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「シリーズ ケアをひらく」はなぜ愛されたのか? 〈本屋B&B〉が贈る、著者たち×編集者 白石正明さんの退職記念トーク
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2024年2月12日(月・祝)に伊藤亜紗さん×三好愛さん×白石正明さん、21日(水)に頭木弘樹さん×岡田美智男さん、29日(木)に横道誠さん×白石正明さんのトークが開催

3週連続トーク「白石さん、シリーズ ケアをひらくをありがとう」

『逝かない身体』『リハビリの夜』『驚きの介護民俗学』『中動態の世界』『居るのはつらいよ』『「脳コワさん」支援ガイド』——医学書を専門とする出版社が出したとは一見思えないタイトルが並ぶ、「シリーズ ケアをひらく」。2000年のスタート以来43点の書籍を世に送り出し、医療に携わる専門家以外にも幅広く読まれてきました。

2019年には、シリーズ全体が第73回毎日出版文化賞を受賞。冒頭に挙げた作品はそれぞれ、優れたノンフィクションやエッセイなどに贈られる賞にも選ばれています。今「ケア」という概念そのものが注目されているなかで、ますます読者を広げつつあるシリーズといえるでしょう。

そんな「シリーズ ケアをひらく」を生み出した編集者の白石正明さんが〈株式会社医学書院〉を退職するにあたり、東京・下北沢エリアの商店街「BONUS TRACK」にある〈本屋B&B〉は、3週間連続のトークイベントを企画。著者の伊藤亜紗さん、頭木弘樹さん、岡田美智男さん、横道誠さん、イラストレーターの三好愛さんを招いて、「シリーズ ケアをひらく」の魅力を振り返っていきます。

〈本屋B&B〉では、1月末から「シリーズ ケアをひらく」のフェアを開催中。刊行順にシリーズ全点を揃え、著者の関連書も充実させていく予定です

「ケア」に宿る意味に、20年以上前から着目した書籍シリーズ

近年、「ケア」という言葉を見聞きする機会が増えています。専門家(ケアワーカー)による他者への関わりを示すこともあれば、身の回りの家族や友人、あるいは大切にしたいモノなどに対する行為を指すこともあり、私たちの日常に浸透してきたと感じている人も少なくないでしょう。

以前、〈こここ〉でお話を伺った〈ナイチンゲール看護研究所〉所長の金井一薫さんは、「ケア」の本質にある「生命力の消耗を最小にする」「持っている力を引き出す」アプローチに、専門的な知識や技術が必要だと指摘します。しかし一方で、それは「専門家以外がケアに関わってはいけない、という意味ではありません」とも話し、個々のニーズや暮らし方をこまやかに、複合的に捉えて日々の生活をつくっていく「ケア」の大切さを教えてくれました。

「むしろ制度的にも専門分化が進んでいる現代においては、さまざまな方がケアの視点を持ち、領域を跨ぐような関わり方を増やしていく必要があると思っています」

「シリーズ ケアをひらく」は、そんな専門性の裏側に宿る「ケア」の意味に、昨今の広がりよりもはるか前に着目した、新しいジャンルの単行本シリーズといえるでしょう。〈医学書院〉の編集者であり、『精神看護』という専門誌を創刊した白石さんが2000年に新たに立ち上げ、年に数冊ずつ出版を重ねてきました。

書き手となったのは、思想家、研究者、カウンセラー、写真家、福祉施設運営者、さまざまな病気や障害のある当事者など。医療や福祉の現場にある営みを、多様な切り口で世の中に伝えることで、その領域の外側にいる読者を数多く獲得してきました。

「シリーズ ケアをひらく」の一部(公式サイトより)

〈こここ〉でも、最新刊の一つ『超人ナイチンゲール』を昨年末にご紹介。アナキズム研究を専門とする政治学者の栗原康さんが、19世紀に看護の専門性を確立したフローレンス・ナイチンゲールの生涯を追いかけた偉人伝です。一般に知られていない驚きのエピソードや“黒衣の”ナイチンゲール像などを掘り下げつつ、著者独自の語り口で「ケア」の本質に迫る構成は、他の「シリーズ ケアをひらく」同様、それまでどこにもなかった一冊に仕上がっています。

