以外に頼れる人が「いない」と回答した人は17.6%(前回2015年は16.1%)。他国と比べて「友人」や「近所の人」を挙げる人の少なさも指摘され、急速に高齢化が進む日本で今、大きな課題となっています。

「図表2-7-2-1 同居の家族以外に頼れる人(第8回比較)」というタイトルの、日本、アメリカ、ドイツ、スウェーデンの結果を比べる表
『令和2年度 第9回高齢者の生活と意識に関する国際比較調査結果(概要版)』より引用。比較の第8回は、平成27年度に実施された調査

社会的孤立は、高齢者のひきこもりや孤独死につながるだけでなく、ヤングケアラーや子どもの貧困など、あらゆる世代に関わる問題です。では、困りごとを抱えた人をもう一度地域やコミュニティとつなぎなおし、必要な支援を届けていくために、私たちにどんな手立てがあるのでしょうか。

この問題を解きほぐすべく、医療、まちづくり、福祉やアートなど、さまざまな分野で活躍するフロントランナーと一緒に考えるトークイベント「社会的処方Expo2023」が、2023年3月5日(日)に開催されます。主催は、緩和ケア内科医の西智弘さんが代表を務める〈一般社団法人プラスケア〉。東京都文京区の会場のほかに、YouTube Liveでのオンライン参加も可能です。

「社会的処方」とは

イベントのテーマである「社会的処方」とは、イギリスの医療保健分野で生まれた、「社会的孤立」解消に向けたアプローチです。〈こここ〉で以前ンタビュをした西さんは、著作『社会的処方──孤立という病を地域のつながりで治す方法』(p.25)で、次のように説明をしています。

(社会的処方は)患者の非医療的ニーズに目を向けて、地域における多様な活動や文化サークルとマッチングさせることにより、患者が自律的に生きていけるように支援するケアの持続性を高める仕組み

例えば、ひきこもりがちで不眠を訴える患者が来院したとして、現在の医療ではよく睡眠薬が処方されます。しかし、患者が元々花屋さんだったと知っていれば、地域の園芸ボランティア活動への参加を促すことで、日中の活動時間が増えて睡眠薬に頼らずとも規則正しい生活を送れるようになるかもしれません。地域に居場所ができれば、よりその人らしい暮らしも見つけやすくなるでしょう。

診察室でスクラブを着て、首に聴診器をかけた男性
西智弘さん。2012年から川崎にて、腫瘍内科─緩和ケア─在宅ケアをトータルで診療。武蔵小杉にて「暮らしの保健室」や「社会的処方研究所」を運営する〈一般社団法人プラスケア〉を設立、「病気になっても安心して暮らせるまち」をつくるために活動している(撮影:幡野広志さん)

こうした社会的処方の実践に登場するのは、医療関係者や患者だけではありません。身近で困っている人に、地域の活動や信頼できる相談機関の情報を手渡せたら、それはもう社会的処方へ参加していることになります。またその情報の先にある、こども食堂や、美術館の市民参加型プロジェクト、まちづくり団体が開いているコミュニティスペースは、人が頼れる貴重な社会資源となります。

医療だけで対応できるものはほんの一部に過ぎず、福祉事業、アート、市民活動、まちづくり……さまざまな人や分野を巻き込んで、社会的処方は成立していきます。

机のうえにカードゲームの盤面と、使用するカードが並べられている
社会的処方を学ぶツールの一つに、以前こここニュースで紹介したボードゲーム『コミュニティコーピング』があります。〈こここ〉編集部でもオンライン版にチャレンジしました

最新の海外情勢や事例をまじえたトークセッション

「社会的処方Expo2023」は、アートやまちづくり、ヘルスケアなどの視点から実践と考察を深めてきた11名が登壇する、4つのセッションで構成されています。社会的処方をキーワードに、海外の最新情勢や、国内の事例についてディスカッションすることで、日本における孤立・孤独という課題に、多方面から光を当てていくことがねらいです。

1つめのセッション「海外の事例から見る社会的処方の現在」に登壇するのは、ドイツ在住で医療領域の広報経験が長い落合由有子さんと、〈成蹊大学〉教授で高齢期における社会参加や就労などを研究している渡邉大輔さん。社会的処方の発祥の地イギリスを中心に、海外の制度や実践を紹介しつつ、社会的処方が近年注目されている理由やその課題を考えます。

2つめのセッション「アートのとびらを開く」では、〈国立美術館〉に所属し美術館の市民参加型プログラムを数多く企画する稲庭彩和子さんと、〈プラスケア〉代表理事の西さんが、アートの持つケアの側面に触れながら、未来の社会的処方のあり方について探ります。

スーツを着た女性
稲庭彩和子さん。〈国立美術館〉本部 主任研究員。東京都美術館のリニューアルにあたりアート・コミュニケーション事業の立ち上げを担当。社会課題を視野にいれ市民と協働するソーシャル・デザイン・プロジェクト「とびらプロジェクト」などを企画・運営している

3つめのセッション「日本のまちづくりの実践とこれから」では、豊岡で社会的処方の拠点となるシェア型図書館を運営する〈一般社団法人ケアと暮らしの編集社〉代表理事の守本陽一さん、恵比寿のローカルメディアを運営し、地域のお悩みを共有する窓口を立ち上げた高橋ケンジさん、同じ窓口に関わる医師の岩瀬翔さん、遠野の文化をテーマにした商品開発やスタディツアーを企画する富川岳さんの、4名が登壇。日本各地で地域を盛り上げるローカルプレーヤーによる活動報告と、社会的処方をまじえた今後について語ります。

4つめのセッションは「小さな”こえ”と共に紡ぐまち~さまざまな分野の視点から」。児童精神科の臨床経験をいかして多数の自治体アドバイザーを務める〈認定NPO法人PIECES〉代表理事の小澤いぶきさん、〈株式会社NYAW〉代表取締役で数々の展覧会などのキュレーターを担当する山峰潤也さん、そしてコミュニケーションデザイン・サービスデザインの観点から子ども家庭福祉の課題解決に取り組む〈九州大学大学院人間環境学研究院〉専任講師の田北雅裕さんの3名が、社会的処方をふまえつつ「想像力を喚起するアート」「くらしと共にあるデザイン」「みえづらい心との関わり」といったテーマで対話します。

このイベントは、世界的な社会的処方やリンクワーカー、また地域コミュニティの努力と関与に感謝し祝う「Social Prescribing Day」とも連動しています。イベントに参加される方、関心がある方は、感想などをハッシュタグ #socialprescribingday で発信したり、検索したりしてみてはいかがでしょうか。多彩な視点から「社会的処方」を考えることで、社会的孤立を解決するための次へのアクションが見えてくるかもしれません。