ナミビアの若者たちが作ったかるたを、世田谷にいるメンバーが読み解く | 旅するかるた 前編 いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞 　vol.16

「おーい。かるたの画像ありがとう！ すごいよ！！作ったのはどんなところなの？」

「ナミビアの首都ウィントフックから、北に250km離れたオチワロンゴ（Otjiwarongo）という町なんだけど、そこにフランスから移住して30年になる友人がいるんだ。

かるたづくりをやったのは、彼女の運営するカルチャーセンターで『ペリナワカルチュラルセンター』(※注2）っていうんだけど、『ペリナワ』という言葉には現地の挨拶でポジティブなメッセージが込められているんだ。

10代半ばから後半ぐらいの子たちが中心で、中にはちょっと20歳超えたぐらいの人たちもいたと思う。プログラムが毎週決まっていて、演劇をする人、音楽をやる人、ダンスする人、 絵を描く人、数学を勉強する人などがいる。 やってくる若者たちは地元の学校に行ってて、それが終わった後の午後3時から午後5時までの2時間で決まってるプログラムをみんなで行うんだ」

※注2ペリナワカルチュラルセンター（Peri Naua）ウェブサイトはこちら

「ふうん。そういうセンターが必要とされる背景はあるの？」

「ナミビアの社会について、確信をもって話すことは難しいんだけど人口比率のうえではヨーロッパにルーツをもつ人たちは少数なんだが、その人たちが国土の大半をコントロールしている感じなんだ。もちろんアパルトヘイト（※注3）はないけれど、その裕福な人たちと昔からその地に住んでいる人たちの格差は大きくて居住環境も生活水準も違うわけね」

※注3：南アフリカが1948年から1990年代初めまで実施した、法によって定められた人種隔離と差別の制度

「そうか。 だから、送ってもらったかるたの絵札にも、動物もいれば民族衣装もある一方で、かっこいい車や高いビルなど近代化された部分もあるんだね」

「そうなんだ。このペリナワカルチュラルセンターは比較的質素な生活をしている人たちの住む地域に、子どもや若者たちが行ける場所を作って、文化的な活動に対してのアクセシビリティが制限されてる人たちが無料で活動に参加できるような環境を作っているんだ」

「カルチュラルセンターの人たちは日本のかるたを受け入れてくれたのかな」

「毎週火曜日がアートの時間になっていて、その枠でかるたづくりをやらせてもらった。10人以上の若者たちが参加してくれたよ。

その準備っていうわけでもないけど、かるたづくりをする前にカルチュラルセンターに行って、彼らに日本のことをちょっと話したよ。彼らはアジアの東あたりは全部中国だと思ってたからね」

「そのあたりは多くの日本人がアフリカの国の区別がつかないのと同じかもね」

「うん。『日本はアジアの端っこにある島なんだよ 。ポケモン知ってる？ あれは日本のアニメなんだよ』って言うと驚くみたいだ。ポケモンは本当にユニバーサルランゲージだね。ピカチュー！って言えば、おお！知ってる知ってるって反応がある。日本って世界ではポケモンの国なんだね。

かるたづくりなんだけど、そんなふうに日本の紹介をして、その後、2回ぐらいに分けたかな。そのあと箱の色付けをしてもらった」

「僕らがやっている『幻聴妄想かるた』は、ハーモニーの人たちの日常生活に根ざしたことをテーマにしているけど、ペリナワカルチュラルセンターの人たちの場合はどんなテーマにしたの」

「『これを作ったらオレが日本に持って帰って友人たちとこのかるたで遊ぶんだよ。これで遊んだらナミビアのことが なんとなく分かる感じにしたいんだよ』って伝えたんだ。だからストーリーを作るときにはできたらナミビアの文化や自然を題材にしてみてねってお願いしたの」

「そうか、いいねえ。日本の友達にナミビアのことを教えてくれるかるた。そういえば、字札は英語で表現するとストーリー（story）なんだね」

「うん。最初、白い札にストーリーを書く。多分、一般的なナミビアの若い人の意識が、そのまま反映されてるような感じだよね。家庭の話とか個人的なストーリーも混じっているから そこも興味深いね。

その後、ストーリーの札を見ながら絵札を描いてもらったんだ。ポイントはストーリー札（字札）と絵札を描いた人が違うってことなんだ」

「面白いな。ストーリーを書いた人の思いが絵を描く人に引き継がれる感じがうれしいね。ハーモニーのかるたも語り手と絵札の書き手が異なっているのが普通だし、それによって豊かな表現の広がりが得られるんだ。送ってくれた画像の絵札の中で何枚かを説明してくれる？」

「そうだね。Nって字が書いてある札があるでしょ。それはきっと確か『Namibia is a smile of Africa』だよ。アフリカ大陸をじっと見ると、人の横顔みたいにみえてくるでしょ。黒く塗りつぶしたところがナミビアで、横顔の口のところみたいじゃない。それで口角があがっていて笑顔みたいってことを表現しているみたいだ」

