ナミビアの若者たちが作ったかるたを、世田谷にいるメンバーが読み解く | 旅するかるた 後編 いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞 vol.17
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ふしぎな声が聞こえたり、譲れない確信があったり、気持ちがふさぎ込んだり。様々な心の不調や日々の生活に苦労している人たちの集いの場。制度の上では就労継続支援B型事業所「ハーモニー」。「ハーモニーの日々新聞」と題し、そこに関わる人の日常・出来事をよもやま記していただく連載です。
前回、ハーモニーメンバーと親交が深いテンギョー・クラさんが、滞在していたナミビアのオチワロンゴで若者たちと「かるた」作りを実施。その様子を教えていただき、実際に作ったかるたをハーモニーメンバーで読み解きました。引き続き、「超・ナミビアかるた」を読み解く様子をお届けします。(編集部 垣花)
「超・ナミビアかるた」の後編です。ある月曜日のことです。ホワイトボードに貼ってあるナミビアから送られた札の写真を見ながら、メンバーとスタッフが話しています。
「松沢病院に蛇が出たよ」
「どこどこどこに出たの」
「エントランスの横で」
「えー通院の時に通るのに」
「太くて大きな奴。あれ? この人、テンギョーさんかな」
「指突き出してるね」
「蛇を指さしてる」
「じゃんけん?」
「赤い帽子がお似合い」
「ふうん。そうか、これが松沢病院の蛇なの?」
「こんなんだったよ。松沢で出た蛇も。カッコイイよね、テンギョーさん」
「ハンサムよね」
ハーモニー 再びナミビアかるたを読み解く
前回に引き続き、ナミビアの若者たちの書いた絵札にわれわれの過剰な想像力と妄想力で言葉をつけるミーティングの様子をお伝えします。
ハーモニーの友人であるテンギョー・クラさんがナミビアのオチワロンゴ(Otjiwarongo)のカルチュラルスクールで若者たちとかるたづくりのワークショップを行い、彼らが描いてくれた絵札の画像を送ってくれました。なので、ハーモニーのメンバーたちが文字札を想像しながらつけてみるのです。のちほど、テンギョーさんに種明かしをしてもらいましょう。
二人は人気者
「これはやっぱり、ふたつの民族のことを表しているのかなと思うんです。左はヘレロ族(Herero)、右はダマラ族(Damara)」
「福田さんのリサーチ力!すばらしいです。ナミビアは、どんな歴史を持った国なんだろう」
「1988年に誕生した結構新しい国だそうです。最初はドイツの植民地、それから南アフリカ共和国に統治されていました」
「30年前に独立したんだ。色んな民族が共存しているんですね」
「はい」
「ダマラはヘレロのほうに手を伸ばしている感じがしますね。仲良くしようぜ、なのかな? お前あっち行けなのかな?」
「本当だ。手を伸ばしてる。両方女性ですか?」
「女の子っぽい」
「この二人は仲良しの設定でいいのかな」
「ねぇねぇそろそろお茶しない?」
「(ネットの写真を見ながら)右から、この人がダマラ族。次がオヴァンボ族、これがヘレロ族」
「描いた人はオヴァンボ族なのかな」
「人口の割合で言うと、オヴァンボ族が50%、ヘレロ族が7%、ダマラ族が7%だそうです」
「手をつないでいますね。仲良しですね。親友ですよ。小さい頃からの親友ですよ」
「小さい頃からの親友です」
「二人でお茶しましょう」
「私たち親友よ、お茶しない?」
「ああだめだ!! 遠い国の人でありながら、俺には、女性一般に対する恐怖感があって言葉が出ない」
「ちょっと、ちょっと。冷静に(笑)」
「右下にCって書いてありますよ」
「Cだ! Cって何だろう?」
「キュート?」
「キャー久しぶり お茶しない」
「この国の宗教はなんですか?」
「キリスト教かな」
「やっぱり。そこは強調しなくて良い? どうなんですかね。」
「クリスチャンのCですか? 少数民族の人もキリスト教なのかはわかりますか?」
「そこまではわからないです」
「キャー久しぶりだよのC」
「二人とも何歳くらいの設定にしようか?」
「若い。10代。バリバリおしゃれしてる」
「まつ毛が立ち上がってる。バリバリおしゃれしてるよね」
「民族衣装ってどういう感じなんでしょう?」
