福祉をたずねるクリエイティブマガジン〈こここ〉

【写真】深川えんみちの入り口の前に、ランドセルを背負った小学生がふたり。中に入ろうとしている【写真】深川えんみちの入り口の前に、ランドセルを背負った小学生がふたり。中に入ろうとしている

多世代が一緒に過ごすことで生まれる安心とは?「深川えんみち」をたずねて “自分らしく生きる”を支えるしごと vol.21

Sponsored by 厚生労働省補助事業 令和6年度介護のしごと魅力発信等事業(情報発信事業)

  1. トップ
  2. “自分らしく生きる”を支えるしごと
  3. 多世代が一緒に過ごすことで生まれる安心とは?「深川えんみち」をたずねて

「ただいまー!」「おかえりー!」

高齢者たちが過ごす1階の真ん中を、ランドセルを背負った子どもたちが駆け抜けていく。ニコニコと手を振るおばあちゃんもいれば、何も気にせずに作業を続けるおじいちゃんもいる。子どもたちも各々の気分があるようで、廊下に併設されている本棚に立ち寄る子、ささっと早足でおしゃべりしながら通りすぎる子。施設のなかに秋のカラフルな葉っぱのような、にぎやかな風がサッと通っていった。

ここに、日によっては赤ちゃん連れのお母さんや、会社帰りのサラリーマンが加わるらしい。なんとも“ごちゃまぜ”。これが、東京都江東区に2024年4月にオープンした、複合型福祉施設「深川えんみち」だ。1階に高齢者デイサービス、2階に学童保育クラブ、子育てひろばが併設されている。

深川えんみちのウェブサイトには、「誰もが安心できる居場所になることを目指しています」とある。普段はなかなか交わることのない多様な世代がひとつ屋根の下で過ごすことが、なぜ「安心できる居場所」につながるのだろうか。

木枯らしが吹き始めた秋の日に、深川えんみちを訪れた。

一つの建物にたくさんの人と居場所

門前仲町から徒歩3分ほどの深川公園を通り過ぎると、可愛らしい暖簾のかかった建物が見えてきた。北に「お不動様」として親しまれる深川不動堂、東に「八幡様」と呼ばれる富岡八幡宮があり、その二つを結ぶ道沿いに深川えんみちはある。正月や縁日には多くの屋台で賑わう道には、自転車で走り抜ける高校生もいれば、下町を楽しむ外国人観光客の姿もある。

早速、ガラス張りのドアを開けて中に入ると、暖かさにふっと力が抜けた。ちょうどお昼時だったので、和食のいい匂いがする。

1階は、高齢者が過ごす「深川愛の園デイサービス」。現在、約80人の方が利用している。突然入っていったにもかかわらず、利用者の方々もスタッフのみなさんも、いい意味でこちらを気にしていない感覚があった。

【写真】「えんみち文庫」と呼ばれる本棚と、デイサービスの空間の間に1本の道が通っている。
ドアの正面に、まっすぐと建物の反対側まで続く“道”がある。「えんみち」という施設の名前は、縁が呼び込まれ、つながっていく道を表現したオリジナルのネーミングだ。この道を挟んで、左側が地域の方々と作る図書館「エンミチ文庫」、右側が利用者のスペース
【写真】椅子に座って思い思いに過ごす方々
さらに奥へ進むと利用者の方々が過ごせる部屋や、各自が自由に使えるソファや座敷、お風呂などがある

道の先にある反対側のドアから外に出ると、小さな縁側とかまどがあった。日の当たる場所でスタッフと数人の利用者が体操する姿が、気持ち良さそうだ。ここで定期的にキャッチボールをするおじいちゃんもいるとのこと。