「なるほど。言われてみると笑顔！。それってイタリア半島が長靴に似てるとか、日本の臍などに似た発想だね（笑）」

「もう一枚、雨の札ね。 本当に雨が少ない。 地域によって違うけれど本当に降らないんだ。 日本にいる俺らとは、感覚が全然違うんだと思うんだよね。降り始めると今まで乾燥していた 砂漠に川が生まれて、完全にドライだった砂地が緑に変わっていく。 だから喜びの象徴だと思うんだよ」

「それから、俺が一番最初に出したのが Everyday is Sunny Day みたいな例だったから、そのあたりで天候の主題だと描きやすかったのかもしれないね。俺にしてみれば、晴天は洗濯物がすぐ乾いてうれしいと思うけれど、『私は今日すごい 機嫌が悪い なぜなら 天気がいいから』ってストーリーに書いた人もいた。『毎日晴れててもうやってらんないよ』みたいな感覚もあるんだね」

「面白いなあ。一枚一枚にその地で生きる実感がこもってるんだ。全部聞いちゃうとハーモニーのメンバーの想像力を披露するチャンスがないので、送られた絵札の画像を元に我々もストーリーを考えて送るから、読んでくださいな」

「もちろん。たのしみだよ！！」

「テンギョーさんがナミビアのカルチャーセンターで作った『超・ナミビアかるた』の絵札の画像を数枚送ってくれました。それを見ながら、ハーモニー流に字札をつけてみようという企画です」

「えー、どういうこと。無理だよ」

「はい、無茶は承知の上で(笑)。日本から遠く離れたナミビアの若者たちのことを僕たちは何も知らないわけですが、『相手はどんな人たちなんだろうって、想像力を持って相手のことを考えてみる』って楽しいし、知らない者同士が親しくなるための大事なプロセスなんじゃないかと思うんですよ。

何より、これらの札は彼らが自分たちに住んでいる場所のことを僕らに伝えようと思って描いてくれたそうなので、見ているうちに何かのメッセージは伝わるんじゃないかな」

「はあ。でも、そんなことできる？」

「やってみましょう。われわれの過剰な想像力と妄想力があればできるかも。でも、予備知識があってもいいかなと思って、今月から参加しているインターンの福田さんに少しだけ調べてもらいました。

それから、みんなが出してくれたアイデアを最後に言葉としてまとめる役は、新しく入ったスタッフの久保田さんに頼むことにしました」

「よろしくお願いします！」

「よろしくお願いします！」

「おおお！助っ人！」

「こんにちは。突然ですが、昭和女子大学3年のインターンの福田です。ナミビアのことをちょっと調べてみました。

ナミビアはアフリカ大陸の最南端の国、南アフリカ共和国の北側にあります。南半球なので季節は日本と逆。雨季と乾季がありますが、全般的に日本より降水量が少なく、夏でも平均気温が25℃には達することがないようです」

「へえ！ 夏と冬が逆なのはオーストラリアと同じだね」

「これ、ナミビアの人たちが描いてくれた札の一枚なんだけど、黒いところがナミビア。右上にビョーンと伸びたところがある。これもナミビアの国の一部らしい」

「そうなんです。地図で見ると面積は少しだけど、伸びたところがあります」

「うん。きっと国土を分割するときに、何か政治的な経緯があったんだな」

「ビョーンと伸びたところ以外は、国と国との境目が定規で線を引いたみたいに直線なのも、旧植民地の名残かもしれないですね」

「ドイツや南アフリカの植民地でした。面積は日本の2.2倍で大きいのですが、人口は260万人弱。先ほど乾燥していると言いましたが、地域によっても気候が異なっています。ナミブ砂漠と呼ばれる砂漠地域。北部は亜熱帯気候。テンギョーさんがいたと思われるオチワロンゴ（Otjiwarongo）は少し雨量の多いステップ気候になります」

