それぞれのお墓事情から見えかくれするもの 私のお墓の前で〜♪ 後編 いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞 vol.07
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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。
「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただく連載です。
金ちゃんから始まったハーモニーのメンバーたちのお墓の話。前編ではそれぞれのお墓事情を聞きました。さらにメンバーたちの話は続きます。
それぞれの死生観
「はい。他にお墓のことを教えてくれる人はいますか?」
おしゃれなサイヤ人さんがやってきました。
「あ、それでね……」
「どうしたの、サイヤ人さん」
「それでなんですけどね。どうにもわからないんです。僕自身の死のイメージは『無』です。焼かれておしまい。信じてる宗教もないし。心霊番組もピンとこないし、生まれ変わると言われても信じられない。
それなのに、母におじいちゃんやおばあちゃんにお世話になったから墓参りに行きなさいと言われて、ハーイって行くわけです。矛盾してますかね」
「サイヤ人さん自身は、死後の世界はないと思っているのに、お墓参りに行って亡くなった人に語りかけるのは不思議だというわけですね。
同じように感じている人も多いかもしれない。そもそも死後の世界をどう考えるか。きっと人それぞれですね。どうしようかな。聞いてみようかな」
カメラ好きで議論好きのぷすけちゃんです。
「私はクリスチャンだから天国があると思っている」
トコちゃんは、お地蔵さん廻りを日課にしています。
「死んでも魂は残りますよ。100年はお墓に魂が宿るって話です。先祖の墓にもお参りするけれど、私の場合はお墓に行くと知らない人のお墓に呼ばれたりして、お参りしてくる。だから、お墓参りは大事よ」
「トコさん、お墓に呼ばれるの? さらっとすごいこと言ってますね」
「今度、ゆっくりお話ししますね」
トムさんは健脚でハーモニーに来る前にひと歩きしてきました。
「死は夢のない永い眠り、かな」
Eさんは、懇意にしてもらっているお寺さんとお約束をして、自分の亡きあとはお寺のお墓に引き取ってもらえる約束をしたと話してくれました。
「私はあの世はあるって思っています。あの世に還る(かえる)って言うでしょう。だから、きっとそこから来たんじゃないかな」
ミチコさんはご夫婦で暮らされています。実家は墓じまいされたとのこと。
「私自身はクリスチャンです。天国に行きたいと思います。天国にはだれでも行けるわけじゃないのです。人に尽くすとか嘘をつかなかったりする人が天国に行けます。
クリスチャンのお墓に入れると良いんですが、もし私が先に逝ってしまうと主人の方の仏式のお墓に入るかもしれませんが、それでも、クリスチャンなんです(笑)」
こまねずみさんと姫はご夫婦です。
「昔から神の根源は自然だと思っているので、阿弥陀やキリストなどの既存の宗教に帰依する感じはないのです。といっても『大自然に帰る』というのもどうかなあと思う」
「死んだら無になる。意識がなくなる。その後のことは考えてないね」
じゅんじさんも小岩さんも、上京して単身で暮らしています。
「死のイメージですか、うーん。私の場合、それが特にないのです」
「死んだらどうなるかわからないけれど、俺は頂点に立ってるから大丈夫だ。田中さんに聞いたけど、死んだらみんな天国に行くってのは嘘らしいよ。たー坊は何でも知っているね」
「ええ!
