福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

私もあなたも、主人公でいられるように。「DAYS BLG! はちおうじ」をたずねて “自分らしく生きる”を支えるしごと vol.18

Sponsored by 厚生労働省補助事業 令和6年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)

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「どうせ自分なんて」。心のどこかでそう思ってしまう。自分の人生に胸を張って生きたいと願いながらも、そうなれない自分を責めたりする。とくに年を重ね、今よりもできないことが増えたときを想像すると、頭の中は不安でいっぱいだ。

胸を張って“主人公”として生きていくために、大切なことってなんだろう? そもそもどういった環境や社会であれば、それが実現できるのだろう?


そんな思いで訪ねたのは、「DAYS BLG! はちおうじ」という場所だ。

2012年に東京都町田市で始まった地域密着型通所介護(※注)事業所「DAYS BLG!(デイズビーエルジー)」。「“認知症を自分事”として考え、一人ひとりが人生の主人公でいられるような社会や環境を共に創造する」という言葉を掲げ、メンバー同士や地域・社会とのハブ機能を持つデイサービスとして運営されている。そのなかで、認知症の症状があるメンバーが、やりがいを感じながら“働く”ことができる機会を、さまざまな企業と連携しながら育んでいるのだ。

「DAYS BLG!」を立ち上げた前田隆行(まえだ・たかゆき)さんは、理念を共有した拠点を全国に100か所つくることを目指しており、現在は全国19拠点にまで広がっている。「DAYS BLG! はちおうじ」はそのひとつである。

今回は「DAYS BLG! はちおうじ」で過ごす人、働く人と話しながら、誰もが主人公として生きられる社会をつくるためのヒントを探りたいと思う。

※注 地域密着型通所介護事業所:定員19人未満のデイサービス。入浴や食事、排せつなどの介護や生活に関する相談を受けたり、健康状態やそのほか日常生活上のサポート、機能訓練を日帰りで提供する。

「今日は何がしたいですか?」からはじまる一日

この日は、朝から空がどんよりと曇っていて、時折冷たい雨が降っていた。気圧のせいか、頭もずしんと重い。

駅前で待ち合わせをした編集者と、「撮影大丈夫ですかね……?」と不安になりながら取材先へと向かう最中、分厚い雲で覆われていた空に少しずつ晴れ間が見えてきた。

不思議だ。何だか幸先がいい気がして、現地で合流した取材チームに「お疲れさまです」よりも先に「晴れましたね!」とテンション高めに言ってしまった。

JR八王子駅の南口から歩いて15分ほど。閑静な住宅街のなかに、「DAYS BLG! はちおうじ」はある。

【写真】緑の背景に黄色の文字でDAYSBLG!はちおうじと書かれた看板
「DAYS BLG」の名称の由来は、「DAYS(日々、毎日)」と「Barriers(障害)」、「Life(生活)」、「Gathering(集う場)」の頭文字、そして「!」(感嘆符、発信)

「DAYS BLG! はちおうじ」の看板がなければ見過ごしてしまいそうな、こぢんまりとした一軒家。人のおうちにお邪魔するような感覚で、「こんにちは~!」と中に入ると、スタッフさんが笑顔で出迎えてくださった。

靴を脱ぎ、案内された奥の部屋に向かうと、おしゃべりをするにぎやかな声が聞こえてくる。

【写真】テーブルに座り、談笑する方々

キッチン付きの部屋に、テーブルが2つ。もともとこの物件は、一般の住居として使われていたらしい。

「DAYS BLG! はちおうじ」は現在、50~80代の方が14名利用している。そのほとんどが、認知症の診断を受けている方たちだ。ここでは彼ら・彼女らも働くスタッフも、ともに過ごす仲間として“メンバー”と呼ぶ。

このときは10名ほどでテーブルを囲み、お茶を飲みながら楽しそうに会話をしていた。みんな普段着なので、パッと見るだけではスタッフと利用者の見分けがつかない。

【写真】ある女性がカメラ目線で頬杖をついてポーズをしてくれている

デイサービスは、一日のスケジュールが細かく決められている場所も多いと聞いたことがある。しかし、この場所にはそれがない。その日に何をするかは、メンバーさんたちが自分で決める。それが、「DAYS BLG! はちおうじ」の大きな特徴のひとつだ。

朝の9時半くらいに皆さんが集まったら、まずは血圧と体温といったバイタルサインのチェックをして。それが終わったら、のんびりお茶を飲みながら「今日は何したいですか?」という言葉でスタートするんです。