「ふうん」

「それでこの写真がテンギョーさんとかるたを作った若者たちです」

「テンギョーさん、先生みたいですね」

「先生だからね」

「ああ、ナミビアだから、ナミビアかるただ」

「DRG57さん、どうですか」

「ええ。かっこいいです」

「では、そろそろ、始まり始まり。ナミビアの若者たちが描いた札に、僕たちが言葉をつけてみます」

「そんな無茶な！」

「それでは、最初の一枚はこれです」

「クジャク？」

「ホロホロ鳥という鳥のように思います。ネットに写真がありました」

「（写真を見る）ああ、確かに」

「食べられるんですか？」

「うーん」

「東京でも赤羽で食べられるみたいですよ。検索したら出てきた」

「それにしても、こんなに大きいの……」

「シマウマより大きいのかな」

「ちょっと、調べます」

「歌があります。『ほろほろ鳥』って」

「どんな曲です？」

「題名じゃないんですよ。歌詞の中に」

「ええ？ 後で調べてみます」

「シマウマもいますよ」

「ホロホロ鳥が追いかけてる」

「この二人は仲良しなのかしら」

「仲良しです」

「どんな話をしているのかな」

「待って待って。あそぼー」

「でも、シマウマはそっぽ向いてる」

「シマウマは逃げてる。ホロホロ鳥の性格ってどんな感じかな」

「おおらか」

「目が吊り上がってるけど。性格のよい鳥のような気もする。おおらかなホロホロ鳥さんとシマウマという設定にしましょうか」

「ちょっと待ってください。ネットによると、寒さに弱くて神経質で気難しいそうです」

「ちがうじゃん」

「ホロホロ鳥はイジワルってこと？」

「うーーん。イジワルってことにしてみようか」

「遊ぼうと追いかけるホロホロ鳥。でシマウマも忙しい」

「DRG57さんはどう？」

「ナミビアはね、あそこは、水がなくて大変ですよ」

「水を取り合うディープな話か。それが国土をめぐる争いに関係あるかも」

「人間も動物も水にみんな苦労してるんだね。うーん。水のことも加えよう。ちょっと話を戻していい？もともとはおおらかだけど、シマウマを追いかけてると」

「『また来た。また嫌な、あいつー』みたいな」

「シマウマは草食ってればいいけど、ホロホロ鳥は何食ってるの？」

「小動物」

「小動物食べないよ。木の実、木の実」

「小麦粉とかトウモロコシだそうです。虫とかも食べるみたいです」

「小動物も食べるよ」

「このホロホロ鳥は大きいし、シマウマ食べたいのかな」

「シマウマを食べる感じはないけど」

「翼を広げると150cmになるそうですよ。縦の身長は70cmくらい」

「ええ？ それにしてはこの絵のホロホロ鳥は大きいね。縮尺がわからなくなってきた」

「（煮詰まっている）」

「大きなホロホロ鳥は水で苦労したせいで難しい性格になってしまい、忙しいシマウマをつけ狙っている。そういうストーリーでよろしいですか？」

「良いんじゃない？」

「え？ ほんとにいいの？」

「いいんじゃない」

「じゃ、久保田さん、札にしてください」

「　（しばらく考えて）

『あ！またきた巨大ホロホロ鳥
　水に苦労してからシマウマを追いかける神経質な嫌な奴』

でおねがいします」

「よろしい」

「みんなに相談があります……」

「（口々に）なんですか？」

「ホロホロ鳥の札があったじゃないですか。小川さんが歌謡曲の歌詞に『ほろほろ鳥』が出てくると教えてくれました。あれは『旅の夜風』って言う曲でした」

（音楽流れる）

「知ってる、知ってる」

「ね。これを聴きましてですね、僕の中でのホロホロ鳥のイメージが変わったんです。ホロホロ鳥は泣いてくれるらしいんですよ。ひとり行く男の道を」

「『愛染かつら』という映画の曲ですね」

「さらに調べたらホロホロ鳥って言う童謡もあるんです。佐藤義美という『犬のおまわりさん』をつくった作詞家が、『ほろほろ鳥』という歌の作詩をしています。歌詞をミチコさんに朗読して欲しいんです」

「はい。（朗読）」

「拍手」

「というわけです。どうやらホロホロ鳥は『男のために泣く』だけでなく『まりをつく』。それどころか『母さん』かもしれない」

「新しい事実ですね」

「先週、私たちは、ホロホロ鳥はシマウマを追いかける神経質な嫌な奴と言っていましたが、ちょっとホロホロ鳥に申し訳ないかもと思いまして、ちょっと、考え直さないかとの提案です」

「やさしいホロホロ鳥」

「ハルさんが調べてくれたところによると赤羽で食べられるそうです」

「通販もやってますよ。ささみですって」

「いやいや、今日の話は食べる話じゃなくて……」

「でも、この絵を見ると気が強そうですが」

「でも『泣いてくれるなほろほろ鳥』ですよ」

「ホロホロ鳥、優しいかもしれませんね」

「なんだこの音？」

「エンジン音みたいですが」

「YouTubeで調べてみた。ホロホロ鳥の鳴き声だよ」

「やかましいよう」

「ホロホロ鳥は、この声で男のために泣くんですね」

「ふうん。案外、うるさい。泣かれるとつらいな」

「そうだね。ホロホロ鳥って、キジ科らしい」

「クジャクとかキジは飛ぶと思うけど……ホロホロ鳥はどうかな」

「（ググりつつ）飛ぶみたいですよ」

「多摩動物園で木のてっぺんにとまっている孔雀をみた。ホロホロ鳥とか七面鳥は飛べると思う」

「（ググりつつ）ホロホロ鳥のラーメンおいしいらしいですよ」

「食べる話にもどったなあ」

「おいしいホロホロ鳥」

「そろそろ、時間ですね。そもそも『花も嵐も踏み越えて行く男の道』というが何だかわからないんですが、それを言うとキリがないので、後は新人久保田さんにお任せします」

「それではまとめます。

『ほろほろほろほろ 泣いてくれるなホロホロ鳥よ ガチャガチャうるさい シマウマはムシ』

で、どうでしょう」

「シマウマを思ってホロホロ鳥はガチャガチャ泣いたけれどシマウマに無視されているという残念な情景ですね。ちょっと、シマウマにしつこくしすぎたのでしょうか」

「うー。泣いちゃったよ。うるせーのに」