まずは、2階の「ライト学童保育クラブ」で関係者のみなさんにお話を伺うことにした。外階段を上がって、子どもたちが過ごす学童にお邪魔する。

ちなみに、今回の記事は登場人物がたくさんいる。まず、1階の「深川愛の園デイサービス」を運営する「深川愛の園」施設長の小久保佳彦さんと、管理者として働く岩﨑美恵子さん。2階の「ライト学童保育クラブ」を運営する、NPO法人「地域で育つ元気な子」代表の押切道子さん。同じく2階で学童の子どもたちがいない時間帯を利用して、子育てひろば「ころころ」を運営する竹内陽子さん。そして、深川えんみちの設計を担当した建築家の長谷川駿さんだ。

みなさんと一緒に円卓を囲む。最初、小久保さんに深川えんみちについてお話を伺いたいとお伝えしたところ、「それなら、みんなで」とおっしゃっていただき、さまざまな立場のみなさんにご参加いただけることとなった。そして、お話を伺っていくうちに、小久保さんが「みんなで」と言った意味が、少しずつ見えてきたのだった。

【写真】円卓のテーブルを囲いながらおしゃべりをするみなさん
左から、デイサービス管理者の岩﨑さん。子育てひろば「ころころ」の竹内さん。「深川愛の園」施設長の小久保さん。学童代表の押切さん。建築家の長谷川さん。普段は子育てひろばや学童として使われている、光のたくさん入るスペースで。大きな円卓はパズルのようにバラけさせることもでき、使い勝手が良さそうな印象

もっと町に近い、ひらかれた場所へ

もともと、デイサービスと学童と子育てひろばは、深川えんみちからほど近い江東区冬木にある「まこと地域総合センター」から移転してきたのだと小久保さんが説明してくれた。まこと地域総合センターは、長年地域で活動してきた、宗教法人聖救主教会が運営する教会と幼稚園、聖救主福祉会が運営する保育園、子育てひろば、高齢者複合施設デイサービス、さらにNPO法人 地域で育つ元気な子が運営する学童をひとつのビルにまとめた施設だ。当時から、多世代が近くにいることの良さを感じていたのだという。

【写真】インタビューの応えるこくぼさん
「深川愛の園」施設長の小久保佳彦さん。穏やかな口調でお話しされる一方、子どもたちには誰よりも大きな声で「おかえりー!」と言っている姿が印象的だった

デイサービスは、やはり静か。下の階から子どもたちの声が聞こえてくるのは、高齢者の方々にとっても刺激になっていると感じていました。それも、笑い声だけじゃなくて、叫び声とか泣き声とかね。(深川愛の園・小久保さん)

ただ、入口も違えば活動するフロアも違うそれぞれの団体は、子どもが高齢者を訪ねるたまの“交流の日”を除けば、触れ合うことはほとんどなかったとそれぞれが振り返る。

子どもは基本的に自分たちのことしか見えてないから、同じ建物にいると言っても直接の接点がないと“自分の生活圏”のなかには入っていなかったと思いますね。コロナやインフルエンザで会えなくなっても、今のように「なんで?」とはならなかったです。(ライト学童保育クラブ・押切さん)

【写真】インタビューに応えるおしきりさん
「ライト学童保育クラブ」を運営する、NPO法人「地域で育つ元気な子」代表の押切道子さん。子どもたちを無人島キャンプに連れて行ったり、田植えをしたりなど、積極的に体験の機会を作っている

2020年、建物の老朽化により保育園の移転先を探すこととなり、押切さんが見つけてきたのが現在の建物だ。1976年に幼稚園として建てられ、1994年からは斎場として使われてきた場所。面積の関係で保育園の移転は難しくなったが、町に馴染んだ立地や建物の造りから、今度はデイサービスの移転先として採用された。2階を共有できる相手として、学童と子育てひろばも一緒に移転することとなった。

学童を移転するのは、徒歩で通う子どもたちやその保護者にも大きな影響がある。実際に通うことができなくなった児童もいるなかで、押切さんが移転を決めたのはなぜだったのか。

