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ろう者の文化や手話という言語を知る。“手話の父”を描いた映画『ヒゲの校長』が公開。上映先を募集中
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実話をもとに“手話の父”髙橋潔の奮闘を描いた『ヒゲの校長』が公開中

大正時代の聴覚障害者(ろう者)教育では、アメリカで生まれた口話法(注)を押し進め、手話を排除しようという風潮が高まっていました。そんな中、手話を守ろうと奮闘した〈大阪市立聾唖学校〉の髙橋潔校長を描いた映画『ヒゲの校長』が、2022年10月29日より全国で公開中です。

監督を務めた谷進一さんは、平日は訪問看護師として仕事をしながら、ろう者と共に「手話映画」を作り続けています。新作『ヒゲの校長』は、手話やろう文化を知るきっかけになるだけではなく、「言語や文化が違う人達が共存できる社会」につながればという谷監督の願いが込められています。

本作品では、手話を守ろうと果敢に挑んだ髙橋校長の人生を軸に、日本の手話教育の歴史や〈大阪市立聾唖学校〉での実践、歴史に奔走されながら生きる人々のドラマなどが、豊かな手話表現と共に描かれいています。


注:ろう者が発話者の口の動きを読み取り言葉を理解し、表現したい言葉を発話(口の形と音声)で表す方法。

大正から昭和にかけて手話は禁止されていた

現在では、2011年に改正された障害者基本法の第3条でも、“全て障害者は、可能な限り、言語(手話を含む。)その他の意思疎通のための手段についての選択の機会が確保されるとともに、情報の取得又は利用のための手段についての選択の機会の拡大が図られること。”と記されており、言語の中に手話が含まれていることが明記されるようになりましたが、過去には手話が禁止されてきた歴史があります。

明治時代から大正時代にかけて、口の形で言葉を読み取り、口の形をまねることで言葉を発する「口話教育・口話法」が世界的に注目されていました。日本でも、大正時代にアメリカから口話教育の指導者が来日したり、教育者である西川吉之助さんが「口話研究所」を設立するなど、ろう者教育での口話法への転向が決定づけられていきます。そして、口話法取得の妨げになるとの理由から、手話は禁止されることになります。

そんな時代背景の中、〈大阪市立聾唖学校〉で校長を務めていた髙橋潔さんは、口話教育だけでは、ろう者それぞれの個性に応じた適切な教育は不可能だと訴え続けてました。

映画『ヒゲの校長』のワンシーンより。髙橋校長を演じるのは、〈NPO法人Silent Voice〉の代表理事を務める尾中友哉さん

一人ひとりに合った「適性教育」を唱えた髙橋校長

口話法は特殊な技術で、取得できるようになるのは一握りであり、厳しい訓練の過程で自由な表現力が子どもたちから奪われてしまうことを、髙橋校長は危惧していました。そして、手話を禁じるのではなく、一人ひとりの子どもに合った言語を選べるようにする「適性教育」の実践を唱え、その中には口話法も手話も含まれるべきであると主張しました。

​​また、当時〈大阪市立聾唖学校〉に勤務していた大曽根源助さんは、昭和初期にアメリカ視察から戻り、学校の教員らと共に「大曽根式指文字」を考案します。これが、現在も広く使われている指文字となりました。

「口話教育・口話法」の普及の背景には、聴こえない・話せない少数派のろう者は、話せる多数派の聴者に合わせるべきだという考え方がありました。一人ひとりに合わせた教育を推進しようとする髙橋校長の姿を通して、「言語や文化が違う人達が共存できる社会」やそれを実現するための教育の重要性を、本作は訴えています。

映画『ヒゲの校長』のワンシーンより。校長室から外を眺める髙橋校長と妻・醜子
映画『ヒゲの校長』のワンシーンより

聴こえる人も聴こえにくい人も聴こえない人も一緒になって

谷監督は、二十代の頃、聴こえない人と聴こえる人が共に演じる京都の劇団〈あしたの会〉の公演に出演したことをきっかけに、手話と出会いました。手話という表現が持つ力強さを知り、それまで声だけに頼って表現してきた自分に気が付いたと言います。しかし、手話の映画や娯楽作品はほとんどないことを知り、訪問看護の仕事をしながら週末の時間を使って初めて手話映画を撮ったのが2008年です。

今回はクラウドファンディングで資金を募り、2021年から制作を進めてきました。出演者には、俳優もいれば、普段は別の仕事をしている人もいますが、聴こえる人も聴こえにくい人も聴こえない人も一緒になって撮影現場を盛り上げていたと監督は言います。

ヒゲの校長と教え子たちのオフショット

「ヒゲの校長」役として主演を務める尾中友哉さんは、ろう者の両親を持つ耳の聞こえる子ども「CODA」として手話を母語に育ちました。ろう児・難聴児向けに教育事業を展開する〈NPO法人Silent Voice〉の代表理事を務めています。

また、校長の同僚の先生役を務める前田浩さんは〈大阪市立聾学校〉の卒業生。ほかにも、吉本興業の手話部に所属する河本準一さん、映画『繕い裁つ人』などに出演する俳優の日永貴子さんも登場します。谷監督は、本作について「聴こえる人にも、手話やろう者に関わりのない人にも是非ともご覧頂きたい」と意気込みを寄せています。

あなたの街でも上映してみませんか?

映画『ヒゲの校長』は、自主企画のインディーズフィルムのため、上映先を募集しながらさまざまな施設やイベントで上映を行っています。2022年12月18日に北海道上川郡美瑛町での上映があるほか、12月24日には神奈川県横浜市、2023年1月14日には神奈川県川崎市大阪府寝屋川市1月29日には愛知県名古屋市など、全国各地での上映が決定しています。
※最新の上映予定は公式サイトよりご確認ください

個人や団体による自主上映会を歓迎しており、上映先を現在も募集中です。上映会を行う場合は、上映料金とは別に謝礼や交通費実費を支払うことで監督や出演者のトーク登壇も依頼できます。上映をご希望される場合は、専用フォームよりお申込みください。

手話の歴史を映像を通して知ることができ、また、出演者の手話を通して、手話表現の力強さも体感できる本作品、是非一度ご覧ください。