「ね。普段から着ているのか、おしゃれの時に着ているのか」
「何歳くらいに見えますかね」
「40歳くらい」
「えー?!」
「16歳」
「若くなった」
「私も16歳17歳」
「ああ、発言に容赦がない年齢だ!」
「まだ、恐怖にとりつかれてますね。確かにおじさんには手ごわい年齢ですね」
「16歳の女子の発言の怖さって、考えるだけで恐ろしい。あんまり考えたくない。考えたくない」
「そこまで自分に引き寄せなくて良いですよ。けど確かにわかる。16歳のクールな眼差しは怖いよ。この絵を見て、この二人の関係はどんな感じだと思いますか?」
「うーんと。とりあえず高校生、コギャル」
「コギャルですか」
「高校生」
「コギャルダマラ。手をつないで子供の頃から親友。おしゃれな16歳。コギャル」
「ヘレロ族の衣装ですが、帽子が横にすごく長いんですけど、牛がモチーフなんだそうです。牛の角ですかね」
「おお!これは帽子なのか。そして牛の角!」
「衣装はドイツに支配されているときに作られたみたいです」
「へぇー」
「君は牛みたいにかわいいね、って言うのかな?」
「きゃーすてきー」
「牛みたいー」
「なんか、その言い方かわいくないです……」
「すみません。あきらめます。コギャルでいきますか。マッサンの発言ですけど、コギャルは良い印象ですか?」
「そうですね。高校生くらい」
「被っている帽子は牛を表しているしたら、牛はどういう意味かな」
「(ググりつつ)ネットには書いてないですね」
「生きていくうえで重要な生き物。牛の身近さが日本とはちがう」
「民族衣装は冠婚葬祭で着ることが多いようですが、年配の方はいつも着ているようです」
「コギャルは何かあるときしか着ない。パーティかな?」
「コギャルは成人式にでたのかな?それで久しぶりーって」
「そうそう。成人式で会ったの。キャー久しぶり。何やってたー。全然会わなかったじゃん。もう、大人だからこのあと飲みにいかない?」
「牛は神聖なんですか?」
「インドとかは神聖な動物として食べないですね。インドのカレーにビーフはないです」
「ナミビアは肉の国で、牛も食べるそうです。ダチョウも食べるって書いてあります」
「昔、気になって、シマウマは食べられるのか調べた。ほぼおいしくないって図鑑に書いてあった」
「気になるポイントが何ともこまねずみさんっぽいです(笑)。袋小路犬太郎さんどうですか?」
「キラキラした感じがしますね」
「二人は人気者」
「ビートルズっぽいですね(笑)」
「かしまし娘」
「絵のタッチが少女漫画みたいです」
「発言に容赦がない年代ですね」
「発言に容赦がない(笑)」
「われわれだけみたい。そこに引っかかってるのは」
「(笑)」
「じゃ、新人久保田さん、あとはよろしく」
「すごいな 無茶ぶり」
「『コギャルのヘレロとコギャルのダマラ 二人は人気者 かしまし娘の帽子は素敵 牛みたい』これでいかがでしょうか?」
「はい、きっと完璧です」
ILove Carだぜ ビュン×3
「今度はこちら。BMWって書いてありますね。こんな感じのビルがあってもおかしくないんですね」
「フランスみたい」
「上の記号はLなのかな? Kagesanは、どっちが前だと思います?」
「右側です。ワイパーが出ています」
「下にあるのは草ですかね」
「草とビルの間をBMWで疾走しているんですね」
「どこまででも行くぜー」
「向こうでも箱乗りするのかなぁ」
「するよきっと。ゼロヨンとかするの」
「BMWで暴走族っているのかな」
「いいえ!暴走しません」
「なんと!ミチコさん、確信があるんですね」
「私、乗ってましたから」
「BMWの前に広がっているのは畑? 田んぼ? この整然とした草はなに?」
「芝生かもしれないですね?」
「謎が増す」
「いい気分。BMWでびゅんびゅびゅん」
「草とビルとBMWと。自然と近代的なものが共存していますね」
「ビルはどこにでもあるんですかね」
「わかんないですね うーん」
「あぜ道走るぜBMW」
「そうか!あぜ道だ」
「舗装されたあぜ道なんだ、これ。畑の間の道を走ってるんだ。じゃ、久保田さんまとめておいてください」
「はい。それでは。いい気分 BMWビュン×3ILove Carだぜ ビュン×3いけ! 自然と近代 あぜ道走るぜ でどうでしょう」
「いいんじゃない!」
テンギョー、ふたたび