そう話すのは、「DAYS BLG! はちおうじ」を運営する株式会社ウインドミルの代表・守谷卓也(もりや・たくや)さん。サバサバとしながらも親しみやすく、優しい笑顔が印象的だ。守谷さんは、ここでの一日のおおまかな流れについて教えてくれた。

【写真】DAYSBLG!はちおうじの事業所の前で、談笑するまついさん、つちやさん、もりやさん
スタッフの土屋さん、メンバーの松井さんと談笑する守谷さん(一番右)

活動時間は、お昼ご飯をはさんで午前と午後にそれぞれ設けられている。朝のミーティングで一人ひとりの希望を聞き、ピックアップしていく。もし悩んでいる人がいれば、スタッフ側が用意した選択肢の中からやりたいものを選んでもらうこともある。

その後、それぞれグループに分かれて活動。一区切りがついてお昼ご飯を食べたら、ゆっくりとお茶を飲みながら再びミーティングをし、午後の活動を決めていく。

働くことができるデイサービス

この日の午後の活動は、「水槽掃除」、「買い物」、「ショッパー(地域新聞)配布」の3つのグループに分かれていた。日によっては、選択肢の中に“仕事”が入っているのもまた、この事業所の大きな特徴である。

それはたとえば、自動車販売店での洗車だったり、お寺の草むしりだったり。地域新聞の配布もそのひとつ。さまざまな企業や地域の事業者と連携して、働いた分の対価はきちんと「謝礼」として本人に支払われる仕組みになっているのだ。

【写真】メンバーたちが同じ上着を着て地域新聞をポスティングしている
地域新聞の配布の様子
【写真】ポストに地域新聞を投函する手
(撮影:垣花つや子)

それらの仕事がある日は、「行きたい」と希望した人が参加する。無理強いすることはないが、人数が少ないときには「しょうがねーな、今日は俺が行くよ」と、仲間のためにと手を挙げてくれる方もいるらしい。

お昼ご飯も、それぞれ食べたいものを言っていく。外食にするか、お弁当にするか。この日は雨が降っていて寒かったから、「あたたかいものが食べたいね」ということで、みんなで買い物をしてシチューをつくったそうだ。でももしラーメンが食べたい人がいれば、「いいね、一緒に行こうか」とスタッフが車を出す。

ふと、一年間だけ住んでいたシェアハウスを思い出した。お昼の時間に居合わせたメンバーで、「今日蕎麦食べたいな」「あ、じゃあ私も行こうかな」「俺は弁当にするわ」と、それぞれの意思で自然とばらけていく、あの感じ。

介護施設って、決められたご飯を決められた時間に食べるものだと思っていたけれど、なんだか想像以上に自由だ。

そして一日の最後には全員で集まり、振り返りミーティングを行う。取材班が到着した時間は、ちょうどこのミーティングが始まるタイミングだったようだ。

今日何をしたか、スタッフがメンバーそれぞれに聞いていく。「お昼は買い物行ってたよね、何買いました?」とか、「洗車に行ってくれたけど、一日どうだった?」とか。

なかには、自分が何をやっていたか思い出せない人もいる。そういうときは、「こんなことをしてましたよ」と言葉を添えたり、スタッフ視点から見たその人をみんなに共有したりする。

全員の振り返りが終わったら、最後は日替わりでメンバーの一人が音頭を取って、みんなで「いよーお、パン!」と一丁締め。スタッフの送迎で、各々の自宅へと帰っていく。

自分らしい“働く”を通して、人や社会とつながる

代表の守谷さんが「DAYS BLG! はちおうじ」を立ち上げたのは、2017年のときのこと。それ以前から、病院や施設で介護に携わり、デイサービスセンターの管理者として勤務していたという。

そのデイサービスでの、若年性認知症と診断された男性との出会いが、守谷さんにとって大きな転機となる。

【写真】インタビューに答えるもりやさん

守谷:デイサービスにいるほかの方と比べると年はだいぶ若く、とても元気な方でした。僕は当時、「どんな方でも対応できる」という自信があったんです。でも、ダメだった。その方はデイサービスを休みがちになり、どんどん足が遠のいてしまいました。

聞けば、「まだまだ自分にはできることがあるし、そもそも80、90歳のじいちゃんばあちゃんと一緒にいてもつまらない」と。だったら、彼のような人も楽しいと思える新しいデイサービスをつくりたいと思い、独立することにしたんです。

その男性が望んでいたのは、「認知症になっても人の役に立ちたい」ということ。ならば、利用者が働くことができる、社会参加型のデイサービスをつくろうと考えた。しかし、八王子市では介護保険サービスの利用中に働いて報酬を得るという前例がないことから、守谷さんの計画はストップ状態に。

