福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】急斜面にブドウ畑が広がっている【写真】急斜面にブドウ畑が広がっている

ブドウ畑と醸造場があるところ「ココ・ファーム・ワイナリー」をたずねて アトリエにおじゃまします vol.08

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栃木県足利市にあるブドウ畑と醸造場「ココ・ファーム・ワイナリー」。100%日本の葡萄を原料にした日本ワインを造っています。

開墾は1950年代。現在、ブドウ畑では化学肥料や除草剤は一切使っておらず、醸造場では野生酵母による自然醗酵を中心にワインづくりを行っているそう。

ココ・ファーム・ワイナリーのワインは、どんな環境で造られているのでしょうか。2023年6月、こここ編集部が現地をたずねました。

※以前こここで紹介した記事はこちら:スパークリングワイン〈ココ・ファーム・ワイナリー〉

平均斜度38度、急斜面にあるブドウ畑

東武伊勢崎線「足利市駅」からタクシーで20分ほど。タクシーを降りると、ブドウ畑が広がっていました。平均斜度は38度、スキージャンプで使われている大倉山ジャンプ競技場の最大斜度が37度なので、かなりの急斜面です。

【写真】急斜面にブドウ畑が広がっている

急斜面なので水はけがよく、また南西向きで陽あたりもいいため、葡萄にとっては良い条件。しかし、大型車両や重機は入れません。そのためココ・ファーム・ワイナリー(以下、ココ・ファーム)は人の手で地道に農作業を続けてきました。

自家畑で栽培している品種は、さまざま。いずれも北関東の気候風土にあった適地適品種のワイン用葡萄です。

【写真たわわに実っている葡萄
編集部がたずねた6月には、綺麗な黄緑色の実がなっていました

ブドウ畑を遠くから眺めていると、なにやら作業に向かう人が。

「彼らは葡萄に傘かけをしに行くんです。葡萄って雨とか水に弱いんですよね」

そう教えてくれたのは、この日わたしたちを案内してくれた越知 眞智子(おち・まちこ)さん。有限会社ココ・ファーム・ワイナリー 取締役農場長 兼 社会福祉法人こころみる会 統括管理者を務めています。

【写真】ぶどう畑を背にして立つおちまちこさん

越知:多くのブドウ畑は、棚の上に葡萄の枝が這っていますが、うちは違います。這っている枝を全部下に下ろして、カーテンのようにしているんです。

うちも元々、上に枝を這わせる形でしたが、それだと葡萄がうまく育ちませんでした。そこで雨が多い地域で葡萄づくりのコンサルタントをやっている方をお呼びしたんです。すると「こんなところで腐らないわけがないじゃないか」と言われて。

丁度雨の多い夏の時期で、畑のなかは湿気がすごい状態になっていました。そのときに「棚の上に這っている枝をすべて下に向けなさい」と教えてもらって。おかげで葡萄の房の位置もはっきりして作業効率も良くなったんですよ。

【写真】ぶどう畑の棚の中で草刈り作業をする人
重い車両や重機を使用すると、土を固く踏み固め、水や空気の通り道をつぶしてしまうことがあるとのこと。ココ・ファームでは、人による作業のため土の状態がいいそう

急斜面を登って見えた景色

続いて案内してもらったのは、ブドウ畑の山頂。

【写真】急斜面にあるぶどう畑
畑の横にある道路を徒歩で登ると15分
【写真】ぶどう畑の山頂にあるテーブルとベンチ
山頂にはベンチとテーブルが置いてありました

頂上につくと緑が広がる穏やかな風景がそこにありました。「せっかくなので、ここで試飲してみますか」越知さんのお言葉に甘えて、一杯いただきます。

【写真】テーブルの上にスパークリングワインとジュールがグラスに注がれて置いてある
取材当日は曇り空でしたが、それでもいい景色でした
【写真】ワインをもつ手
ワイングラスを景色の中に掲げてみたり……たのしくてだいぶ浮かれていました

おいしい……。いただいたのは、スパークリングワイン「2019 のぼ ドゥミセック(以下、のぼ)」とノンアルコールの「ロゼ スパークリングジュース」。

のぼの名前の由来は「陽はのぼる美しき泡立ちのぼる」というフレーズとラテン語「de novo」=「新たに」・「再び」という意味から。ラベルには点字が記されています。

【写真】ラベルに記された点字

越知:ある時代まで、瓶の中で泡が発生して濁りのあるワインは、失敗作として捨てられていました。しかし、とある修道士が、そのワインの美味しさに気づき、スパークリングワインの道筋を見出します。「ワインの中に星が見える」という名言も残したそうです。彼の名前はドン・ペリニョン、視覚に障害があったと言われています。

