福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】わっぱ弁当。おにぎりや具材がぎっしり詰まっている【写真】わっぱ弁当。おにぎりや具材がぎっしり詰まっている

日々のおいしいを大切にするには? 発酵をテーマにしたセレクトショップ&カフェ「ひょん」をたずねて こここ訪問記 vol.20

  1. トップ
  2. こここ訪問記
  3. 日々のおいしいを大切にするには? 発酵をテーマにしたセレクトショップ&カフェ「ひょん」をたずねて

今日もまた、コンビニでパッと目に留まって2秒でレジへ持って行ったおにぎりを、電車の乗り換えのホームで急いでお腹に詰め込んだ。

おいしい! と思うものを、味わって食べたのはいつだろう。日々の中で、ついついスマホを眺めながら、時間に追われながら食べ物を口へ運び、どんな味がしたかわからないままに食事を終えてしまうことも多い。本当は、色、香り、味や舌ざわりを感じながら、食べる時間を楽しみたい。そうすることが、自分自身を大切にすることや、一日を充実させることへつながるような気もしている。そのためにはどうしたらいいのだろう?

そんな問いとともにたずねたのは、岡山県倉敷市にあるセレクトショップとカフェ「ひょん」。“「おいしいもの、いい匂いのするもの」を扱います”とある「ひょん」にはどんな商品が並び、どんな味と出会えるのだろう。お腹を空かせて新幹線に乗り込み、岡山へと向かった。

古民家を活用したセレクトショップ「ひょん」

岡山駅から、在来線に乗り換えて20分。JR西阿知駅から徒歩で17分、車で5分ほど。瓦屋根や日本式の庭園など、古くから大切にされてきた民家がところどころに並ぶ住宅街の一角に「ひょん」はある。

【写真】ひょんの入り口、のれんがかかっている

のれんをくぐって、「お邪魔します」と中へ入る。小さな入口を抜けると、その先には窓が広く、明るい空間が広がっていた。

左手の棚には本や陶芸、真ん中の台には調味料、食品、雑貨、右側には洋服などが、ディスプレイされている。

「おいしそう!」「これはなんだろう?」「なにこれ!」そんな声が次々とあがる。

【写真】セレクトショップの内観、左と中央には棚、右には大きい窓がある

緑色のラベルにたぬきのとぼけた表情が愛らしいパッケージは、米ぬかふりかけ「たぬき」だ。玄米を精米するときに出る米ぬかを使って、ふりかけにしているらしい。揚げ玉が入っているから「たぬき」。同じくぬかを活用するために開発された、ぬかを練り込んだクッキー「ぬかボール」も人気商品のひとつだ。

【写真】ぬかボールを手に取る取材チーム

ユニークな缶バッチや身体も食器も洗える石鹸、文字がプリントされたパーカーがあるかと思えば、さつまいもチップスや梅干しなども並んでいる。どれも「え、なにこれ?」と思わず手にとってみたくなってしまうものばかりだ。一見置いてあるものはバラバラだが、おいしいものや身体に良いもの、ストーリー性のあるものを中心にセレクトしているそう。

岡山駅近くの自然食品店から仕入れている商品は、それ目当てで訪れるお客さんもいるのだとか
画家・絵本作家であるミロコマチコさんのハンドタオルや巾着も置いてあった

バラエティ豊かな雑貨類は、スタッフがSNSで見ていて気になっていたものなど、「好き」から始まるものも多くある。ここに置きたいと思った誰かを起点に、店舗の棚のバリエーションは広がっている。

【写真】ポーチの大きさぐらいあるハートの形をしたアクセサリー
ひょんのオリジナル商品ハリコも並ぶ

飲食スペースでわっぱ弁当

到着したのはちょうどお昼どきだったので、奥の座敷へ通していただき、ランチをいただくことにした。くつろいでいると、ほどなくして、お盆に乗ったわっぱ弁当が到着。おみそ汁の良い香りが鼻をくすぐる。