ハーモニーでの「超ナミビアかるた」を解読した翌週のこと。すでにヨーロッパに移動していたテンギョーさんとZoomで話しました。
「久しぶり!みんなのミーティング記録を読んでもらえました?」
「めちゃめちゃうけたよ。もうこれでいいよ」
「いやいやいや。そうはいかないよ」
「ハーモニーっておもしろい。ほんと」
「褒めてもらってうれしいよ。ハーモニーはいつもと同じ。通常運転なんだけどね。でも、少し種明かししてもらわないと、僕としても居心地悪いし」
「あはは。いいよ。まず言っとくね、蛇の奴、俺じゃないから」
「ええ?! 黄色いズボンとピンクの帽子。あなた以外にそんな人いないよ」
「なんだよ、それ(笑)。それはね、スネークチェイサーっていう人たちがいるの。蛇は家の中に入ってきて赤ん坊を噛んじゃったり、飼っているチキンを食べちゃったりして困るんだ。その時にヘビを捕まえてくれるのがスネークチェイサーなんだ」
「黄色いズボンで?」
「それなんだけどね。アフリカの人たち、カラフルなんだ。普段着で真っ赤なジャケットとか黄色いパンツは珍しくないんだ。みんなの話を読んでて『そうか、俺は日本でアフリカ人やってんだなあ』と思ったよ」
「そうか。あのピストルみたいな、ジャンケンみたいな指使いは、蛇とりのポーズなのかもね。僕はてっきりテンギョーはアフリカに行って蛇とも友達になったのかと思ったよ」
「今のところ、ヘビには友達はいないよ(笑)」
君たち、鳥食べる話ばっかりしてるじゃない(笑)
「ホロホロ鳥。これ、ホロホロ鳥でいいんだよね」
「そう、ホロホロ鳥。君たち、なんかもうずっと鳥の話してるじゃない。どこどこの店で食べられますよって情報、最高だね。それにさ、絵だからさ、リアルな縮尺なんかないよ。子供が書いた絵なんだから。もう、あなたたち異文化交流してるよ」
「妄想的文化交流だけどね。オチワロンゴにはホロホロ鳥は本当にいるの」
「住宅街でも歩いている。日本の公園で鳩とかカラスを見るのと同じ感じだよ。誰かが飼っているわけではなくて野生だよ」
「捕まえて食用にしたりするのかな」
「そりゃ、まるまるとしておいしそうだったけど、俺が見るかぎりチキンを食べるのが普通だったよ。羽根も生えてて飛ぶわけだから、ホロホロ鳥を捕まえて食べるのは難しい気がする。
それに比べて、シマウマはロバみたいな感じでその辺を歩いたりしていないよ。それ相当の国立公園に行かないと会えない。
俺が聞いたシマウマの話でおもしろかったのはね。シマウマは馬に似ているけれど、馬と違って強力な群れのリーダーがいないんだって。馬の場合はリーダーが強力な統率力を持っていて群れを危険から守るけど、シマウマはそれがいないから、ちょっと危機があるとパニックになって群れがカオスになっちゃうんだって。それで迷子になっちゃったり、慌ててケガしちゃったりするらしいんだ」
「それって、ハーモニーチームにどこか似ていて憎めないな。自分が迷子になっても気がつかなかったりするんだろうなあ」
「あ、それでこの札は All the beautiful animals in Namibia,different colours」
「なるほどね。『ナミビアの美しい動物たちは、みんなそれぞれに異なった色をしている』という意味でいいのかな」
「そうだね。動物の多様性を語る時にシマウマとホロホロ鳥を例にあげてくれた事情は謎だね」
ナミビアの民族衣装
「この札の頭文字のCはCultureを表していて、文化の多様性みたいなことを言いたいんだと思う。ヘレロ族(Herero)もダマラ族(Damara)もインターンさんが調べてくれたように先住の民族なんだ。
正解は、Culture is an important part of us Namibians.they are all important and lovely」
「なるほど! 動物の多様性の次は、文化の多様性なのか。『文化はナミビアの大事な一部分。みんな大事でみんな素敵』ということだね。若い子もこんな衣装を着ているの?」
「これはみんなが調べてくれた通り民族衣装なんだよ。この絵は若い子が描いたので若い女の子がモデルになっているのだけど、若い子はあまり着ないよね。実際は高齢者が日常的に着ている場合が多いんだ。それに牛の角に注目したのも正解だよ。実際に見るとかなり独特な雰囲気があって、牛の角には民族としてのプライドがあるんだろうなと感じたよ。俺も始めてみた時はイベントかなって驚いたよ」
