福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】団地の1階、そこにソーネおおぞねと書かれた看板が掲げられている【写真】団地の1階、そこにソーネおおぞねと書かれた看板が掲げられている

助けてと言い合える地域をつくるには? 団地にある複合拠点「ソーネおおぞね」をたずねて こここ訪問記 vol.22

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「助けて」と言うのは、なぜこんなに難しいのだろう。

会社で働いているとき、どうしても解決しない問題があった。締切日の19時過ぎまで頭を悩ませたあと、意を決して上司に相談すると、それは拍子抜けするほどあっさりと解決してしまった。先に帰ることができずに一緒に残っていてくれたらしい上司は、「もうちょっと早く言ってくれればよかったのに」と苦笑いして帰り支度を始めたのだった。心の底から申し訳なく思い、人に頼ることを恐れている自分にほとほと呆れた。

友人や仕事仲間から頼られるとうれしいのに、なぜ自分は人を頼ることができないのだろう。人に迷惑をかけるとか、弱い部分を見せるとか、それは悪いことではないし、むしろそれで仲が深まったり物事が進んだりすることがある。そう頭ではわかっているのに、なぜこんなにも抵抗感があるのだろうか。

気楽に頼ったり頼られたりするには、どんなことが必要なのだろう? そんな問いとともに訪れたのが、2018年名古屋市東区にオープンした「ソーネおおぞね」だ。

カフェ、ショップ、資源買い取りセンター、生活相談窓口、ホールスペース——複数の機能を一棟に詰め込んだ複合拠点「ソーネおおぞね」は、障害の有無や国籍、年齢にかかわらず、あらゆる人が行き交う「ごちゃまぜの交流」を目指している。

私たち取材チームは、ソーネおおぞねがある団地「大曽根住宅」に向かった。

団地の1階、スーパー跡地に生まれた「ソーねおおぞね」

【写真】団地の1階に掲げられたソーネおおぞねと掲げれらた看板
JR中央線・地下鉄名城線・名鉄瀬戸線「大曽根」駅から徒歩10分ほどの場所、大曽根住宅の1階に「ソーネおおぞね」がある
【写真】ショップの内観

自動ドアをくぐり、一歩足を踏み入れると、甘くてやさしいパンのかおりがした。

すぐ右手には、有機野菜や愛知の名産品、地酒、惣菜、県内の福祉施設でつくられた商品などを扱う「ソーネショップ」があり、その一角に焼きたての「わっぱん」が並んでいる。

わっぱんは、ソーネおおぞねを運営するわっぱの会が任意団体の時以来40年以上にわたり作りつづけているパンだ。国産小麦を使い、無添加にこだわっており、長く地域の人たちに愛されてきた。

ソーネおおぞねの立ち上げから携わっている服部豊美さんによると、ソーネショップのなかでも、ここのキッチンでつくる惣菜と並ぶ売れ筋商品だという。

【写真】ふっくらとした食パン
【写真】お惣菜コーナー

キッズスペース&子どもたちがボルダリングできるカフェ

ショップで買ったパンを奥にある「ソーネカフェ」で食べていくこともできる。取材チームが訪れたのは金曜日の朝10時、平日の朝にもかかわらず、ソーネカフェにはすでにちらほらと人がいた。ちなみに、ソーネショップで売れ残った野菜などの食材はカフェメニューで使用し、なるべく廃棄を出さない仕組みになっているそうだ。

【写真】カフェに並んでいるテーブルと椅子
家具や建材は、愛知県豊根村の木材や、名古屋市内の街路樹などを再利用。2018年には「愛知まちなみ建築賞」を受賞した

カフェにはテーブル席や小上がりがあり、キッズスペースも。小上がりとの間にあった仕切りは取り払い、目が届くよう開かれたスペースにしたという。絵本やおもちゃがたくさん置かれていて、取材中も子どもたちのたのしそうな声が響いていた。

【写真】壁際に設置されたボルダリングスペース
車椅子も通れる広い通路。その壁にはボルダリングができる工夫も

服部さん:読み聞かせ会を開催して、親御さんにはゆっくりモーニングしていてもらうことも。読み聞かせ会には、子どもだけではなく高齢の方も「なつかしいから聞いていてもいい?」と参加してくれたりするんですよ。