そもそもココ・ファームのワインづくりは、先代の川田昇さんが立ち上げた「こころみ学園」の園生たちと共にありました。

はじまりは1950年代のこと。中学の特別支援学級の教員だった川田さんが市内にある山を購入、川田さんとその生徒たちが中心となり2年かけてブドウ畑を開墾。

1969年には、葡萄と椎茸の栽培を中心にした農作業をとおして園生の心身の成長を目指す「こころみ学園」を設立。

さらに1980年、こころみ学園の考え方に賛同する保護者たちと共に「有限会社ココ・ファーム・ワイナリー」を立ち上げ、1984年には果実酒醸造の免許を取得、ワインづくりがはじまったのです。

ブドウ畑の草刈りや石拾い、傘かけ・つる切り・収穫、醸造作業、ラベル貼りや梱包……。さまざまな仕事を園生たちが担い、ワイン造りを支えてきました。

越知:先代は、ブドウ畑を開墾した当時「知的障害のある人でもできる作業や仕事」を生み出そうと考えていました。でも実際にワインづくりをはじめてみると、「ここにいる彼らだからこそできる仕事や作業がある」ことに気づいたと言います。わたしも彼らがいるからこそいいワインが生まれていると思っています。彼らを本気であてにしているんです。

【写真】インタビューにこたえるおちさん

「障害があるから」と一方的なカテゴリで括り、その人たち”でも”できることを探す。そうではなく、目の前にいる人たちと過ごし、一人ひとりの得意やその人”だから”できることを知って活かす。だからこそ生まれるものがある。そこに気づいたからココ・ファームならではのワインが生まれているのかもしれません。

選りすぐりの培養酵母ではなく、野生酵母で自然に任せる?

山頂を楽しんだ後は、麓に降りてスパークリングの瓶詰め作業を見学。建物の中に入るとお酒のいい香りが漂ってきます。

【写真】
スパークリングワインの容量を揃える機械
【写真】
コルクが飛び出ないようにワイヤーで留める

建物内のすこし奥にはスパークリングワインが並ぶ冷蔵室があります。

越知:ワインは、葡萄の皮などについている酵母(※注1)が糖をアルコールに変えながら、分解しながら、二酸化炭素と熱を出します。分解する糖がなくなって発酵を終えると澱(おり)となって沈殿します。その後、冷蔵室内で1〜3ヶ月、毎朝毎晩欠かさずビンを45度ずつ回して澱を瓶の口に集めます。澱をきれいに瓶口に集めるため段々と瓶口を立てていきます。

※注1:糖をアルコールに変える微生物。自然界のありとあらゆるものに生息している。パン生地が膨らむのも酵母の働きによるものだそう

ココ・ファームでは、「野生酵母」を中心に発酵を行っています。ワインづくりに向く酵母を選び、人の手によって増やした「培養酵母」を使うのではなく、自然に任せる。それによって葡萄の自然な持ち味を引き出し、複雑な味わいの上質なワインを造っています。(※注2)

葡萄や酵母(微生物)の力はワイン造りの大部分を占めます。人の手ではできることは限られているとも言えるのかもしれません。それでもココ・ファームは「こつこつとした伝統的な手仕事を大切にすること。自然に寄り添い『葡萄がなりたいワインになれるよう』葡萄本来の持つ力を誠実に引き出していくこと」を願って、環境を整え、その持ち味を生かすことを大切にしてきたと言います。

※注2:野生酵母についてココ・ファーム・ワイナリー公式チャンネルが解説動画を出しているので興味がある方はこちらをご覧ください「What`s!? 野生酵母」

越知:ちなみに今ここにいる人は瓶詰め担当のメンバー。園生はそれぞれ役割が決まっています。ひとつの工程に関わる人数は多いので、ひとつの作業をそれぞれが自分のペースでゆっくり行なえるようになっています。

【写真】それぞれの持ち場で働く園生たち

トンネル内にある熟成庫

続いて案内してもらったのは醸造場。大樽とステンレスタンク、益子焼でできた甕(かめ)が置いてあります。発酵時に使う容れ物によって、ワインの味わいが変わってくるそう。

【写真】ワインが入った大樽が4つ並んでいる

越知:甕は、益子焼の作家さんにお願いしてつくってもらいました。この甕で発酵させるとさまざまな微生物が発酵を促してくれるんです。

【写真】甕と樽が並んでいる
写真左から2番目にあるのは益子焼でてきた甕(かめ)。その中で発酵させているワインは「甲州F.O.S.」というオレンジ色のワインになるそう