教育的・福祉的な観点から見て、今までよりも濃い経験をさせてあげられるんじゃないかと思ったからですね。今の教育現場で“多様性”とはまだまだ名ばかりで、子どもたちはあまりにも狭い世界で育っています。町に開かれたこの場所なら、学童を通して子どもたちになにか提供できる可能性があるんじゃないか、と。(押切さん)

斎場だった建物を、多世代が過ごす福祉施設へ。そこで、もともと押切さんの知り合いだった建築家、長谷川さんに白羽の矢が立った。

道でつながる不思議な建物

【写真】インタビューに応えるはせがわさん
子どもが過ごす施設のほか、共同住宅やシェアスペースなどの設計を手がける建築設計事務所「JAMZA」の建築家、長谷川駿さん。施設の方々と楽しそうにお話しする様子から、プロジェクトメンバーのひとりとして一緒に深川えんみちを作り上げてきたことが伝わってくる

観光客と地域住民が混ざり合う場所に、福祉施設ができること自体にワクワクしました。この町そのものを施設の中に引き込むことができたら、もうそれだけで十分じゃないかと考えたんですね。(建築家・長谷川さん)

初回の打ち合わせから、長谷川さんは「“道”を通しましょう」と提案した。人々が生活する商店街、観光客がワクワクする参道、縁日の屋台でにぎわう道。深川の町にある道を、ここへつなごう、と。

【写真】深川えんみちの入り口の前に、ランドセルを背負った小学生がふたり。中に入ろうとしている
斎場のときにあったシャッターを取り払い、大きな窓とガラス張りのドアに。学校帰りの子どもたちを受け入れ、町の人たちを引き込む道へとつながっている
【写真】水色のランドセルを背負った小学生が道を通り抜けている
建物の反対側まで続く道で行き止まり感をなくすことで、目的がなくてもなんとなく入ってみたくなる路地のような印象に
【写真】外階段の手すりを掴みながら、学童へ向かっていくこどもたち
外階段をつけることで、子どもたちが施設内を突っ切って学童に向かう導線や靴置き場を確保。縁側や踊り場で人々が偶然に顔を合わせる機会を生み出した

福祉施設として最低限必要な部分を抑えつつ、福祉施設っぽさを作らない。“なにかわからない”からこそ、人は自分の居場所として関わりたくなると思うんです。(長谷川さん)

オープンから7ヶ月。期待通りのごちゃまぜが起きていますか? と聞くと、全員が「想像以上」と笑った。

お互いの個性や人柄もわかるようになってきましたよね。建物の造りがお家みたいだから、過ごし方も自然と家族のようになってきた気がします。(子育てひろばころころ・竹内さん)

たしかに「ただいま!」と入ってくる子どもたちは、リビングを通りながら2階の子ども部屋に上がっていくようにも見える。「おかえり〜」と言いながら顔を上げないおじいちゃんの雰囲気も、まさに家族のようだったなと思い出す。子どもたちが自由時間に下に降りて本を読んだり勉強をしたり、デイサービスの利用者とおしゃべりする光景も珍しくないという。

みんなで流しそうめんをしたり、学童の親子を招いてピザパーティーもしてみました。人の交流とともに施設の使い方もごちゃまぜになってきましたけど、ここに来れば“何かができそう”という可能性を感じていますね。使い方でいかようにもなりそうな感じ。(押切さん)

【写真】アースオーブンと呼ばれている窯
身の回りにある天然資材で手づくりする「アースオーブン」を、窯クリエーターのクドウシュウジさんと共にみんなで作り上げた。富岡八幡宮のお社の建替えで出た敷石や、移転時の段ボールなどを活用している。今では、元材木屋だったおじいちゃんの定位置にもなっているそう
【写真】プランターが5つ並んでいる
屋上では大きなプランターで藍を育てていた。みんなで収穫し、先日は子育てひろばを訪れた保育科の学生と高齢者で種取りをしたという。このプランターや屋上の床タイルなどは、学童の保護者に呼びかけてみんなで作ったもの

