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従来の医療・教育からこぼれ落ちる子どもたちの、新たなケアとセラピーの場「Therapy Plays epifunny」
活動紹介

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【写真】広いフロアの中央にドーム型の物体、奥に木の階段が見える
神戸市に誕生した「Therapy Plays epifunny」(写真は、グループセラピーを行う部屋「あのあ」)

「こころ」×「からだ」×「場」からアプローチを行う新しい施設

近年、「発達障害」などの言葉の広がりによって、これまで見過ごされていた、社会の中でさまざまな生きづらさを抱える方の存在が知られるようになってきました。そうした人々が“本来持っていた力”を発揮できるよう、「関わり方」や「周りの環境」を変えていく動きも、少しずつ起きています。

一方で、効率化を進めてきた従来の医療や教育の「制度」自体は、なかなか変わらないという現実もあります。はっきりとした診断のつきづらい子どもや、生きづらさを無理に隠してきた大人が、今なお支援からこぼれ落ちてしまっているケースも少なくありません。

兵庫県神戸市・灘区に誕生した「Therapy Plays epifunny(セラピープレイス エピファニー)」は、そうした社会の狭間で行き場所を失っている子どもや家族、悩みを抱える成人に向けた、新しいケアとセラピーの場です。空間や他者との関わりを重視する「グループセラピー」や、遊びを通した「プレイセラピー」などのプログラムを通じて、人の個別的な力を伸ばしていくことを狙いとしました。

運営するのは、臨床心理士と作業療法士がチームを組んだ〈株式会社epifunny company〉。場のデザインに、クリエイティブユニット〈graf〉が協力しています。

【画像】Therapy Plays epifunnyロゴ
「Plays」には、からだとこころを動かす「play」と、多様な人の居場所であることを意味する「place」の2つの言葉が重ねられています

制度から“こぼれ落ちる”人々との出会い

〈epifunny company〉代表の坂井新さんは、これまで臨床心理士・公認心理師として児童擁護施設や精神医療の現場で活動してきたなかで、現在の施設や制度では支えることのできない人々に多く出会ってきました。

たとえば、重い発達障害がある子どもが安心していられる場所がなかったり、発達の特性に虐待などの問題が重なって大きな困難がありながら、「病気ではない」という理由で医療につながれない子どもがいたり。また、当事者の傍にいる家族へのケアも、足りていないと感じる場面が何度もあったといいます。

一方、「Therapy Plays epifunny」で所長を務める林直樹さんも、作業療法士として精神科領域で働く間に、幼少期から自分らしく過ごすことを認めてもらえず、つらい思いを抱え続けてきた方を何人も見てきました。

医療化、教育化されていない、当事者のための場を創出する必要があるのではないか。

今回の施設は、そんな思いを抱える2人が中心となり、何年もかけて構想してきた施設です。医療と社会福祉、こころとからだといった複数の領域をまたぎながら、「キュア(Cure)」「ケア(Care)」「セラピー(Therapy)」の間から生まれるアプローチを通じて、人の潜在的な力を引き出すことが目指されています。

3つの軸をもつ「Therapy Plays epifunny」プログラム

「Therapy Plays epifunny」の利用は、まず60〜90分の「グリーティング面接」を受けることからスタート。その後、アセスメントのための検査や面接を通じて、その当事者の個別性がどこにあるのか、どういったペースでどんな関わり方がベストかを、心理・身体面はもちろん、生活全般も含めた視点から見立てていきます。

プログラムは大きく分けて3つあり、それぞれ別の空間で行われます。

【写真】カーペットの敷かれた小部屋の中央にテーブルと椅子、奥にたくさんのおもちゃ。窓のカーテンは雲の柄
プレイセラピールーム「ここん」

1つが「プレイセラピー」と呼ばれる、遊びを通した一対一の関わりです。対象はおよそ4歳〜中学生。自分の言葉で困りごとを伝えることが難しい子どもたちと、さまざまなおもちゃなどで遊ぶことを通して、体験的に「自分を知る」ことを手伝います。

【写真】白をベースにした広いフロアあちこちに、木調のアイテムが見える
グループセラピールーム「あのあ」

本施設の最も特徴的な取り組みが「グループセラピー」。4歳〜小学生を対象としたプログラムで、スタッフと子どもたちが「あのあ」という広い部屋で1時間を過ごし、他者との相互的な関わりを育んでいきます。

それぞれの特性やセラピー中の変化に応じて、グループメンバーは1〜5名で柔軟に構成されますが、人との直接的な触れ合いや会話が強要される場ではありません。ここでの“他者”とは、“自分とは違う誰か”はもちろん、「自分の中にある“内なる他者”も想定している」と坂井さんは話します。

誰かと過ごすこと自体に苦しさを感じてきた子どもたちには、まず大手を振って一人でいられる環境が必要なんです。なので、無理にみんなの輪に入る必要はなく、「ただこの場にいる」だけでもいい。床に寝転がっているだけでも、私たちはそれを見ていますし、さまざまな関わり方を用意しています。孤独に過ごせる、でも「自分だけではない」という状況をつくることが、結果的に自由で多様なこころとからだを育んでいくと考えています。

【写真】ソファと椅子、広いまどのある小部屋
サイコセラピールーム「キャビネ(Cabinet)」

また、「Therapy Plays epifunny」では、成人を対象とした「心理カウンセリング」のプログラムを用意。子どものプログラムと並行した「親面接」、青年期以降に続く悩みへのセラピーを行う「精神分析的心理療法」など、制度の狭間で困りごとを抱える大人たちにもアプローチします。

思わず関わりたくなる空間を、その目で

「Therapy Plays epifunny」では、説明相談会がリアル/オンラインで定期的に開催されています。

特にグループセラピールーム「あのあ」には、これまで安心して過ごせる場がなかった、発達に大きな特性のある子どもに向けての工夫が多数凝らされています。以下、簡単に設備と、場にアフォードされる(=思わず関わりたくなる)形や素材、光などの仕掛けをご紹介しますが、ぜひその目で、この新たな場所のデザインを感じてみてください。

【写真】部屋の中央に白い球体があり、下に隙間が空いているのがみえる
「あのあ」の中央にある、母体の子宮をイメージした球体「繭(まゆ)」。中に入ると、守られる安心感がありながらも、外の様子も少しわかるよう、下部が絶妙に開いて外とつながっています。触るとつめたいところもあれば、ツルツルしていたり、ザラザラしていたりと、多様な感覚を味わえるよう設計。ソファの柔らかさも、当事者の感覚を最優先に調整されました
【写真】一段床が低くなった壁際に、木でできた洗面台がある
手をぬらす、壁にかける、あふれさせる……どんな遊び方をしてもいい「水場」。「繭」と同様、子どもが目を止めやすい“円”の形を意識しながら、素材を生かして多様な触感を再現しています
【写真】丸みを帯びたドアの向こうに、少し広めの明るい部屋が見える
中で遊んで過ごしてもいい「トイレ」。床を部屋と同じ素材で統一することで、部屋と同じようにゆっくり過ごせるよう配慮されています
【写真】天井と並行に、丸みを帯びた平たい木の板が吊るされ、天井との間に反射したライトの光が見える
光を意図的に隠したり見せたりすることで、目で見て遊べるよう工夫。この下の床にも、集中的に光が降り注ぐ「光だまり」などがあります
【写真】あのあの空間の一部
天井からぶら下がった2本の紐。間に木の板を通せばブランコにもなりますが、実際どう使うかは「その子次第」。大人の寄り添い方も問われていくデザインです