「この絵みたいに色鮮やかなの?」
「もうすごいよ、ピッカピカ」
「女の人はこれでいいとして、男の人はどんな衣装なんだろう」
「それがね。男性たちはね。女性に比べて日常的には着ないけどユニフォームを着るんだ。ドイツ植民地軍の軍服を真似た衣服だと言われてるそうだ。みんなが調べてくれたように南アフリカの統治の前はドイツの植民地だったでしょ。その名残なのかもしれないけれど」(※注)
(※新澤補足)テンギョーさんとの話は、そこまでだったのだが、ドイツの軍服に似せた服を着るというのは驚いた。なぜなら2021年、ドイツのマース(Heiko Maas)外相が、1884~1915年に植民地統治を行っていたナミビア(南西アフリカ)のヘレロ人とナマクア人に対する行為を「今日の観点から見れば『ジェノサイド(虐殺)』であった」と認め、公式に謝罪したとのニュースをなんとなく覚えていたからだ。ドイツの植民地時代のナミビアには悲しい歴史があったにもかかわらず、なぜヘレロは、自らの祖先を殺(あや)めたドイツ植民地軍の軍服を原型とするユニフォームを着用し続けてきたのだろう。歴史にはまだまだ自分には理解できないことがあると思った。
青いセダンは誰が乗る
「青い車の札も印象的だね」
「実際はオチワロンゴのロケーション(白人が暮らすタウンではなく大多数の黒人が暮らすエリア)には、ほとんど車はなくて、あったとしても古びたタクシーとか昔の日本製のトラックばかりで高級な外車を見ることはないんだ」
「そうか、これは車に憧れた絵なんだ」
「そうなんだよ。 I want to learn how to drive and I want to go to windhoek 『将来、免許を取って首都のウィントフックに行きたいなー』ていう話なんだ。『自分の夢でもいいよ』って言ったら、免許取りたいって言うから、じゃあ描いてみようかって話になった」
「この札は自分の書いたstoryに自分で絵を描いてくれたんだね。彼は車が好きなんだ。じゃ、ハーモニーのILove Carだぜ ビュン×3 は、外れていないね」
「大正解だよ。地図の田んぼみたいなやつは何だろうってハーモニーのみんなも考えていたけれど、舗装されてない砂漠の道とそこら辺に生えてる雑草みたいのを表したんだと思うんだよね。オチワロンゴはほとんどそんな道だから。大多数の人たちのいる困窮地域ではそういう道なんだよ。
4WDじゃないと大変だよ。現実はかっこいい車に乗ってもすぐに壊れちゃいそうな道だよ」
「なるほど、どうしてドイツ車なのかな」
「ボツワナがドイツの植民地だったっていう影響もあってドイツの人たちが乗ってるのを見る機会があるのかもしれないね。あるいは若者に人気のあるヒップホップやラッパーの動画をYouTubeなんかで見て影響されたのかもしれないよね」
「なるほど。絵の上の半分は近代的なのはどうして」
「最初は下半分の埃っぽい道だけだったんだよ。そこで俺がウィントフックのイメージを足してみようよって言ったら、舗装した道とビルを描いてくれたんだよ」
「そうか。少年の将来の夢っていいなあと思ったのだけど、描いてくれた彼のいる世界では、車を持つことや近代的な町で生活することは僕らが想像する以上に容易に実現できない夢なのかもしれないな」
旅するかるたと乱暴な彗星の記憶について
「かるたの解説をありがとう。早速、ミーティングで共有するね。後は帰国してから教えてくださいな。昨年の11月から続いたテンギョーさんの旅は、そろそろ終わりに近づいたようだけど(※注2)、忙しかったり体調悪かったりするなかで、アフリカの子どもたちとかるたを作ってくれてうれしかった。子どもたちが描いた札が画像で送られてくるたびに、おおお!って叫びながらみせてもらったよ。でも、実際は大変だったんじゃない?」
「ハーモニーと俺との関係には友情ベースというのがいつも基本にあって、その結果、託された箱入りの白紙のかるたを持ってアフリカに渡ったという麗しい話ではあったわけだけど……」
「だけど……?」
「ある意味、結構、場所取ってたわけですよ、あれ」
「そうですねえ。まあ、邪魔だったと思いますよ。箱に入った100枚の白い札」
「ホント限られた生活用品で移動したいのに、あれ、結構デカイし重いし」