大人と出会う場所、エンミチ文庫

それぞれの利用者同士がすっかり“ごちゃまぜ”になっているところに、「町の人たち」が加わっているのも深川えんみちの特徴だ。一役買っているのが、道の壁面に作られた「エンミチ文庫」の存在である。

【写真】エンミチ文庫と呼ばれる本棚に、たくさんの本が置かれている
一箱本棚オーナー制度を取り入れた私設図書館「みんとしょ」の仕組みを使ったエンミチ文庫。月額2,000円で一箱本棚オーナーになることができ、本棚の一角に自分の好きな本を置くことができる。500円で会員になれば、誰でもその本を読んだり借りたりできる仕組みだ

「自分たちで図書館を作って居場所にしよう」という考え方そのものが、すごく民主的じゃないですか。受け身なサービスが多い世の中で、これに関わってくれる人たちってやっぱり面白い人が多いんですよね。(押切さん)

日中は高齢者の方々が過ごしている1階のスペースで、夕方には会社帰りの人が漫画を積み上げて読んでいることもある。エンミチ文庫の利用者だけのスペースは特になく、時間帯や利用者の居場所によって、町の人たちが施設内のどこかしらに溶け込んでいく。

最初はただ本棚にするつもりだったところに仕組みを取り入れたので、私設図書館としては完全ではないんですけど。使えるスペースに限りがある、ある種の不便さみたいなものがお互いの距離を近づけていると思うんです。新築していたら、もっと大きな建物になって、ここまでの関係性は生まれなかったのかもしれません。(長谷川さん)

町の人々にとっては、自分の趣味を共有したり、地域と関わったりするきっかけになるエンミチ文庫。今はデイサービスや学童に関わりのない独身の人や社会人でも、深川えんみちに足を踏み入れてくれる。妊娠がわかった本棚オーナーさんが子育てひろばに遊びに来て、みんなで出産を楽しみに待つ、などのつながりも生まれているそうだ。

【写真】さまざまな本の背表紙。お魚文庫と書かれたポップも飾られている
なかには魚や車などの趣味に特化した本棚を持つオーナーもいる。興味を持っている子どもたちと、「こんな本もあるんだよ」「今度持ってくるから読んでみて」と共通の話題が見つかることもある

学校の先生でも親でもない大人と共通の趣味で盛り上がれるのは、子どもたちにとってすごくいいことだと思いますね。東京では特に「話しかけないのが礼儀」なところがあるから、子どもたちはこの場所で初めてそういう経験をしていると思います。今はわからなくても、「あそこはすごい場所だったんだ」といつか思ってくれると信じています。(押切さん)

町の大人たちが、自ら自分たちの“テリトリー”に入ってきてくれる。その関わりしろは、家と学校だけの狭い世界で生きる子どもたちにとって貴重だと、押切さんは続ける。子どもが過ごす施設は、安全のために高く厚い壁で覆われることも多い。壁を取り、扉を開いた深川えんみちで過ごした子どもたちが、どんな大人になるのか今から楽しみだと話した。

【写真】深川えんみちの入り口そばで雑談するおしきりさん、はせがわさん
撮影中、目の前の道を学童の卒業生が通りがかった。押切さんが呼び止めて、屋上でお昼を食べていた学童のスタッフに知らせている場面。「お〜!久しぶり!遊びに来なよ!」と大声でやりとりする様子がほほえましかった

それぞれの「安心」を育むには

安心のために壁で覆われるのは、子どもが過ごす施設に限ったことではない。高齢者向けデイサービスも多くのリスクを抱えながら慎重に運営されている場所のひとつ。安全のために配慮が必要な高齢者と子どもが交わるからこその難しさはないのだろうか。