そんなこと言ったかなあ。先祖の墓にはお参りします。これ言うと入院になっちゃうとまずいんですけど……死んだら自分が膨張して空気中に充満する。空間と一つになるって言うとまずいですかね(笑)」
「田中さん、言っても大丈夫だと思いますが、診察室で大声で言うのは、お勧めしません」
田中さんは時々、神秘的な体験に遭遇します。
「やっぱり……昔、悟りを開いたことを先生に沢山、喋ったら、支離滅裂だと思われちゃって入院になったからなあ」
「みなさん、ありがとうございます。こんなに色々なお墓事情や死に対する考えがあるとは予想もしていなかったです。他にお話聞いてない人いますか?」
二つの骨壺
相次いでご両親を見送ったkagesanがやってきました。
「あのね。僕のところには、二つの骨壺があるんですよ」
「おとうさんとおかあさんですね」
「母が亡くなった時には最後の看取りがちゃんとできなかったんです(※注1)。コロナウイルスのせいで。
その前に亡くなった父の遺骨もまだ家にあって、お墓のことを決める前に母が調子悪くなっちゃったので、それで、二人分の骨壺がおいてあるんです。母の実家の墓には入れられないし、知り合いに紹介してもらったお墓はずいぶん遠いしコロナが終息するまでは納骨できないと言われたんですよ」
「それでお二人のお骨がお部屋のリビングボードにあるんですか」
「はい。最近、父と母がケンカしてる夢を見ちゃってね。生きてる頃から仲が良くなくって、二人とも死んでやっと静かになったかと思ったのにね(笑)。
そろそろ、お墓に入れてあげなくちゃまずいかなと思っているんですよ。それでね、墓石っていくらで買えるのか知りたいんですよ」
「自分でお墓を確保しようと」
「それで買ったんですよ」
「え?!」
「買ったんですよ。年末ジャンボ! 当たったら墓石を買おうと思って。はずれちゃったんですけど」
「残念! ゼロからお墓を手に入れるにはお金がかかりますねえ。墓石だけじゃないしねえ……。
考え方次第では、田中さんのところの樹木葬や小川さんのお宅のロッカーみたいなお墓など、従来のお墓とは違う形を考えてもいいですよね」
※注1 kagesanさんの母上の話は、こちらに書きました。
【超・幻聴妄想かるた、できました 新澤克憲】第12回 僕らはみんな生きている(その6) 緊急事態宣言の日々に
死んでも元気にしてますか?
「はーい、はーい!!」
最近、ハーモニーに参加したふみさんがやってきました。
「はい、お待たせしました。どうぞ」
「そもそも私にはお墓がないのよ。肉親もいないよ」
「なるほど。そうだったんですね」
「もし、自分が一人で倒れて死んじゃったら、だれかに見つけてもらいたい!
それで彼氏と一緒に埋めてもらいたい。でも、彼氏にも実家があるから難しいかなあ……それが駄目ならば、区役所の生活保護のところにお願いして、みんなといっしょのお墓がいい。お花いっぱいのね」
「仮に生活保護で身寄りがない一人暮らしの人が亡くなった場合は、役所が簡単な葬儀をあげます。
直葬と言って、僧侶による読経などはなくて火葬場でお別れする場合が多く、遺骨は親族などの引き取り手がなければ、葬儀屋さんのつながりのある霊園に埋葬されることが多いみたいです。合祀っていうのかな。皆、いっしょに祀られる」
「無縁仏だ、無縁仏!!」
「うーん、無縁仏っていろいろ意味があると思うんだけど、誰もお墓を管理する人がいなくなるのを無縁仏っていうならば、霊園が管理してくれるので大丈夫かも」
「ふみはみんなと一緒のお墓でいいよ。それで友達がお参りしてくれて『ふみ姫!死んでも元気にしてる〜?!』って声かけてくれるの。その時は新澤さんもお参りしてね。それが私の願いです」
「ええ!? 僕の方が年上だけど……それまで生きていられるように頑張ります(笑)」
粉希望です
ハーモニーで詩集を作る活動をしているマッサンが来ました。
「僕のうちもお墓がないんです。正確に言うとなくなっちゃったんですけどね」
「前はあったんですね」