そこで共通の知人を頼り、「DAYS BLG!」の代表理事である前田隆行さんのもとを訪ねた。前田さんは一足早い2012年に、「BLG町田」でデイサービス利用者の有償ボランティアをスタートしていた。前例がない取り組みのために何度も厚労省に出向き、自分の足と時間を使って実現させた人だ。

そんな前田さんに熱意を伝え、暖簾分けという形で「DAYS BLG! はちおうじ」を立ち上げた守谷さん。「一人ひとりが自分の意思で自分の望む生活を送り、人生の主人公でいられる社会を実現する」という理念は、「DAYS BLG!」からそのまま引き継いでいる。

守谷:認知症だと診断された方たちって、やっぱり「自分には何もできない」「周りの人や社会から必要とされない」と諦めてしまっている方が多いんですよね。仕事も辞めなきゃいけなかったりして、地域や社会とも切り離されてしまう。

でも私が出会った66歳の男性のように、ほとんどの人が認知症になっても「人の役に立つことがしたい」と思っているんです。働く機会を通して、「自分にはまだできることがある」「ここにいていいんだ」と思ってもらうことが、生きる希望に繋がるんじゃないかと。

そのためにスタッフは、メンバーの得意なこと・できることと、企業や地域の困りごとをつなぐ。BLGの思いや取り組みに共感し、最近では企業や地域包括支援センター側からも、「何か一緒にできないか」と声がかかることが増えてきたという(※注1)

【写真】まちはぐの入り口
元小料理屋店主のメンバー・窪木さんと、大手ファミレスの店長だったメンバー・水野さんの「もう一度お客さんの前に立ちたい」という思いから実現した「カレーショップ BLG!」。シェアキッチン&シェアスペース「まちはぐ」で月に2回程度運営している。もともと地域包括支援センターがシェアキッチンの情報を提供してくれたことがきっかけだったそう
【写真】厨房でニンジンをきるメンバーさん
(撮影:垣花つや子)

ただ、社会参加を掲げてはいるものの、「“働く”とは必ずしも謝礼などの対価を得ることだけではない」と守谷さん。

ボランティアで地域の人と交流をする“働く”もあれば、BLGの中でみんなのお昼ご飯をつくったり、使ったお皿を洗ったりする“働く”もある。もちろん、メンバー同士で肩を揉んだり、重たい荷物を持ってあげたりするのだって、そのひとつ。

一番大事なのは、一人ひとりが自分の役割を見出し、充実感を得られること。メンバーそれぞれが自分のやりたい“働く”を選び、ゆるやかに人や社会とつながっていけばいい。だから、仕事に出かけるのは絶対ではなく、事業所で仲間と過ごすという選択も、ここではアリなのだ。

【写真】駄菓子屋に貼られたお知らせ。隣の部屋お菓子をたべてもOKだよと書いてある
「駄菓子屋」も、活動のひとつ。ときおり開く駄菓子屋は、子どもたちの居場所にもなっている

また、「人の役に立てている」という気持ちを満たす上で、メンバー一人ひとりにスポットライトが当たることがとても大切だと、守谷さんは言う。

守谷:帰りの振り返りミーティングは、スポットライトが当たる時間でもあるんです。「今日は〇〇さんがおいしい味噌汁をつくってくれました」とか、「洗車で〇〇さんがすごく活躍してくれました」とかね。一人ひとりに輝く場面って絶対にあるから、それを見逃がさずに、しっかりと他のメンバーさんにも共有していく。それが、私たちスタッフにとっても重要な仕事だと思っています。実際、僕らがメンバーさんに助けてもらうことだってたくさんありますから。

※注1:2024年12月、政府は「認知症になっても希望を持って生きられる社会を実現する」という「新しい認知症観」に立った取り組みを推進するための基本計画を閣議決定した。守谷さんは、「DAYS BLG!は、そうした『新しい認知症観』を体現する取り組みなのでは」と考えているという。

ケアする/される関係ではない、仲間としての在り方

一般的に、デイサービスの職員やスタッフに求められるのは、トイレや食事、入浴の介助・支援といった業務だとイメージされがちだ。でも、それらの時間は一日の中で見ればほんの一部。

それ以外の活動時間を、メンバーの皆さんにとっていかに充実したものにできるのか。「DAYS BLG! はちおうじ」のスタッフたちは日々真摯に考え続けている。

現在、「DAYS BLG! はちおうじ」で働く7名のスタッフは、ここで働きたいという強い思いを持って来た人ばかりだそうだ。そのうちのひとりである、土屋亜矢乃(つちや・あやの)さんにお話を聞くことができた。

