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“孤立と無縁の人なんて、いない”。西智弘さん編著『みんなの社会的処方』が発売&「暮らしの保健室」への寄付も受付中
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西智弘 編著/岩瀬翔・西上ありさ・守本陽一・稲庭彩和子・石井麗子・藤岡聡子・福島沙紀 著『みんなの社会的処方』(学芸出版社)

「社会的処方」がもっと自由になることを目指して

2020年春に起きた新型コロナウイルス感染症の拡大から、4年が経とうとしています。

この間、オンライン環境の整備や進化もあって、人同士のつながりは大きく変化しました。関係を広げやすくなったり情報にアクセスしやすくなったりした一方で、リアルで誰かと出会う機会が減ったまま、人の「孤立」を深めた側面を感じている方も少なくないかもしれません。

2024年2月末発売の新刊『みんなの社会的処方──人のつながりで元気になれる地域をつくる』は、そうした社会的孤立への一つのアプローチである「社会的処方」(social prescribing)を、緩和ケア内科医であり、さまざまな地域活動を行ってきた西智弘さんが掘り下げる書籍です。

“社会的処方は、もっと自由でいい。多くの人たちが気ままに自然に「自分にできること」「自分がやりたいこと、好きなこと」を持ち寄って、お互いに「いいね、いいね!」とつながっていく先に、孤独・孤立の解消がある。”

(p.6/「はじめに」より)

冒頭にこう記されている本著は、4年前に西さんが上梓した『社会的処方──孤立という病を地域のつながりで治す方法』(学芸出版社)の続編でもあります。さまざまな地域の活動家たちの寄稿を通じて、各地の取り組みのポイントを整理しながら、コロナ禍を経て改めて浮き上がる社会的処方の重要性と、多様な人々と「混ざりあいながら生きていく」ヒントが具体的に著されています。

「社会的処方」に取り組む医師、西智弘さん

ライフスタイルが多様化するなか、地域につながりを持たない人がさまざまな困難を一人で抱えてしまう「社会的孤立」。少子高齢化子どもの貧困の問題が深刻化する日本でも、国や自治体による対策が検討されてきており、2024年4月には、社会で孤独を感じる人や孤立する人を支援する「孤独・孤立対策推進法」も施行されます。

〈こここ〉でも以前、この問題をみんなで理解していく協力型ボードゲーム『コミュニティコーピング』を紹介。また、今回の書籍の編著者・西智弘さんへのインタビューも行い、地域資源が豊かであることが、私たちの健康や生き方にどんなポジティブな可能性をもたらすのかを考えてきました。

医師である西さんは、以前から「社会的処方」という考え方に注目しています。これは、薬ではなく「地域とのつながり」で人々の問題を解決しようとするアプローチ。終末期がんの方に向き合うことも多いなかで、「病院の外に“生き方の選択肢”を提案できる仕組みが必要だ」と考えた西さんは、イギリスの活動事例から学びながら、日本ならではの社会的処方の形を模索するようになりました。

〈一般社団法人プラスケア〉を設立し、自ら川崎市で「暮らしの保健室」や「社会的処方研究所」も運営してきた西さん。活動を通じて考えてきた、人々と地域資源をつなぎあわせる「リンクワーカー」の意義や、日本での社会的処方の萌芽ともいえそうな各地の実践事例などをまとめて生まれたのが、2020年2月の前著『社会的処方』でした。

踏み出した背中を押してくれる『みんなの社会的処方』

4年ぶりの続刊となった、今回の『みんなの社会的処方』では、社会状況の変化を改めて俯瞰しながら、これも社会的処方かも?と視点を変えられる、ユニークな場や取り組みの最新事例が多数紹介されます。

Chapter1では、社会的処方の3つの理念(=人間中心性、エンパワメント、共創)を振り返りつつ、人を「支援すること」の本質や、格差の広がる社会の中で「共に生きること」の意味を考察。さらにChapter2で、そうした問いを深めてくれる、生活導線上のつながりの場としての「銭湯」や、特にコロナ禍以降注目される屋外での「アクティビティ」を介した人の関係性に触れていきます。

“人と人とのつながりだけだと、コミュニケーションが得意な人だけの居場所になってしまうけど、銭湯はお客さんが自分と周囲との距離感を選ぶことができる。それこそが銭湯が持つケアの価値になっていると思っています。”

(p.46/「Chapter2 孤独・孤立の現状」での小杉湯・平松佑介さんのご発言より)

Chapter3では、国内外の最新のモデル事業をレポート。その一つ、兵庫県での取り組みには、以前〈こここ〉で紹介したシェア型図書館「だいかい」文庫も登場します。

またChapter4では、社会の中でその人らしく生きるとはどういうことか、高齢者が「はたらく」ことや、障害のある人のアート活動を通じて解説。さらにアートコミュニケーション活動の事例にも触れ、「共創」という行為がもたらす価値にもフォーカスしていきます。

最後のChapter5では、地域のハブとなる場やコミュニティを増やしていくマインドとして、「おせっかい」や「自分の関心」に着目。その背景に指摘されるのは、地域へのあらゆる関わりを行政サービスに委ねがちな日本の現状です。

しかし、無関心を示す人々が多い今の社会の中にも、「わずらわしいことをする権利」を手放さない人はたくさんいて、実はその人たちが身近な社会を元気にしている。このことを事例を通じて確認しながら、西さんは読者一人ひとりの意識に問いを投げかけていきます。

“本来であれば、僕らの生活の中にあったはずの、「まちに散らばるゴミに関わる権利」や「公園のいざこざに関わっていく権利」を行政に奪われてしまった結果、僕らは自分が住むまちを自分できれいに整える権利」や「公園で自由に遊ぶ権利」をはじめとした、「自分たちの暮らしを自由に彩る権利」までも奪われてしまっていると言える。それら権利を全て取り戻していくことが結果的に、僕ら自身がまちなかで面白がれる生活につながっていくのだと思う。”

(p.207/「Chapter5 暮らしているだけで元気になれるまちをつくる」より)

3/3(日)には「社会的処方EXPO2024」開催、寄付も受付中

本書の「おわりに」には、社会的処方を日本で広げていくための挑戦についても書かれています。〈プラスケア〉が主催する年1回の「社会的処方Expo」もその一つ。今年度も各地のフロントランナーを招き、2024年3月3日(日)に「京都経済センター」にてトークセッションを開催する予定です。

一方で、社会的処方の取り組みは、そこにどんな人がいて、どんな地域資源があるかによって大きく変わっていきます。「これをやればいい」という正解があるわけではありません。また、地域での取り組みはすぐに成果が出るものではなく、長い時間をかけて、そこに暮らす人々と一緒に土壌から育んでいく必要があります。

『みんなの社会的処方』の編著者である西さんも、いち地域の活動家であり、今も試行錯誤を日々続けています。運営する「社会的処方研究所」の活動には、実践のプロセスの中で形を大きく変えたものがあったことも、今回の書籍で記されました。また2月の初旬には経営危機をSNS上で打ち明け、葛藤を正直に綴ったnoteも公開。〈プラスケア〉では現在も、マンスリーサポート会員を募集しています。

医療、文化芸術、市民活動などさまざまな分野が交差しながら芽生えてきた社会的処方の動きは、今後も長期的なスパンで、多くの人を巻き込みながら育くんでいく必要があるはずです。そうしたなかで、本記事でご紹介した内容──書籍を読んだり、イベントに参加したり、活動団体を支援したり──は、もしかしたら自分自身にあう地域活動に出会うための、最初のきっかけになるかもしれません。