【写真】お盆にのっているわっぱ弁当
「わっぱ弁当(汁付)」で1300円、事前予約制
【写真】わっぱ弁当に入っているおにぎりを食べる取材チーム
米は、農薬不使用で米を栽培している農家から購入し、味噌は岡山にあるまるみ麹の味噌を使用。地域のもの、安心なものを使うことにこだわっている

わっぱを開けると、まず桜の香りがふわっとただよう。そこにはお弁当の幅にぴったりの俵型のおにぎりが3つ頭を並べ、その隣にはいくつかのおかずが並んでいた。彩りの良さに「わぁ」っと声が出る。桜の香りは、左端に入っていた桜餅から香っていたようだ。

このおむすびには何が入っているのだろう? 隣のおむすびについている味噌は何? この鮭の味付けがたまらないね! そんな話をしながら箸を動かす。

小さなお弁当だと思っていたのに、ぎっしりと詰まっていて、食べ終わる頃にはとても満足していた。

【写真】座敷の上に円卓が置かれている
セレクトショップの奥にある飲食スペース

なぜだか「ハリコ」づくりをすることに

食後にリラックスしていると、本棚で仕切られた向こう側のスペースに人が集まってきた。覗いてみると、新聞紙でつくった型に、筆を使って小さな白い紙を、貼っていっている。「なんちゃってハリコ」をつくっているのだと教えてもらう。先ほどのショップにも置いてあったものだ。本来の張り子は、粘土などでつくった型を途中で抜いて空洞にするが、ひょんでつくる「ハリコ」は新聞紙でつくった型に直接和紙を重ねて張り、中を抜かない。そのため「なんちゃって」とつくらしい。

「やってみますか?」と声を掛けてもらって、半紙を型に貼る作業をやらせてもらう。こうしてゆるやかに、食事の空間から作業の空間にお邪魔していた。

筆にうすくのばした糊をつけ、半紙を重ねて貼っていくが、なかなか売り物のような厚みは出てこない。作業をしていた方に、「まだ薄いかな、もっと貼らないと」と教えてもらう。淡々とした作業は瞑想のようで心地よく、すっかり夢中になっていた。

【写真】写真中央で取材チームがはりこ体験をしている
この写真に写っている空間の右側に、本棚がある。その横が先ほどの飲食スペース

待つこと、どうなるかわからないことを楽しむ「発酵」というコンセプト

ひょんは、株式会社ぬかが2024年5月に立ち上げた就労継続支援B型事業所でもある。名前の由来は「ひょんなことから」の「ひょん」。

もともと、別の場所で事業所の開設を予定していたが、建築基準の関係で入居できなくなってしまい、物件サイトで見つけたのが、現在「ひょん」のある古民家だった。

そんな場所との運命的な出会いから「ひょん」と名付けられたこの場所では、たまたまを大切に、偶然起こる出来事や、思わぬ出会いを楽しめるような場を目指している。そういえば、私たちも早速ハリコづくりに加わり、ひょんな出会いを楽しませてもらったことに気づく。

セレクトショップと反対側の入り口。ひょんの建物は、戦後に岡山で社会活動を広げた永瀬隆さんが生前に暮らしていた家。そんなひょんな出会いと家の歴史を大切に、永瀬さんを追ったドキュメンタリー映画『クワイ河に虹をかけた男』の上映会なども開催している

これまで生活介護事業、放課後等デイサービス、相談支援事業を行ってきたぬかが就労支援事業所を立ち上げたのは、就労のイメージを変えたいという目標があったからだと、ぬかの代表取締役・中野厚志さんは話す。

中野:「就労」は一般的に、黙って座って、きっちりと仕事をこなす、というイメージがあると思うんです。できる人たちはそれでもいいんだけど、そうじゃなくてもいい。ぬかが大切にしてきた「人を中心に」というコンセプトをそのままに、利用者が行きたいと思える就労の場所ができたらいいなと思って始めました。