【写真】インタビューに答えるつちやさん

以前からグループホームやデイサービスなどで介護職員として働いていたという土屋さん。たまたま近所に守谷さんと共通の知人がいたことから、今から4年ほど前にこの「DAYS BLG! はちおうじ」を見学しにきたのだそう。そこで大きな衝撃を受けることになる。

土屋:「私が知っているデイサービスじゃない……!」と思いました。それと同時に、「そうそう、これだよね。これがやりたいんだよ」って。私が介護施設に望んでいること、ふつうであってほしいと思うことを、BLGでは当たり前にやっていたんです。

今まで働いてきた施設では、職員の都合や指示で利用者の一日の過ごし方が決まってしまうことが多かった。本当は一人ひとりに能力があって、できることもたくさんあるのに、「利用者」という枠に当てはめて、その人の意見をないがしろにしてしまったり、選択肢を取り上げてしまったり。

そんな職員主導の施設の在り方にずっと疑問を抱いてきた土屋さんにとって、あくまでメンバー主導で、フラットな関係性を築いている「DAYS BLG! はちおうじ」は希望だった。

やりたいことも、食べたいものも自分で決める。そんな当たり前の日常が、介護施設に入った途端なくなってしまうのはおかしい。その思いが決定的なものになった。

土屋:初めてBLGに来た日にたくさん刺激をもらったので、当時働いていた施設でも真似してみようと思って。それまでは利用者さんは決められたおやつを食べていたんですが、カップアイスを何個か買ってきて、「自分の好きにトッピングして好きなだけ食べよう」という会をやってみたんです。そうしたらみんな、アイスを食べたときにすごい嬉しそうな顔をしたんですよ!

「100円くらいのアイスで、こんなに喜ぶんだ」と思ったと同時に、「みんなどれだけ我慢しているんだろうな」って切なくなっちゃって。もっともっと一人ひとりの気持ちを聞かなきゃいけないし、いろいろなことができるようにサポートしたい。でも、施設側の規則や業務過多のせいでそれができない場合もある。そういうジレンマをどうにか飲み込んで、疲弊している職員もいると思うんです。

自分にとって大切にしたいものを諦めずに働くために、「DAYS BLG! はちおうじ」へと転職した土屋さん。今は管理者としてメンバーの送迎から活動のサポートまで、全般を担っている。

全体のミーティングではてきぱきと進行しながらも、「何をしたい?」という問いかけに誰かが悩むときは、「こういうのはどうだろう?」と提案したりする姿が印象的だった。

そんな土屋さんに仕事のやりがいを聞いてみると、「あんまり考えたことないな」とさっぱりとした答えが。

土屋:仕事なんだけど、「仕事してる」って感覚が私の中であまりなくて。まあでも、「ここに来ると楽しい」って言ってもらえると、やっぱり嬉しいですよね。私自身も楽しいし、よく笑っているなあと思います。

もちろん一人の人として真剣に向き合うし、ほかのデイサービスと比べて距離が近いぶん、課題もあるんですよね。時には揉めるし、イラッともしますよ(笑)。でも、それも全部メンバーさんに直接言っちゃいます。この場では何を言ってもOK。タブーな会話はないんです。

「喧嘩もしますよ」とあっけらかんとした言葉に、ほんの少し面食らう。でも、それもまた相手を施設の利用者ではなく、一人の人として接しているからなんだろうなとすぐに気づく。

何を話してもいいというのは、簡単なようで結構難しい。でもそれができるのは、スタッフもメンバーもみんながフラットな関係性だから。何でも遠慮せずに言い合うけれど、その根底には相手への信頼や思いやりがある。

土屋:帰りの送迎の車の中で謝るんですよ。「今日の昼間喧嘩しちゃったね。言い過ぎちゃってごめんね」って。でも、メンバーさん本人は忘れていることもあるし(笑)。「あれ、そんなことあったの?」「でもきっと俺も悪かったよ」って。「じゃあまた明日から仲良くやろうね」って、お互いに笑っておしまい。そういう関係性が、私にとってもすごく心地いいんです。

そうやって自分の気持ちを素直に伝え合える関係性って、年を重ねれば重ねるほど、どんどん稀有なものになっていく気がする。だから、率直に羨ましいと思った。

一人ひとりの思いを大事にするこの場所では、メンバーもスタッフも自分を偽らず、ごまかさず、自分のままでいられるのだろう。弱い部分を出してもいいし、泣いてもいい。そして周りも、相手を評価したり無理に受け入れようとしたりするのではなく、ただありのままに受け止める。そうした在り方が、この場のリラックスした雰囲気につながっているのかもしれない。