「はい。母が亡くなった後、こちらの生活保護のお葬式でお見送りしました。我が家には、静岡のとある町に菩提寺があるんですけど、これからはそちらに行く事も少ないし、収入も少なくなるので管理のお金も難しいと話したら、住職さんにきついことをいろいろ言われました」
「それで、びっくりしたことになったんですよね」
「じゃ、僕の代から住職のところからは離れますと言ったら……」
「ダンボール箱に入って、菩提寺からお墓に納められていた父上を含めて3人分の人骨が送られてきたと。金の切れ目は縁の切れ目というか、唖然としました」
「そうそう。僕は怖くて見なかったんだけど、ヘルパーさんが箱をあけてくれて、骨が入っていてびっくりしていました」
「僕も見て驚きました。段ボール箱に一杯詰まっていた。
それで友人のツテを頼って散骨の業者の方を紹介してもらったんですよね。場所をいうと差しさわりがあるかもしれないんですが、広い海に散骨してもらいました」
「海に撒いたところの写真を見せてもらったり、撒いた人のお話を聞いたりして、よかったなと思いましたよ。そういうわけで、父は海に散骨して、母は茨城だっけ……」
「埼玉の熊谷でしょ」
「そうだった。そうだった。熊谷の霊園に納めてもらいました。亡くなった時には焼き場に金ちゃんと田中さんと新澤さんともう一人の友達と行って、5人でミッシェル・ポルナレフの音楽を流して、踊ってお見送りした。
そのあと、葬儀の時にお世話になった葬儀屋さんのツテで熊谷の霊園の共同コーナーに合祀してもらっています」
「ということは、マッサンさんご自身はお母さんと同じ霊園に埋葬されるのが希望ですか?」
「いや、それは希望していません。自分の後に身寄りがないわけだから。粉にして撒いてもらってもいいかと思うんですよ。
静岡が故郷なので、伊東か伊東の隣の宇佐美の海に撒いてもらえれば。宇佐美にいた時代は僕にとっては、大事な時だったんです」
「え? どこでも撒けるってわけじゃないらしいです」
「僕の卒業した小学校に木下杢太郎の記念碑があったんですね」
「木下杢太郎って?」
「伊東市出身の詩人ですよー。郷土の誇りです。知りませんか?」
「はい、知らなかった。勉強します……まさか、その木下さんの隣に撒いてくれと?」
「違いますよ(笑)。骨は宇佐美の沖に散骨してもらえるといいかなあ。その木下杢太郎の記念碑ほどじゃなくて、もうちょっと小さなレベルでいいから、マッサン記念碑をですね。
子供たちの遊んでいる伊東の小学校の校庭の隅にでも作ってもらって、そこに僕の書いた本なんかを埋めてもらうというのは、どうでしょう?」
「なるほど。いいかも、記念碑!」
「記念碑の裏には、僕の略歴とか入れてもらえるといいかなあ」
「強気に出ましたな。なかなか夢があっていいですねえ」
「そんなわけで散骨と記念碑、新澤さんお願いしますね」
なかなか浮世も大変です
「みなさん、おはなししてくれてありがとうございます。死とお墓の話、予想以上に大きな話になって驚いています。20人いれば20通りの考え方があることが興味深かったです。
このミーティングのキッカケになったのは金ちゃんのお墓参りでした。ご両親のお墓に行ったら『千の風になって』の歌が聞こえてきたという体験を話してくれました。
最後に金ちゃん。みなさんの話を聞いて、どうでしたか?」
「メモリアルみたいな感じで、一か所にお墓って言うのか、そういうのはあってもいいのかなって思いますけどね」
「拝みに行く場所って言うことですか?」
「そこにその人は居なくても、今はいない人を思い出す場所があるっていうのはいいのかなぁ」
「おお!金ちゃんも記念碑派みたいですね」
編集後記
いかがだったでしょうか。それぞれのお墓事情。
家族のお骨を抱えてこれからどうしようかと考え込んでいる人、コタツの上に骨箱を並べて宅墓にした人、ひとり身になって自分の人生の終着点について思いめぐらしている人。希望通りのお墓に入れるか心配している人もいれば、死後の埋葬の形には拘らず自分が生きていたことを友人たちに覚えておいてほしいと思う人もいます。
死生観や家族事情、経済事情が異なるなか、最適解もそれぞれによって異なるのが当然かもしれません。改めて死を考えることは、生きていることの証(あかし)であると感じます。