デイサービスとして20年ほど単体でやってきた歴史がありますから、やっぱり慎重になることも多いです。最初は子どもたちが自由に行き来することへの戸惑いや、デイサービスの職員がどこまで関わっていいんだろうという慣れなさもあって。ただ、このメンバーと話していると後ろ向きな意見はなくて、もっとこうしてみよう」と可能性を探れるので楽しいです。(深川愛の園デイサービス・岩﨑さん)

【写真】インタビューに応えるいわさきさん
深川愛の園デイサービスで管理者をつとめる岩﨑さん。移転によって大きく環境が変わった19名のスタッフに向き合いながら、自身も子どもたちや地域の人々との交流を楽しんでいる

深川えんみちを作る際、「1階の施錠をどうするか」はみんなで議論したと小久保さん。利用者がひとり歩きで外に出たときの事故のリスクなどを考え、テンキー錠やセンサーなどを設置することも考えたという。しかし話し合いの末、防犯用のカメラのみ設置し、誰もが入れるようにドアは施錠せず、センサーも設置しないことにした。

最後は覚悟を決めて、「人の目で安全が保たれる場所にしよう」と吹っ切ったんです。誰かが出て行っちゃったら「おじいちゃんが出て行っちゃったよ」と教えてくれる人が近くにたくさんいたらいいよね、と。結果的に今、関係者みなさんの協力のおかげでごちゃまぜになって人の目が多くなったので、期待した環境に近づいていると思います。(小久保さん)

【写真】階段下のスペースを通って移動するスタッフ
階段下のスペースは子どもも大人もわくわくするトンネルに。高齢者のみなさんが回遊する通路にもなっている
【写真】人がいない浴室。やわらかな明かりが灯っている
2つある浴室は、リラックス効果の高い青森ヒバと十和田石で作られ、高齢者とスタッフが1対1でゆっくりと向き合う場所にもなっている。施設を作る際は介護アドバイザー・青山幸広氏の助言も受け、リスクを考えて何もさせないのではなく、「できる限り自分で入る環境を整える」という視点で介助することにしたそう
【写真】紺色のソファ、4人は楽々に座れるぐらいの広さ
オープンスペースのなかにも小部屋のような安心感がある「かまくらソファ」。できて早々に、ある高齢者の“定位置”として腰を落ち着ける場所になっている

また、多くの人が場所を共有する場で喧嘩やトラブルなども起こらないのかが気になった。聞くと、全員が「うーん」と首を傾げる。

そんなにないですね。最初は子どもたちが走り回って高齢者にぶつかったら……とか考えていたんですけど、彼らも「この人たちに何かあったらまずい」というのはわかるみたい。1階で作業する場所を探していると、おばあちゃんが「ここに座っていいよ」と席を空けてくれることも多いんです。場所を共有するって、取り合いじゃなくて譲り合いなんだな、と感じています。(押切さん)

近年、特にコロナ禍などでは「安心・安全」のために強固な壁を作り、コミュニケーションや対話をなくしてきた。深川えんみちで起こっている「安心」は、人と人が一緒に過ごし、お互いが心地よく過ごせる術を考えることで成り立っているのかもしれない。

【写真】波打つことで、掴みやすくなっている階段の手すり
少し幅の狭い階段と大きな踊り場は、「お先にどうぞ」「ありがとう」の“譲り合い”のコミュニケーションが自然と生まれる設計
【写真】外階段下に置かれている備品や遊具たち
車椅子と子ども用ワゴン、学童の子どもたちが使う遊び道具が一緒に置かれていた

自分たちの未来が見える場所

子どもたちは、家でもデイサービスの利用者さんの話をするみたいです。なんか怒ってるおじいちゃんがいるんだよとか、ずっと同じ話をしてくるけどとりあえず話は聞いてるとか。そういうところから、いつか人間って“そうなっていく”んだと感じ取ってもらえていたらと思いますよね。(押切さん)