「居心地、いいなあ……」とついこぼすと、キッチンで作業をしていた方が「わかります、最高ですよね」とにっこり。あまりにこの場に馴染んでいたので完全にスタッフだと思っていたが、本人曰く「たまに遊びに来る人」らしい。

【写真】DAYSBLG!はちおうじのキッチンにたつはたさん
パティシエ見習いの秦舞花(はた・まいか)さん。自分でケーキをつくって、メンバーさんたちにプレゼントすることも。この日はたまたま、半年ぶりにふらっと遊びに来たところだった

中学生のときにたまたま「DAYS BLG! はちおうじ」のスタッフに声をかけてもらったことが縁で、たまに遊びに来るようになったという秦さん。当時は家にも学校にも居場所がなかったという彼女にとって、いつ来てもフラットに受け入れてくれるこの場所は、“第2のおうち”になった。

秦:メンバーさんも職員さんもみんな思いやりがあって、たまに来る私のこともあたたかく迎えてくれて。ここで他愛もない話をするのが本当に楽しいんです。

最初に訪れてから、もう10年くらいの付き合いになるというから驚いた。やはりここは、高齢者のケアをする場所というよりも、「みんなの居場所」という方が、しっくりくるような気がする。

「認知症=絶望」じゃない。一人ひとりが主人公でいられる社会をつくる

「DAYS BLG! はちおうじ」でしばらく過ごさせてもらって感じるのは、とにかく笑顔が絶えないということ。スタッフもメンバーも、遊びに来た人も、みんな混ざり合って会話を楽しんだり、おやつを食べたりして、思い思いの時間を過ごしている。

会話を聞いていると、自分が認知症であることを、みんなあっけらかんと話すのがとても印象的だった。

でも、みんながみんな、はじめから認知症を受け入れられているわけじゃない。いろいろな葛藤や不安を抱えて、この場所にやってくる。

メンバーの一人である松井恵津子(まつい・えつこ)さんは、この「DAYS BLG! はちおうじ」に通い始めたことで、はじめて認知症である自分を受け入れられるようになったと話してくれた。

【写真】インタビューにこたえるまついさん

もともと損害保険の代理店を経営していた松井さんにとって、認知症と診断されて仕事を辞めざるをえなくなったことは、大きなショックだったという。

松井:認知症は、自分にとって恥ずかしいことだと思っていました。だから、子どもたちや周りの人にも言えないし、一人で抱えていたんです。でもここには同じような症状を持つ仲間がいて、一緒に生活をしていくうちに、認知症がどういうものなのかもわかってきて。少しずつ自分を取り戻していったような気がします。だから今は、BLGさんに来ることが楽しみなんですよ。「今日BLGの日?」って、いつも娘に聞いています(笑)。

“自分を取り戻す”なんて、素敵な表現だ。

そんな松井さん、ちょうど取材翌日が81歳のお誕生日だという。「これからやってみたいことはありますか?」と尋ねると、「あんまりないですね」と一言。

松井:私はどちらかというと自由主義で、好きに泳いでいたいんです。人に決められたことに縛られるのはあんまり好きじゃなくって。ここは、私を自由にさせてくれるところだから楽しいんだと思います。

【写真】もりやさんとまついさんが隣り合わせに座り談笑している
「今日のお昼ご飯のシチューは、松井さんがつくってくださったんですよ」と守谷さんが言うと、松井さんは「そうだったかしら?もう、すぐ忘れちゃうの」とにっこり

自由でいたい。松井さんの言葉を聞いてハッとした。歳をとったら、認知症になったら、自由でいられなくなるものだと何となく思い込んでいた。

でも、そうじゃない。年を重ねても、認知症になったとしても、ひとりじゃないと思える居場所と周りのサポートがあれば、胸を張って自分らしく、自由に生きていくことだってできるのだ。ここでいきいきと過ごすメンバーの皆さんの姿に触れて、「諦める必要はないよ」と言ってもらえているような気がした。

取材後、みなさんの「またね」という言葉に見送られ、「また遊びに来ます!」と自然と口にしている自分がいた。外に出ると地面の雨はすっかり乾いていて、穏やかな夜が広がっている。気づけば、想定していたよりも長い時間ここにいたらしい。

この場所を訪れる前よりも、想像する未来に希望が増えたことがシンプルに嬉しくて、帰り道の足取りは少し軽くなっていた。


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連載:“自分らしく生きる”を支えるしごと