子どもたちが自由にのびのびと過ごせる一方で、ゆったりと静かに過ごしたい人もいるはず。そんな思いから、少し奥まった場所に半個室のような席も設けられていて、あらゆる人に開かれた場所だと思った。

カフェの奥につくられたホールは一面ガラス張りで、陽の光がたっぷりと入る明るい場所だ。落語イベントや日本語教室、将棋クラブなど、さまざまな用途で使われているという。3時間1500円という安さで利用できることから、カレンダーは予約でいっぱいだった。イベント後、カフェで食事をして帰る団体も少なくないそうだ。

3つのスペースに分かれているが、仕切りを外せば一つに繋げることができるため、大人数のイベントも可能
【イラスト】ソーネおおぞねの間取りが表示されている
ソーネおおぞねの間取り図(公式ウェブサイトより)

会員6000人超の資源買取センター

続いて私たちは、同じく団地の1階にある「ソーネしげん」に向かった。ここは地域の人が持ってきた資源(ペットボトルや缶、雑誌、金属、古着など)を買い取る場所。たとえばアルミ缶なら、現金(15円/kg)またはポイント(30P/kg)に換えられて、貯まったポイントはソーネカフェやショップで使うことができる。そのほか、換金せず児童養護施設などに寄付するという選択肢もあった。

地域の人たちは不用品をリサイクルしながら、食事や買い物をたのしめる、あるいはだれかの役に立てる仕組みだ。

【写真】しげん買取センター
なかには古本が並べられた本棚があり、どれも10円とお値打ち価格。近所にあったら通いたくなる場所
気になるのが匂いの問題だが、意外なほどいやな匂いがしなかった。「飲物容器は水洗いする」等のルールのもと利用されているため、多くの人が生活する団地でも問題なく運営できるようだ

この日も、大きな家具らしき資源を車で持ち込んでいる人たちがいた。近隣の人だけでなく遠方からも訪れるらしく、会員は6000人超。大量の不用品がある場合は、片付け専門のスタッフが自宅まで出向き、見積もりのうえで回収してくれるサービスもあるそう。

持ちこまれた衣服や食器、家電などで状態がいいものは、同じく団地1階にあるリサイクルショップで販売している。店や倉庫がいっぱいになると、数ヶ月に一度、ソーネホールを丸ごと開放してフリーマーケットを開催する。会場はいつも賑わうそうだ。

リサイクルショップ。衣類は袋詰めにしてお値打ち価格で販売。あっという間に売れるそう

「大曽根住宅には高齢の方が多く住んでいるから、配達や引き取りに行くこともありますよ」と服部さん。

空室を活用したサービス付き高齢者向け住宅

わっぱの会では、ソーネおおぞねの活動と並行して、同じ大曽根住宅内で分散型のサービス付き高齢者向け住宅やグループホーム、社宅が混在した「ミドゥムおおぞね」も運営している。高齢の人や障害のある人、わっぱの会で働く人が、365日見守りのある環境で暮らせる場だ。

不用品を回収するソーネおおぞねのスタッフさん

見守りの仕組みはシンプル。毎朝、入居者が自分で、自身の名前が書かれたマグネットを持って管理室を訪れる。夕方になるとスタッフがそのマグネットを各部屋に届けに行く。その往復が、毎日の安否確認になっている。専門スタッフが常駐しているため、緊急時も安心だ。

リノベーションされた部屋を見せてもらうと、車椅子を使っている人でも住みやすいよう、戸が外せるようになっており、段差もなく、手すりがつけられていた。

わっぱの会が管理するサービス付き高齢者向け住宅の居室は現在31室あり、満床

管理室は、単なる事務スペースではなく日常の困りごとを相談したり、雑談をしたりする場にもなっていて、定期的に麻雀をたのしむ会も開かれるそうだ。また入居者はソーネカフェを割引で利用できるため、交流の機会もある。

管理室には、居住していた人から譲り受けた家具や小物が置かれていて、にぎやかだった

なぜスーパー跡地に複合拠点をつくることになったのか

就労継続支援A型事業所でもあるソーネおおぞねでは、障害のある人も一緒に働いている。だが、その人たちを「利用者」と呼ばないのが特徴のひとつだ。

障害の有無や国籍、年齢にかかわらず人が集い、心を満たしたい人もお腹を満たしたい人も、休みたい人も働きたい人も、それぞれが好きなように過ごす。「ごちゃまぜの交流」を目指すのがソーネおおぞねであり、役割で分けるのではなく、「働く仲間として場をともにする」のが、代表の斎藤縣三さんの考え方だ。