「人間はそうなっていくんだ」。この言葉に、全員が「本当にそう」と実感をともなって頷く場面があった。

かつては、家族や親戚、近所にもお年寄りがたくさんいて、亡くなるとお葬式があった。人間が老いて、弱くなる中でもできることがあって、最終的には草木が枯れるように亡くなる。そういうことが自然と感覚のなかに入ってきていたと思うんです。今、核家族化が進み、高齢者との接点がない子どもたちにも「死」やそこに向かって生きることを考えてほしい。今はわからなくても、いつかそれを感じてくれたなら、子どもとお年寄りが一緒にいる意味が出てくるように感じますね。(小久保さん)

赤ちゃんからお年寄りまで多世代がともに過ごすというのは、みんな必然的に自分より“先の人生を生きる人”に出会えるということだ。子どもは親よりも「しわしわ」な手を触ってなにかを感じ取り、子育てひろばに参加する親は見かけた小学生に未来の我が子を重ねる。

昨日、子どもたちが小学校の校歌を歌っているときに、職員が一緒に歌い出したんです。「おじさん、なんで知ってるの?!」「おじさんも卒業したんだよ〜」というやりとりが生まれていいなって。(岩﨑さん)

【写真】雑談しているいわさきさん、たけうちさん、こくぼさん、
多世代間のやりとりのエピソードが出るたびに、みんなが「いいよね〜」「あれは面白かった」と笑い合う。同じ価値観を持ったさまざまな立場の人たちが、パズルピースのように合わさって深川えんみちはできている

先日は、生後半年の赤ちゃんと104歳のおばあちゃんが握手する機会があったそう。103.5歳差の握手で、本人だけでなく周りまでエネルギーをもらったと竹内さんは話す。子育てひろばを訪れる親のなかには、自分の親の介護を意識し始める人もいるという。この場所で自然と高齢者の方々と触れ合うことで、自分や家族の未来を想像できるのも、ある種の大きな「安心」になっていく。

まだ、混ざる。もっと、混ぜる。

お年寄りと話していると、“未来”が想像できるのと同時に“過去”を知ることもできる。認知症の症状があるおばあちゃんが何度も繰り返し話す東京大空襲の話を、ある子どもは学校の提出物にありありと書き上げた。また、「学校の授業で電車の歴史を調べていたら、あのおばあちゃんが言ってたとおりだった!」と子どもたちが報告してきたこともあるという。

先日、教会の司祭の話で「人間がいる場所で人間は学ぶ」という言葉を聞いて、感銘を受けました。いろいろな人がいる場所で、学校や教科書では学べないことまで学ぶ。それが人間力になっていくんですよね。深川えんみちがそういう場所になっていってくれることを願っています。(小久保さん)

最後に「深川えんみち」のこれからを聞くと、それぞれの頭のなかにはやりたいこと、できることが浮かんでいるようだった。押切さんは、小学生や高齢者が帰宅したあとの時間を活用し、中高生に向けた英語の学習支援を行なう準備を始めているという。

今はまだ所属がない人はここにやってこないので、場や関わりしろをもっと増やしたいですね。子どもも大人も、困っている人が「深川えんみちにくれば誰かいる」と頼られる場所になりたい。多様な人が集まっていれば、何かしらの形で助けられる人がいると思うので、“つなぎ屋”としてできることがあるんじゃないかなって。(押切さん)

普段の生活では交わることのない人も、ここには“ちゃんといる”ということ。それを知るだけで、人は誰かのために動きたいと思うんじゃないだろうか。まるで、イスから立ちあがろうとする家族の手を取るように。自分のそばにある醤油を食卓で手渡すように。

ここに来れば、誰かがいる。その安心感は、老若男女、年代を問わずにあるといい。さまざまな人の歩みが交差する、深川えんみちでこれから何が起こるのか。経歴も立場も違う5人の重なる視点を聞きながら、楽しみになった。


Series

連載:“自分らしく生きる”を支えるしごと