「(笑)」
「それで最初の4~5か月ぐらいは、いや、半年ぐらいは、あれ、全く稼働せず、入りっぱなしでしょ。リュックに」
「いやいや、お気の毒としか(爆笑)」
「いやあ、なんかさあ、リュック開けるたびにアレが入ってるわけ。真っ白い箱が。見るたびに、ハーモニー思い出すわけよ。ああ、コレをいつかやるんだなって。でもね、俺の中ではコレなかったら、もうちょっと大事な物が入れられたのになあって気持ちには……ならなかったの」
「ほんとかよ、邪魔じゃなかったの」
「言われりゃ邪魔だけど(笑)。
俺からみたらさ、あれが友情の形なわけよ。場所取ってんだけど。みんなの顔が浮かぶわけよ。で、それはねえ、言ってみたら、俺がやってることの象徴的な出来事だったなって思ったよ。
本来だったら、現地で紙を切って用意したってよかったのに。あの重いのを持ち歩いてるわけよ。今まで俺はひとりで無目的でフラフラしてたわけだけど。自分の中でも心持ちが新たになる体験でもあったよ」
「うれしいねえ。でも、ミッションを託されたって重荷はあったでしょ」
「いやミッションはミッションだけどね。でもね、友情ベースっていうのが大きかった。だから、できた。嫌にならなかった」
「うれしいなあ。でも、ごめん。僕はテンギョーさんの記憶を疑ったわけね。
僕もそんなことはわかってるよ。現地で紙切ってもかるたは作れるってね。でも重たい厚紙でできた100枚の白い札を箱ごと渡して、これに書いてって言わなきゃ、テンギョーはきっと忘れるんじゃないかって思ったわけですよ。だってヴァガボンドは無目的で進んでいく人じゃない?」
「うん、それはいいポイントだわ」
「ヴァガボンドっていうのはさ、それぞれの土地土地で人と出会って、その出会いの偶然から火花が生まれて、そこで燃焼して次に移っていくわけじゃない」
「そうそう。インプロ(インプロビゼーション=即興演奏)だからね。俺にとっては毎日がセッションだから」
「でしょ。だから『譜面』をあらかじめ渡して、持ち歩いて貰わなきゃと思った」
「そうか、あれは譜面だったんだ」
「インプロ終わったら、ここを演奏してねっていう『譜面』(笑)」
「なんと、カッちゃんは『乱暴な彗星』の名づけ親だけあって、俺のその『忘れるって乱暴さ』を熟知してるわけだな!」
「まあ、そうかもしれないね。その乱暴さに関してひとつだけ付け加えたい。お願いだから、若者たちが描いた『超ナミビアかるた』をヨーロッパに忘れてこないでね」
「まあ、やってみるよ(笑)」
※注2 テンギョーさんは2023年2月の末には無事「超ナミビアかるた」と共に帰国しました。
今回紹介したナミビアのかるた(絵札)とストーリー。そしてハーモニーによる日本語訳
編集後記
3回にわたってお送りしたテンギョー・クラさん×ハーモニーのアフリカ企画。いかがだったでしょうか。初回はボツワナと世田谷をオンラインでつないで、テンギョーさんからアフリカのことや企画中のアフリカンジャンボリーの話をうかがいました。
そして前回と今回は、ナミビアのオチワロンゴ(Otjiwarongo)のカルチュラルスクールに通う若い人たちが、遠い地の私たちに向けて作ってくれた「超・ナミビアかるた」を紹介してもらいました。
薄くパステルや色鉛筆で彩色された小さな絵を前に、遠く離れたアフリカの人たちと、その地に吹く風や動物たちのことを想像してみるのは楽しいことでした。かるたの札の一枚一枚を通じてオチワロンゴの人たちと語り合っている気持ちになれたのはアフリカの若者たちと直に接して、彼らの言葉(ストーリー)を拾い集めて来てくれたテンギョーさんのおかげでした。
少し前のこと、テンギョーさんと私(新澤)は「友達」をテーマに対談をし、お互いの違いを笑いながら確認したのでした。
世界で多くの人と出会い「目の前で出会った人の存在をまずは大事にしたい」と言うテンギョーさんと「その人のいない不在の時間を、その人のことを想像しながら楽しむ」と言った私と。
今回の「旅するかるた」でも、異文化に飛び込み目の前の人たちの物語(ストーリー)を集めてかるたを作ったテンギョーさんと、日本にいてテンギョーさんと若者たちのやりとりを思い描きながら、かるたの物語(ストーリー)を想像して過ごした私とハーモニーのメンバーたち。実に私たちらしい「友情ベース」に基づいた異文化交流(?)の形でした。