【写真】インタビューにこたえるさいとうさん

ソーネおおぞねが入居するのは、愛知県住宅供給公社が管理する築50年近い公社住宅。改装なしでは新たな入居者が見込めず、かつて1階で繁盛していた地元スーパーも撤退。約480戸のうち3分の1が空き室になり、「廃墟化が進んでいた」場所だった。

斎藤さん:10年前に公社がサービス付き高齢者向け住宅をやる業者を募集したんですが、約300坪もあるスーパー跡地の運営もセットという条件がついてて。それが大変すぎて一社しか応募しなかったんですよ。その会社の企画にうちだけが手を挙げちゃって、気づいたら全部引き受けることになってしまいました。

背景には、一つの思いがあった。当時、わっぱの会の共働事業所はどこも働く人でいっぱいだった。「障害のある人たちと共に働く場所を新しくつくりたかった」。その気持ちが、後押しになった。

わっぱの会の歴史は古い。1970年代から障害のある人たちと共に働く場をつくり続け、無添加パンの製造・販売をはじめとする複数の事業を展開してきた。現在、グループ全体の年間事業高は約18億円にのぼる。

そのわっぱの会において、斎藤さんが「いちばん難しい」と苦笑いするのが、このソーネおおぞねの運営だ。

オープンして2年後、コロナ禍に

オープン後、逆境は続いた。

まず、オープンして2年後にコロナ禍が直撃した。定着しかけた客足が一気に遠のき、伸び始めた売上がガクンと落ちた。「2、3年の間ずっと低迷した」と斎藤さんは振り返る。

資源買い取りセンター(ソーネしげん)も、想像以上に苦しかった。都市部にはすでに多様な回収ルートが存在し、自治会やスーパーなどの民間事業者が回収を担っている。

斎藤さん:わざわざうちに持ってこなくていい仕組みが、名古屋にはもともとあったんです。田舎の小都市でうまくいっていたモデルが、都会ではうまく機能しませんでした。

コロナが落ち着いたころには、燃料高・物価高の波が押し寄せた。飲食業全体が打撃を受けるなかで、カフェレストランの経営も苦境に立たされている。

さらに頭を悩ませるのが認知度の低さだ。近隣の住民でさえ、ソーネおおぞねの存在を知らない人がいるという。

斎藤さん:複合店舗と言われても、ピンとこないようです。実際に来てみて、使ってみて、初めて伝わる。その一歩目がなかなかむずかしい。ソーネおおぞねは、わっぱの会の他の事業があるからなんとか続いているようなものです。

「ソーネおおぞね単体では経営が成り立たない」と、斎藤さんは率直に言う。そして、それでも続ける理由をこう語った。

斎藤さん:これまでわっぱの会は「なんとか地域とのつながりを」とずっと努力してきました。でも障害者が働く拠点をつくっても、地域のなかでは点でしかなく、隔たりがあった。

しかしソーネおおぞねでは、そういうものを乗り越えて、障害のある人たちも自然と地域に溶け込める。ここが地域の課題(買い物、食事、相談、居場所など)に直接応える場所になっているからです。だから「地域とつながろう」と特別に頑張らなくても、日々の活動を続けるだけで自然につながりができていく。この仕組みができたのは、自分でもすごいことだと思っています。

ソーネおおぞねには、住まいなどに関する相談ができる場所もある

立ち上げから携わるスタッフが出会った出来事

12時過ぎ、カフェで昼食をいただくことにした。一人で新聞を読みながらランチをしている人や友人同士、子連れ、多くの人で席が埋まっている。店員さんいわく、すでに週替わりの〈魚ランチ〉が売り切れているという。

週替わり定食は、メインに小鉢やサラダ、味噌汁がついて1000円。物価高のいま、こんな値段で定食を食べられる店なんて、なかなかない。わっぱの会が営む農場の米や野菜をつかって、なんとか実現できている価格だ。

「家の近くにあったら通っちゃう」とつい口に出してしまうほど、味、ボリューム、栄養バランス、どれをとっても満足感でいっぱいだった。

【写真】お盆に並んでいる小鉢たち
週替わり定食の〈肉ランチ〉

メニューを考案しているのは、立ち上げから関わっている坪内美恵子さんだ。もともとわっぱんで30年以上働いてきた坪内さんは、パン作りも調理もこなせることから、ソーネおおぞね立ち上げに加わることになった。