著者やイラストレーターを交えた全3回のクロストーク

下北沢「BONUS TRACK」にある〈本屋B&B〉では、過去に「シリーズ ケアをひらく」の著者イベントを何度か開催するなかで、本シリーズを生み出した白石さんへの感謝が何度も話題に上ってきたといいます。

「こんなにも書き手や読者に愛されている編集者の方に、改めて感謝を伝えるイベントを開催したい」。2024年3月の白石さんご退職の話を聞き、著者の方々の協力を得ながら企画されたのが、3回に分けて開催されるトークイベント「白石さん、シリーズ ケアをひらくをありがとう」です。

初回、2024年2月12日(月・祝)に登壇するのは、『どもる体』の著者・伊藤亜紗さん(東京工業大学教授/未来の人類研究センター長)と、その装画を描いたイラストレーターの三好愛さん、そして白石さんの3人。

書籍のあとがきで、伊藤さんは「三好さんの絵がなければ、本書はまったく別のものになっていた」と記しています。この書籍で装画デビューを果たした三好さん、担当編集の白石さんを交えて、「本づくり」に焦点を当てながら、シリーズを振り返っていきます。

要するに、三好さんの絵は、当事者には絶対に描くことのできない絵なのです。 「細部までリアルに」だけが鏡ではありません。鏡とは、本人が見ることのできない視野を本人に見せるための器具です。「非当事者から見た吃音」という、私がこれまで見たことない視野を、三好さんの絵ははじめて私に見せてくれた。 「ああ、吃音ってこういうことなのか」 はじめてどもる自分を見たような、そんなうれしさがありました。

(『どもる体』p.250)

2024年2月21日(水)は、「シリーズ ケアをひらく」の書き手同士の対談として、『食べることと出すこと』の著者・頭木弘樹さん(文学紹介者)と、『弱いロボット』の著者・岡田美智男さん(豊橋技術科学大学教授)が登場します。今回の企画にすぐ賛同した頭木さんからは、岡田さんに「『弱い』ということをどうお考えになっていますか」などの質問が投げかけられており、異なる切り口で「ケア」を捉えてきた2人の初対面が、実際どのような対話になるか注目されます。

そして最後の2024年2月29日(木)は、『みんな水の中』の著者である横道誠さん(京都府立大学文学部准教授)と、白石さんの対談。2021年出版の同書は、文学研究者であり、発達障害のある当事者として横道さんが近年多数の著作を出すようになる、大きなきっかけとなった本です。

「シリーズ ケアをひらく」の過去作をすべて読み、SNSでも何度となく白石さんへの感謝や畏敬を発信している横道さん。詩やエッセイ、小説、論文などさまざまな文体で自らの体験を綴った『みんな水の中』のあとがきにも、次のような文章が載っています。

本書を執筆した五か月間に、白石さんから頂いた各種のコメントは実にワクワクするものばかりで、大いに刺激を受けた。私は「シリーズケアをひらく」には、白石さんをファシリテーターとした「共同研究」の側面があると理解しているのだが、その共同研究の班員に入れてもらえたことは本当に光栄だった。頭のなかに飼っているバクが、何度も「バクーン」と鳴いていた。

(『みんな水の中』p.256)

“個と個で一緒にできること”を合言葉に2021年から活動しているウェブマガジン〈こここ〉でも、実はこのシリーズの書籍が編集会議でたびたび話題に上っています。福祉の現場をさまざまにたずねるとき、そこにどのような出会い方をしていき、見えてきたものをどう世の中にひらいていくか……「シリーズ ケアをひらく」の視点の持ち方に気づきをいただくことは何度もありました。

また私たちが実際にお話を伺ってきた研究者はもちろん、連載を持ってくださる齋藤陽道さんや、「こここスタディ」などメディアの背骨となる記事に繰り返しイラストを描いてくださっている三好さんをはじめ、「シリーズ ケアをひらく」と関わりのある方は(あくまで結果的に、しかしある意味で必然的に)何人も、すでに〈こここ〉へ登場いただいています。

〈医学書院〉の「シリーズ ケアをひらく」はまだまだ続くといいますが、白石さんが20年以上に渡り見てきたことを知る貴重な機会です。〈本屋B&B〉でのトークを、編集部も楽しみにしたいと思います。