世界中の情報がSNSを通じて瞬時に得られる時代、遠い地のことを知りたければ解像度の高い映像を私たちはいくらでも見ることができます。しかし、自分に限って言えば、大量の情報の奔流に慣れきっていて、それが遠い地の生活も野生動物のことも時には戦争や災害であっても、意識に長く留めることなく、やりすごしてしまう癖がついてしまった気がします。
そんな時、スマホの画面に映し出された画像の中に懐かしい「友達」の笑顔を見つけると意識は立ちどまります。「友達」にメッセージを送って、最近の様子を聞いたり、「そっちでおもしろい人に出会ったかい?」などと尋ねているうちに、遠い町の人たちのことを知りたくなります。異国の人たちに「友達」とは言えないけれど「友達の友達」ほどの一方的な親しみが生まれたりするのです。
多様な価値観と生活習慣を持つ世界中の人々が、それぞれの違いを尊重し「友達」になるのは、ちょっとシンドイけれど「友達の友達の友達」くらいになれたならば、世界中で起きている悲しい出来事はもっと少なくなるのではないかと思うのです。自信はないけれど。
少なくとも、今回の企画を通じて、ナミビアの若者たちとハーモニーチームは「友達の友達の友達」程度には、なれたような気がします。
解像度の高い画像よりも友達の届けてくれた手書きの絵(絵札)とストーリー(字札)がなにより、遠い地の人たちの存在を感じさせてくれました。
ありがとう、テンギョー・クラさん
ありがとう、ペリナワカルチュラルセンターのみなさん(新澤)
Information
【SACP2023*メディアプログラム:テンギョー ・クラトークセッションvol.5「福祉施設とコミュニティ」】
「テンギョー ・クラ」による様々な分野の専門家と「表現すること」や「アートの場」を考えるトークセッションが開催!
日時:11月26日(日)13時30分〜15時30分 場所:Cookie & Deli マーブルテラス 登壇者:テンギョー ・クラ、久保田翠、新澤克憲 詳細はこちら
Profile
Profile
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Tengyo Kura /テンギョー・クラ
Vagabond
2001年に渡米後、2003年のモンゴルを皮切りに教師としての活動を開始。スリランカ、ノルウェー、ラトビアなどの大学・高校で教育に関わった後、インド滞在をきっかけにストーリテラーとして物語(主に記述と写真)の制作を始める。中央アジアや南米での滞在制作を経て、2017年から東京都の文化事業「TURN」に関わり、交流プログラムアーティストとして福祉施設を訪問して物語を制作した。2018年と2019年にアフリカに滞在して個人的に主にアフリカ南部諸国の障がい者との交流を行った(TURNフェス4にてアフリカ滞在中に撮影した写真を展示)。2020年から2022年まで大阪西成にあるアートNPOココルームで活動。2022年末からアフリカでの活動を再開、2023年5月現在ボツワナ全国規模でのソーシャルアートプロジェクトの導入を試みている。また2025年に本開催予定の日本とアフリカの多様なバックグラウンドを持つ人たちの交流イベント「アフリカンジャンボリー」を友情ベースで企画中。先行イベントとして5月に日本とボツワナのろう者のオンライン交流会を実施した。
この記事の連載Series
連載:いたずらに人を評価しない/されない場所「ハーモニー」の日々新聞
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- vol. 192024.04.04昔々あるところに幻聴さんが〜幻聴妄想かるたが記録するもの〜(後編)
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- vol. 162023.10.10ナミビアの若者たちが作ったかるたを、世田谷にいるメンバーが読み解く | 旅するかるた 前編
- vol. 152023.08.04「アフリカのこと教えてテンちゃん」ボツワナ滞在中のテンギョー・クラ氏とハーモニーメンバーによる対話
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