障害の有無や国籍、年齢にかかわらず、いろいろな人が働く調理場で、坪内さんは一緒に働く人の「いいところを見つけること」を大切にしているという。

坪内さん:最初はなかなか人と付き合えなくて、否定的なことばかり言っていた人も、少しずつ変わっていきます。盛り付けがきれいとか、あなたのつくったものはおいしいとか、言葉をかけ続けることで、本人も自分の力を発揮できるようになっていく。いいところは一緒に仕事しながら見つけていくもの。時間はかかるけど、見つけようとすることが大事だと思っています。

【写真】インタビューにこたえるつぼうちさん
ネパール人のスタッフが働いているときは、その人を中心にレシピを考案し、ネパール料理のイベントを開催したそう

かつてわっぱんで働いていた頃は、新しいスタッフが入るたびに自宅に招いて歓迎会を開いていたという。「料理を作ってみんなで食べて、おしゃべりして。そういう場が好きなんですよね」。今はソーネおおぞねが土日も営業しているためそれが難しくなってしまったと、少し寂しそうに笑った。

印象的なできごとを聞くと、少し考えてから、駄菓子を万引きしてしまったある小学生のことを話してくれた。

よくよく話を聞いてみると、生活がシビアで、お正月にもらった1000円が底をつき、10円のガムをつい手にとってしまったのだという。

坪内さん:話を聞いてから、「今回はもういいから、これからはしないようにね」と言って、親や学校には伝えませんでした。その子はその後もソーネおおぞねに通ってくれていますよ。

その子にとって万引きは、助けを求めるサインの一つだったのかもしれない。もちろん本当のところはわからないし、万引きを肯定するわけではない。その対応が正しかったのかは誰にもわからない。けれど、親にも学校にも連絡せず、ただ話を聞いて「もういいよ」と言ってもらえた経験は、この場所への信頼になったはずだ。だからその子は、また来ることができた。

「生活の厳しい家庭の子どもが、ふらりと立ち寄れる場所にもなっているのかもしれない」と坪内さんは言う。「みらいチケット」の仕組みも、その一つ。大人が300円を支払ってみらいチケットを購入した分、子どもが好きなときに食事やパンを食べられるシステムだ。

善意だけでは継続が難しいのが現実でもあるが、地域の人たちの暮らしをよくする取り組みが繁盛すれば、ソーネおおぞねには雇用が生まれ、働く人と地域は自然とつながっていく。「助け合い」が形になっていくのだ。

【写真】ホワイトボードにみらいチケットが置かれている

仕組みや環境でつながりを育んでいくこと

斎藤さんは現在、「ソーネカード」を構想しているという。

斎藤さん:カフェもショップもホールも資源買取センターも、ゆくゆくは一枚のカードでまとめて使えるようにして、地域の人みんなに持ってもらいたい。そのカードを軸に、地域の組合みたいなものが作れたらいいなと思っているんです。

また、今は「ミドゥムおおぞね」の入居者を中心に見守りや緊急対応をしていますが、もともとこの団地には高齢世帯がものすごく多い。わっぱの関係者かどうかに関係なく、団地全体を区別なくカバーできる仕組みをここにつくって、いずれはもっと広く地域に広げていきたいです。

「ソーネおおぞね」の「ソーネ」には、顔を見合わせて「そうだね」と言い合える場になるように、という願いがこめられている

17時近く、取材終わりにソーネカフェでデザートを食べていると、急にあたりが騒がしくなった。20人近くの子どもたちが列をなしている。どうやら、みらいチケットを使って、晩御飯を食べていくようだ。子どもたちはみんなでくっついて座り、あっという間に定食をたいらげると、風のように帰っていった。

駄菓子屋売り場にあるクオリティの高い装飾は、ミドゥムおおぞねの入居者がつくったそう

入り口付近の駄菓子売り場では、中学校帰りらしき制服姿のふたり組が駄菓子を眺めている。どこの国の言葉かはわからないけれど、たのしげな話をしていることはふたりの声色や笑顔から伝わってきた。

「助けて」と言うのは、やっぱり簡単じゃない。たったひと言なのに、口にするまでにすごく時間がかかる。その時間を、ひとりで過ごさなくていい場所——それがソーネおおぞねなのかもしれない。


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連載:こここ訪問記