【写真】インタビューにこたえるなかのさん
中野厚志さん

利用者やスタッフ、それぞれの魅力が「ぬか漬」のようにゆっくりと発酵し、社会へと広がっていくことを願って名付けられたぬかでは、「発酵」が、事業の大事なコンセプトになっている。

中野:待つこと、どうなるかわからないことを楽しんでやっています。米を精米したときに出てくる捨てられてしまう「ぬか」を、ぬか床にして、なにかを漬ける。毎日手入れすることで、それがおいしくなるかもしれない。

同じように、利用者さんの癖やこだわりみたいなものを福祉現場では困りごととされることがあるけれど、面白い差として捉えてみる。一見無駄に見えることをつついて、みんなで面白がってるんです。

ぬかでは、こうした個人の癖やこだわり、一見突飛とも思える他者の行動に「ツッコミ」を入れて面白く捉え直すことを「なんでそんなんプロジェクト」として主催。これまでに岡山、高知、岐阜、佐賀などで、事例を集めた「なんでそんなんエキスポ」や「なんでそんなん大賞」を開催してきた。

中野:「なんでそんなんプロジェクト」は、何になるかもわからないし、問題解決でもない、いわゆる無駄なことなんです。でもこういう見方をすると安心するなと思うことができるし、発見する人の気持ちの余裕も大事にできると思っています。

【写真】展示空間の中央に、おとなはよわいよねと書かれた掛け軸がかかっている
ひょんに併設されている「なんでそんなん博物館」では、「なんでそんなんプロジェクト」に関わる事例が展示されている。訪れたこのときは、横須賀市立明浜小学校ことばの教室の教諭・髙松智行さんと協働した企画展が開催されていた

食は誰にでも開かれている?

ぬかは発酵というコンセプトを大事にしながら、おいしいもの、身体に良いものを提供することも心がけてきた。運営する生活介護事業所「ぬか つくるとこ」のランチをイタリアンのシェフが監修するのもその一つ。こうした流れが、今のひょんへとつながっている。そう話すのは、ぬかで8年働き、ひょんの立ち上げから関わっている店長・川上靖人さんだ。

川上:おいしいものを食べるって嬉しいじゃないですか。なかなか外出が難しいぬかびとさん(ぬかの利用者)もいるなかで、ご飯を食べることは社会とつながるきっかけになると思うんです。いつもは外に出られないけれど、おいしいものがあるからという理由で身体が動き出す。食の力はすごいなと思いますね。

【写真】インタビューにこたえるかわかみさん
川上靖人さん
話を聴きながら、自家製の餅とあんこでつくられたぜんざいや玄米甘酒ミルクなどもいただいた。季節によって、デザートメニューは変わるらしい

「おいしいものを食べるって嬉しい」。心躍るわっぱ弁当をいただき、自分の身体がすっかり喜んでいるのを感じながら、私も川上さんの話に共感する。

とはいえ、余裕があまりないなかでの日々の食事は、ついついあるもので済ませてしまったり、「おいしい」を感じずに終わってしまうことも多い。川上さん自身は、どうすればおいしいを大事にする環境をつくることができると考えているのだろう。

川上:僕自身、20代の頃や子どもが生まれるまでは、お腹がいっぱいになればなんでもいいと思ってたんですよ。ただ子どもが生まれて、この子にどんなものを食べさせて元気に育てたらいいんだろうということを考えていたときに、たまたまぬかも食べ物を大事にしていて、僕の関心と環境が重なったんです。だからラッキーだったなとも思っています。

食への関心は、自分の置かれている環境が変わることや、「おいしい」と感じるものに出会うことなどによって、誰にでも開かれる可能性があるものなのかもしれない。そう伝えると、川上さんもうなづいた。

川上:ひょんという就労支援の場所を立ち上げようとなったときに、一番に食事を提供することがアイデアとしてあがってきたのは、やっぱり誰にでも開かれやすいことがあると思います。

食べるということは、比較的多くの人が体験として共有しやすく、直接的な喜びにつながりやすいものなのかもしれない。一方で、川上さん自身は葛藤を感じることもあるという。