発酵場のそばにある山肌にはなにやら気になる扉が……。扉の中に入ると、トンネルがあり、樽が置いてありました。

【写真】トンネル内にある樽
樽で熟成させる期間が長いと、中身のワインが蒸発してしまいます。それを「天使の分け前」と呼ぶそう。越知さん曰く「つくり手からすると、悪魔だと思うくらい減る」とのこと

このトンネルが生まれたきっかけは、フランスのシャンパーニュ地方でのワインづくりを視察した先代の川田さんが、影響を受けたことから。「地下トンネルがほしい」と言い出した川田さんは、当初自身で掘り進めたのですが、安全性を踏まえ途中からプロにお願いしたそう。

続いて案内いただいた場所には、大きなステンレスタンクが置かれていました。ステンレスタンクの容量はなんと8000L越え。

【写真】大きなステンレスタンク
ワインの種類によって、発酵や熟成させる期間はさまざま

ブドウ畑が一望できるワインショップ&カフェへ

複数の場所を案内いただいた最後には、ブドウ畑が一望できるカフェへ。ランチとワインをいただきました。

【写真】カフェの外観
ワインショップは10時〜18時、カフェは平日11時〜16時/土日祝日は11時〜17時にオープン。詳細はココ・ファーム・ワイナリーウェブサイトへ
【写真】
平日限定のリゾットランチ

何種類かワインをいただいたのですが、その中でも私の好みだったのは、白ワイン「2021 ケルナー・シエスタ」とデザートワイン「MV マタヤローネ」でした。

2021 ケルナー・シエスタは、フルーティなさわやかさがありながらも、甘みがあって、口にじわっと苦味が。MV マタヤローネは、とろっとした甘みがあり、その味の濃さを口の中でしっかり味わっていたくなりました。にもかかわらず後味で甘ったるくなることもなくておいしい……。

とここまでワインの味わいをレポートしてみたのですが、なかなか難しいのでココ・ファームのオンラインショップに掲載されている「香り」や「味わい」のイメージを引用します。よろしければそちらでイメージを膨らませてみてください。

【画像】販売ページには香りをイメージできるイラストが描かれている。ケルナー・シエスタはグレープフルーツやアプリコット、桃、ハチミツが描かれている
2021 ケルナー・シエスタ詳細はこちら
【画像】【画像】販売ページに香りがイメージできるイラストが描かれている。マタヤローネはドライフルーツやメープルシロップ、黒糖、ナツメグなど
MV マタヤローネ詳細はこちら

「既に存在しているもの」への敬意を忘れないこと

ほぼ1日ココ・ファーム・ワイナリーに滞在して感じたのは、なんとも言えない心地のよさでした。

それは緑が広がる景色や美味しいワインを飲んだことも一因だとは思うのですが、「既に存在しているもの」への敬意を端々で感じられたからかもしれません。

たとえば葡萄栽培、この土地にあった葡萄を育てられているのは、既にある土壌や変わりゆく気候を深く知ろうとし続けているからこそ。化学肥料や除草剤は一切使わないということは、さまざまな草花がしげり、虫がよってきます。その虫たちをねらう鳥たちもくるでしょう。つまり今いる環境は、さまざまな命が形作っていることを丁寧に感じながら葡萄を育んでいるのではないでしょうか。

選りすぐりの培養酵母ではなく、野生酵母を中心とした発酵を行い、できた葡萄や既に存在している微生物の力に任せること。時間をかけて行っているワインづくりも、既に存在しているものへの敬意を持っていると言えるでしょう。

「知的障害のある人でもできる作業や仕事」を生み出そうと考えていた先代の川田さんが、「ここにいる彼らだからこそできる仕事や作業がある」と気づいたという話にも通ずるものがあります。誰にでも得意なことやその人ならではのできることがある。その確信は、共に生きる人への敬意を持ち続ける上で大切なことのように思います。「彼らを本気であてにしているんです」と語る越知さんの言葉もそうです。はたして自分はここ最近誰かを本気であてにしたことがあるのだろうか、と考えずにはいられませんでした。

まだ言葉にできないココ・ファーム・ワイナリーの心地よさがたくさんあります。自分へのお土産で買ったワインを飲みながら、再び訪れる日に想いを馳せながら、その正体を引き続き探してみます。

【写真】カフェの入り口に描かれているココ・ファーム・ワイナリーの文字

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