後編でとりあげた、ふみさんやマッサン、金ちゃんのように自分の生きた証を残したり、憶えておいてほしいという願いを持つ人たちがいます。彼らはとても眩しい。そういった願望を持てるということは、現在の生に肯定的な実感を持ち、さらに死後も繋がりを持ちたいと願う人間関係に恵まれている証であるようにも思えるからです。
また、表立っては言わないけれど、死は休息であり、むしろ忘れ去られたいという気持ちを漏らしてくれる人もいます。ここでは取り上げなかったそんな人たちが安らぎ、不安に怯えることのない明かりをハーモニーに灯し続けることも大事だと改めて思いました。
さて、お墓の話。単身生活の人が案じるのは、死後のことだけではありません。高齢になって医療や福祉サービスの利用や身の回りのこと、お金を含めた財産管理が自分の体力・判断力ではできなくなるのではという心配と死後のことは続いています。「後見制度」や「見守り支援」といった制度や支援の領域にもなりますが、ここでは内容には触れません。それぞれの地域により行政や社会福祉協議会などの公的な機関が相談を受けていたり、民間団体でも成年後見センター、権利擁護センターという名称で活動しているところがあるので、関心のある方は問い合わせてみてください。
「死後事務委託契約」というものもあるよと社会福祉協議会で終活相談を行っている友人が教えてくれました。
法人や個人との委任契約なので、頼みたいことを織り込めます。葬儀、火葬、収骨、納骨、未払金の精算・支払い、未受領金の受領、賃貸住宅の退去手続き、家財品の処分、親族への通知・連絡のするしない、連絡調整などなど細かく自分の意志を反映可能です。費用が発生することもあり、気軽にというわけにはいかないけれど。
「任意後見」とセットで利用されることの多い「死後事務委託契約」ですが、単独でも契約は可能とのことです。
行政が積極的にやっている取り組みの中では、横須賀市の試みが興味深いです。役所が仲立ちとなって困窮者のために葬儀・埋葬を含めた生前契約を結ぶ「エンディングプラン・サポート事業 ※注2」です。
※注2:タウンニュースでも事業について解説が書かれています。
ちょっとだけ支援者向けの言い方になりますが、現状の障害福祉のシステムは、当然ながら生きていることが前提になっていて、その人が地域で生きていくための支援計画の中に死のことは盛り込みにくいとも言えます。
しかし、当事者本人が意思を持っていたり、誰かに将来のことを託していたとしても、支援チームの中で共有されないことには意味がありません。行政も民間も支援機関の担当者が変わってしまうと情報が引き継げないのでは大変です。それを引き継いでいけるように、支援計画のなかに、死後の本人の意思を取り込み、それが途切れないようにしておく発想があればいいと思いました。いきなり後見制度に行くのではなく、まず、ご本人の気持ちを支援チームが知っているというのは大事だろうと思います。
ただ、その際、リビング・ウィル(人生の最終段階における医療・ケアについての生前の意思表明)を含めて、自己責任を強調するような意思表示を求めることは戒めたいと思います。極めてデリケートな問題であって、当事者-支援者の力関係が偏っている場合には、当事者に「言わせてしまう」「決めさせてしまう」という落とし穴があることには自覚的でありたいです。
それから、自衛といっては大袈裟ですが、生活保護受給中の当事者たちは自分が死んでしまった時に連絡を取ってほしい人や機関があれば、連絡先をケースワーカーが替わるたびに伝えおくのがいいかもしれません。
前編・後編と2回にわたってお送りしたハーモニーの人々のお墓話はこれでおしまいです。差しあたって私(新澤)は、リビングボードの上の母親の骨壺をどうするか思案しつつ、校庭の隅で夕日に輝く「マッサン記念碑」の夢を見ることにします。
それにしてもマッサン、大きな宿題をくれました(笑)
<おわり>
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