川上:食を選ぶ生活的な余裕がない人もいるなかで、ひょんのショップは値段的にも高いものも置いてある。僕はそこに違和感もあるというか、誰にでも開かれているようで、開かれていないのかなと思うときがあります。気持ち的にはオープンだし、誰にでも来てほしいと思っている。でも、もしかしたら見えない壁が発生しているのかもしれません。

素材にこだわったものは、どうしても値段も高くなる。それにお金を払う余裕がない人もいる。そもそも貧困状態にある人は、その日の食事にさえ困っていることもあるだろう。誰にでも、といいながら、値段や見栄えの良さは、見えない線を人の間に引いてしまうこともあるのかもしれない。おいしいものを提供する店を開きながら、それを受け取ることができることが当たり前ではないという感覚を持ち、どうしたら開かれた店になるかを模索している様子に、なんだか私まで守られているような気持ちがした。

ショップの奥に置いてあるポップなオブジェは、1周年記念につくられた川上さんの顔。「おしゃれさ」や敷居の高さを緩和する要素として、あえて良く見える場所に置いているそう

無駄は旨味でしかない

米ぬかは本来捨てられてしまうものを使って、時間をかけておいしさを生み出す。それと同じように、捨てられてしまうようなもの、無駄と思われているようなものに、ぬかという会社も光を当てている。

中野:一般的には、無駄と思われてしまっているもの、それがぬかとしては旨味でしかないんですよね。

旨味でしかない、その言葉にハッとする。「おいしい」を大切にするあり方は、食事の場面だけではなく、ぬかやひょんの在り方にも関わっている。もしかしたら、「おいしい」を大切にすることと、無駄と思われることや余白を面白がることは、通じることなのかもしれない。

「一番いい特等席で面白いものを見ている感覚」自身の立場をそう話す中野さんは、スタッフや関わる人が面白がることができる環境をどのように整えているのだろう。

中野:ぬかのキーワードはずっと人で、利用者と言われる人たち、ぬかびとさんやひょんきちさん(ひょんの利用者)が真ん中にいます。「なんでそんなん」な出来事を面白みとして外に出すだけではなく、その人がどうしたら暮らしやすいとかいうところも踏まえて考える。そこをぶれずにいてくれるスタッフがどれだけいるかが大事だと思っています。

現在ぬかの求人はSNSを中心に行っているため、必然的にぬかがどんな場所かを知って集まるスタッフが多いのだそう。

中野:コンテンポラリーダンサーやノイズミュージシャンなど面白い人たちがスタッフとして関わっています。一筋縄ではいかないですけど、でも逆に旨味になっているなっていうのはスタッフに対しても思いますね。

【写真】ひょんきちさんがウエイトリフティングの動作をしている
ショップで販売している石鹸のCM撮影風景にもひょんなことから遭遇した

おいしいを大切にするには

ひょんで食事をしたとき、これはなんだろうとわっぱ弁当を覗き、一緒に食事をしていた人たちと会話をしながら箸を動かし、心からおいしいと感じる時間を過ごした。

「おいしい」と感じることがなかった食事と、ひょんで食事をしたときのそれは何が違うのだろうか。ひとつには、ひょんで提供されているものがこだわりの食材でつくられた、彩りの良いおいしいものだったことがある。もうひとつは、私の側に受け取る準備があったことかもしれない。

そう気づいたのは「無駄とされてしまうことは旨味でしかない」という中野さんの言葉だ。無駄や余白がおいしさ(=面白さ)になり、そこには、おいしさを発見する人がいる。おいしいと感じない、味がしない食事のとき、私の食べる行為はお腹を満たすだけになっていて、余白がなかったのだろう。受け取ること、時間をかけること、味わうこと、そうした積極的な受動性こそが「おいしい」を大切にすることへつながり、新たな味との出会いを開いてくれる。ひょんな出会いは、そんなことを教えてくれた気がした。


Series

連載:こここ訪問記